“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

大対先生のかんしゃく対策

2024年08月22日 07時40分46秒 | 子どもの心の問題
他の講師(大対香奈子先生:近畿大学総合社会学部)によるかんしゃくレクチャーのメモ書きです。
専門分野は応用行動分析学。
しかし一筋縄ではいかない質疑応答では、回答の切れが悪い印象がありました。
まあ、生きているこども相手だから仕方がないかな。

▢ 消去バースト(=かんしゃく)への対応
・かんしゃくには反応しない(目も合わせない)
・激しく泣いたり暴れたりしているときは、落ちつくまで待つ
・落ちついてきたら、代わりにすべき適切な行動を促す
・促した適切な行動が少しでもできたら大げさなくらい褒める(強化)

▢ かんしゃくへの保護者のスタンス
・大人だってイライラしちゃう
・そんな時こそ子どもにモデルを示すチャンスです!
・「落ちつくための時間」を持ちましょう
 → ママも気持ちを落ちつかせてから話すね。
 → 気持ちが落ちついたから話を聞くね、待ってくれてありがとう。

▢ かんしゃく中の言動には反応しない
・かんしゃく中は大人の心を逆なでするような言動が起こることがある
(例)お母さんなんて大嫌い! 死ね!
 → 一切そのような言動には取り合わない
・まったく別の角度から新しいボールを投げる
(例)直接関係のない話題に振る、など
・感情の高ぶりが収まってから、聞いてみる;
「さっきはどんな気持ちだった?どうしたかった?」
「お母さんはさっきの言葉に傷ついたわ」

▢ かんしゃくの際のルール作りは事前に
・何がダメか、そのルールを具体的・明確にして事前に(落ちついているときに)共有しておきましょう。
✓ ヒトを傷つけること
✓ 自分を傷つけること
✓ 社会のルールを守ること


“かんしゃく”の分析と対策

2024年08月19日 07時50分45秒 | 子どもの心の問題
自治体の乳幼児健診の際に、
「他に困ったことはありませんか?」
という質問に対する答えで多いのは、
“かんしゃく”と“偏食”です。

先日、かんしゃくに関するWEBセミナーをいくつか視聴しましたので、
ポイントと思ったことをメモしておきます。

応用行動分析を用いているのが注目されます。
行動の理由は次の4つに分けられるとのこと;

物・活動の要求
回避・逃避
注目要求
感覚(自己刺激)

かんしゃくが起きた時、
その理由が4つのどれに当てはまるのか、
その都度立ち止まって考えると、
具体的な対策が思い浮かぶかもしれません。
例示されていたそれぞれの対策は、

① 事前のお約束、良い行動が少しでもできてからものを渡す。
② 子どもが良い行動をしているときに声かけ。
③ やること(課題)の調整(量・レベルを下げる)、適切な発散方法を増やす。

という解説でした。

また、かんしゃくを起こしやすい子どもは
“興奮レベルの振れ幅が大きい”
という表現を興味深く聞きました。
小児科医である私はかんしゃくの相談を受けたときに漢方薬を処方しているのですが、
有効例のご家族から、
「感情の振れ幅が小さくなりました」
と報告されることが多いので、実感があります。

▢ “かんしゃく”とは?
興奮を伴う混乱状態により発生する過度な行動
(例)
 ✓ 声を荒げて泣く
 ✓ 激しく奇声を発する
 ✓ 手足をバタバタする
 ✓ 床に寝転がる
 ✓ モノを投げる
 ✓ 足を踏み鳴らす

▢ かんしゃくのキッカケ
生理的な不快感にもとづくかんしゃく
(例)眠い、お腹が空いた
学習性のかんしゃく
(例)幼稚園に行きたくない

▢ かんしゃくは氷山の一角
・周囲から見えるのは“かんしゃく”だけであるが、
 そのバックグラウンドには以下のことが隠れている;
 ✓ 友達とのコミュニケーションがうまくできない。
 ✓ 大人にかまって欲しい
 ✓ 運動面の不器用さがある
 ✓ こだわりが強い

▢ かんしゃくにおける“個”の問題
・その子の特性
 ✓ 性格
 ✓ くせ
 ✓ 好み
 ✓ 感覚
 ✓ 身体的特徴
 ✓ 情報の認知
 ✓ 情報処理の仕方 など
・獲得できるスキル
 ✓ 学習力
 ✓ コミュニケーション力
 ✓ スケジュール管理力
 ✓ セルフコントロール力
 ✓ 金銭管理力 など

▢ かんしゃくにおける“環境”の問題
・ヒト
 ✓ 家庭、教育機関
 ✓ 地域や周囲の理解
 ✓ サポート体制
 ✓ 福祉的サポートサービス など
・場所・モノ
 ✓ 広さへの配慮
 ✓ 音への配慮
 ✓ 視覚的・聴覚的補助
 ✓ 学習の補助アイテム活用
 ✓ 部屋の明るさへの配慮 など

▢ “個”と“環境”の間にある困難さ
・コミュニケーションが難しい
・かんしゃくが起きる
・落ち着きがない
・自分の気持ちを伝えにくい
・感情のコントロールが難しい
・読み書きなど、勉強が苦手
・切り替えることが難しい
・なかなか自信や意欲が持てない

▢ かんしゃくの理由〜応用行動分析学の世界〜
・かんしゃくが起きる理由は大きく分けて4つ〜どの理由からかんしゃくが起きているのか把握しよう
物・活動の要求:物や活動を獲得するための要求
(例)欲しい!見たい!やりたい!
回避・逃避:イヤなことが生じたときにイヤなことから逃れるための行動
(例)つまんない、飽きた!やりたくないよ〜、ムリ!
注目要求:他者からの注目がないときに注目を集める行動
(例)見て見て、すごいでしょ!困っているのに気づいて!
感覚(自己刺激):刺激がないときに自分の好きな刺激を入れる行動
(例)こうしていると落ちつく〜、だって楽しいんだもん!
〜これらが判明したら、それを解消する対策を取ろう

▢ かんしゃくと興奮のメカニズム
・ヒトの興奮レベルは常に変動している。
興奮レベルの振れ幅が大きい子どもは、
 興奮が繰り返し起きやすくなる。

▢ “したいことを伝える”方法いろいろ
・興奮して感情的になっていると、
 複雑なことができなくなってしまう、
 ふだんできていることもできなくなってしまう。

(複雑)         ふだん   興奮時
 ↑  交渉する     できない  できない
    理由を伝える   できない  できない
    文章で伝える   できない  できない
    短文で伝える   できる   できない
    単語で伝える   できる   できない
    指さす      できる   できる
 ↓  叩く・叫ぶ    できる   できる
(容易)

▢ 興奮につながる要因
・子どもの個性や現状スキル
 ✓ 体力、身体発達の未熟さ
 ✓ 過敏性
 ✓ 特性:こだわりの強さ、気持ちのコントロールが難しい、
     友人関係がうまくいっていない
     他者と自分の意図を合わせるのが苦手 など
・環境
 ✓ 頑張らなければいけない環境
 ✓ 友人関係がうまくいっていない
 ✓ 疲れている など

▢ かんしゃく発生時にしてはいけないNG対応
1.興奮を高める対応は避ける
・かんしゃく時の発言は「発散」としていっているだけかも・・・
 → まともに取り合わない方がよい
・子どもにつられて親も爆発!
 → 子どものかんしゃく状態と同じ?

▢ かんしゃく発生時の対応その1〜まずは安全確保(環境調整)が何よりも大事!
✓ 怪我をしないように物をどける、場所を移動する。
✓ 壁に頭を打ち付ける等の場合は、間にクッションを置くなどの工夫。
✓ 子どもだけでなく、保護者や兄弟などの安全も確保する、など。

▢ かんしゃく発生時の対応その2〜対応の基本はクールダウン興奮を低下させ、適度に落ちついた状態(中庸)に)する
興奮を引き起こす刺激をなくす/減らす
・多少のことはスルー(売り言葉に買い言葉はNG)、ただし無視だけで対応しようとしない。
・再燃させる刺激がなければ、時間経過により落ちついていく。
 クールダウンルームやスペースを利用する。
※ 話しかける関わりも興奮につながることがあるので、
 安全な場所で放っておくことも手立て。
・訴えてきても、イヤな気持ちに対する共感のみ(要求には反応しない
落ちつくことにつながる活動をしてもらう
・水を飲んだり、深呼吸したり、ぬいぐるみを抱いたりする。
・別の活動をして気をそらす。
・単調なことをする(プチプチを潰す、数字を数える、など)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその1
・感情は伝染するので、巻き込まれてしまうのはある意味自然。
・保護者自身もふだんできていることが興奮してできなくなっている。
(例)子どもへの伝え方
 (複雑)             (ふだん)  (興奮時)
  ↑  折り合うポイントを探す   できない   できない
     学んだ対応をする      できる    できない
     簡潔に伝える        できる    できない
     手を取ってやらせる     できる    できる
  ↓  叩く・怒鳴る        できる    できる 
 (容易)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその2
〜ふだんから意識をして落ちつく方法を決めておく。
 疲れをためないように自分の時間を作る。
① アンガーマネジメント
・関わる前にゆっくり10数える。
・一回深呼吸する。
・水を飲む、など。
② 余暇や自分の時間の確保
・自分なりのリラックス方法
・自分なりの発散方法

▢ かんしゃくを減らす取り組みの基本的な考え方
・かんしゃくを減らすのではなく、
 その他の望ましい行動を増やすことで、
 結果的にかんしゃくの出現頻度が下がっていく。
・かんしゃくはすぐにはなくならない、
 半年前、1年前に比べると「少しはましになったかな?」でOK。

▢ かんしゃくを減らす具体的な取り組み
① 子どもの“できる”を増やす。
② 楽しく過ごせる場所や活動を増やす。
・楽しめることの選択肢が少ない場合や疲れているときは、
 かんしゃくや興奮が起きやすい。
・余暇やリフレッシュの時間を作る、子どもが楽しめる習いごとをする、など。


子どもの夜尿症

2024年08月02日 19時23分53秒 | 育児
小児科開業医の当院には、
1年に数人ペースで夜尿症の相談があります。

夜尿症とは、膀胱に貯められる尿量(膀胱容量)を夜間つくられる尿量(夜間尿)が上回り、
あふれてしまう状態です。

乳幼児期は、
(膀胱容量)<(夜間尿)
ですが、小学校に上がる頃には
(膀胱容量)>(夜間尿)
となり、夜尿は消えていきます。

しかし中には、
1.膀胱容量が小さいまま
2.夜間尿が多い
ため、この逆転が起きずに夜尿が残ることがあります。

当院での治療は、
1 → アラーム療法を提案
2 → 薬物療法(ミニリンメルト®)
が基本です。

おっと、その前に大切な生活指導がありました。
それは「水分の摂り方」です。

飲んだ水分は約3時間後に尿となって排泄されます。
ですから、寝る時刻の前3時間は水分を制限していただきます。
もちろん、喉が渇いて眠れない、というのはやり過ぎ。
夕食の味を薄めにして、夕食後のがぶ飲みを予防しましょう。

小児夜尿症の解説記事を見つけました。
知識のアップデート目的で読んでみました。
ポイントを記しておきます。
…気づいたのですが、著者(インタビューを受けた今西Dr.)はアラーム療法を第一選択としている様子、薬物療法(ミニリンメルト®)は第二選択に位置づけられています。これも時代の流れかなあ。

<ポイント>
・子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない、これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまう。
・徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。
・気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。
・5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。「5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合」「1週間に4日以上のおねしょは“頻回”」。
・日本では夜尿症は7歳でも有病率は10%程度。
・治療では、主に生活指導。投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まる。
・生活指導の内容は、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限、夜寝る前に、必ずトイレに行く(2度行かせるという専門家の意見もあります)。
・アラーム療法はパンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すもの、これを繰り返して子ども自身がおねしょに気がつくようにすると、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れる。
・アラーム療法の効果が今ひとつの場合は薬物療法を考慮する、デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬する。この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になり、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しい。
・昼間のおもらしは“意識がある状態での排尿”であり、夜尿とは別の病態と考えるべきである。


■ 夜尿症」 5歳でも1ヵ月以上続く場合が受診目安 専門家ふらいと先生が解説
#1 受診が必要な「夜尿症」について
小児科医・新生児科医:今西 洋介
2024.03.25:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 幼稚園や保育園、学校への進学が気になる時期や、お泊り保育、林間学校などの泊まりがけのイベント前などに気になってくるのが「おねしょ」や「おもらし」。進学前になんとかしなくては、と焦る保護者の方も多いのではないでしょうか。・・・そこで今回は今西先生に、おねしょとおもらしについて解説してもらいました。
 1回目は「おねしょはどうして起きるのか」について。症状が起きる原因や、日中のおもらしと夜間のおねしょの違いなどについてお聞きしました。

<目次>
  • 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
  • 「おねしょ」と「おもらし」の違い
  • 「5歳」が受診の目安
▶ 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
──進学・入学の時期が近づくと、「おねしょ」や「おもらし」について気にしだす親御さんが多くなります。でも、「おねしょだし、そのうち成長すれば治るかな」と思う方も多いと思うのですが、そもそも、おねしょはどうして起きるのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):尿が膀胱に溜まって、膀胱が大きくなると神経が刺激されて尿意を感じるようになります。でも、子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない場合があります。これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまうのです。
 とはいえ2歳ごろまでは、排尿を上手にコントロールできないので、反射的にしてしまいます。だからおねしょは当たり前のことなんです。
 でも、4歳ごろには徐々にコントロールができるようになり、親が「トイレに行こうね」と促したりすれば、昼も夜も漏らすことは少なくなります。そうして徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。

▶ 「おねしょ」と「おもらし」の違い

──夜間の「おねしょ」と、昼間に漏らしてしまう「おもらし」では違いがあるのでしょうか?

今西先生:昼間の「おもらし」もおねしょと同様に、大きくなって排尿・膀胱の機能が発達していくことで改善する場合が多いですね。夜間の「おねしょ」と同じように、2~3歳ごろには少しずつおもらしもなくなっていきます。
 身体の発達と同じように、排尿・膀胱機能の発達にも個人差があるので、「3歳なのにおもらしをしている」「なかなかおむつがはずせない」と焦ることはないでしょう。
 ただ、気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。これは便を漏らしてしまうのも同様です。
 5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。この場合、おねしょの場合は「夜尿症」、おもらしの場合は「尿失禁症」の可能性があります。

▶ 「5歳」が受診の目安

──ではまず、親としては「5歳」というのが受診の目安と考えて良いのでしょうか?

今西先生:そうですね。夜尿症には明確なガイドラインがあって、『5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合』、そして『1週間に4日以上のおねしょは“頻回”』といわれています。
 日本では、調査によると夜尿症は7歳でも有病率は10%程度と報告されています。つまり、1クラスのうち約3人は夜尿症の子がいるという計算です。
 幼稚園の年長さんや、小学校に上がってもおねしょをしているというのは、なかなか保護者としても周りに相談しにくいでしょう。さらに子ども自身も、お泊まり保育でオムツを持っていかなくてはいけないというのは、子どもの自尊心が傷つくことになります。これが高学年になれば、なおのこと子どもの心は傷つくはずです。
 実際、小学校の2~3年生くらいで「おねしょが続いているから受診しよう」と考える方は比較的少なく、林間学校が行われる4~5年生ぐらいになって、そのとき初めて親も子どもも受診しようと考えるご家庭が多いです。
 受診後の治療では、主に生活指導になります。また症状によっては、投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より、治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まるといわれています。
 確かに昔は、おねしょは“ときがくれば治る”という考えもありました。しかし、放っておいても治らない「夜尿症」だと、治療が必要な場合もあるということ。そして、月に2~3回のおねしょだから」と放っておかずに、5歳を過ぎてもおねしょが続いているようなら、ぜひ受診を考えてみてくださいね。・・・

■ おねしょが続く「夜尿症」 3つの治療法「生活指導」「アラーム法」「投薬治法」
#2 「夜尿症」の治療について
小児科医:今西 洋介
2024.03.26:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・今回は「夜尿症」の治療法についてです。生活指導、アラーム法、投薬治法の3つの治療法を、今西先生に詳しくお話しいただきました。

<目次>
  • 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
  • アラーム療法と投薬での治療法
  • 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
▶ 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
──・・・実際に、病院ではどのような治療をするのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):最初は生活指導を行います。診察時に話を聞いていると、子どもによっては、寝る前にかなりの量のお水やお茶を飲んでいるという子が結構いるんですよね。これではもちろん、夜間におしっこが出てしまいます。
 ですので、生活指導では、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限をしてもらいます。また、夜寝る前に、必ずトイレに行くこと。そして毎日の排便の習慣や、早寝早起きといった生活リズムを整えることの重要性も伝えていきます。実はこれだけで改善をする子もいるんですよ。

▶ アラーム療法と投薬での治療法
今西先生:生活指導だけで改善が見られない場合は、「ピスコール」というアラーム療法を取り入れます。
 具体的には、パンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すものです。
 これを繰り返して、子ども自身がおねしょに気がつくようにします。このアラーム療法を行っていくと、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れるように。しかし、それでも難しい場合は投薬を考えます。

──投薬をすると、具体的にどのような作用が体に起きるのでしょうか?

今西先生:デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬します。
 例えば、水を飲んだら間髪入れずにおしっこが出てしまうようでは生活できませんよね。そうならないため、人間の体の中では抗利尿作用ホルモンが働いて、利尿を妨げる働きをしています。デスモプレシンはこの働きを薬にしたもので、持続的な尿量の調整が可能になります。
 ただ、この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になります。ですから、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しいです。

▶ 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
──夜尿症で悩む保護者にとっては、投薬で尿量が調節できて、親も子も安心して夜眠れるというのは大変うれしいと思います。でも一方で、投薬となると副作用のことも気になります。

今西先生:そうですよね。実はこの薬は副作用が強く、「水中毒」になる可能性があります。・・・寝る前に水分を規定以上飲んだ上に、薬を摂取することで、さらに体内に水分をとどめてしまう。そして、血液中のナトリウム濃度が低くなり、水中毒が起きるのです。そこで、水分摂取量の管理について保護者が気を配る必要が出てきます。

──たとえば夜尿症ではなく、昼間にも漏らしてしまうような場合でもこのお薬は効果があるのでしょうか?

今西先生:日中漏らしてしまうというのは、実は夜のお漏らしとはまた別と考えたほうがいいでしょう。
 というのも、前回の記事でもお話ししたように、日中は寝ているときとは違い、意識がはっきりしています。そういう状態でもおしっこを漏らしてしまうというのは、自分で排尿のコントロールができなくなっているということです。この場合はデスモプレシン(ミニリンメルト)ではなく別のお薬が必要になってきます。

──ということは、日中と夜間のおもらしは別のものと認識して、病院へ受診する際に伝えたほうがいいということですね。ちなみにほかに保護者が気をつけておくべき点はありますか?

今西先生:生活指導やアラーム療法、投薬で夜尿症が一度は治ったのに、半年後など間隔を空けてまた症状が出てしまうパターンがあります。この場合、夜尿症ではなく、例えば糖尿病や脳腫瘍、甲状腺の病気などの病気が隠れていることも考えられます。「おねしょがまた再開した」と気軽に考えず、再度受診をするようにしましょう。・・・

■ 「夜尿症」は育て方や子どもの性格が問題ではない 
#3 「夜尿症」を悪化させてしまう要因を取り除くには?
小児科医・新生児科医:今西 洋介
2024.03.27:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・最終回となる3回目は、「夜尿症」に悩む家庭が心掛けるべきことについてお聞きしました。

<目次>
  • 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
  • おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
  • トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
▶ 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
──どんな子どもでもおねしょをした経験はあるのに、自分の子どもが夜尿症になってしまうと、「わたしの育て方が悪かったのかな」と、つい考えてしまうものです。
 子どもと接する時間が長いからこそ、保護者が自分のせいだと責めてしまい、親子にとって夜尿症がよりつらいものになっているように思います。

今西洋介先生(以下、今西先生):「私がオムツを外すことにプレッシャーをかけたからかも……」など、保護者の方が受診時にお話しされることがあります。
 でも、夜尿症は親の育て方や、子どもの性格などが原因ではありません。1回目でもお伝えしたように、膀胱の収縮や尿道括約筋の緊張・弛緩を司る神経は未発達なこと、夜間の尿量が多い、睡眠から覚醒できないということが原因です。ですから必要以上にお母さん、お父さんが自分、そして子どもを責めることはありません。
 夜尿症は身体の発育に関係する部分も多く、治療にかかる期間もそれぞれ。決して焦る必要はないのです。ですから周囲と比較する必要もないですし、見守る気持ちで治療をしていきましょう。

▶ おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
──子育てと一緒ですね。それぞれの子どもに個性や特性があって、成長を見守るように、夜尿症も子ども自身のペースを見守って、一緒に伴走してあげることが大切なんですね。

今西先生:そうですね。そして見守ってあげることと同じくらい大切なのが「𠮟らないこと」です。頻繁におねしょをされると親の負担は本当に大変ですよね。
「なんでまたおねしょしたの!」とつい言ってしまう気持ちもわかります。でも、𠮟られることで子どもは排尿時に緊張するようになってしまい、夜尿症が悪化することも。
 できる限り𠮟らずに、おねしょをしなかったときはほめてあげて、子どもに自信をつけてあげるといいでしょう。

──お話をお伺いすると夜尿症では精神的な影響が大きいように思いました。

今西先生:𠮟らない、ということも大切ですが、同時に子どもが置かれている状況で受けるストレスというものも考える必要があります。
 実は受験のストレスや親の離婚などが引き金となって、夜尿症が起きることもあるのです。身体的な発育に加え、子どもの心にストレスがかかっていないかということを考えてみることも必要でしょう。

――受験のストレスで引き起こされる夜尿症というと、やはり大きくなってもなかなか治らない場合もあるのでしょうか?

今西先生:ほとんどのお子さんは、成人するまでに治ると言われていますが、15歳以上でも1~2%程度の子は夜尿症があるといわれていて、稀に成人しても続くケースはあります。小さいうちでもかなりおねしょの頻度が高いのであれば、早めに受診をすることをやはりおすすめしますね。

▶ トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
──ちなみに2~3歳ごろのお子さんを抱えているお母さん・お父さんは、オムツをはずすトイレトレーニングを始めるかと思うのですが、その際にあえておしっこでオムツが濡れる感覚を覚えさせたります。しかし、このことで夜尿症を引き起こすということはないのでしょうか?

今西先生:オムツを外すトイレトレーニングをする中で、お尻が濡れる感覚に慣れて遊び続けてしまう子どももいるかもしれませんね。でも、それが夜尿症を引き起こすということはないでしょう。
 逆に、夜尿症だからといってオムツを履かない年齢なのにオムツを履かせるのは、子どもも嫌がるのであれば、あまりおすすめはしません。おねしょシーツなどを敷いて、寝具などが濡れない対策をとりましょう。そして、お母さん、お父さんは「応援しているよ」という気持ちを子どもにきちんと伝えてあげてほしいと思います。
 特に、子どもの年齢が大きくなると「自分だけおねしょをして恥ずかしい」「親に迷惑をかけている」という不安や劣等感を抱くようになります。オムツを外すトレーニングのときに、「トイレでおしっこできたね、えらいね!」と褒めてあげたように、まずは子どもの不安を取り除いてあげましょう。
 そして、そういった親の心のケアがベースにあった上で、さらに親と子ども本人の「治したい」という気持ちが大切になってきます。治すには、生活習慣を見直したり、飲水の制限をしたりと、いろいろ地道な努力が必要ですが、焦らずに取り組んでいってください。・・・



子どものロコモティブシンドローム その3:子どもロコモを改善するために親子でできること

2024年08月01日 07時12分55秒 | 健診
子どもロコモ解説、その3は“親子でできること”。

読み終わって感じたのですが、
学校健診の「運動器検診」のチェック項目は、
「運動しなさすぎ → ロコモ」
の他に、
「運動しすぎ → スポーツ障害」
もあります。

3回シリーズのこの記事ではロコモのみ扱っており、
スポーツ障害については記載がなく、
“片手落ち”の感が否めません。

学校健診の短時間の流れ作業の中で、
あれやこれやとすし詰めのチェック項目をこなすのは無理というモノ。
運動器検診はやはり言い出しっぺの整形外科医が、
学校健診から独立して担当すべきだと思います。


<ポイント>
・体前屈ができない子は、単に股関節が固いだけでなく、肩甲骨まわりが固い硬い子が多い。
・姿勢で一番注意すべきなのが、骨盤を立たせること。
・日常生活で子どもロコモを改善できる方法は片足立ちがおすすめ。日常生活では、歯を磨くときなどに1~2分行うとよい。
・食べること、休養をとること、運動すること。この3つは、子どもロコモ改善にはとても大事。


■ 危険な「子どもロコモ」 改善策はストレッチ・体操・睡眠・食事…
整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 
#3 子どもロコモを改善するために親子でできること
 整形外科医:林 承弘
2024.01.11:コクリコ

 1回目では子どもロコモの原因と症状、チェック項目について。2回目では子どもロコモを放置したまま成長するリスクと対策について解説してもらいました。3回目では、実際に親子でできるストレッチや体操と、睡眠・食事についてお話しいただきます。

<目次>
  • 「子どもロコモ体操」は親子で!
  • 片足立ちでロコモを改善
  • 運動機能を身に着けることが大切
  • ロコモ改善には朝食も大切
  • しっかり眠ることも子どもロコモの改善に
▶ 「子どもロコモ体操」は親子で!

──子どもロコモを改善するためには、やはり親の役割が大きいのでしょうか?

林承弘先生(以下、林先生):そうですね。私はいつも「子どもロコモ体操」をレクチャーするときには、必ず「お母さん、お父さんも一緒にやってね」と伝えています。
 というのも、子どもの姿勢をチェックすることでかなり変わってくるからです。それと、デスクワークが多い親御さんも、一緒にやることで効果が期待できますよ。
 では早速、以下の方法で一緒にやってみましょう!

【子どもロコモ体操】
① 両手を後頭部にあて、息を吸って肩甲骨を寄せる。
② 息を吐きながら両肘を前に。数回繰り返す。
③ 両手を組み、手のひらを天井に向けて両手を頭上に上げる。
…すべて引用:全国ストップ・ザ・ロコモ協議会「子どもロコモ

──実際にやってみると、肩甲骨がぐっと動くのがわかりますね。

林先生:そうなんです。肩甲骨の動きがよくなると体前屈もできます。体前屈ができない子は、単に股関節が固いだけでなく、肩甲骨まわりが固い硬い子が多いんです。
 そして、姿勢で一番注意すべきなのが、骨盤を立たせることです。腰のところに手を当てて前にぐっと押してみましょう。すると骨盤が立ちます。骨盤が立つと背骨が連動して猫背が解消されて姿勢がよくなります。

▶ 片足立ちでロコモを改善

──日常生活で子どもロコモを改善できる方法は何かありますか?

林先生:片足立ちがおすすめです。日常生活では、歯を磨くときなどに1~2分行うといいですね。親御さんは、キッチンにいるときや、デスクワークの合間などに。
 ちなみに、歩行中に両足がついている状態は2割程度で、8割は片足立ちです。片足立ちをしっかりやるとバランス能力や筋力がついてきて、歩行や階段昇降が楽になってきます。
 スキマ時間の中でロコモ改善運動の要素を入れるといいですね。

▶ 運動機能を身に着けることが大切

──ところで、スキャモンの発育曲線(※)のピークを逃すと運動機能を取り戻すことは難しいのでしょうか?
 スキャモンの発育曲線をみると、10歳前後で神経系はすでに成人の95.6%に達しています。10歳前後では、動きのもと(コーディネーション)を習得することが大切。

(※)スキャモンの発育曲線


1930年、スキャモンが人の身体諸属性は大きく4つのパターン(神経型、リンパ型、生殖型、一般型)に分類されることを提唱しました。神経系は10歳前後で成人の95.6%発達し、さまざまな神経回路が形成されることがわかっています。

林先生:無理ではないですが、子どもの成長曲線に合わせて身につけるのが一番いいと思います。ピークを超えてからでも遅すぎることはないのですが、そのときにやったほうが、動きの質を高めることができて、スポーツを楽しんだり、日常生活で安全に身を守ることにつながります。
 ロコモとは関係ないですが、小学生ぐらいの子どももダイエットしていると耳にします。一番困るのは、骨の成長に関してですが、最もスパークがかかる小学校高学年でダイエットをしてしまうことです。骨の成長のスパークに乗れず、骨密度が低いまま大人に……。
 特に女性の場合は、閉経を迎えると骨密度がグッと下がってしまいます。はじめの骨量をきちんと上げておくには、もちろん運動も必要ですし、過度なダイエットは避けるべきです。小学校高学年の女子がなぜ太るかというと、この時期は骨に刺激を与えるためでもあります。痩せてしまうと栄養もそうですし、骨にとっても良くないんです。
 だからこの時期は、体重を落とすのではなく、しっかりと食べてカルシウムなどの栄養素を十分摂っておくことが大切です。骨は20歳ごろに完成します。20歳の時点で骨量が少ないと、将来的に骨粗しょう症に早く入ってしまうことになります。これを伝えることも、子どもロコモ啓発のひとつになると思っています。

▶ ロコモ改善には朝食も大切
──ロコモ改善のためには、生活習慣改善という意味で、食生活も大切になってきますか?

林先生:そうですね。主食、主菜、副菜のそろった食事でバランスよく食べることが大切です。特に1日の原動力になる朝食たんぱく質をしっかり摂ること。
 以前、埼玉県で運動器検診のモデル事業を行ったとき、食事内容のアンケートも取りました。すると、約9割は朝食を摂っているという回答だったのですが、バランスよく摂れている子どもは、約3割でした。「パンだけ」「牛乳だけ」といった内容が多くみられました。
 朝食をバランスよく摂れているかどうかによって、学力も運動能力も明らかに違ってきます。文部科学省「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査」のデータにもありますように、朝食がしっかり摂れている子は、算数や国語の成績も良く、かけっこやボール投げなどの運動能力も高いことが報告されています。

▶ しっかり眠ることも子どもロコモの改善に

──現代は「眠育」という言葉もあるほど、睡眠時間の短さが問題になっています。睡眠も子どもロコモに影響するのでしょうか?

林先生:睡眠時間が短いと、寝不足と寝坊して時間がないため、朝食がしっかり摂れないことが多くなります。食べること、休養をとること、運動すること。この3つは、子どもロコモ改善にはとても大事です。
・・・

子どものロコモティブシンドローム その2:子どもロコモの対策方法

2024年08月01日 07時00分51秒 | 健診
子どもロコモ解説、その2は“対策”です。

<ポイント>
・外遊びが減ったことで、体の使い方がわからない子どもたちが増え、ケガや骨折のリスクが高まっている。
・小・中学生のとき、スマホやタブレットゲームばかりして、外遊びをあまりしていないと、中高生になって身体能力の低下に気づく、というケースが多い。
・保育園や幼稚園のころの3~5歳ぐらいは、バランス能力や空間認知能力がもっとも伸びる時期。この時期に外遊びをしないと、小さなケガをしたり、痛みを感じたりする機会がなく、「危険回避能力」が身につかない。
・危険回避能力がないまま、中高生になって、いきなり激しい部活を始めると、大きなケガをしたり、骨折したりしやすくなる。
・オススメの外遊びは、鬼ごっこやジャングルジム、それからラジオ体操。
・スマホをしていると、猫背といった悪い姿勢になりやすい。
・「体が硬い」と言われている子どもは、実はそれほど硬くなくて、体の使い方がわからないことが多い。

■ 急増する「子どもロコモ」を放置… 心身の成長に与える「悪影響」〔専門医が解説〕
整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 
#2 子どもロコモの対策方法
 整形外科医:林 承弘
2024.01.10:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 子どもが、体の使い方を学ぶ機会を失ったまま放置しておくと「転倒してもとっさに手が出ない。すぐ疲れてしまい、さらに体を動かすのが億劫になるなど、心身の成長に悪影響を与える可能性があります」とは、林整形外科院長・林承弘先生。
 さらに大人になったときには、生活習慣病への懸念もあるといいます。

<目次>
  • 運動の減少によってケガのリスクが増加
  • 子どもロコモ対策には適度な運動と外遊びが大切
  • 姿勢を正しく保つことを日ごろから意識すること
▶ 運動の減少によってケガのリスクが増加

──1回目では、子どもロコモが起きる原因と症状、チェック項目についてお話いただきましたが、部活で本格的にスポーツを始める中高生のころになると、ロコモの症状は改善されるのでしょうか?

林承弘先生(以下、林先生):工業高校の養護教諭の先生が以前、「体前屈ができない生徒が一定数いる」「最近の高校生は、小・中学生のころにあまりケガの経験がなく、入学後に初めてケガをするケースが多い」とお話しをされていたことがありました。
「靴ひもを結べない」「マット運動で前転したときに船酔いのような気持ち悪さを感じる」なども耳にします。小・中学生のとき、スマホやタブレットゲームばかりして、外遊びをあまりしていないと、中高生になって身体能力の低下に気づく、というケースが多いですね。
 また、1970年からの骨折患者でみると、約40年間で保育園児・幼稚園児の骨折はやや減少、小学生で増加し、中高生では3倍に増えています。
 幼稚園や保育園で骨折の件数が少ないのはなぜかというと、「危ないから……」といった理由で、外遊びをさせる機会が減ってしまったことが考えられます。ケガをすると子どもへの対応に加えて、親御さんへの対応も必要ですから。
 しかし、保育園や幼稚園のころの3~5歳ぐらいは、バランス能力や空間認知能力がもっとも伸びる時期です。この時期に外遊びをしないと、小さなケガをしたり、痛みを感じたりする機会がなく、「危険回避能力」が身につかないことになります。
 危険回避能力がないまま、中高生になって、いきなり激しい部活を始めると、先ほどの話のように大きなケガをしたり、骨折したりしやすくなります
 ほかにも、2023年2月にさいたま市のN小学校で「コロナ禍の子どもロコモ」というタイトルで講演会に行ったときの話です。養護教諭の先生に「廊下を歩いていると生徒同士がぶつかってしまうんです」という話をお聞きしました。

──「空間認知能力」がないため、相手を避けられないということでしょうか?

林先生:はい、特に低学年に多く見られるとおっしゃっていました。今の低学年の子どもたちは、コロナの自粛生活のときが3~5歳前後。空間認知能力を獲得する時期に体をほとんど動かしていないため、運動機能が低下したままきてしまったというのが原因と考えられます。

▶ 子どもロコモ対策には適度な運動と外遊びが大切

──子どもロコモの対策として、サッカーや野球など、スポーツ系の習い事をするのは効果的でしょうか?

林先生:習い事で運動をしていても、必ずしも運動機能がいいとは限りません。原因はうまく体を動かせていないこと。運動をしている子も、していない子と同じように、子どもロコモの兆候が出ていることがあります。
 例えば、「肩を上げなさい」「体前屈しなさい」と言っても、必ずしもすべての子どもができるとは限りません。運動をやりすぎることで、体の硬さやバランスにひずみが出てしまうこともあるので、ほどよい運動、外遊びが大事です。

──具体的にどのような外遊びがおすすめでしょうか?

林先生:鬼ごっこやジャングルジムがいいですね。今は「危ないから」といって、やらせない親御さんも見かけます。しかし、大人が見守っている中であれば危なくないですし、避け続けるといつまでたっても危険回避能力が身につきません。
 あとは、素足で行うトランポリンもおすすめですね。バランス能力と姿勢がよくなります。

▶ 姿勢を正しく保つことを日ごろから意識すること

──スマホが日常の現代の子どもたちは、操作中の子どもの姿勢についても気になるところです。

林先生:そうですね。大人もですが、スマホをしていると、猫背といった悪い姿勢になりやすい。たとえば、大人の頭の重さを約5kgとして、首を15°前傾すると首にかかる負荷が約10kg、30°だと約15kg、45°だと約20kgの負荷がかかると言われています。真下を向いた姿勢(60°)では小学3年生の体重にあたる27kgもの負荷がかかることに。
 そうすると、肩甲骨まわりや股関節がガチガチに固くなってしまい、疲れやすさやイライラするといった体の不調から運動機能全体が落ちてしまいます。
 先日、私のクリニックに手を骨折した子どもが来院しました。ドッジボールをしていて、後ろへ下がったときにバランスを崩して手をつき、骨折してしまったのです。
 その子を診ると、体が硬いし、しゃがむと尻もちをついてしまう。ドッジボールでもバランスがとれなくて倒れてしまった結果、変な手のつき方をして手首を骨折してしまったんですね。
 このように、運動をやっていてもやっていなくても、基本的な姿勢と、肩甲骨と股関節をしっかり動かせるかどうかがとても大切なのです。

──大人も肩甲骨まわりと股関節が固いと、姿勢が悪くなって腰痛や肩こりの症状が出ますよね。何か、効果がある取り組みはありますか?

林先生:良い姿勢がとれるか、維持できるかがとても重要です。良い姿勢を保ちながら、肩甲骨と股関節の動きをよくする。これが運動機能を改善・維持するために一番重要な要素です。
 取り組みとしては、体育の授業の準備体操でよく行われている、ラジオ体操がおすすめです。ただ、きちんとやらないと効果がありません。数分でいいから、しっかり股関節と肩甲骨を意識してやることによって、ずいぶん変わってきます。

──子どもや親御さんが、現在「子どもロコモ」に危機感を覚えていると感じられますか?

林先生:あまり意識していないように思います。それが一番問題ですね。車で例えると、ガチガチで余裕のないハンドルだと事故を起こしやすいので、ある程度ハンドルにもゆとりが必要です。
 体も同じで、関節の可動域も余裕が必要で、可動域が小さいとケガをしやすい傾向にあります。「体が硬い」と言われている子どもは、実はそれほど硬くなくて、体の使い方がわからないことが多い
 例えば、びんの蓋の空け方がわからなかったり、雑巾が絞れなかったりする子どもがいますが、これは一度きちんと教えるとできるようになります。やったことがないものは、想像が付かないからできないわけです。
 子どものときには、体のゆとりを最大限に持っておいても、大人になるにつれて体が硬くなってくる。しかし、姿勢を良くしたり、肩甲骨と股関節をしっかり動かしたりすることによって、ある程度の可動域を得られ、すると大人になってもケガのリスクが少なくなるのです。



子どものロコモティブシンドローム その1:原因と症状、5つのチェック項目

2024年08月01日 06時11分14秒 | 健診
私は小児科医で学校健診も担当しています。
現在の学校健診には「運動器検診」が含まれます。
整形外科医が提案し、他科医師(学校医の中で整形外科医は5%だけ)が担当するというねじれのある内容です。
ふだんの診療で扱わない疾患群を早期発見するミッションであり、
気を遣います。
「言い出しっぺの整形外科医が担当すべきだよなあ」
と思うこともしばしば。

現在社会問題化している“側弯症検診”も、
現場の混乱をよそに、
整形が会は高みの見物をしていますから。

解説・啓蒙記事を見つけたので、
知識の確認目的で読んでみました。

<ポイント>
・ロコモティブシンドロームとは、英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」と、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」からつくられた造語で、移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態を指す。
・大人のロコモの兆候は「階段が上がりづらくなる」「速く歩けない」「すり足になってつまずきやすい」の3つで、老化現象による運動器の障害を指します。これらの兆候がコロナ禍の長期休校明けに、子どもの1割弱に見られた。
・子どもの外遊びが圧倒的に減ってきていることが子どもロコモの増えた大きな原因ではないか。
・子どもロコモチェック項目;
 ① 5秒以上ふらつかずに片足立ちすることができない
 ② しゃがみ込むとき、途中で止まったり、後ろに転んだりする
 ③ 両手を上げたとき、手の先から肩にかけて垂直にならない
 ④ 立って体を前にかがめたとき、ひざを伸ばしたまま手の指を床につけられない
 ⑤ 手をグーにしてひじを引いたあと、パーに開いて腕を前に出す動作をスムーズにできない
・学校健診における「運動器検診」で特に気になっていることは、子どもたちの姿勢が猫背なこと。そしてアゴが前に出ている子どもが多いこと。
・子どもロコモ3つの原因
 ① 運動習慣の変化:成長期の運動不足あるいは激しい運動のしすぎにより、からだの柔軟性が低下
 ② 生活習慣の変化:外遊びをする機会が減ったことにより、小さなケガをすることも少なくなり、危険回避能力が低下
 ③ 姿勢不良:長時間のテレビゲームやスマートフォンの使用により、あご出しやねこ背など姿勢が悪くなりやすい
・外遊びをしないでいると、股関節周りが固くなり、体前屈ができなくなる。しゃがむと転倒して床にお尻をついてしまうことも。今回のコロナ禍で、さらに増えた。身体の使い方がわからない子が増えている。
・体の柔軟性の低下は、肩甲骨や股関節をしっかり動かすことによって改善できる。親子で毎日1日数分間、「子どもロコモ体操」をやるよう指導すると、およそ1~2週間継続することで改善され、2ヵ月後にはきれいな姿勢になる。

■ 5歳で腰痛! 「子どものロコモ」3つの原因と症状・5つのチェック項目
整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 
#1 原因と症状、5つのチェック項目について
 整形外科医:林 承弘
2024.01.09:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 近年、子どもの遊びはゲームが主流に。また、現代の子どもたちは習い事が多く、外で遊ぶ時間が少なくなったことで、体を動かす機会が減っています。
 そのため、「転びやすくなった」「姿勢が悪い」「疲れてすぐ座りたがる」などの症状が出る子も。そこで心配されるのが、子どもの運動機能低下を指す「子どものロコモティブシンドローム」、通称「子どもロコモ」です。
「コロナ禍で子どもロコモが一層進んだ」と話すのは、子どものロコモ予防・対策に取り組む林整形外科院長・林承弘先生。子どものロコモについて、原因と症状を林先生に解説していただきました。

<目次>
  • 子どもロコモと大人のロコモの違い
  • 子どもロコモ5つのチェック項目
  • 子どもロコモ3つの原因
  • 5歳の子どもに腰痛の症状
▶ 子どもロコモと大人のロコモの違い

──まずは、子どものロコモティブシンドロームについて教えてください。

林承弘先生(以下、林先生):ロコモティブシンドロームとは、英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」と、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」からつくられた造語で、移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態を指します。通称「ロコモ」と呼ぶことが多いですね。
 これまではロコモというと、バランス能力や柔軟性の低下、不良姿勢など、40代以上の中高年の運動器機能低下として指摘されていましたが、最近では子どもにもロコモの症状が見られるようになりました。
 ただ、大人のロコモと子どもロコモでは兆候が異なります。大人のロコモの兆候は「階段が上がりづらくなる」「速く歩けない」「すり足になってつまずきやすい」の3つで、老化現象による運動器の障害を指します。興味深いのは、これらの兆候がコロナ禍の長期休校明けに、子どもの1割弱に見られたことです。
 しかし、子どもロコモのチェック項目は大人とは異なります。

▶ 子どもロコモ5つのチェック項目
 子どもロコモには、以下の5つの項目をチェックします。


【子どもロコモチェック項目】
① 5秒以上ふらつかずに片足立ちすることができない
② しゃがみ込むとき、途中で止まったり、後ろに転んだりする
③ 両手を上げたとき、手の先から肩にかけて垂直にならない
④ 立って体を前にかがめたとき、ひざを伸ばしたまま手の指を床につけられない
⑤ 手をグーにしてひじを引いたあと、パーに開いて腕を前に出す動作をスムーズにできない

<参考>

▶ 子どもロコモ3つの原因

林先生:子どもにとって、普段の運動や、外遊び、生活習慣がとても大事なこと。私が十数年ずっと子どもたちを見てきて、子どもの外遊びが圧倒的に減ってきていることが子どもロコモの増えた大きな原因ではないかと思っています。さらに今回のコロナ禍で、その傾向が増している印象です。2020年に自粛生活を送った、今の小学校低・中学年は、特にそうだと言えるのではないでしょうか。
 また、2016年から、小学1年生から高校3年生までの全学年を対象に、学校健診において「運動器検診」が必須化されたのですが、この検診で私が特に気になっていることは、子どもたちの姿勢が猫背なこと。そしてアゴが前に出ている子どもが多いことです。姿勢が悪い子どもは、腕がまっすぐ上に上がりません。これは肩甲骨まわりが、ガチガチに固くなっている状態だからです。

【子どもロコモ3つの原因】
① 運動習慣の変化:成長期の運動不足あるいは激しい運動のしすぎにより、からだの柔軟性が低下
② 生活習慣の変化:外遊びをする機会が減ったことにより、小さなケガをすることも少なくなり、危険回避能力が低下
③ 姿勢不良:長時間のテレビゲームやスマートフォンの使用により、あご出しやねこ背など姿勢が悪くなりやすい

林先生:外遊びをしないでいると、股関節周りが固くなり、体前屈ができなくなります。しゃがむと転倒して床にお尻をついてしまうことも。これは以前から多かったのですが、今回のコロナ禍で、さらに増えたと感じています。身体の使い方がわからない子が増えていると考えられます。

──林先生が、子どもにロコモの症状が出ていると気づいたのはいつごろでしょうか?

林先生:埼玉県教育委員会と協力して、埼玉県のモデル事業として「埼玉県学校運動器検診」を2010年~2013年に行いました。その際、校長先生や養護の先生から、「どうも最近、子どもたちの体の様子が変」という話をよく聞くことがあったんです。
 例えば、「雑巾がけをしていて、体を支えきれずにあごをついて倒れてしまう」「転倒したときに、手が出ず頭を打ってしまう」「先生とキャッチボールをしているとき、たった数メートルの距離でもボールが顔面に当たってしまう」などです。

▶ 5歳の子どもに腰痛の症状

林先生:私自身、診察中に子どものロコモに気づくということはありませんでした。しかし、養護の先生たちの話を聞いてから注意深く診てみると、ケガした子どもの中で、体が硬いとか、バランス能力がうまく整っていない子が多いことがわかりました。
 ある5歳の男の子の話ですが、お母さんから「この子は姿勢と体の動きが悪い。さらに腰痛があります」と、来院された子がいました。
 体の柔軟性の低下は、肩甲骨や股関節をしっかり動かすことによって、その場で改善できます。親子で毎日1日数分間、「子どもロコモ体操」をやるよう伝えると、およそ1~2週間継続することで改善され、2ヵ月後にはきれいな姿勢になり、腰痛もなくなっていました。
 よくなってからその子に「前の悪い姿勢をやってごらん」というと「いやだ」というのです。なぜかというと、悪い姿勢は自分にとって気持ちがいいものではないことがわかったから。姿勢が良くなると運動機能も良くなってきます。大人がそういう気づきを起こさせることも大事だと思いました。
 残念なことに、今の時点では子どものロコモに気づける人があまりいません。整形外科医も子どものロコモの視点で見ていないと、見逃してしまうことが多いのが現状です。
 ほとんどの子どもが整形外科に来院する理由はケガや故障。「バランスが悪い」「体が硬い」などの症状で受診したとしても、「体が硬いのはしょうがないね」と、そのまま返されてしまうケースが多くあります。
 私としては、運動器検診で「体が硬い」と指摘され来院された親子には、まずは丁寧に診ること。そして子どもロコモの対策と、親子で改善できる体操を教えるようにしています。
 しかし、まだまだ「なんでもない」と診断され、すぐに帰されることが多いといいます。もっと子どもロコモの認識が広まればと、日々活動を続けているところです。





子どもの“こころの問題”を精神科は診てくれない

2024年07月26日 16時23分42秒 | 子どもの心の問題
当院は小児科開業医です。
小児科はこどもの病気一般を扱いますが、
外科系(ケガや手術)などは扱えず、
「小児内科」と呼ぶ方が正しいですね。

そして昨今増えてきた“こころの問題を抱える子ども”。
これは内科というより精神科の分野なので、
やはり従来扱ってきませんでした。

では精神科で診療してもらえるのかというと、
どうやらそうでもなさそうです。
精神科や心療内科に中学生が受診すると、
「高校生からです、
 中学生以下は診療していません」
と門前払いに会うことがほとんど。

精神科の中には「児童精神科」「小児精神科」という分野があるようですが、
その専門医の数はとても少ないようです。

しかし「小児科」はこどもの病気の入口として(外科以外)何でも診療していますので、
「精神科」も子どもを診てくれてもいいのでは、と思ってしまう私です。

というわけで、中高生の“こころの問題”を抱えて困っている患者さんが、
全国にたくさん彷徨っているという状況です。

さて、当院の取り組みですが...
年齢別に考えると、以下のようになるでしょうか。

(乳児期)夜なき
(幼児期)睡眠障害、かんしゃく・こだわり、パニック、落ち着きのなさ
(学童期)同上
(思春期)同上、月経前症候群(PMS)

すべてに対応できるわけではなく、
また心理師はいないのでカウンセリングもできませんが、
効果を実感して通院する子どもが最近増えてきました。

そんなタイミングで以下の記事が目に留まりましたので紹介します。
米国では“思春期の抑うつ”を主訴とする患者がプライマリ・ケアと精神科を受診した際、
寛解率に差がなかったという内容です。

日本の現状を考えると、ちょっと想像できないこと。
おそらく医療事情が大きく異なるのでしょう。
それとも米国では、小児科医が精神科の研修も受けている?

■ 思春期の抑うつ、対応は小児科?精神科?〜重症度や寛解率を比較
 思春期の子どものうち20%程度が「抑うつ」を経験するとされる。これは自殺行動にもつながる重要な公衆衛生学的な問題だが、思春期はそもそも精神科へのアクセスに消極的という課題がある。そのためプライマリケア環境で「抑うつ」の評価と治療を行い、必要に応じて精神科の助けを受けることが推奨されている。
 成人では、抑うつを主訴に受診する患者の重症度はプライマリケアと精神科で同程度であり、同一のケアを提供した場合、寛解率に差がないことが報告されている(STAR*D研究)。これはプライマリケアが専門的治療の良い代替になりうることを示唆するが、思春期の抑うつに対し小児科が同様の役割を果たせるかは明らかでない。そこで今回、小児科と精神科で思春期のうつ病治療を比較した米国の研究を紹介したい(J Child Adolesc Psychopharmacol 2024; 34: 80-88)。
 ちなみに、医療インフラは日本や米国では民間を中心に形成されているのに対し、英国では英国保健サービス(NHS)を中心に家庭医(GP)の配置を行う政府管理システムを構築している。また、日本と同じくフリーアクセスを採用していたフランスは、2005年にかかりつけ医(Médecin Traitant)制度を導入し、登録を国民に義務付けることでプライマリケアを強化している。
 国の医療システムがどの程度プライマリケア提供を支援しているかを示す指標(プライマリケアスコア)は、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均を下回っており、特に「プライマリケアを提供する医療者の地理的配分がどの程度計画、調整されているか」および「longitudinality(患者登録/患者パネル)が存在するか」の項目で低いことが示されている(Health Serv Res 2003; 38: 831-865)。

▶ 研究のポイント:抑うつの寛解率は同等も、小児科を訪れる患者で軽症傾向
 今回の研究は、うつ病のスクリーニングと測定ベースのケア(measurement-based care;MBC)によるプライマリケアモデルであるVitalSign6プログラム(Pharmaceuticals 2019; 12: 71)の評価プロジェクトの一環として実施された。治療期間、小児科と精神科のいかんにかかわらず、さまざまな主訴で大都市の子ども病院を受診した3,498例に対しPatient Health Questionaire(PHQ)-2(0〜6点)を用いてスクリーニングを行い、2点以上だった患者1,323例(平均年齢14.3±1.9歳)を抽出。PHQ-9(0~27点)を実施し、10点(中等度のうつ)以上の患者のプロファイル、治療内容、経過について小児科(121例)と精神科(495例)を比較した。
 検討の結果、精神科を訪れた患者は小児科を訪れた患者と比べ、抑うつの重症度(15.9±5.0点 vs. 12.1±5.5点)、大うつ病性障害と診断される割合(60.6% vs. 24.7%)、薬物療法が提供される割合(54.8% vs. 6.6%)が多く、精神科医と比べて小児科医は、薬物を使用せずに治療する割合(4.3% vs. 36.3%)、他院に紹介する割合(5.7% vs. 27.7%)が高かった。そして興味深いことに、寛解率では精神科と小児科で有意差を認めなかった(χ2=0.99、P=0.32)。

私の考察①:プライマリケア環境としての小児科は、精神科の良い代替になりうる
 本研究が実施された米国と日本では、患者側の医療へのアクセスの容易さや、経済的な負担が異なり、医療者側としても費やせる時間(と、おそらく提供される医療の質)が異なるため、結果をそのまま当てはめることはできない。とはいえ、重度ではない思春期の抑うつに対し、プライマリケア環境としての小児科が、精神科の良い代替になりうる可能性が示されたことは意義深く、日本における思春期医療の政策的な課題を考える上でも示唆に富む。
 日本における10〜19歳の自殺者数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴って増加した。成人の自殺者数が大きく増加した日本列島総不況(1998年)、リーマン・ショック(2009年)では、19歳以下の小児・思春期への影響は乏しかったが、COVID-19では成人とともに増えたのである。
 特に女性でその傾向が顕著であり、経済的理由以外では社会的つながりの希薄化などが大きく影響したと推察される。ちなみに10歳代の日本における死因第1位は自殺であり、主要7カ国で唯一である。また、10歳代の自殺死亡率はフランス、英国、ドイツ、イタリアの3〜4倍程度である(厚生労働省「令和5年版自殺対策白書」)。

私の考察②:精神科へのアクセスはハードル高く、支援は不十分
 本研究の土台となるVitalSign6プログラムでは「抑うつ」というある程度定量化が可能な指標を用いてスクリーニングおよび介入がなされているが、小児・思春期はライフステージ(学校の各段階)や、立場(社会との接点)ごとで状況が大きく異なり、認識できるつらさの対象(友人関係・家庭環境・いじめ・学業など)もさまざまであることから、一元的な対策で全体効果を得ることは難しい。
 そのため、子どもが接する社会単位ごとの取り組み(学校での自殺予防教育の導入、スクールカウンセラーの配備など)がなされ、周辺者らが利用可能な危機察知ツールの開発なども用いて、受け止め・つなげる支援体制の構築が広がりを見せている。しかし、つながり先としての精神科へのアクセスは、心理的にもリソース的にもハードルが高く、「生きにくさ」や「しんどさ」を抱えた小児・思春期への支援は十分ではない現状がある。
 一方、小児科臨床医は既に1万8,000人ほどおり、ワクチンや健診を通じて親子に接する機会も確約されている。小児・思春期はこころの葛藤が身体化しやすく、初期には高率で小児科を訪れている。抑うつが重度ではなく、まだ死が強く意識されていないこの前段階で小児科が適切な介入を行い、限られた高リスク患者のみを精神科につなぐ構造的合理性について、本研究の結果は支持するものといえる。

私の考察③:日本における小児科の課題を解消し、良い受け皿として機能させたい
 とはいえ、感染症診療を中心とした薄利多売を求められる日本の小児医療構造下で、この負担を一方的に押しつけることは現実的ではない。おそらく「生きにくさ」や「しんどさ」を抱えた子どもを放っておいてよいと考える小児科医はいない(筆者は小児科医をとても信じているのだ)が、それができない実情があると考えるべきであろう。
 診療にかけられる時間、経営上の理由、技能・知識の不足、認識の問題、医療者自身の安全性など、解決しなければならない課題があるのだと推察している。筆者は現在、厚生労働大臣指定法人・一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」の支援を受け、課題と介入効果を明らかにするための大規模アンケートの実施に向けて取り組んでおり、政策提言や実装のためのシステム構築に発展させる予定である。
「こころ」とは、広い、冷たい、折れる、盗まれる、騒ぐ、砕くなど、さまざまな表現がしっくりと当てはまるように、正解がないものであるように感じる。今回の研究では、重度ではない思春期の抑うつに限れば、薬物療法の割合が少ない小児科が、精神科と比べ寛解率に差を認めないという結果だった。治す対象としての「精神」ではなく、理解する対象としての「こころ」について、小児科医が果たせる役割があることを示した研究といえるだろう。

子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」への対応

2024年07月26日 08時45分42秒 | 子どもの心の問題
近年話題になっていることですが、
小児科医の私には基礎知識しかありません。

主に児童精神科医が担当する分野と思われますが、
その児童精神科医の数が少ないため、
悩んでいても満足のいく医療を受けることができないのが現状です。

心理士の解説を参考に、ポイントをまとめてみました。
一読してみての感想は、
・依存症に陥る子どもは、ほかに悩み事を抱えていることが多い。
・家族だけで抱えず、専門家のサポートを受けることが解決への近道。
に集約されると思いました。

<ポイント>
・「スマホ依存」という単語を耳にする機会が多いが、実は医学用語ではなく定義も定められていない。
・依存症とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になること。スマホ依存とは、スマホから得られるワクワクや快感に没頭するあまり、自分で自分をコントロールできなくなる状態。
・子ども本人が「スマホ依存症である」と自覚しているケースは少なく、本人の意志だけで回復するのは困難。
・治療の中で重視されているのは「子どもへの寄り添い」。なぜ、こんなにスマホにのめり込みたくなったのか、背景にある悩みや問題にスポットをあてる。「学校に居場所がない」「勉強がわからない」「友達とうまく付き合えない」など、孤独でプレッシャーに押しつぶされそうな子どもにとって、スマホでつながる世界は大人が思っている以上に重要。
・病院を嫌がるときは無理強いをしない、本当のこと(受診する)を伝えずに連れていってはいけない。
・子どもが病院に行きにくいようなら、まずは家族だけで診察を受けるのもよい。
・うまく病院受診につなげられない場合は、子どもを受診させる考えをいったん捨てて、家族だけで相談できる場所を探す。信頼できる医師や心理師などの支援者に出会うことが大切。
・次のような機関でもスマホ依存の相談可能:
 ✓ 各都道府県の精神保健福祉センター
 ✓ 市役所や保健所の子育て相談窓口
 ✓ 自治体の教育支援センター
 ✓ 小中学校のスクールカウンセラー
・まずは子どもの気持ちにしっかりと寄り添うことで、スマホ依存の背景にある子どもを本当に苦しめているものを一緒に見つけてあげる。そして、子どもに寄り添い、支えるためにも家族自身の心も大切にする。「苦しい」「助けてほしい」、そんな気持ちを抱いたときには無理や我慢をせず、専門家や相談機関を頼る。
・病院受診はゴールではない。やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされる親は少なくない。スマホ依存は治るのに時間がかかる。「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たちの思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関。
・苦しいときほど、人とつながってください。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれる。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 公認心理師が「やりすぎ」と「依存」の境目を解説
#1 スマホへの依存度を判断するためには?
公認心理師:中井 ようこ
2024.01.16:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ゲームやSNSを簡単に楽しめるスマホ(スマートフォン)は、子どもが夢中になりやすいコミュニケーションツールの一つです。しかし、使い方によっては依存傾向が高まり、子どもの心身に大きな影響を与えることも。・・・1回目では、子どものスマホ使用に悩む保護者に向けて、子どもがスマホ依存症なのかを見極めるポイントを教えていただきます。

<目次>
・スマホ依存の症状とは?
・日常生活に良くない影響が出ていれば「依存」
・将来起こりうる問題
・専門家の手助けがスマホ依存から救う

▶ スマホ依存の症状とは?
 近年、「スマホ依存」について耳にする機会が多くなりましたが、実は医学用語ではなく定義も定められていません。スマホ依存とよばれる症状を考える前に、まずは「依存症」という大きな概念を知っておきましょう。
 依存症とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になることです。特定の行為を繰り返す、より強い刺激を求める、いつも頭から離れないなどの特徴があります。この定義をスマホ依存に置き換えると理解しやすいでしょう。つまり、スマホ依存とは、スマホから得られるワクワクや快感に没頭するあまり、自分で自分をコントロールできなくなる状態といえます。
 では、スマホ依存の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
 ソウル聖母病院のキム・ダイジン教授のグループによって作成され、多くの言語に翻訳されている「スマートフォン依存スケール」では、スマホ依存の症状が10項目が挙げられています。
 それぞれの項目について「全く違う」「違う」「どちらかというと、違う」「どちらかというと、その通り」「その通り」「全くその通り」の6段階で評価し、回答の合計点が31点以上の場合を「スマホ依存症の疑い」としています。

▶ 日常生活に良くない影響が出ていれば「依存」
 スクリーニングテストをすると「うちの子にほとんど当てはまる……」とドキっとした方もいるかもしれません。
 スマホの使い方で気になる様子があったら、まずは子どもと話しあってみましょう。本人に改善する様子が少しでもみられる場合は、しばらく見守っても良いでしょう。
 たとえば、テスト前はスマホを見ないように我慢していたり、時間制限を守ったりするなど、子どもが努力してスマホと距離を置こうとしていたら、見逃さずに認めてあげてください。
 しかし、本人がスマホを手放せずに日常生活に影響が出ているようであれば、依存症である可能性が高まります。
・・・
▶ 専門家の手助けがスマホ依存から救う
 子どもをスマホ依存から救うには、適切なタイミングで病院受診や専門家への相談をすることが大切です。「子どもの様子が今までと違う」と思ったら、それが家族にとって適切なタイミングといえます。
 子ども本人が「スマホ依存症である」と自覚しているケースは少なく、本人の意志だけで回復するのは困難です。そのため、子どもを支える家族がスマホ依存について正しい知識を持ち、受診や相談をする必要があります。
 しかし、スマホ依存を専門的に治療できる病院は全国的にも少ないのが現状です。まずは、近くにある児童精神科か心療内科に問い合わせをするのが良いでしょう。久里浜医療センターが作成したリストを参考にしてください。どうしても相談先がみつからない場合は、かかりつけの小児科や民間のカウンセリング機関に相談する方法もあります。
 いざ受診をしようとなると「病院でどんな治療をするの? 痛いことは嫌だ」と心配する子どもも少なくありません。実際にどんなことをするのか、保護者も子どもも知っておく必要があります。
そこで、一般的な治療の流れをご紹介します。

・外来診療での問診、身体的な検査や心理検査
 ↓
・問診や検査をもとにした依存症の診断・治療方針の決定
 ↓
・精神科医による診察、心理師によるカウンセリング
 ↓
・ 認知行動療法やソーシャル・スキル・トレーニングなどを組み合わせた治療
 ↓
・必要があれば入院治療

 認知行動療法とは、物事に対する考え方のクセに気づき、さまざまな考え方を身につけることでストレスへの対処法を増やす心理療法の一つです。認知行動療法を基盤とし、コミュニケーションの技法を練習するソーシャル・スキル・トレーニングなどを行います。
 著しい日常生活の乱れ、体調不良や家族への暴力などがあるケースでは、入院治療も一つの方法です。スマホやメディアから離れ、運動やレクリエーションなどを通じ、周囲とのコミュニケーションや日々の生活に自信をつけていきます。
 このような治療の中で重視されているのは「子どもへの寄り添い」です。なぜ、こんなにスマホにのめり込みたくなったのか、背景にある悩みや問題にスポットをあてます。「学校に居場所がない」「勉強がわからない」「友達とうまく付き合えない」など、孤独でプレッシャーに押しつぶされそうな子どもにとって、スマホでつながる世界は大人が思っている以上に重要なのです。
 親にはなかなか打ち明けられないことも、専門家に話せるケースもあります。子どもの悩みが明らかになってきたら、子どもの気持ちを理解するようにしてみてください。家庭でも子どもに寄り添いながら回復をサポートしていきましょう。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 病院受診の無理強いがNGな理由を公認心理師が解説
#2 病院への受診を子どもが嫌がったら?
公認心理師・中井ようこ
2024.01.17:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

<目次>
・病院を嫌がるときは無理強いをしないこと
・スマホ以外の子どもの悩みを聞く
・病院以外の相談機関や家族向けの支援を利用しよう

▶ 病院を嫌がるときは無理強いをしないこと
 「スマホ依存」の子どもを、いざ病院に連れていこうとすると、受診を嫌がって抵抗されることは珍しくありません。「スマホを取り上げられるかもしれない」「痛いことをされるかもしれない」など、何をされるか分からない不安があるからです。
 そんなときに、つい家族がしてしまいがちなのが、「本当のことを伝えずに連れていくこと」。
 以前、私のところに寄せられた相談では、「すぐに終わるよ」「行ったら○○を買ってあげる」などと、病院に行く目的をしっかりと話さないまま、子どもを連れて行ってしまったケースがありました。そのお子さんは、おとなしく受診しましたが「長い間待たされた」「知らない人に聞かれるのが嫌だった」など、ネガティブな体験だけが心に残り、その後受診をしなくなり、さらには部屋に引きこもるようになってしまったのです。

▶ スマホ以外の子どもの悩みを聞く
 受診につなげるための子どもへの接し方としては、スマホ以外で子どもが望んでいることは何かを探してみてください。「スマホ以外で?」と思うかもしれませんが、少し視点を変えて声をかけるのがポイントです。
 たとえば、勉強や友達、進路など、子どもが悩みを抱えやすい話題について話し合ってみましょう。
「勉強のことがすごく不安」「教室で気軽に話せる相手がいない」など、子どもが心の奥底で抱えている本当の悩みにフォーカスしてみるのです。
 子どものニーズがだんだんと分かってきたら、悩みに沿った声かけで受診を促します。次のような例を参考に、子どもとコミュニケーションをとってみてはいかがでしょうか。

「病院の相談室やデイケアでは、勉強や進路について話せるみたいだよ」
「同じ趣味の人で集まって話せる場所があるみたいだよ」

 このように、病院は決して子どもを苦しめる場所ではなく、悩みや不安を一緒に解決してくれる所だと伝えることが大切です。
 子どもが病院に行きにくいようなら、まずは家族だけで診察を受けるのもよいでしょう。家族も病院への信頼感を持てて「とても優しい先生だったよ」などと教えてあげられますね。

▶ 病院以外の相談機関や家族向けの支援を利用しよう
 子どもと向きあいながら話し合ってみても、うまく病院受診につなげられない場合もあるかと思います。
 そのようなときは、子どもを受診させる考えをいったん捨てましょう。家族だけで相談できる場所を探し、信頼できる医師や心理師などの支援者に出会うことが大切です。
 子どものスマホ依存を診察する病院の多くは、家族だけでも受診できるシステムが整っています。子どもの様子や家族の悩みについて相談できる場所の一つです。
 子どもの依存症に悩む方のために「家族教室」を開催している病院もあります。スマホ依存に関する知識だけでなく、他の家族の体験談やアドバイスを聞くことができる貴重な場です。
 さらに、次のような機関でもスマホ依存の相談ができます。

・各都道府県の精神保健福祉センター
・市役所や保健所の子育て相談窓口
・自治体の教育支援センター
・小中学校のスクールカウンセラー

 精神保健福祉センターでは、スマホ・ゲーム依存の自助グループや家族会を紹介してくれることも。同じような境遇に悩んでいるメンバーとの出会いは、先の見えない不安を抱える家族にとって大きな心の支えになるはずです。
・・・
 まずは子どもの気持ちにしっかりと寄り添うことで、スマホ依存の背景にある子どもを本当に苦しめているものを一緒に見つけてあげる。そして、子どもに寄り添い、支えるためにも家族自身の心も大切にしなければなりません。「苦しい」「助けてほしい」。そんな気持ちを抱いたときには無理や我慢をせず、専門家や相談機関を頼ってくださいね。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 小5息子の依存で自信を失ったママパパの「回復策」
#3 長く続く治療を親子で乗り越えるために

 スマホ依存は治癒までには数年かかることも。大きな試練を親子で乗り越えるためにはどうすればよいのでしょうか?・・・

<目次>
・はじまりはオンラインゲームから
・スマホ依存の症状があらわれ不登校に
・「病院受診はゴールではない」
・「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント

▶ はじまりはオンラインゲームから
・・・
 寒くて手先が凍える12月の夕方5時ごろ、公園の片隅に子どもたちが集まっていました。それぞれゲーム機を握りしめ、対戦ゲームに熱中しています。
 その中に小学校4年生のA君がいました。前年のクリスマスに買ってもらったゲーム機がマイブーム。放課後は友達とのゲームが習慣となっていました。
 5年生になると、まわりの友達がスマホを持ちはじめました。クラスにLINEグループができ、その中で盛り上がった会話をクラス内で話す子も。オンラインゲームもできると聞き、A君はスマホが欲しくなり両親に頼みました。
 すぐにスマホを買ってもらえたA君は、さっそく友達数人とオンラインゲームをするように。みるみるうちに夢中になっていきました。
 Wi-Fi環境がないとスマホを使うのが不便なため、公園に行くことはもうありません。家にいながら友達とつながることができるスマホ。画期的なアイテムを手に入れて、A君は楽しく放課後を過ごしているように見えました。

▶ スマホ依存の症状があらわれ不登校に
 スマホの使用頻度がどんどん上がっていったA君。次第に今まで見られなかった様子が表れはじめた5年生の2学期。A君の両親は、担任からの紹介でスクールカウンセラーのもとをはじめて訪れました。

スクールカウンセラー・ヨウコ(以下、スクールカウンセラー):担任の先生より、息子さんのことで悩んでいるとお聞きしました。

A君ママ:はい。昼夜逆転していて、朝起きられない状態です。最初は遅刻しながら行っていましたが、夏休みが明けてからはほとんど通えていません。

スクールカウンセラー:それは大変でしたね。原因として何か思い当たることはありますか?

A君ママ:(しばらく言葉に詰まって)……スマホです。5年生になってから買い与えました。朝から晩までスマホを見ています。ゲームをしたり、インスタグラムを見ていたり。

スクールカウンセラー:そうなんですね。スマホから離れる時間はありますか?

A君ママ:いいえ。お風呂場やトイレにも持っていきます。最近では食事の時間に呼んでも来なくなり、外出も嫌がるようになりました。外食に行こうと誘っても「今、友達とゲームしている」と。家族の時間よりもスマホが大事なのかと……。(涙ぐむ)

スクールカウンセラー:それはとてもつらい状況ですね。息子さんとスマホについて話し合いはできそうですか?

A君パパ:話をするのは……、とても難しいです。ついこの前も、息子が食卓の上にスマホを置き、LINEで通話しながらパンを食べていたので「いい加減にしなさい」と𠮟りました。

それから、スマホを取り上げようとすると、息子が激高して私に暴言を吐いてきたんです。スマホを取り返そうと暴力もふるってきて……。

A君ママ:「ご飯をしっかり食べなさい」と言っても、スマホに夢中でちゃんと食べません。夜中もずっと起きているので、朝方に寝落ちしてしまうんです。

「頭が痛い」といつもイライラしていて親や兄弟に暴言を吐きます。兄弟のフォローも必要だし、私たちも精神的につらくて……。親としての自信もありません。(涙が止まらない)

A君パパ:実は、息子がスマホアプリで高額な課金をしていたことが分かりました。妻のクレジットカード番号を入力したようです。正直、とても情けなくなってしまい、息子のことも信じられなくなってきました。

こんなことは担任の先生にも話せないし、どうしたらよいのか分からなくて……。何か方法はあるのでしょうか?

スクールカウンセラー:つらい状況をよく話してくださいましたね。今のお話だと、息子さんは「スマホ依存」の可能性があるかもしれません。スマホ依存は早めに治療が必要ですので、息子さんに合った方法を一緒に考えていきましょう。

▶ 「病院受診はゴールではない」
 最初の相談から数ヵ月後、6年生になったA君の両親は再びカウンセリングに訪れました。
 A君は学校でのカウンセリングを嫌がったため、自治体の教育相談に行くようになり、病院受診をすすめられました。

スクールカウンセラー:その後のA君の様子はいかがですか?

A君ママ:特に大きくは変わっていないのですが、先月初めての病院受診をしました。予約をしてから半年待ちで、その間に心が折れそうでしたが、なんとか受診できてホッとしています。

A君パパ:医師からスマホ依存は治るのに時間がかかると聞きました。病院に行けば治る、状況が変わると思い込んでいたので……。私も妻もかなりショックを受けています。

A君ママ:息子は相変わらず学校には行けないし、自宅に引きこもりの状態です。友達とはスマホでつながっているようで安心していますが……。

息子をこんな状態にしたのもスマホだけど、外とのつながりをつくっているのもスマホなんですよね。頭の中がすごく混乱していて「これからこの子はどうなってしまうんだろう」という不安でいっぱいです。(涙が頰をつたう)

スクールカウンセラー:話してくださってありがとうございます。つらい気持ちはどこかで吐き出さないと、体や心に悪い影響をおよぼしてしまいます。よかったらご両親だけでもこちらに通ってください。何かお力になれるかもしれません。

▶ 「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント
 A君の両親はその後、1ヵ月に1回のペースでカウンセリングに訪れました。病院の医師にも相談を続けており、A君との関わり方やスマホ依存の知識を学ぶ中で、考え方に変化があったようでした。

A君パパ:息子に聞いてみたんです。「何か悩みがあるのか?」と。そのときは何も返ってきませんでしたが、別の日に、「お父さんも気持ちが沈んでいたとき、現実逃避がしたくてパチンコばかり行っていたな」と話しかけてみたんです。
 すると、息子の表情が少し変わって、久しぶりに他愛もない会話ができました。息子の悩みは今も分かりませんが、きっと何かあるんだろうなと感じています。

スクールカウンセラー:息子さんとのコミュニケーションができてきましたね。パパは何か心境の変化があったのですか?

A君パパ:はい。病院から紹介された「家族会」でヒントをもらいました。スマホ依存や、ゲーム依存の子どもを持つ親の会ですが、同じ境遇の方と話すうちに子どもと、もっとかかわることが大切だと気づいたんです。そこで、息子とつながるにはどうすればよいか、考えるようになりました。

スクールカウンセラー:それはよかったです。ママのほうはどうですか?

A君ママ:息子は病院やデイケアを嫌がりはしませんが、積極的に行こうとはしなくて。医師や心理師からは「焦らずに。見守りながら、できたことを認めましょう」と言われています。
 以前だったら「うまくいかないことばかり。もう逃げ出したい!」という気持ちでいっぱいだったと思います。でも今は、この相談室でも自分の気持ちを話せますし、病院や家族会の人たちも助けてくださる。
 まわりから見たら何も変わっていないのかもしれませんが、もし話せる場所がなかったら、皆さんとつながっていなかったら……、きっと前には進めなかったと思います。

スクールカウンセラー:少しずつ親子関係にも変化があらわれていますね。

A君パパ:そうなんです。今度、息子と一緒に町内のお祭りを手伝うんですよ。息子の友達も参加するから、「それなら行こうかな」と言ってくれて。当日になったらどうなるか分かりませんが。
 でも、こんなふうに息子のことを誰かに話せるようになったのは、すごく大きな進歩です。

スクールカウンセラー:そうですね。本当に頑張っていらっしゃると思います。息子さんが元気になると信じて、少しずつでも前に進んでいきましょう。

 A君のご両親は、現在でもA君に合ったスマホ依存の治療方法を模索し続けています。病院受診をきっかけに、いろいろな人のアドバイスを受けたことで、確実に親子の距離は近くなっていると感じました。
 いつかきっと、A君は両親に本当の悩みを打ち明けてくれるでしょう。A君との心の距離に悩むご両親を、さまざまな人とのつながりと支援で変化が訪れたと気づかされたケースでした。
「病院に行けばスマホ依存が治ると思っていたのに」やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされるママパパは少なくありません
「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たち。そんな思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関です。
 公認心理師として言えるのは、苦しいときほど、人とつながってください、ということ。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれるでしょう。


日本の性教育で“性行為”を扱えない理由

2024年07月22日 13時13分20秒 | 性教育
私は小児科専門医&性教育認定講師です。
性教育関連の情報をアンテナを張って収集しています。

ある新聞記者のコメントに衝撃を受けました。
「日本の性教育で“歯止め規定”があるのは、
 政治に深く入り込んで宗教団体旧・〇〇教会の影響です」
・・・この団体は故・安倍首相の銃撃事件で話題になったアレです。

検索してみると、以下の記事を見つけました。

<ポイント>
・学習指導要領に「妊娠の経過は取り扱わない」という「はどめ規定」がある。
・性交やセックスという言葉すら使えず、セックスに対する正しい知識を教えられなければ、避妊方法や性暴力、性被害について伝えることもできない。
・2005年には、安倍晋三元自民党幹事長代理(当時)を座長、山谷えり子議員を事務局長とする「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が結成され、全国の教育委員会に対して性教育の実態調査が行われる。その結果、「性交や避妊指導は不必要」として学習指導要領や教科書から消えた。
・自民党の一部の議員の裏には、伝統的家族観を重視する日本会議や神社本庁など宗教右派と言われる存在がある。彼らは性教育に限らず、男女共同参画や選択的夫婦別姓制度、同性婚などは、「日本の伝統的家族観を崩壊させるもの」として、ことごとくジェンダー平等、女性の権利に関わる政策に執拗に反対し続けてきた。
・このジェンダーバッシング、ジェンダーバックラッシュとも言われる動きの中で、旧統一教会がここまで草の根的に執拗に動いていた。
・男女による合同結婚式を重要な儀式と位置付ける旧統一教会は、同性婚に強く反対している。「偏見や差別の裏返しとして、同性愛を安易に美化してはならない。同性愛行為を行うことのリスクを客観的に評価する必要がある」と訴え、「パートナーシップ制度の拡大は、最終的には『夫婦』や『家族』についての日本人の考え方に混乱をもたらし、やがて夫婦を核とした伝統的な家族を破壊する」「パートナーシップ制度は行政による個人の信条・信仰への侵害だ」と主張している。
・『日本会議の正体』の著者である青木理さんは、ジェンダー政策の遅れの背景に宗教右派の存在があることを指摘し続けた。日本のメディアにおいて宗教右派の存在はある種のタブーだった。政治報道を担当する政治部が、支援団体である宗教まで踏み込んでこなかった。

内容を一部抜粋します;

■ 「なぜ女性が妊娠するか」を学校で教えない…日本の性教育を世界最悪にした原因は旧統一教会にあるメディアが宗教右派の存在を報じてこなかった理由
PRESIDENT Online:浜田 敬子 ジャーナリスト)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、旧統一教会と自民党の関係に注目が集まっている。その関係は長年にわたるものだが、なぜこれまで正面から責任を問われてこなかったのか。・・・

▶ 「世界最悪の性教育」をめぐる闘い
 20年以上にわたり、世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)と闘ってきた一人の女性医師がいる。広島市で産婦人科医として、10代20代の女性たちの性被害や望まない妊娠の問題に向き合ってきた河野美代子さんだ。河野さんと旧統一教会の闘いの主戦場は、学校における「性教育」だった。
 河野さんは日本の性教育は「世界でも最悪の状態」だという。中学高校で正しい避妊方法や妊娠の知識、自分自身を大切にするという考えの下でのセックスについて教わっていない。男女の体の成長段階や人の受精卵が胎内で成長する過程は学ぶが、受精の前提となる性交については教えていないのだ。学習指導要領に「妊娠の経過は取り扱わない」という「はどめ規定」があるためだ。
 なぜこうした規定が残り、“中途半端な”性教育が続いてきたかは後述するが、河野さんは「性交やセックスという言葉すら使えず、セックスに対する正しい知識を教えられなければ、避妊方法や性暴力、性被害について伝えることもできない」と話す。

▶ 信者からの攻撃、通報、そして裁判へ
 学校現場で「教えることのできない」性の知識を知ってもらおうと、河野さんは広島県内だけでなく、全国各地で講演会を開いてきた。そして「講演会を開くたびに、旧統一教会から執拗しつような妨害を受けてきた」と証言する。
 講演会に紛れ込んだ信者により、その内容が「小学生にピルを飲めと言った」「中学生にセックスをそそのかしている」と歪曲され、攻撃された。県教委などにも通報され、「あなたたちのグループは何をやっているのか」と責められた。教育委員会に講演会の後援を断られれば、現場の教師たちは講演会への参加を躊躇う。
 広島市PTA協議会の会長には、月刊誌に「中学生にセックスをそそのかして家庭を崩壊させ革命を狙っている」とまで書かれた。河野さんは事実無根として、2005年1月に会長を名誉毀損で提訴した。
 この裁判の過程でこの会長は、旧統一教会の関連団体である世界平和女性連合の人たちとともに「10代の性を考える母と医師と教師の会」なるものを作り、喫茶店で会合を開いていたことが判明した(会合には5、6人しか集まらなかった)。

▶ 「日本の伝統的家族観」を守る政治家たち
 2000年代は広島県だけでなく全国で組織的な性教育排除、バッシングが広がっていた。国会では、今旧統一教会との深い関係を指摘されている山谷えり子参院議員が、「過激な性教育が学校に広がっている」と質問した。
 今その質問を見返すと、極めて抑制的に正しい性の知識を伝えている副読本や、知的障害のある子どもたちに体の仕組みを教えるために教師たちが苦心して作った家族人形を「セックス人形」だとしてやり玉に挙げた。
 2005年には、安倍晋三元自民党幹事長代理(当時)を座長、山谷議員を事務局長とする「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が結成され、全国の教育委員会に対して性教育の実態調査が行われる。その結果、山谷氏が問題視したような“過激な”性教育はなかったにもかかわらず、「性交や避妊指導は不必要」として学習指導要領や教科書から消えた。
 こうした活動を展開してきた自民党の一部の議員の裏には、伝統的家族観を重視する日本会議や神社本庁など宗教右派と言われる存在があることは、ジェンダー関連の取材が長い記者たちは気づいていた。私もその一人だ。
 彼らは性教育に限らず、男女共同参画や選択的夫婦別姓制度、同性婚などは、「日本の伝統的家族観を崩壊させるもの」として、ことごとくジェンダー平等、女性の権利に関わる政策に執拗に反対し続けてきた
だが正直、このジェンダーバッシング、ジェンダーバックラッシュとも言われる動きの中で、旧統一教会がここまで草の根的に執拗に動いていたことは、私は恥ずかしながら安倍元首相襲撃事件後、取材をするまで気づいていなかった。先の河野さんはこう話す。
「私は旧統一教会の問題についてはずっと言い続けてきました。ですが、当時はメディアもほとんど聞く耳を持ってくれなかった。PTA連合会会長を提訴した時には記者会見も開きましたが、関心を持ってくれた記者は少なく、小さい記事になっただけでした」

▶ 富山県議らに送り付けられた1冊の冊子
 安倍元首相が凶弾に倒れるという事件が起きて改めて、旧統一教会のさまざまな問題が噴出している。2010年代に入っても強引な勧誘や、財産の収奪のような手法が続いていること、信者の親に育てられた宗教2世がいまだに苦しんでいること……。
 こうした実際の被害者の救済も急がなければならないが、もう一つ解明し忘れてはならないのが、彼らが政治家を通じて、自分達の「価値観」をどこまで政策に反映させてきたかということだ。
 自民党の富山県議で産婦人科医でもある種部恭子さんは、県議会の質問などで県に対して、同性・異性にかかわらずカップルであることを公的に証明する「パートナーシップ制度」の創設を求めてきた。
 県は2021年の議会答弁で「導入の検討」を明言したが、その後2022年5月になって自民党県議らに送り付けられてきたのは、「世界日報LGBTQ問題取材チーム」による『「LGBT」隠された真実 人権」を装う性革命』という冊子だった。世界日報とは統一教会系の新聞である。
 この冊子では、「偏見や差別の裏返しとして、同性愛を安易に美化してはならない。同性愛行為を行うことのリスクを客観的に評価する必要がある」と訴え、「パートナーシップ制度の拡大は、最終的には『夫婦』や『家族』についての日本人の考え方に混乱をもたらし、やがて夫婦を核とした伝統的な家族を破壊する」「パートナーシップ制度は行政による個人の信条・信仰への侵害だ」と主張している。

▶ 旧統一教会の政治的活動は報道されなかった
 この7月には富山を拠点にするチューリップテレビが、2019年と2021年1月に、統一教会の関連団体、国際勝共連合の幹部が富山市議会の自民党議員らに勉強会の講師として招かれていたことを報じた。この時の内容も、同性愛に反対する内容だったという。男女による合同結婚式を重要な儀式と位置付ける旧統一教会は、同性婚に強く反対している。
 性教育だけでなく、パートナーシップ制度の導入についても、旧統一教会は保守系議員への働きかけを続けてきたが、この活動がメディアに出ることは最近までほぼなかった。
 背景にはメディアがこの20年、旧統一教会の動きに注目していなかったこともあるが、「メディア自体が男性中心組織で、特にどの記事を掲載するかを決めるデスク以上に女性が少ないことが関係しているのではないか」と種部さんは指摘する。
 性教育や同性婚、夫婦別姓の問題、ジェンダー平等に関する問題に関心を持つのは比較的女性の記者やディレクターが多い。これまで長くデスク以上の責任者を男性が占めるという構造だったメディアでは、ジェンダー関連のニュースの優先度が下がるという状態が続いてきた。

▶ 約40年間で主要3紙の関連記事はわずか
・・・元朝日新聞記者でジャーナリストの竹信三恵子さんは、1995年の北京女性会議前からジェンダー政策について取材し続けてきた数少ない記者だ。2000年に入ると男女共同参画審議会の専門委員にも就任。竹信さんの30年間は、記者として、宗教右派や保守系議員によるバッシングの影との闘いでもあったという。

・・・

▶ 「ジェンダー問題」から距離を置く男性たちの事情
 「一つは、ジェンダーは自分達にはよく理解できない問題だから介入できないし、したくないという姿勢。もう一つはこの問題を追及すると、自分たちの足元の家族の関係性が揺らぐという懸念があったのだと思います。
 長時間労働や転勤が当たり前だった新聞社の働き方は、夫が稼ぎ、妻が家事育児をするという性別役割分業が前提で成り立っていたので、男女平等という概念を突き詰めると、自分たちの存在が否定されるような気持ちになったのではないでしょうか」
 実際、私自身、週刊誌『AERA』時代、働く女性の記事を書くときでさえ、長年「ジェンダーという言葉は避けて」と釘を刺されてきた。当時私も、男性たちがこの言葉に微妙な忌避感を抱いていることは感じ取っていた。それは声を上げる女性を敬遠する空気と一体だった。

▶ 宗教右派という日本メディアのタブー
 日本のメディアは、例えばアメリカの中絶論争や同性婚は重要な政治的イシューだとして、大きく取り上げてきた。2022年6月には、中絶権は憲法で保証されているという重要判例を覆した米最高裁判決が新聞一面で取り上げられ、背景にキリスト教福音派と言われる宗教的価値観があることも詳しく解説された。
 一方で、日本のジェンダーバッシングの動きや、伝統的家族観を頑なに守ろうとする宗教右派や保守系議員の動きは、一部の記者やジャーナリストが報じてきてはいたが、それが決して大きくメディアで取り上げられることはなかった。
日本会議の正体』の著者である青木理さんは、ジェンダー政策の遅れの背景に宗教右派の存在があることを指摘し続けたジャーナリストの一人だが、日本のメディアにおいて宗教右派の存在はある種のタブーだったと話す。
「キャラバン隊と称して、地方から改憲運動や、伝統的家族観に基づいた政策の実現という草の根活動を展開し、第2次安倍政権に強い影響力を及ぼしてきた日本会議ですら、海外のメディアが書くまで、日本のメディアはほとんど書いてこなかった」

▶ メディアが伝えてこなかった大きなツケ
 確かに2014年から2015年にかけて欧米メディアはこぞって日本会議のことを報じている。青木さんが2016年に出版した『日本会議の正体』によると、
「国粋主義的かつ歴史修正的な目標を掲げ、戦前の古き良き時代のように天皇を敬う」(英ガーディアン紙)、「日本会議〜日本版ティーパーティー〜のような反動的グループが安倍内閣を牛耳り、歴史観を共有している」(米CNNテレビ)など、極めて復古的、国粋主義的な団体の性格だけでなく、「奇妙なことに、この団体は日本のメディアの注目をほとんど集めていない」(ガーディアン紙)とも報じている。
 海外メディアが相次いで報道し、青木さんの著書などが出版されてやっと、朝日、毎日なども「日本会議の研究」などと本格的な報道を始めている。
 それでも、今回の安倍首相襲撃事件が起こるまで、多くの人たちに日本会議や旧統一教会など宗教右派の活動が知られることはなかった。今になって、「メディアはなぜもっと早く知らせてくれなかったのか」という声をよく聞く。
 そこにはこれまで書いてきたようなメディア内部の構造上の問題やジェンダー関連報道の優先度の低さ、また「政治報道を担当する政治部が、支援団体である宗教まで踏み込んでこなかった」(青木さん)など、さまざまな要因が絡んでいたのだと思う。
 青木さんは『日本会議の正体』のプロローグでこう書いている。
「足下で起きている出来事であっても、メディアが伝えようとしなければ、私たちは出来事を認識することすらできない。その出来事が驚愕すべきようなことであったり、きわめて異常なことであったり、あるいは早急な対処が必要なほど深刻な事態であっても、メディアがきちんと伝えてくれなければ、私たちは(中略)出来事自体の発生を認知できず、漫然と事態をやりすごすしかなくなってしまう」
 さまざまな場面で当事者たちは小さな声を上げてきたが、メディアはそれを汲み取り、継続的には伝えてこなかった。そのため「やり過ごされてきた」問題が、今私たちの目の前に吹き出しているのである。

子どものネット依存は脳活動においてギャンブル依存に類似

2024年07月21日 15時21分47秒 | 子どもの心の問題
子どもがスマホ依存、ネット依存になることが社会問題化している今日、
「ネットの使いすぎがギャンブル依存に近い症状になり得る」
という衝撃的な研究結果が報告されました。

<ポイント>
・インターネット中毒になっている若者の脳は、能動的思考に関係する部分に変化を起こしている。
・こうした脳の変化はさらなる依存行動そして知的能力や身体の整合性、メンタルヘルス、発達に関連する変化につながる。
・インターネット中毒は、青年期の生活に悪影響を及ぼしかねないネガティブな行動や発達の変化につながる可能性がある。
・例えば、人間関係や社会活動を維持するのに困難を抱えたり、ネット上での活動について嘘をついたりする。また、食事が不規則になったり睡眠障害に陥ったりする可能性がある。
・英議会の委員会は2024年5月に「16歳未満のスマホ利用を禁止することが、スマホがもたらし得る害を抑える最善の策かもしれない」と警告する報告書を出した。

■ ネットの使いすぎが「10代の脳」に大きく影響、ギャンブル依存に近い症状に 研究結果
Nick Morrison | Contributor
2024.6.9:Forbes Japan)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 過剰なインターネットの使用が10代の若者の脳を変化させているとの研究結果が6月4日に発表された。インターネット中毒になっている若者の脳は、能動的思考に関係する部分に変化を起こしていることがスキャンで示されているという。
 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究者らによると、こうした脳の変化はさらなる依存行動そして知的能力や身体の整合性、メンタルヘルス、発達に関連する変化につながることがわかった。
 UCLグレート・オーモンド・ストリート小児保健研究所の修士課程の学生で、この研究の筆頭著者であるマックス・チャンは「思春期は身体や認知機能、性格が大きく変化する重要な発達段階だ」と指摘する。「そのため、この時期の脳は強迫観念によるインターネット使用や、マウスあるいはキーボードを使用したい、メディアを視聴したいという欲求を促すインターネット中毒に対して特に脆弱だ」と説明する。
 研究者らは、インターネット中毒と診断された10〜19歳の237人の脳を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)でスキャンして調べた12の研究を分析した。インターネット中毒とは、インターネットを使いたいという衝動を抑えることができず、それが心身の状態や社会生活、勉強、仕事に悪影響を及ぼしている状態と定義される。
 fMRIによる脳スキャンでは、安静時に活性化する脳の部位の活動の増加と減少の両方が見られ、能動的思考に関係する部位である実行制御ネットワークでは、脳の領域間の相互作用を示す機能的結合が全体的に減少していることが示された。
・・・機能的結合の減少によって影響を受けるものには強調運動、短期記憶、衝動抑制、注意力の持続、意思決定、意欲、報酬に対する反応、情報処理などがある。思春期の脳の変化は、インターネット中毒の影響を特に受けやすくすると研究者らはいう。
「研究で、インターネット中毒は、青年期の生活に悪影響を及ぼしかねないネガティブな行動や発達の変化につながる可能性がある」とチャンは指摘する。
例えば、人間関係や社会活動を維持するのに困難を抱えたり、ネット上での活動について嘘をついたりする。また、食事が不規則になったり睡眠障害に陥ったりする可能性がある
・・・英議会の委員会は5月に、16歳未満のスマホ利用を禁止することが、スマホがもたらし得る害を抑える最善の策かもしれないと警告する報告書を出したばかりだ。
 ある調査によると、イングランドとウェールズでは10〜15歳の4分の3以上が週末に3時間以上、5人に1人(22%)が7時間以上、約半数が学校のある日に3時間以上インターネットを使用しているという。米シンクタンクのピュー研究所の2022年の報告書では、米国では10代の若者のほぼ半数がインターネットを「ほぼ常時」使用しているとされた。
 チャンとともに研究をまとめたアイリーン・リーは「インターネットに一定の利点があることは間違いない」としながらも、「だがそれが日常生活に影響を及ぼし始めると問題だ」と指摘している。