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1832年に出版され、たちまちベストセラーとなった、ジョルジュ・サンドの小説『アンディアナ』のヒロインは、ブルボン島(モーリス島)生まれのクレオールである。
彼女の父親は入植者であり、その冷酷さがゆえに、土地の人々から嫌われている。アンディアナは女であるがゆえに従属を強いる「主人」、すなわち、この場合は父親と夫であるが、この二人の男を批判し、彼女と同じ状況に置かれている奴隷たちに同情する。
次の一節は、「主人」に従わされる男性優位の社会システムに強制的に組み入れられたヒロインが心のうちを吐露する場面である。
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カルヴァハル氏は、政治的情熱に酔いしれ、野心の充たされない悔しさに苛まれて、植民地でもっとも冷酷な開墾者となり、最もつきあいにくい隣人となっていた。
娘のアンディアナは、父親の烈しい不機嫌にひどく悩んでいた。しかし、奴隷制度の弊害がどこまでも続く状況にあって、彼女は孤独と依存という苦難に耐えることによって、どのような試練にあっても不動でいられる忍耐力を獲得した。そして、これは称賛に値することなのだが、目下の者に対しては思いやりと寛大さを示す生き方を身につけた。他方では、自分を抑圧する意味合いの強いあらゆるものに対する、とてつもない抵抗力と鉄の意志を掌中に収めたのであった。
デルマール大佐と結婚することで、彼女は自分を支配する主人を取り替えただけだった。ラニーに住むようになって、牢獄と孤独の場所を変えただけだった。彼女は、決して夫を愛さなかった。それは、恐らく、愛さなければならないという義務を押しつけられたという唯一の理由からであった。そしてまた、あらゆる種類の道徳的拘束に精神力で抵抗することが、彼女にとって第二の天性となり、彼女の行動の原則になったという理由からであった。
彼女には盲目的な服従という法則を遵守すること以外のことは、求められていなかった。砂漠で育てられ、父親からは無視され、奴隷たちに囲まれて暮らした。その奴隷たちに対し、彼女は自分の同情と涙以外に救いも慰めも与えることができなかったが、そのような生活の中で、彼女は自分にこう言い聞かせるのが習慣になっていた。
「いつかは、私の生活の中ですべてが一変する時がくるだろう。私が他の人たちのためになることをする日が。人が私を愛してくれる日が。私にその心を与えてれる人に、私の心のすべてを捧げる日が来るだろう。それまでは苦しもう。黙っていよう。私を開放してくれる人へのご褒美に、私の愛をとっておこう。」
その解放者、そのメシアはまだやって来なかった。アンディアナはまだ彼を待っていた。
(『アンディアナ』)