プルースト没後100年を記念し、次のような講演会が開催されます。
朝日カルチャーセンターです。
*プルーストと世紀転換期の恋愛
坂本 浩也(立教大学教授)
『失われた時を求めて』を読むと、恋愛の心理分析の精緻さに驚かされます。作中の無数の箴言からは、プルーストがモラリスト文学の伝統を継承し、普遍的かつ一般的な、つまり時代を超越した恋愛の本質を提示しようとしたことがうかがえます。そのいっぽう、主人公「私」とアルベルチーヌは「二十世紀のカップル」と形容され、恋愛のかたちが時代に応じて変わることが示唆されています。本講座では、世紀転換期における恋愛の変容について、一世代前の「十九世紀のカップル」であるスワンとオデットの関係と比較しながら考察します。同時代のほかの恋愛小説も参照しつつ、プルーストの独自性を明らかにしてみたいと思います。 (講師・記)
2022/9/3 土曜 13:00~14:30
*バタイユとプルースト「供犠」をめぐって
岩野 卓司(明治大学教授)
ブルジョワ趣味で繊細な描写の作家プルーストとエロ・グロで暴力的な思想家バタイユとの接点はどこにあるのか。若き日のバタイユはプルーストのような小説を書こうとする野心があったし、彼にとってプルーストはニーチェとともにキリスト教の信仰を捨てることと深く関わっていた。後年、バタイユは『内的経験』で「神秘的経験」と「神の死」を結びつけた「無神学」を主張するが、この視点からプルーストの『失われた時』を論じていく。講義では、バタイユがプルーストをどう理解していたかを「供犠」のテーマにそってお話ししたい。(講師・記)
2022/9/3 土曜 15:30~17:00
*「失われた時を求めて」誕生前夜を読みとく物語から小説
菅沼 潤(慶応義塾大学講師)
プルーストは、1908年に批評作品『サント=ブーヴに反論する』を着想しますが、直後にこれを物語形式で書く決意をしました。物語体『サント=ブーヴに反論する』の原稿が、こうして書きためられます。結局この物語も、完成することはないまま別の作品に姿を変えることになります。こうして、いずれ『失われた時を求めて』と呼ばれることになる巨大な小説が徐々にその姿を現すのです。
しかし、今回とくに注目したいのは、このとき放棄された小さな物語のほうです。あまり語られることのないこの作品は、プルーストの当時の構想のなかで、どのような構成をもち、何を主題とし、どこを目指していたのでしょうか。また、物語から小説への移行は、何を意味していたのでしょうか。『失われた時を求めて』誕生前夜のこうした問題を通して、プルースト文学成立の秘密の一端を明らかにします。 (講師・記)
2022/9/10 土曜 13:00~14:30
*プルーストと第一次世界大戦破壊と喪失の果てに
小黒 昌文(駒澤大学教授)
第一次世界大戦という未曾有の出来事を戦時下のパリに生きたプルーストは、その経験をどのようなかたちで自らの小説に反映させたのでしょうか? 作家が従軍の経験を持たず、「銃後」の人であり続けたことは事実です。しかしプルーストは、戦時社会をつぶさに観察して戦争をめぐる様々な言説を追うなかで、騒乱がもたらすその破壊と喪失を、いつ止むとも知れぬ「痛み」として絶えず感じていました。本講座では『失われた時を求めて』第7篇『見出された時』や戦時下に綴られた私信を手がかりにしながら、そうした戦争の衝撃が物語の最終盤に織り込まれたことの文学的な意義について考えてみたいと思います。 (講師・記)
2022/9/24 土曜 15:30~17:00