Rapport de la journee d'etudes sandiennes du 10 novembre 2007 a l'universite de Kansai
Intervenente : Keiko INADA
Titre de communication :Problemes du mariage dans "Le Meunier d'Angibault" et "Le Peche de Monsieur Antoine"
Moderatrice : Chikako HIRAI
研究発表 稲田啓子 (司会:平井知香子)
題名:サンド小説『アンジボーの粉挽き』『アントワーヌ氏の罪』における結婚問題をめぐって― 強い父親と家族の揺らぎ
(発表要旨)
稲田さんは、二月革命も間近に迫った1845年の、サンドの2作品『アンジボーの粉挽き』『アントワーヌ氏の罪』を取り上げ、異身分結婚(mésalliance)を軸に、七月王政時代の家族のあり方とその問題を明らかにした。
「強い父親」の像は、『アンジボー』では成り上がり者のブリコランを通して描かれ、『アントワーヌ』では実業家カルドネに現れている。ブルジョワの父親にとって、子供の結婚は富の発展や、経営の拡大の手段でしかない。
若い男女が異身分結婚を望むとき、それぞれが属する階級や集団での衝突は不可避である。社会的、経済的に不利な結婚を、家族や、周囲が反対する。親子は対立し、若い男女はその偏見に立ち向かい、新たな価値基準を打ち立て、やがて自立していく。この自立の背景にあるのが、彼らが小説の最後に手にする「予想外の財産」である。主人公たちの新しい家族は、『アンジボー』では二組のカップルがともに働き一緒に暮らすひとつの家族像であり、『アントワーヌ』ではさらにイデオロギー的で、当時の空想的社会主義思想の反映でもあるアソシアシオン、コミューンといった形をとる。サンドが、長い執筆活動の中で扱い続けた「結婚」という主題は、様々な価値観が交錯する現代にも通じる普遍的な問題である。
稲田さんの発表の後、以下のような活発な意見の交換があった。
* 結婚と金銭問題:ブルジョワにとって「持参金のない貴族の娘」は価値がないとする当時の世相。しかし、一方では「貴族の称号」が欲しいブルジョワがいた。当時は、貴族とブルジョワ、ブルジョワと平民間の結婚はあっても、サンドが描いた「貴族」と「平民」との間の結婚は、まれであった。
* 結婚と法律:持参金制度。サンド自身はどうであったか。当時の法律により、土地の売買などには、別居後も夫カジミールの許可が必要だったという事情があった。
* 「異身分結婚」という訳語についてはどうか。音感だけの場合は、わかりにくいかもしれないが、女性学などにも現れているように、新語として問題はないと思われる。
* サンドには養女がいた。1845年当時、「家長」はサンドであった。作品と娘ソランジュの結婚問題との関連は? 『アンジボー』は娘に献じられている。サンドはこの小説を通じて、娘に愛による結婚の大切さを教えようとしたのではないか。
* 守銭奴ブリコラン像には、モリエールの「アルパゴン」が影響している。
* 物語の最後に「予想外の財産」が出てくる点は、『愛の妖精』、『棄て子フランソワ』にも共通している。(モリエールの『守銭奴』も同様)
* 「異身分結婚」のサンドの小説全体での位置づけについて。
稲田さんは当時の社会事情にも詳しく触れられ、今後このテーマはサンドの他の作品にも繋がる重要なもので大変興味深い発表であった。
(文責: 平井知香子)
Intervenente : Keiko INADA
Titre de communication :Problemes du mariage dans "Le Meunier d'Angibault" et "Le Peche de Monsieur Antoine"
Moderatrice : Chikako HIRAI
研究発表 稲田啓子 (司会:平井知香子)
題名:サンド小説『アンジボーの粉挽き』『アントワーヌ氏の罪』における結婚問題をめぐって― 強い父親と家族の揺らぎ
(発表要旨)
稲田さんは、二月革命も間近に迫った1845年の、サンドの2作品『アンジボーの粉挽き』『アントワーヌ氏の罪』を取り上げ、異身分結婚(mésalliance)を軸に、七月王政時代の家族のあり方とその問題を明らかにした。
「強い父親」の像は、『アンジボー』では成り上がり者のブリコランを通して描かれ、『アントワーヌ』では実業家カルドネに現れている。ブルジョワの父親にとって、子供の結婚は富の発展や、経営の拡大の手段でしかない。
若い男女が異身分結婚を望むとき、それぞれが属する階級や集団での衝突は不可避である。社会的、経済的に不利な結婚を、家族や、周囲が反対する。親子は対立し、若い男女はその偏見に立ち向かい、新たな価値基準を打ち立て、やがて自立していく。この自立の背景にあるのが、彼らが小説の最後に手にする「予想外の財産」である。主人公たちの新しい家族は、『アンジボー』では二組のカップルがともに働き一緒に暮らすひとつの家族像であり、『アントワーヌ』ではさらにイデオロギー的で、当時の空想的社会主義思想の反映でもあるアソシアシオン、コミューンといった形をとる。サンドが、長い執筆活動の中で扱い続けた「結婚」という主題は、様々な価値観が交錯する現代にも通じる普遍的な問題である。
稲田さんの発表の後、以下のような活発な意見の交換があった。
* 結婚と金銭問題:ブルジョワにとって「持参金のない貴族の娘」は価値がないとする当時の世相。しかし、一方では「貴族の称号」が欲しいブルジョワがいた。当時は、貴族とブルジョワ、ブルジョワと平民間の結婚はあっても、サンドが描いた「貴族」と「平民」との間の結婚は、まれであった。
* 結婚と法律:持参金制度。サンド自身はどうであったか。当時の法律により、土地の売買などには、別居後も夫カジミールの許可が必要だったという事情があった。
* 「異身分結婚」という訳語についてはどうか。音感だけの場合は、わかりにくいかもしれないが、女性学などにも現れているように、新語として問題はないと思われる。
* サンドには養女がいた。1845年当時、「家長」はサンドであった。作品と娘ソランジュの結婚問題との関連は? 『アンジボー』は娘に献じられている。サンドはこの小説を通じて、娘に愛による結婚の大切さを教えようとしたのではないか。
* 守銭奴ブリコラン像には、モリエールの「アルパゴン」が影響している。
* 物語の最後に「予想外の財産」が出てくる点は、『愛の妖精』、『棄て子フランソワ』にも共通している。(モリエールの『守銭奴』も同様)
* 「異身分結婚」のサンドの小説全体での位置づけについて。
稲田さんは当時の社会事情にも詳しく触れられ、今後このテーマはサンドの他の作品にも繋がる重要なもので大変興味深い発表であった。
(文責: 平井知香子)