世界を20分超駆け巡った謎の地震、驚きの調査報告
観測史上最大級の海底火山活動を確認、アフリカ東沖
2018年5月10日、アフリカ大陸とマダガスカルに挟まれたフランス領マヨット島を群発地震が襲った。そのほとんどは小さかったが、5月15日には島がかつて経験したことのないマグニチュード5.8の地震が発生した。
群発地震はいまもなお続いている。その隙間を縫うように、2018年11月11日、奇妙な地震が世界を駆け巡り、1万7000キロ以上離れた地震計にも記録された。にもかかわらず、周期があまりに長かったため、揺れを感じた人間は誰もいなかった。(参考記事:「謎の地震が世界を駆け巡る、20分超継続、原因不明」)
この不思議な現象に科学者たちは困惑していたが、その原因が最近になってようやく解明されようとしている。マヨット島から東に約50キロ離れた海底で、火山が誕生したというのである。水深3200メートルの海底に出現した火山の高さは800メートル近くあり、直径は広い所で4.8キロと計測されている。これは観測史上最大級の海底火山活動だ。
フランス国立科学研究センター(CNRS)は、群発地震の震源地を探るため、パリ地球物理研究所のナタリー・フイエ氏とフランス海洋開発研究所のステファン・ジョリー氏が率いる調査船マリオン・デュフレーネ号を現場の海域へ派遣するなど、多方面から調査を進めていた。
データはまだ初期段階で、多くの謎が残されている。現在、調査結果を分析中で、論文はいずれ査読付きの学術誌に投稿される予定だ。だがその前に、調査チームは共同声明で新たな海底火山の誕生を発表し、群発地震との関連についての考えを明らかにした。
声明には、「新たな発見を踏まえ、フランス政府は今回の驚くべき現象を調査し、理解を深めるためにあらゆる手を尽くしています。また、これによって予測されるリスクを特定し、回避するために必要な対策を講じるつもりです」と書かれている。
マヨット島の群発地震について調査していた英インペリアル・カレッジ・ロンドンの地震学者スティーブン・ヒックス氏は、この謎の現象に何カ月もおびえてきた島の住民も、これでようやく安心できるだろうと語る。
4000年以上を経て、それは突然始まった
マヨット島が属するコモロ諸島は火山島だが、噴火は4000年以上起こっていなかった。ところが2018年5月から、マヨット島周辺の地質活動が突然活発になった。マグニチュード3.5の地震が実に1800回以上記録されたのである。島自体も、同年7月中旬から、東へ向かって毎月1.5センチ移動し、1センチずつ海に沈んでいる。
そして11月、奇妙な地震の波が発生した。20分以上も続いたが、先に書いたように、あまりに低周波だったために揺れを感じた人はいなかった。ただひとり、「@matarikipax」というアカウント名を持つ地震マニアだけが、米国地質調査所のリアルタイム地震観測モニターに、奇妙なジグザグの波形が記録されているのに気づいた。その画像をツイッターに投稿すると、世界中の科学者が飛びついた。
その当時から、群発地震も謎の地震波も、マグマの動きと関係があると専門家は結論付けていた。おそらく、群発地震はマグマが地下を移動したせいで起こり、低周波の波はマグマ溜りが崩壊したために発生したと考えていた。
火山活動とこれらの現象との関連は、2019年2月に論文投稿サイト「EarthArxiv」に発表された査読前の論文でも支持されている。論文は、観測史上最大級の海底火山活動により、巨大なマグマ溜りからマグマが抜け始めたことが群発地震の原因であるとしている。
しかし、海底を震源地とする地震の観測は十分ではなく、噴火の直接的な証拠もない。したがって今のところ、これ以上詳しいことは言えない。
大西洋のホットスポットの可能性
2019年5月16日、フランスの共同声明発表に合わせて、調査に関わっていたパリ地球物理学研究所のロビン・ラカシン氏は、ツイッターに2枚の画像を投稿した。そのうち1枚は、新しく誕生した火山のエコー画像だった。エコー画像は、イルカが周囲の環境を音波で探知するのと似た仕組みにより得られる。
「妊婦が受ける超音波検査と同じようなものです。ただこちらのほうが、もっと大まかなだけです」と地球物理学者のルシル・ブルハット氏はツイッターで説明した。なお、ブルハット氏は研究チームの一員ではない。
画像には、円錐状の海底火山からうねるように立ち上る噴煙のようなものが写っている。その高さは2000メートルほど。これが何でできているかはわからないが、音波が跳ね返る様子から、陸上の火山から噴出する火山灰のようなものだろうと、英グラスゴー大学応用火山学の博士候補生ヘレン・ロビンソン氏はメールで意見を述べた。
もう1枚の画像は、マヨット島の東にあるパマンジ(プティ・テール)島から5~15キロ沖の震源地と、50キロ沖の新しい海底火山を示している。震源地と海底火山の間には、いくつかの突起物が並んでいる。
「火山の中心部が島から徐々に離れていったのかもしれません」とヒックス氏は言うが、そのメカニズムを知るにはさらに多くのデータが必要だとしている。
米ハワイ大学マノア校の火山学者で、海底での噴火を専門とするケン・ルービン氏は、ハワイ島のキラウエア火山の南で成長しているロイヒ海底火山といくつかの共通点があると話す。
ハワイの島々は、ホットスポットと呼ばれるタイプの火山活動によってできた。それぞれの島は、マントルの中を上昇してきたマグマが噴き出して形成された。マントルの上のプレートが移動すると噴き出し口が移動し、ずっと同じ場所に新しい島が次々と誕生する。これが繰り返され、島が鎖のように連なるというわけだ。
ロイヒは、こうしてできたハワイの火山のうち、最も若いものだ。1996年に大噴火を起こし、マヨット島付近で観測されたのと似たような数千もの地震を引き起こした。ロイヒの場合、マグマ溜りのマグマが全て放出され、空になったマグマ溜りが崩壊したために地震が発生していた。
しかしコモロ諸島の場合、状況はもう少し複雑だ。一部の地質学者は、ここの火山群も似たようなホットスポットによって誕生したと考えているものの、コモロ諸島は大昔にマダガスカルがアフリカ大陸から引き裂かれた際にできた割れ目の中にある。このような割れ目沿いでも、火山活動は活発になる。奇妙なことに、最新の火山活動は、コモロ諸島のなかでも最古のマヨット島沖で起きている点をルービン氏は指摘する。つまり、ハワイのようにできた順には並んでいないことになる。
ヒックス氏は、最新の火山活動の手がかりが、海底で冷えて固まったマグマに含まれる鉱物に隠されているかもしれないとみているが、さらに多くのデータがなければ確実なことは言えない。
また、この火山全体が全く新しいものなのか、あるいは古いものの上に新しく出来たものなのかもわからないという。
「既存の火山が新たに噴火したのと、全く新しい火山が誕生するのとでは意味が違います」と、ヒックス氏はツイッターのダイレクトメッセージで回答した。小さな違いのように思えるかもしれないが、それによって火山活動のメカニズムと将来の噴火のリスク予測が変わってくるという。
「それは100万ドル級の問題です」
では、新しい火山活動は、群発地震や奇妙な地震とどう結びつくのだろうか。
「それは100万ドル級の問題です」と、ヒックス氏。
最近の欧州地球科学連合の学会で発表された報告書によると、11月に記録されたような低周波の長い震動は、マヨット島の一連の出来事のなかでは唯一の事象ではなく、長く続く群発地震に伴うものだという。だが、どのような状況が低周波の震動や群発地震を引き起こしているのか、正確にはわかっていないし、火山の噴火が今も続いているかさえ定かではない。
今のところ、論文を準備中の研究チームは、これについてのコメントを差し控えている。
「まだ多くの研究が必要です」。オーストラリア、アデレード大学の地質力学の専門家マーク・ティンゲイ氏は、ツイッターのダイレクトメッセージでそう答えた。「しかし科学者たちにとっては、海底火山が誕生または復活するところを研究できるかもしれないチャンスです」
ようやく道筋が見えてきたことは、ソーシャルメディアでこの現象を追っていた世界中の人々にとって朗報だ。関係者らは、調査が進むたびに最新情報をネットに投稿し、米国大学間地震学研究連合のウェンディー・ボーン氏いわく「最も純粋でワクワクさせる科学」を垣間見せてくれている。
そしてもちろん、島の住人にとっても謎の解明は大きな意味を持つ。欧州地中海地震学センターの社会学者ローレ・ファロウ氏は、当初は地震の原因もわからず、情報も不足し、人々は不安と混乱を募らせ、様々な憶測を呼んでいたと語る。ファロウ氏は、この地域で効果的な科学コミュニケーションにおける文化の役割について研究してきた。
だが、最新の発表で島民の間に新たな感情が沸き起こった。「これまで恐れを抱いていた人々が、新たな事実に強い関心を示しています。何かすごいことが起こっているのだと」