“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

小児肥満に薬物療法?

2024年11月07日 16時11分19秒 | 子どもの心の問題
小児の肥満が増えています。
学校健診でも実感するところです。

日本では肥満+血液検査値異常 → 肥満症として、
治療・管理が必要とされています。

私が担当している学校健診では「肥満度50%」で受診勧奨の通知が渡されます。
しかし、実際に受診する生徒の方が少ないのが現状です。
その理由は、
「本人が今困っていないから」
「家族全員が肥満体なので異常とは思えない」
等々、一言でいうと「病識がない」のですね。

一方、病識のある家庭の生徒は、
あの手この手で改善を試みています。
本日来院したお子さんは、
「どうしようもないので、冷蔵庫につける鍵を買いました」
とお母さんがため息交じりにつぶやきました。

さて、日本より肥満が深刻な欧米では、
薬や手術を行っています。

先日、欧米で小児肥満への投与が認可された薬が誕生しました。
もちろん、日本では未認可です。
それを扱った記事を紹介します。

▢ リラグルチドは小児肥満の治療薬として有効である
 解説:住谷 哲(すみたに さとる)  
 社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 主任部長
臨床研究適正評価教育機構:2024/11/06)より一部抜粋(下線は私が引きました);
(オリジナルの記事)肥満小児へのリラグルチド、BMIが改善/NEJM(2024/10/08掲載)

 『小児肥満症診療ガイドライン2017』1)によると、小児肥満の定義は
「肥満度が+20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態(有意な体脂肪率の増加とは、男児:25%以上、女児:11歳未満は30%以上、11歳以上は35%以上)」
であり、肥満症
「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予想される場合で、医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾患単位として取り扱う」とされる。
 ここで肥満度は学校保健安全法に基づき、
肥満度(%)={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100
が広く用いられている。
 さらに小児期からの過剰な内臓脂肪蓄積は早期動脈硬化につながることから、小児期メタボリックシンドローム診断基準もすでに作成されている。小児肥満症患者の多くが成人肥満症に移行することから、現在では小児肥満症は成人の非感染性疾患(non-communicable disease:NCD)抑制のための重要な対象疾患と認識されている。

 わが国では肥満と肥満症が区別されているが、欧米では区別されず、ともにobesityである。本試験の対象者も肥満に起因ないし関連する健康障害の有無はinclusion criteriaに含まれておらず、obesity-related complicationsとして耐糖能障害や高血圧などを有する対象者が約半数含まれている。したがって、以下のコメントでは「小児肥満症」ではなく「小児肥満」を使用する。

 成人と同じく小児肥満の治療も食事・運動療法が基本となる。しかし、薬物療法が必要な患者も少なからず存在する。現在のわが国では残念ながら小児肥満に適応のある薬物は存在しない。(商品名:ビクトーザ)はわが国では肥満治療薬として承認されていないが、欧米では高用量(3.0mg/日)が肥満治療薬として承認されている。これまで成人(>18歳)2)、青少年(12~18歳)3)でその有効性が報告され、すでに治療薬として承認されているが、小児(6~12歳)での有効性は不明であった。そこで本試験「SCALE-Kids試験」が実施された。

 対象患者の背景は平均で年齢10歳、身長149cm、体重70kg、腹囲95cm、BMI 31kg/m2である。リラグルチドの投与量は成人、青少年と同量の3.0mg/日であり56週後のBMIの変化率が主要評価項目とされた。その結果は予想どおり、リラグルチド群で有意なBMIの減少を認め、有害事象も許容範囲であった。

 本試験の結果に基づいて、リラグルチドはおそらく小児肥満治療薬として欧米で承認されるだろう。わが国でも肥満の有病率は増加しているが欧米の比ではなく、本年ようやく成人に対してセマグルチド(商品名:ウゴービ)が肥満症治療薬として使用可能となったばかりである。わが国では成人に対してもリラグルチドは肥満治療薬として承認されておらず、小児肥満治療薬としての道のりはまだまだ遠いと思われる。

<参考文献・参考サイト>
1)日本肥満学会編. 小児肥満症診療ガイドライン2017. ライフサイエンス出版;2017.
2)Pi-Sunyer X, et al. N Engl J Med. 2015;373:11-22.
3)Kelly AS, et al. N Engl J Med. 2020;382:2117-2128.


フィンランドの学校給食はビュッフェ式?

2024年10月29日 04時51分20秒 | 教育
“世界一幸福の国”、フィンランド。
そこの子育て事情は日本と大きく異なるようです。
それが垣間見える記事を読んでみました。

なるほど、と思った点。

日本でも“授業料無償化”が一部で実施される動きがありますが、
そのベースは「少子化対策」という考えです。
しかしフィンランドで実施されている“教育無償化”は、
「子どもの権利を守る」目的。

・・・根本的な思想が違うのですね。

<ポイント>
・フィンランドの教育の原則は平等、子どもの権利、ウェルビーイングの3つに要約できる。
・公的な教育計画には「性別、年齢、民族的出自、国籍、宗教、信条、思想、性的指向、病気、障がいによって異なる扱いをしてはならない」と必ず書かれる。学校が国内的・国際的な正義と繋がっている感覚は日本にはない。
・公的な教育計画には「一人ひとりの子どもは、あるがままでかけがえがない」ことも必ず書かれている。
・教育は無償である。教育無償の目的は、家庭の経済状態や文化資本の優劣にかかわらず、全ての子どもが平等に教育を受けられること、平等な出発点を提供すること。貧困は子どもの可能性を奪い、子どもの教育や進路、将来に影響を与えてしまうことを重視している。
・就学前教育(小学校入学前の1年間)から小中高、大学まで学費は無償。小学校から高校までは教材と給食も無償だ。日本で幼稚園から大学卒業までにかかる子ども一人の教育費は、国公立に進学しても1000万円、全て私立の場合は2000万円と言われる。
・フィンランドでは、公立学校が全体の約98%を占めるの。私立学校は少数あるが、そこでも教育費は無償である。基本教育法第7条によって、私立学校が利潤を得ることは禁じられている。
・日本国憲法第26条第2項は「義務教育は、これを無償とする」と規定しているのだが、全く守られていない。日本では、教育費が高いので進学をあきらめる子どもも多い。日本で無償なのは親と子の勤労活動である。子どもが雑巾やタワシ、箒、チリトリで教室やトイレの掃除をする。母親が雑巾を作って提出し、教室のカーテンを洗い、校庭の掃除をする学校も多い。
・フィンランドでは、学校の掃除や給食の配膳は自治体の仕事だ。掃除は、清掃会社と契約し自治体が出費している。使う道具も現代的だ。給食は教室の自分の机でではなく、食堂でビュッフェスタイルによって提供される。
・日本は、教育費の公的支出がOECD諸国の中で、毎年最低か最低レベルである。
・東京都の「授業料無償化」は少子化対策として発案されているが、フィンランドの教育費無償は少子化対策という行政の狙いによって発案されたのではなく、全ての子どもに対する社会保障とウェルビーイングを目的として始められたもの。
・フィンランドでは、生徒1人あたりの先生の数が特に中学で多く、生徒9人に対し先生1人。日本の中学では依然として、40人以下が標準とされている。
・日本では、髪型や下着の色、靴下の色、スカートの長さまで細かく規定する校則がある。フィンランドの学校に日本のような校則はない。制服はなく、体操服や靴なども学校指定のものはない。18歳以下のタトゥーは禁止されているが、アクセサリーやお化粧なども含めて自由。
・フィンランドでは、学校行事が少ない、入学式も運動会もない、卒業式はあるがその練習はない。日本の学校行事は、集団行動のための鍛錬の意味が大きい。一糸乱れぬ卒業式や運動会を目指して、練習が繰り返される。フィンランドには部活や教員の過重労働もない。


▢ 子供を一列に並ばせる日本と大違い…フィンランドの学校が給食はビュッフェ型、化粧・アクセサリー自由のワケ子供が自分の身体について決定権を持つことは当然
 岩竹 美加子ヘルシンキ大学非常勤教授
PRESIDENT ONLINE:2024/10/25)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 世界一幸福な国とされるフィンランドの教育は何が違うか。ヘルシンキ大学非常勤教授の岩竹美加子さんは「教育無償の原則は徹底されており、学校の掃除や給食の配膳は自治体の仕事であるため、食堂でビュッフェスタイルによって提供される。また、日本のような校則もなく、アクセサリーやお化粧なども含めて自由である」という――。

▶ フィンランド教育を支える3つの原則
 フィンランドの教育は、とてもシンプルな原則の上に成り立っている。それは平等、子どもの権利、ウェルビーイングの3つに要約できるだろう。その原則がどういう形となって現れるか、見ていこう。
 教育庁と各自治体の教育計画のはじめに必ず書かれるのは、「性別、年齢、民族的出自、国籍、宗教、信条、思想、性的指向、病気、障がいによって異なる扱いをしてはならない」ということだ。
 「異なる扱いをしてはならない」というのは、平等でなければならないこと。いかなる理由によって、差別をしてはならないということだ。重要なのは、それはフィンランド憲法第6条「公平」の規定、さらに国連の世界人権宣言第2条の規定とも同様であることである。
 こうして、学校が国内的・国際的な正義と繋がっている感覚は日本にはないものだろう。日本の学校では、差別を区別と言い換えて正当化することがあるが、フィンランドの学校では差別は差別であり認められない。
また、教育庁と各自治体の教育計画には「一人ひとりの子どもは、あるがままでかけがえがない」ことも、必ず書かれている。そこにはキリスト教的な感覚があるだろうが、子どもに対する肯定的で温かい眼差しに胸を打たれる。
 平等思想を最も良く表すのは、教育が無償なことである。就学前教育(小学校入学前の1年間)から小中高、大学まで学費は無償。小学校から高校までは教材と給食も無償だ
 2021年までは、高校の教材は保護者が購入していたが、同年に高校まで義務教育化されたことに伴って、教材も無償化された。保育園は収入に応じた費用を払うが、朝食とランチ、おやつが出る。
 無償の小中学校の給食は、戦後間もない1948年に導入された。最近、東京都の小中学校では、給食無償が広がっているが、日本で実現している自治体は多くない。また、公立保育園では、約4割がご飯などの主食を持参させているという。

▶ 「私立学校の教育のほうがきめ細かい」は不平等で不公平
 フィンランドで教育無償の原則は徹底しており、日本の学校にあるような入学金、学級費、教材費、実習材料費、家庭科キット、算数セット、絵具、ハーモニカ、習字道具、遠足費、修学旅行の積立金、卒業アルバムなどの出費も一切ない
 また制服はなく、体操服や靴なども学校指定のものはない。自分の服や持ち物を使っている。日本では、学用品を揃えるために小学校で3~4万円、中学では10万円近い出費が必要とされるという。
 日本で幼稚園から大学卒業までにかかる子ども一人の教育費は、国公立に進学しても1000万円、全て私立の場合は2000万円と言われる。費用の差は教育の質の差でもある。
 一般的に言って、公立学校よりも、私立学校の教育のほうがきめ細かい。それはアメリカやイギリスと同様のシステムだが、フィンランドから見ると、それは不平等で不公平な教育であり、社会である。
 フィンランドでは、公立学校が全体の約98%を占めるのも特徴だ。私立学校は少数あるが、そこでも教育費は無償である。保護者が寄付することはある。基本教育法第7条によって、私立学校が利潤を得ることは禁じられている
 教育無償の目的は、家庭の経済状態や文化資本の優劣にかかわらず、全ての子どもが平等に教育を受けられること、平等な出発点を提供することである。
 貧困が子どもの可能性を奪ってしまうこと、子どもの教育や進路、将来に影響を与えてしまうことをフィンランドはとても嫌う。貧富の差が教育格差を広げ、それが貧困を再生産する連鎖にならないよう配慮されている。
 フィンランドで無償の教育は、1960~70年代以降進められた。18歳以下の子どもの医療費無償と並ぶ、子どもの社会保障政策の柱であり、子どもと親のウェルビーイングを進めようとするものだ。

▶ 給食は食堂でビュッフェスタイル
 一方、日本国憲法第26条第2項は「義務教育は、これを無償とする」と規定しているのだが、全く守られていないのが現状だ。
 日本で無償なのは親と子の勤労活動である。子どもが雑巾やタワシ、箒、チリトリで教室やトイレの掃除をする。母親が雑巾を作って提出し、教室のカーテンを洗い、校庭の掃除をする学校も多い
 子どもには給食当番があり、持ち帰ったエプロンを保護者が洗い、アイロンをかけて学校に持参する。子どもの給食当番では、衛生的な管理と配慮が充分ではないだろうが、母と子の勤労によって行政が負担すべき経費を節約している。
 フィンランドでは、学校の掃除や給食の配膳は自治体の仕事だ。掃除は、清掃会社と契約し自治体が出費している。使う道具も現代的だ。給食は教室の自分の机でではなく、食堂でビュッフェスタイルによって提供される。学校にかける公的費用の差が、こうした違いになっている。
 近年、フィンランドは小中学校校舎の建て替えを進めていて、建築的にも面白いものが多い。一方、日本では校舎の老朽化が進んでいるが、建て替えの動きはない。2021年度には全国の公立小中学校などで、外壁や部品の落下などの問題が計2万2029件あった。学校は物理的にも安全で快適な環境を提供していない。

▶ 大学まで無償の教育を全ての子どもと人に保証
 日本は、教育費の公的支出がOECD諸国の中で、毎年最低か最低レベルである。OECDによると、各国が教育に投資する理由は、それが経済成長を促し、生産力を高め、人と社会の発達に貢献し、不平等を減らすから。日本の教育費の少なさは、こうした側面からも疑問を感じさせるのである。
 日本では、教育費が高いので進学をあきらめる子どもも多い。最近は、自治体が授業料を無償化する話を聞くようになった。例えば東京都は2024年度から「授業料無償化」を始めるという。しかし、高校、都立大学、私立中学などで条件が異なっていて複雑だ。
 つまり、平等の原則はなく条件付きの「授業料無償化」である。また、日本では入学金や制服費、修学旅行費など授業料以外の支出が多いので、実際にどれだけ負担が緩和されるかは疑問のようだ。
 また、「授業料無償化」の制度自体が複雑でわかりにくい上、申請する必要がある。フィンランドでは、大学まで無償の教育が全ての子どもと人に保証されていて、申請する必要がないので楽だ。さらに、無償化の目的も異なる。
 東京都の「授業料無償化」は少子化対策として発案されているが、フィンランドの教育費無償は少子化対策という行政の狙いによって発案されたのではない。前述したように、全ての子どもに対する社会保障とウェルビーイングを目的として始められたものだ。

▶ 生徒9人に対し先生1人
 フィンランドではクラスのサイズが小さく、小学校から高校まで20~25人程度が普通だ。小中学校では1クラスに先生が2人、アシスタントが1人程度ついて、さらに小さなグループに分けて教えることが多い。
 クラスには読書障がいがある、算数が苦手、外国出身でフィンランド語があまりできない等、さまざまな子どもがいる。どういうニーズがあるか、支援が必要かなど一人ひとりについて、親の意見も聞きながら教育計画を作る。そうして、きめ細かい学習支援がされている。こうした支援は「学習のケア」とも呼ばれ、小学1年生から提供される。
 2019年のOECDの報告によると、フィンランドでは、生徒1人あたりの先生の数が特に中学で多く、生徒9人に対し先生1人である。OECD諸国平均では13人なので、その中でも少ない方だ。
 一方、2020年のOECDの報告で、日本の公立小中学校では1学級あたりの生徒数は、最多である。日本の都市部では、少子化によって1クラスの人数は減っているが、制度としては40人学級が続いてきた。最近は、小学校で1クラス35人が段階的に目指され、実現しつつあるようだが、それでも多すぎだろう。また、中学では依然として、40人以下が標準とされている
・・・

▶ 化粧、アクセサリー…装いを通じて自分を表現する
 日本では、髪型や下着の色、靴下の色、スカートの長さまで細かく規定する校則がある。寒くてもコートを着てはいけない、タイツを履いてはいけない、学校から帰宅後、午後4時までは自宅から外出してはいけないなど驚くような校則もある。
 最近は「ブラック校則」として問題化され、生徒が取り組む校則の改訂が話題になる。「全国校則一覧」というサイトが作られ、様々な「ブラック校則」を検索することもできる。
 一方、フィンランドの学校に日本のような校則はない。子どもを一人の人として尊重すること、子どもが自分の身体について決定権を持つことは当然のことだからだ。後で見るが、子どもの権利の視点からも、大人による校則の押し付けは不適当である。
 フィンランドの学校では18歳以下のタトゥーは禁止されているが、アクセサリーやお化粧なども含めて自由だ。様々な装い方を試みること、自分の身体のあり方を経験すること、装いを通じて自分を表現すること。それらは全て、自分であることの一部だ。

▶ 「日本の学校では、よく1列に並ばされた」
 フィンランドの学校のその他の特長として、学校行事が少ない、入学式も運動会もない、卒業式はあるが、その練習はないことも挙げられる。付け加えると、子どもを1列に並ばせることもほぼない。
 これは、実は息子が「日本の学校では、よく1列に並ばされた」と言ったことから気づいたことだ。フィンランドで、子どもはバラバラと集まって、バラバラと居て良い。事あるごとに子どもを1列に並ばせるのは軍隊式だ。
 日本の学校行事は、集団行動のための鍛錬の意味が大きい。一糸乱れぬ卒業式や運動会を目指して、練習が繰り返されるのはそのためだ。また、「小学校学習指導要領」には、学校行事について「厳粛で清新な気分を味わう」と書かれている。どういう感情を味わうかまで規定されているのだ。
 また、フィンランドには部活や教員の過重労働もない。こうして書くと、ないことだらけのように聞こえるが、不要なものが一切ないシンプルさは快適だ。
 日本の学校は、本質的な学びに関わることが少ない一方、子どもに対する介入がとても多い。フィンランドの学校は逆で、学びの質が高い。また些末な事に煩わされ、成長期の貴重な時間や繊細な感情を削られることなく過ごせる場所である。

▶ 専門知識を持たない地域住民が、教育に関わることはない
 日本では文科省以下、行政が「学校、地域、家庭」を標語のように使ってきているが、フィンランドには教育に関して地域という概念はない。教育に関わるのは学校と家庭であり、その2つの協働が重視されている。
 日本の「地域」は、高度経済成長期を経て70年代頃に出現した概念で、「地域の危機と再生」という枠組みで使われてきた。現在は、「地域の意見を聞いて」「地域と協力して」「地域ぐるみで」などの表現をよく聞くが、具体的に地域が意味するのは、隣近所の人や町内会、自治会、PTA、青少年教育委員、コミュニティスクールなどである。
 「地域」は、行政が用意し介入する仕組みであることが多い。日本では、公費を節約しつつ同調圧力を増す「地域」が教育に利用される傾向がある。一方フィンランドでは、教育に関わるのは専門知識を持つ人である。専門知識を持たない地域住民が、教育に関わることはない。


“生きづらさ”の正体

2024年10月11日 13時51分42秒 | 家族
 親が好きになれない・・・という悩みを抱えているヒトはたくさんいると思います。
 なぜなんだろう?
 その答えの一つに「愛着障害」があるようです。

 自分自身の子ども時代を振り返ると・・・

 私は虚弱体質ながらも負けず嫌いで、
 負けを認めることが苦手、
 勝つまでコツコツ努力するタイプでした。

 そのせいか、勉強も運動もそれなりの結果を残せました。
 親の喜ぶ顔を見て私もうれしくなりました。

 親はそんな私を見て、
 果たせなかった自分の夢を私に託すようになりました。

 私の親は、戦争に青春も将来の夢も奪われた世代。
 学校の成績もそこそこだったようですが、
 家庭の事情で大学進学は諦めざるを得なかった・・・

 そして“努力して結果を出し続けること“が私のルーチンになりました。
 楽しいけど苦しい、そんな思春期が始まりました。

 しかしそれが続くと徐々に、
 「努力しなければ親に認めてもらえない」
 「結果を出さなければ親に認めてもらえない」
 という窮屈な状況に陥っていきました。

 親の期待が喜びから負担に変わったのです。

 ただ生きているだけでは自分には価値がない、
 努力して結果を出さなければ認めてもらえない・・・
 私には疲れた時に受け止めてくれる「心の安全基地」がありませんでした。

 いや、当時つき合っていた女の子が受け止めてくれました。
 しかし私が親の希望に沿って医学部に入学し、
 遠方の大学へ行くことで最愛の彼女を失ってしまいました。

 私は医師になり、彼らの夢を叶えました。
 同時に親と距離を取りたくなりました。
 「もういいだろう?勘弁してくれ」
 自分の心がつぶれてしまいそうでした。

 親は私にたくさんの愛情を注いでくれましたが、
 同時に大きな期待をしてがんじがらめに絡め取り、
 私の自由を奪ったとも言えます。

 長男である私は結婚後に実家に戻り、
 両親の面倒を見ています。
 親と離れて暮らす選択もありましたが、
 それを実行する私を許せない自分もいます。
 昭和的な考えかもしれませんが・・・

 というわけで、今でも「楽しいけど苦しい」生活が続いています。
 これが私の“生きづらさ”です。


<ポイント>
・母親との不安定な愛着を示す子どもは、人口の3割程度かそれ以上にも及び、そうした傾向は、大人になっても解消されず、多くの人が引きずっている。
・愛着障害を抱えた人は、一見「発達障害」に似た特徴を示すことも多く、「発達障害」と診断されることも少なくない。
 ✓ 対人関係、とくに親密な対人関係において困難が強まりやすい。
 ✓ 自己肯定感の低下や心身の不調をともないやすい。
 ✓ 基本的な安心感の乏しさや他者に対する信頼感が弱い。
 ✓ 周囲の反応におびえ、傷つきやすい傾向を抱えるか、
 周囲にはなにも期待せず、無関心な態度を身につけるか、
 どちらかになることで、状況に適応しようとする。
 ✓ ストレスを受けやすく、健康面のリスクも高まりやすい。
 ✓ 不安定な愛着は心身の健康状態だけでなく、平均余命にも影響する。
・愛着障害は、本来「安全基地」として無条件の愛情と世話で子どもを守ってくれる養育者(通常は母親)が、「安全基地」としての役割をうまくはたせないことによって生じる。
・愛着が形成される期間は限られており、概ね1歳半までが、もっとも重要な時期とされる。それ以降でも、愛着の形成は可能だが、それまでの時期に安定した愛着が形成されなかった子には、深刻な影響が残りやすい。
・愛着形成の核は1歳半までが臨界期とされるが、その時点で安定した愛着が形成されていた場合でも、その後の要因によって、不安定な愛着に変わってしまうことがある。虐待やネグレクト、心理的な支配とともに、親の精神疾患や離婚、家庭内葛藤なども、子どもの愛着を不安定なものに変えてしまう。
・愛着というしくみは、本人の安心を守るだけでなく、生命を守る根幹となるしくみであり、それがうまく機能しなくなるとき、人は窮地に陥る。
・愛着は単なる心理学的なしくみではなく、生理学的な現象に基づいた生物学的なしくみであり、哺乳類に共通するものである。哺乳類として受け継いできたこのしくみが危機的状況に陥り、機能不全を起こしているのが「愛着障害」という状態なのである。


▢ 「人口の3割超?」愛着障害は平均余命に影響する概ね1歳半までが愛着形成に重要な時期
岡田 尊司 : 精神科医、作家
2024/10/11 :東洋経済オンライン)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 長年、発達障害や愛着障害を研究し続け、豊富な臨床経験を持つ精神科医・岡田尊司さんの最新刊『愛着障害と複雑性PTSD』より、現代人の生きづらさの原因を紐解きます。

▶ 生きづらさの正体
 「愛着障害」という言葉が、一般にも広く知られるようになったのは、ここ10年ほどのことである。40年ほど前に、この言葉が最初に公式に用いられたとき、その意味するところは、深刻な虐待やネグレクトを受け、心身の発達や社会性に困難をきたした、極めて悲惨な子どもたちの状態を指し、その頻度は、非常に稀なものとされていた。
 ところが、その後の研究で、そうしたケース以外にも、母親との不安定な愛着を示す子どもは、人口の3割程度かそれ以上にも及び、そうした傾向は、大人になっても解消されず、多くの人が引きずっていることがわかってきた。
 こうした「不安定型愛着スタイル」のケースも含めて、「愛着障害」として理解されるようになってきた。愛着障害を抱えた人は、一見「発達障害」に似た特徴を示すことも多く、対人関係、とくに親密な対人関係において困難が強まりやすい
 また、自己肯定感の低下や心身の不調をともないやすいこともわかってきた。こうした人たちは、「発達障害」と診断されることも少なくないが、なにかしっくりといかないものを感じ、発達障害としての治療もあまり奏功せず、もやもやした状況が続くことも多い。
 愛着障害は、本来「安全基地」として無条件の愛情と世話で子どもを守ってくれる養育者(通常は母親)が、「安全基地」としての役割をうまくはたせないことによって生じる愛着が形成される期間は限られており、概ね1歳半までが、もっとも重要な時期とされる
 それ以降でも、愛着の形成は可能だが、それまでの時期に安定した愛着が形成されなかった子には、深刻な影響が残りやすい基本的な安心感の乏しさや他者に対する信頼感が弱いといったことは、その代表的な特徴である。
 周囲の反応におびえ、傷つきやすい傾向を抱えるか、周囲にはなにも期待せず、無関心な態度を身につけるか、どちらかになることで、状況に適応しようとする
 どちらにしても、ストレスを受けやすく、健康面のリスクも高まりやすい。実際、不安定な愛着は心身の健康状態だけでなく、平均余命にも影響するのである。

▶ 安心感のよりどころとなる存在
 愛着形成の核は1歳半までが臨界期とされるが、その時点で安定した愛着が形成されていた場合でも、その後の要因によって、不安定な愛着に変わってしまうことがある
 虐待やネグレクト、心理的な支配とともに、親の精神疾患や離婚、家庭内葛藤なども、子どもの愛着を不安定なものに変えてしまう。それ以外にも、きょうだいからの虐待や学校でのイジメなども深刻な影響を及ぼしうる。
 物心がついて以降に起きた出来事は、子どもの心に完全には同化されないまま、トラウマとなって残ることになる。未解決型愛着と呼ばれるタイプは、ある程度、年齢が上がってから起きた出来事(たとえば、親の離婚やイジメ)によって、安全基地が奪われることで愛着のしくみ(「愛着システム」とも呼ばれる)がダメージを受け、回復しないままになった状態だと考えられる。
 それに対して、もっと幼いころに起きた養育環境の問題は、子どものなかに同化されてしまい、愛着スタイルとして自分自身の一部として一体化してしまうため、通常はトラウマとして意識されることはない。
 成人してからは、恋人やパートナーとの関係が、本人にとって安全基地となるかどうかが、愛着の安定性に影響する。それ以外にも、職場において居場所を失うことや、上司との折り合いの悪さといったことも影響することがある。

▶ 哺乳類として受け継いできた生物学的なしくみ
 愛着が安定したものとして機能するためには、「安全基地」と呼ばれる安心感のよりどころとなる存在との関係が重要とされる。その人の所属する集団に、一人でもそうした存在がいれば、愛着システムが、大きなダメージを負うことは免れやすい。
 逆に、家庭にも学校や職場にも安全基地となる存在がいない状況に置かれることは、愛着システムの機能不全を引き起こし、心身に支障を生じやすくなる。
 愛着というしくみは、本人の安心を守るだけでなく、生命を守る根幹となるしくみと考えられ、それがうまく機能しなくなるとき、人は窮地に陥る
 愛着は、単なる心理学的なしくみではない。それは、生理学的な現象に基づいた生物学的なしくみであり、哺乳類に共通するものである。
 哺乳類として受け継いできたこのしくみが危機的状況に陥り、機能不全を起こしているのが、「愛着障害」という状態なのである。それが広まっているということの意味を考えたとき、それは地球環境の破壊と同レベルか、それ以上の深刻な事態が進行していることに気づかされることになる。

▶ トラウマで苦しむ人の増加
 愛着障害とともに、今日多くの人が苦しむ、身近な問題となりつつあるのが、トラウマの問題である。トラウマという言葉は、一般にも広く認知されるようになり、心が傷を受けたあと、その状況がなくなっているにもかかわらず、長期間にわたってさまざまな後遺症に苦しむ「PTSD心的外傷後ストレス障害)」という状態も知られるようになった。
 トラウマという言葉は、もともと「ケガ」という意味であるが、心のケガである「心的外傷」と訳されることが多い。医学的にトラウマという語が用いられたのは、大地震や戦争、生死にかかわる事故、犯罪被害といった突発的で、生命が危険にさらされるような出来事に遭遇する場合であった。
 ところが、近年になって、1回のダメージは生命にかかわるほどではなくても、長期間にわたって、逃れられない状況でダメージを受けつづけると、通常のPTSDに勝るとも劣らない深刻かつ持続的な影響が生じることがわかってきて、「複雑性PTSD」と呼ばれるようになった。
 その中核をなす原因が、親からの虐待である。それ以外にも、パートナーからのDVやハラスメント、学校や職場でのイジメなどが挙げられる。いずれもほかに助けを求めにくい、逃げられない状況において起きやすい。
 なかでも、とりわけ深刻な事態となりやすいのは、親からの虐待である。身体的、性的虐待だけでなく、心理的虐待や支配も原因となりうる。
 本来、だれよりもその子を愛し、守ってくれるはずの存在から傷つけられつづけることは、その人しか頼ることのできない幼い子どもにとっては、逃れようのない事態であり、もっとも信頼すべきものが信頼できない危険な存在であるという、絶望的な状況に子どもを陥れる。
 「近代化」という名の社会の崩壊と人々の孤立化にともなって、豊かになったはずの社会で、そうした状況が起きやすくなっている。


友達にちょっかいを出す子ども

2024年10月10日 06時36分46秒 | 子どもの心の問題
「ちょっかい」と聞くと懐かしさがこみ上げてくる私。
小中学生の頃、よく「ちょっかい」を出されていたんです。

2人の同級生から・・・2人とも身体が大きくてケンカしたら確実に負ける相手。
一方、小さくてやせていたよわっちい私。
それから、私は転校生だったんです。

イジメとかイジワル、というレベルまで行かず、
朝礼で立っているときに触ってきたり、
小突いたり程度だったのですが。

それでもイヤでイヤでたまらなかった・・・

でも反撃をするほどの勇気もなかった。
先生に告げ口することでもないと思っていました。
そうすれば、
「この野郎、告げ口しやがって」
と行動がエスカレートしたかもしれません。

私は教師から殴られたこともあるので、
そんなに先生を信頼していなかったという事情もあります。

なんだか、私の闇歴史ですね。

彼らの心理ってどういうモノだったんだろう?
と素朴な興味があります。

こんな記事に出会いました。

▢ 友達にちょっかいを出す子の5つの特徴
2024/10/10:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 「先生、Tくんが私の髪を引っ張るんです!」「Hさんが、私のペンケースの中身をいつもグチャグチャにするんです!」 

・・・

 「友達にちょっかいを出す子」について、私が長年観察してきた特徴をお話ししたいと思います。これを読んで、「あ、うちの子もそうかも」とか「私、昔そうだったな」なんて思い当たる節があかもしれません。

▶ 友達にちょっかいを出す子の5つの特徴


1. 注目の的になりたがり屋さん

 とにかく目立ちたい、誰かに見てもらいたいんです。授業中に突然「わー!」って叫んで、みんなをびっくりさせる子がいます。そのたびに「Yくん!」って注意するんですが、彼の満足そうな顔を見ると、ついため息が出てしまいます。

2. エネルギーが有り余ってる子

 エネルギーが有り余っていて、ずーっと動いていたい子たちです。休み時間、校庭を走り回って汗だくになってる子がいますよね。でも教室に戻ってきても、まだまだ元気。隣の子をつついたり、後ろの子の消しゴムを投げたり。「もう、エネルギーの使い道、そこじゃないでしょ!」って思わず言いたくなります。

3. コミュニケーションが今ひとつな子

 本当は仲良くなりたいんだけど、どうしていいか分からないタイプの子です。「一緒に遊ぼう」って言えなくて、代わりに相手の帽子を取って逃げ出す。そんな光景を見かけます。気持ちはわからなくもないですが、見ていて「あー、そうじゃないんだけどなあ」って思います。

4. 感情コントロールが難しい子

 頭では分かっていても、体が先に動いてしまうタイプの子に多いです。クラスには、ちょっとしたことですぐカッとなる子もいます。友達とぶつかっただけで、相手を押し返しちゃったり。でも、落ち着くと「ごめんね」って謝れる子なんです。

5. 他人との距離感がつかめない子

 自分と他人との境界線が、ちょっとあいまいなタイプの子です。「これくらいなら大丈夫だろう」って思って、友達の髪を引っ張ったり、背中をバシバシたたいたり。その子はスキンシップのつもりでも、相手が嫌がってるのに気づかない。そんな時は「もし自分がされたら?」って聞くと、はっとした表情を見せます。「僕は気にしない」と言ってくる子には、「それを嫌がる子もいるから、叩かないで声をかけるとか他の方法はないかな?」と代わりの方法を考えさせます。

まとめ

 ここまで読んでみて、どうでしたか? 「ああ、あの子のことだ」とか「自分の子育てに活かせそう」なんて思った人もいるでしょう。

 結局のところ、友達にちょっかいを出す子は、周りに「私のこと見て!」って必死にアピールしているんです。エネルギーは有り余ってるけど、うまく表現できないだけなのです。感情のコントロールも、他人との距離感も、まだまだ勉強中なんですね。

 正直、私たち大人だって完璧じゃありません。子育てや教育に正解なんてないんです。でも、こういう子たちの気持ちを少しでも理解しようとすること。それが大切だと思うんです。

ちょこっとアドバイス

 ちょっかいを出す子を見かけたら、すぐに叱るんじゃなくて、まずは「どうしたの?」って聞いてみてください。きっと、意外な答えが返ってくるかもしれません。



読んでみて、どれが彼らに当てはまるかな・・・
意外にも3の、
本当は仲良くなりたいんだけど、どうしていいか分からないタイプ
だったかもしれないと思いました。

転校生である私に興味がありつつも、
どうやって近づいていけばよいのか、
わからなかったのかな。

あれから約50年という長い年月が過ぎました。

先日、地元の小学校で市民運動会があり、
同級生に渡したいものがあったので、
懐かしの校庭に行ってきました。

仲のよかった友達2人に会うことができました。
30分ほど立ち話・・・プチ同窓会ですね。

私にちょっかいを出した彼らはどうしているのか聞いてみたら、
1人は父親の後を継いで神社の神主に収まり、
もう1人は詳細不明・・・でした。


こどもの気質と腸内細菌の関係

2024年10月04日 14時02分59秒 | 子どもの心の問題
何かと注目される腸内細菌。
色々な病気との関連が指摘されています。

こどもの“気質“と関係しているという報告があるそうで、
今回はそれを扱った記事を紹介します。

<ポイント>
・気質は、情動・活動(行動)・注意の側面から他者を含む環境刺激に対する反応や、それを制御する行動特性(個人差)のこと。
・近年、ヒト成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが知られている。
・個人が生涯もつことになる腸内細菌叢の原型が生後3~5歳頃までに安定化する。
・全国の保育園・幼稚園・こども園に通う3~4歳の日本人幼児 284人を対象に、気質と腸内細菌叢を調べたところ、気質は腸内細菌叢の構成の違いと関連していた。
・気質のうち、高次因子「否定的情動性」と下位尺度「恐れ」「怒り」「悲しみ」「内気さ」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと負の関連がみられた。
・気質のうち、高次因子の「外向性/高潮性」と下位尺度の「衝動性」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと正の関連がみられた。
・腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを調べたところ、酪酸の産生や抗炎症に関わる腸内細菌(e.g., Faecalibacterium)と、炎症の誘発に関わる腸内細菌(e.g., EggerthellaやFlavonifractor)が寄与しているがわかった。
・腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は、不快情動やストレス反応の表出の多さ、さらには快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連することが明らかになった。
・腸内細菌の多様性は、気質の下位尺度の「衝動性」と正の関連がみられた。つまり、腸内細菌叢の多様性が高い子どもほど、新しいことに挑戦したり、動機に基づいて行動しやすい特性をもつことがわかった。
・腸内細菌叢のバランスが乱れたディスバイオシスの状態が、将来(思春期、成年期)のメンタルヘルスリスクを予測する気質の側面と明確な関連がみられた。
・気質には腸内細菌叢が関連していたことから、腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性がある。

・・・ウ〜ン、わかったようなわからないような・・・腸内細菌の話って、いつも最後は煙に巻かれてしまう印象がありますね。


▢ 幼児期の衝動性や外向性などに「腸内細菌叢」が関連-京大ほか
2024年09月12日:QLIfePro)より抜粋(下線は私が引きました);

▶ 幼児の不快情動やストレス反応特性は「腸内細菌叢」と関連するのか?
 京都大学は9月6日、幼児期の気質が腸内細菌叢と関係することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科の明和政子教授、上田江里子元博士後期課程院生、大阪大学大学院医学系研究科の松永倫子研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Developmental Psychobiology」にオンライン掲載されている。
 気質は、情動・活動(行動)・注意の側面から他者を含む環境刺激に対する反応や、それを制御する行動特性(個人差)のことを指す。生後すぐに現れ、一定期間持続する遺伝的要因が大きいと考えられているが、その神経生理学的な発達機序については不明なままだ。
 気質は、
(1)恐れや悲しみ、怒りなどの不快情動の表出や脅威刺激に対する特性「否定的情動性」、
(2)笑顔など快情動の表出や新奇な環境などへ積極的に探索接近する特性「外向性/高潮性」、
(3)(1)と(2)の行動を制御する特性「エフォートフル・コントロール」
・・・という3つの高次因子に基づき評価されている。
 気質の中でも、不快情動やストレス反応(1)、それを制御する能力(3)の個人差は、後の問題行動や精神疾患と関連することが知られており、リスクを早期発見し得る指標の一つとして注目されている。
 近年、ヒト成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが知られている。しかし、生後早期の気質、特に精神行動リスクにかかわる不快情動やストレス反応特性が腸内細菌叢と関連するか否かについてはわかっていなかった。

▶ 心身のリスク評価スクリーニング法の確立などを目的に284人の日本人幼児を調査
 研究グループは、精神機能や認知機能の発達の個人差に関連する要因として、腸内細菌叢(腸内フローラ)に着目した研究を行っている。腸内細菌叢は、免疫系や内分泌系、自律神経系を介して脳と相互作用している。これを「腸内細菌叢-腸-脳相関」と言う。成人を対象とした研究では、腸内細菌叢の多様性や構成が、精神疾患や認知機能の低下と関連することが示されている。ここで重要となるのは、個人が生涯もつことになる腸内細菌叢の原型が生後3~5歳頃までに安定化するという点だ。この時期は、我慢などの感情制御や、推論、記憶、イメージなどの認知機能の中枢となる前頭前野が著しく発達する時期でもある。
 この時期の前頭前野の発達は、成人期の健康状態や社会経済状況を予測することも知られており、幼児期は、腸(内臓)と脳の発達、さらにはその後の心身の健康を左右するきわめて重要な時期と言える。幼児期の気質と腸内細菌叢との関連が明らかになれば、心身のリスクを早期にかつ客観的に評価するスクリーニング手法や、心身の健康増進を目的とした生後早期からの支援法の提案などが期待できる。
そ こで研究グループは今回、全国の保育園・幼稚園・こども園に通う3~4歳の日本人幼児 284人を対象に、気質と腸内細菌叢を調べた。幼児の気質と腸内細菌叢は、以下の手順で計測、評価した。

▶ 気質は腸内細菌叢の構成の違いと関連、否定的情動性・衝動性など
 まず、参加児の母親に92項目からなる質問紙(Childrenʼs Behavior Questionnaire Short Form: CBQ-SF)に回答を依頼。過去2週間の日常場面で、それぞれどの程度見られたかを7段階(「1. まったくみられなかった」~「7. いつもみられた」)で評定してもらい、3つの高次因子(上記(1)~(3))、および下位尺度である15項目(e.g., 怒り、恐怖、内気さ、衝動性)から得点を算出した。
 さらに専用キットを用いて、家庭で子どもの糞便の採取を依頼。次世代シーケンサーを用いて16S rRNA解析を行い、腸内細菌叢の「多様性(種の豊富さや均等度を示すα多様性指標に基づく主成分)」「構成の違い(菌叢の構成の違いを示すβ多様性指標にもとづく主成分)」を評価した。また、腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを詳細に検討するため、「各菌が全体の菌の中で占める割合(占有率)」についても算出した。
・・・
 その結果、気質は腸内細菌叢の構成の違いと関連していた。気質のうち、高次因子「否定的情動性」と下位尺度「恐れ」「怒り」「悲しみ」「内気さ」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと負の関連がみられた。また、高次因子の「外向性/高潮性」と下位尺度の「衝動性」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと正の関連がみられた。

▶ 腸内細菌叢の多様性が高い子どもは新規挑戦や動機に基づいて行動しやすい特性をもつ
 腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを調べたところ、酪酸の産生や抗炎症に関わる腸内細菌(e.g., Faecalibacterium)と、炎症の誘発に関わる腸内細菌(e.g., EggerthellaやFlavonifractor)が寄与していることがわかった。
 これらのことをまとめると、腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は、不快情動やストレス反応の表出の多さ、さらには快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連することが明らかになった。
 また、腸内細菌の多様性は、気質の下位尺度の「衝動性」と正の関連がみられた。つまり、腸内細菌叢の多様性が高い子どもほど、新しいことに挑戦したり、動機に基づいて行動しやすい特性をもつことがわかった。

▶ 腸内細菌叢を幼少期に改善することで、メンタルヘルスリスク緩和・予防できる可能性
 欧米圏を中心に、「腸内細菌叢-腸-脳相関」の観点から、生後早期(乳児期)から現れる気質と腸内細菌叢の関係の解明が進められつつある。しかし、現時点では一貫した結果は得られていない。研究グループは今回、腸内細菌叢の多様性や構成が大人レベルへと安定化し、かつ前頭前野が急激に発達する幼児期に着目することが重要と考えて同研究を実施し、日本人の子どもの腸内細菌叢が気質と関連することを初めて示した。中でも、腸内細菌叢のバランスが乱れたディスバイオシスの状態が、将来(思春期、成年期)のメンタルヘルスリスクを予測する気質の側面と明確な関連がみられた点は重要だ。
 従来、気質は生後すぐから現れ、個人が持続的にもち続ける行動特性であるとみなされてきた。しかし、気質には腸内細菌叢が関連していたことから、腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性がある
「今後は、本研究が示した結果(仮説)を長期縦断的に検証していくことや、腸内細菌叢を改善する介入(e.g., 食生活習慣への介入やプロバイオティクスの投与)によって因果の検証を行う必要がある。将来的には、子どもの心身の健康を早期にかつ客観的にスクリーニングする手法や、個々の心身の特性に合わせた個別型の発達支援法の開発なども期待できる」と、研究グループは述べている。

子どもの反発を恐れない“不登校支援”

2024年09月21日 13時02分27秒 | 教育
前項目で「不登校は見守るだけでは解決しない」と書きました。
ではどうすれば解決するのか?
答えはあるのでしょうか・・・。

腫れ物に触るように子どもを見守るのではなく、
まず信頼関係を構築することを提案しています。
そこをはき違えると、将来に苦痕を残すことになる、と。

信頼関係ができれば、親からの「うざい言葉」は「自分のためを思ってくれた言葉」に変わります。

職場の上司からのアドバイスが、
信頼関係がないと「うざい」と感じ、
信頼関係があると「ありがたい」と感じるのと同じですね。

記事の小川氏が主催する「スダチ」では、
「再登校率は90.0%で、平均19日で学校に行ける」
という実績を出しています。

<ポイント>

・不登校を解決するには正しい親子関係を築くとか、子どもの自己肯定感を高めるといった条件を整えることが必要だとが、デジタル機器はそれを阻む大きな壁となる。デジタル機器の利用を制限しない限り、子どもはゲームやインターネットなどのデジタル依存に陥ってしまい、生活習慣も整えられないし、親子の関係もうまく作れない。

・ある程度の反発はあるにせよ、その反発が収まったタイミングで初めて親子でまともなコミュニケーションが取れるようになって、子どもとの関係がよくなっていく。むしろそこからが、親子の関係を作り直す勝負。

・不登校の家庭は、基本的に親子関係が逆転気味になっているケースが多い。お子さんが上の立場になって、親御さんが言いなりになってしまっているパターン。でも子育てにおいてはまず、親御さんが主導権を握らないといけない。

・親子関係を正さないまま、いろんな言葉をかけたところで、全く響かない。親御さんが主導権を握って、リスペクトされるような存在になることで初めて、親御さんの言葉が子どもに届くようになる。そうすれば、子どももやると誓ったことはしっかりやるようになるし、親の褒め言葉も響くようになって、親子関係がよくなっていく。

・今の日本には、寄り添いの沼にはまって親子関係が逆転してしまうという罠がある。いい親になりたいと思って寄り添ってきたことがかえって災いして、子どもから見ると親が頼れる相手でなくなってしまい、不安になってしまう。むしろ毅然として、ダメなものはダメと厳しく言う親の方が、子どもにとっては安心感がある。

・早い段階でお子さんを救ってほしい。学力とか生活習慣とか運動とか、人として身に付いていて当たり前なところがしっかりできているならば不登校のままでいいかもしれないけれど、できていないのなら、社会人として生きていくのは難しくなってしまう。

・いろんな引きこもりの方から聞いた中で1番多かったのが「親が何もしてくれなかった」とか「自分がこうなってしまったのは親のせいだ」という答え。親御さんとしては、お子さんをそんな風にしたかったわけではもちろんないのに、見守り続けた結果、最終的にそんな風に言われると思うと辛い。親の役割は子どもの世話をすることではなく、子どもが自立できるようにすること。


▢ なぜ「不登校の子」の親からおカネをとるのか…批判覚悟で「不登校ビジネス」を立ち上げた30歳経営者の真意「当事者ではない」からできることがある
 小川 涼太郎:株式会社スダチ代表取締役(著書
2024/09/13:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

スダチ代表・小川涼太郎さんは、不登校の子がいる家庭に有料の支援サービスを提供している。SNSでは「怪しい」「不登校で金儲けをするな」などと批判的な投稿がされることもある。なぜ再登校支援を「ビジネス」にしたのか。小川さんにその真意を聞いた――。(後編/全2回)。

▶ 子どもの反発を恐れてはいけない
――スダチの不登校支援では、不登校の子どもがスマートフォンやタブレット、テレビを使用することを禁止しています。これに「そんな乱暴なことをしたら親子関係が壊れる」という批判の声があります。どう考えていますか。
 デジタル機器の使用を制限するのはあくまでも、親子の間でコミュニケーションをきちんと取れるようにするための準備です。「制限しさえすればうまくいく」と考えているわけではありません。子どもをたくさんほめて愛情をしっかり注ぐとか、生活習慣を整えるといったことを並行して進めることが大前提です。
僕たちは不登校を解決するには正しい親子関係を築くとか、子どもの自己肯定感を高めるといった条件を整えることが必要だと考えているのですが、デジタル機器はそれを阻む大きな壁です。デジタル機器の利用を制限しない限り、子どもはゲームやインターネットなどのデジタル依存に陥ってしまい、生活習慣も整えられないし、親子の関係もうまく作れないからです。
 たしかに制限したら一時的には関係が悪化したように見えるかもしれません。でも僕らが今まで見てきたケースで言うと、ある程度の反発はあるにせよ、その反発が収まったタイミングで初めて親子でまともなコミュニケーションが取れるようになって、子どもとの関係がよくなっていくんですよね。むしろそこからが、親子の関係を作り直す勝負なんです。
・・・

▶ 不登校の家庭に多い「親子関係の逆転」
――不登校のお子さんのいる家庭の親子関係にはどんな特徴があるのでしょうか。親子関係を作り直すとはどういうことですか。
 不登校のご家庭は、基本的に親子関係が逆転気味になっているケースが多いと思います。お子さんが上の立場になって、親御さんが言いなりになってしまっているパターンですね。
 だからといって親御さんが悪いわけでは全くありません。ただ、お子さんのことを思って寄り添い続けたらそうなってしまったというパターンが多いんです。でも子育てにおいてはまず、親御さんが主導権を握らないといけない
・・・
親子関係を正さないまま、いろんな言葉をかけたところで、全く響かないのが現実です。親御さんが主導権を握って、リスペクトされるような存在になることで初めて、親御さんの言葉が子どもに届くようになる。褒めてもいい立場になれるんです。そうすれば、子どももやると誓ったことはしっかりやるようになるし、親の褒め言葉も響くようになって、親子関係がよくなっていくんです。

▶ 親が主導権を取り戻す方法
――そうは言っても、親がポジションを取り戻すのはなかなか大変です。
 デジタル制限や、家庭のルールを決めて発表することは、親御さんの立場を取り戻すために必要なプロセスです。そこで初めて主導権が親御さんの側に渡ることになる。
 今の日本には、寄り添いの沼にはまって親子関係が逆転してしまうという罠があるんです。いい親になりたいと思って寄り添ってきたことがかえって災いして、子どもから見ると親が頼れる相手でなくなってしまい、不安になってしまうむしろ毅然として、ダメなものはダメと厳しく言う親の方が、子どもにとっては安心感があるんです。

▶ 漢字が読めず掛け算もできない中学生
――内閣府によれば、全国で引きこもりの人は推計146万人。その中には、不登校が長引いてそのまま引きこもりになるというケースも少なくないようです。
 最近も、仙台市が行った調査で、引きこもりになったきっかけとして不登校を挙げた人が22%に上ったというニュースがあり、やはり不登校とひきこもりはつながっているんだなと感じました。
・・・
 その中で話をするなら、僕らがサポートした中には、何年も不登校で、ずっとゲームばかりしていて足の筋肉を動かさなかったものだから、うまく歩けなくなったお子さんもいました。体力がかなり落ちていましたね。
 小学校低学年から6年くらい不登校だったケースで、掛け算などの簡単な計算もできなければ漢字も読めないというお子さんもいました。だから電車も乗れないし、お金の計算もできないんです。小学校の基本的な学力を身につける大事な時期が抜けてしまうと、本当に厳しいんだなというのをその時に感じました。

▶ 「早い段階でお子さんを救ってほしい」
 学力とか生活習慣とか運動とか、人として身に付いていて当たり前なところがしっかりできているならば不登校のままでいいかもしれないけれど、できていないのなら、社会人として生きていくのは難しくなってしまうと思う。それは親御さん自身がたぶん一番分かっていると僕は思うんです。親御さんなら誰しも、それはまずいと思っているし、わが子はこれから社会でやっていけるのかと不安を持っていると思います。
 だから大人になる前のもっと早い段階でお子さんを救ってあげてほしいなと思うんです。

▶ 見守り続けた親は最終的に子どもに恨まれる
スダチには、アメリカで引きこもりについて研究していたスタッフがいるのですが、いろんな引きこもりの方から聞いた中で1番多かったのが「親が何もしてくれなかった」とか「自分がこうなってしまったのは親のせいだ」という答えだったそうです。親御さんとしては、お子さんをそんな風にしたかったわけではもちろんないのに、見守り続けた結果、最終的にそんな風に言われると思うと辛いですよね。
 親の役割は子どもの世話をすることではなく、子どもが自立できるようにすることなのだと思います。
――引きこもりの子をめぐっては「引き出し屋」が知られています。違いはあるのでしょうか。
 僕たちはそもそも、お子さんとは一切会わないんです。再登校できるように環境を整えたり、お子さんにどのように言葉をかけたらいいかをオンライン(zoomによる再登校面談)やメール(再登校サポートメール)で助言しています。サポートする相手は親御さんであり、お子さんには僕らの存在も知られないようにしています。
 でも、引き出し屋は直接家まで行って、そこから子どもを「引き出し」ますよね。親御さんから子どもを強制的に引き離すわけです。僕らはそうではなく、親御さんと子どもの関係をよくしようとするわけで、そこが全然違います。

▶ 不登校支援を有料で行うワケ
――不登校の子どもがいる家庭からお金を取ることに批判の声もあります。小川さんはどう考えていますか。
 確かにNPO(非営利組織)という選択肢もありました。でも最終的に社会問題の解決を目的にすると考えた時に、持続可能であることが必要条件だと思ったんです。
 寄付やボランティア頼みだと規模を拡大するのも難しいし、そもそもずっと続けることすら難しくなる。ちゃんとお金が回る仕組みを作って、中で働いている社員たちがしっかりと稼げるようにした方が、最終的にはより多くの人たちを救えると思ったんです。だから、社会問題の解決とビジネスの両輪を成り立たせることを目標にしてきました。
 また、私自身が不登校を経験していない「当事者でない」ということも批判されることがありますが、一歩引いた冷静な目線でやれるのが、僕らの差別化できている部分かなと思っています。当事者の方はどうしても寄り添いすぎてしまう。子どもたちの気持ちが分かってしまうがゆえに、つらくて踏み込めない部分があると思っています。
 
※ スダチによると、初回相談は無料で、子どもや家庭の状況をヒアリングし、簡単なアドバイスを行っているという。希望者には有料で「再登校面談」を行い、親の接し方などをレクチャーする。ここまででサポートを終了する人は多いが、有料のメールサポートに移行する利用者もいるという。利用者は毎日、子どもの様子やどんな言葉かけを行ったかを報告し、サポーターがそれを踏まえてメールでアドバイスを返す。メール1通につき2000~3000文字程度。料金は4万9500円からになるという。

――料金が高いという意見もあります。
 ありますね。たしかに安くはないと思っています。でも本当に子どもたちが再登校できるということには、何物にも代えがたい価値がありますよね。
 それに私たちは毎日、親御さんの「伴走(相談サポート)」をしています。例えばカウンセラーに毎日相談するとしたら、30日で結構なお金になりますよね。フリースクールも何年も通うと考えると結構なお金になります。そう思うと、そこまで高くないのではないか。
 親御さんには一生使えるメソッドを提供できているという自負もあります。
 スダチの再登校率は90.0%で、平均19日で学校に行けるようになっています。無料だったらこれだけの再登校率は出せていないのではと思っています。有料にしてハードルが少し高くなっていることで、親御さんが「何とかやりきろう」と思うからこそ、これだけの結果が出ているという面もあると思います。

▶ 日本人の幸福度を上げたい
――スダチの活動を始める前は、コンサルティング会社で働いていたそうですね。
 大学生の時に、世の中の職場環境がダメだから日本人の幸福度は低いんだという仮説を僕は立てていて、コンサル会社に入れば世の中のいろんな会社、いろんな職場に対してアドバイスできると思ったんですね。外部から、職場環境をよくするための何かができるんじゃないかって考えたんです。
 3年ぐらい人事のコンサルをやった結果、職場環境ももちろん大事なんですが、それよりもっと教育の方が大事だなと思うようになりました。
 というのも、同じ職場環境でもすごく楽しんで仕事している人もいれば、そうでない人もいる。どれだけ恵まれた環境でも、うつ病になったりする人もいる。だから環境よりも、そこに至るまでに受けてきた教育とか触れてきた思想とか考え方や親の存在といったものの方がよっぽど重要で、それをよくすれば、それだけでどこに行こうが幸せに生きていけるのではないか、という結論に至ったんですね。つまり、幸福度を上げるには教育をよくしなければならない、と。
 教育をよくする手段はいろいろあると思っています。メンタルフレンドをやってみたり、フリースクールを作った経験もあるのですが、当時の私はうまくいきませんでした。教育によって世の中をよくできるという思いから、いろいろな手段がある中で、今は不登校や親子関係という問題に取り組んでいるわけです。
 結果として、僕らのサービスを受けてくださった皆さんには幸せになっていただけていると自分たちとしては思っています。だから、当初やりたかったことはやれているなと思っています。

▶ 子育ては難しいからサポートが必要
――最後に、今後の展望について教えてください。
 小中学生や高校生であれば、学校という戻る場所があるのですが、大人の無職の方だと戻る場所がないんですよね。そこが難しくて、現時点ではサポートの対象は高校生までとしていますが、今後はそういった方々のサポートもやっていきたいという思いはあります。
 それから、今までは再登校したらサポートも終わりというケースが多かったのですが、今後は再登校できた後も継続的に親御さんを支援する「子育てサポート」を、より多くの人たちに提供できればと思っています。再登校ができた後の悩みにも、できる限り答えていきたいと思うからです。
 子育ては本当に難しいのに、悩む親御さんたちが「こうやればいいよ」と教えてもらえる機会が日本では足りないと考えていて、そこを担うことができればいいなと思っています。


不登校は、見守るだけでは解決しない。

2024年09月20日 06時39分01秒 | 教育
「学校へ行きたくない」
とこどもが言ったとき、親はどうすべきか?

この問いに、現代の専門家の答えは、
「よし、わかった」
と言うだけよい。

子どもが「学校へ行きたくない」と言ったタイミングは、
始まりではなく終わりである、
子どもはずっとつらい思いをしてきて、
それを言いたくても言えずに来て、
やっと「イヤだ」と言えたのだから、
その気持ちを受け止め寄り添う・・・そういう考えです。

私はこの対応に頷きながらも、少し疑問も持ってきました。
私自身、学校へ生きたくない経験は中学高校を通してなかったわけではありません。
当然、当時の親はそれを叱責しました。
そしてなんだかんだありながらも、結局学校へ行きました。

はて、最適解は何?

そんなところに以下の記事が目に留まりました。
「不登校は見守るだけでは解決しない」
という意見。
興味深く読みました。

「究極の目標は子どもの人権を守ること、そのために何をするか?」
が問われていると感じました。

<ポイント>

・不登校の子どもへの支援は、寄り添う“見守り型”が主流だが、それが問題を長引かせている。大事なのは子供自身が問題に向き合い、それをサポートすることではないか。

・不登校の子供たちの支援は「見守りましょう」とか「子どものエネルギーが溜まるまで待ちましょう」という考え方に基づいたカウンセリングなどが一般的。これはロジャーズというアメリカの心理学者が始めた「来談者中心療法」というカウンセリング手法の考えに基づいている。とにかくその方の意見を聞きましょう、否定はしてはいけない、とにかく傾聴して、アドバイスをしてはいけない、という考え方。今の日本の心理カウンセリングの世界ではこの考え方が広く受け入れられており、それが不登校のお子さんへの支援においても主流になっている。

・もちろん大事なことではある一方で、「ずっと家にいたい」「勉強はしたくない」「ゲームをしていたい」という子どもたちの声を聞くべきだという、行き過ぎた解釈がされがちだという点が問題である。

・しかし「来談者中心療法」から一歩踏み込もうとすると拒否に会い、再登校へ結びつけられないジレンマがある。「来談者中心療法」は現在、日本以外では行われなくなりつつあり、それに代わり認知行動療法や応用行動分析が世界の潮流となっている。不登校であれ他の精神疾患であれ、ただただ見守るだけでは解決しない、今の日本の心理学は世界について行けていない。

・「来談者中心療法」では不登校が悪化していくケースが多い。何が悪化するかと言うと、生活習慣がどんどん乱れていったり、スマホやゲームへの依存が加速したり。そうすると運動不足にもなるし、生活習慣が乱れれば体調不良にもなるしメンタル的にも不安定になる。悪循環がたくさん起きてしまう。

・最終目標を「自立すること」に置くなら「学校に戻る」ことが第一の選択肢と考えるべきである。普通にやれば元の学校に戻れる子を、わざわざ別の環境に行かせる必要はない。フリースクールや通信制高校では学校と同レベルの生活習慣や学力がつかない。学校に行くことによって、1日の生活リズムや睡眠のリズムを整えるとか、人としてのあるべき当たり前のことができるようになる。実際問題として掛け算もできなければ漢字も読めないとなったら、仕事をすることはできない。

・「そもそも学校なんて行かなくてもいい」という考えは、必要最小限の学力があることが前提。学校には行かない、でも学力は身につけなければならないけれど、1人でそれができるかと言えば難しい。

・フリースクールの中には、子どもたちにとっては好きなことを好きなだけできる、という環境も多い。その環境に1度慣れてしまってから、朝から放課後まで授業がある学校に戻れるかって言うとかなり難しい。

・自由には責任が伴う。だから「学校なんて行かなくてもいい」と主張するのであれば、学校に行かない場合のメリットとデメリットをちゃんと理解した上でなければならない。


■ だから「学校に行かない子」が増え続ける…SNSで広がる「無理して行かなくてもいい」論に抱く"強烈な違和感"見守り、寄り添うだけでは問題が長引くだけ
小川 涼太郎:株式会社スダチ代表取締役(著書
2024.9.12:PRESIDENT Online)より抜粋(下線は私が引きました);

なぜ学校に通わない子供が増えているのか。不登校の子がいる家庭に有料の支援サービスを提供するスダチ代表・小川涼太郎さんは「不登校の子どもへの支援は、寄り添う“見守り型”が主流だが、それが問題を長引かせている。大事なのは子供自身が問題に向き合い、それをサポートすることではないか」という――。

▶ 不登校支援の主流は「見守り・寄り添い」
――文部科学省の調査によると、不登校の小・中学生は推計30万人に上っています。不登校の子供たちにどんな支援がおこなわれているのでしょうか。
「見守りましょう」とか「子どものエネルギーが溜まるまで待ちましょう」という考え方に基づいたカウンセリングなどが一般的だと思います。
これはロジャーズさんというアメリカの心理学者の方が始めた「来談者中心療法」というカウンセリング手法の考えに基づいています。とにかくその方の意見を聞きましょう、否定はしてはいけない、とにかく傾聴して、アドバイスをしてはいけない、という考え方です。
今の日本の心理カウンセリングの世界ではこの考え方が広く受け入れられているという現状があるのですが、それが不登校のお子さんへの支援においても主流になっているように思います。
――カウンセリングの手法が、そのまま不登校の子どもへの支援に結びついたという感じでしょうか。
それに加えて、「子どもたちの意見を尊重しましょう」とか「子どもの人権を大事にしましょう」といったことが叫ばれるようになった今の風潮も、背景にあると思います。
それはもちろん大事なことではあるのですが、問題は行き過ぎた解釈がされがちだという点です。そのせいで「ずっと家にいたい」「勉強はしたくない」「ゲームをしていたい」という子どもたちの声を聞くべきだという考え方がかなり広がっているんですね。
それを聞いてしまうと不登校も認める方向になってしまうのだけれど、一方で、子どもの人権を守るという考え方にはうまくフィットします。それで「そういう考え方もありだよね、分かった」と受け入れられてしまうのかなと思っています。要は、どこまで子どもたちの「○○したい」「したくない」という意見を認めるべきかという線引きが難しくなっているんです。

▶ 寄り添いではうまくいかなかった
――スダチでは再登校を目指して、子どもが問題に向き合う力を引き出すことを重視しているとうかがいました。
いきなりこの考えにたどり着いたわけではもちろんありません。不登校の子どもの支援について勉強し始めた時は、私も子どもを見守り寄り添うものだとばかり思っていました。不登校の子どもの支援に関する本にはそういう手法ばかりが書かれていて、そうするしかないのかなと思ったのです。
当時私は「メンタルフレンド」という不登校の子どもへのボランティア活動をやっていました。不登校のお子さんの家に行って、一緒に遊んで、話をたくさん聞くという、要は寄り添いですね。仲良くなって子どもたちが元気になれば、いずれは社会に出られるようになるだろうという考え方です。これは私が所属していた団体だけがやっていることではなく、自治体などいろいろなところでも行われている活動です。
ところがこのメンタルフレンドが、全くうまく行きませんでした。最終的に、そのお子さんから会いたくないと言われてしまったんです。
――どうしてそうなってしまったんでしょう。
初めの頃はゲームを一緒にやったり、いろんな話もしました。でも、「これをいつまで続けるんだろう」みたいな葛藤があったんです。で、ちょっと踏み込んだんですね。
相手のお子さんは小学5年生ぐらいから不登校だった男の子で、当時は高校1年生でした。そこで「僕も普通に社会で活動しているけれど、もともとそうだったわけじゃなくて、全然勉強しない時期もあれば、ダメダメだった時期もあった。でも紆余曲折あって今に至っているわけで、まだ高校1年生の○○君だったら全然大丈夫だし、絶対に活躍できるようになる」みたいなことを、言ったんです。それが苦しいとかうざいみたいな感じになってしまって。
寄り添うところから一歩踏み込んだ時に難しくなるんです。踏み込んだ結果「もう嫌だ」と言われたら、われわれはそれ以上支援できなくなる。
これは別に僕ひとりの話ではなくて、当時所属していた団体には、メンタルフレンドをやっている学生が10人くらいいました。そのメンバー同士でたまに会って話をしたりしていたんですが、皆さん本当にお子さんのためを思って、一生懸命努力されている方ばかりだったのに、再登校に導けたという話を聞くことはなかったんです「2年間通っていても何も変わらない」といった話もいろいろ聞いたし、僕だけならとにかく、他のメンバーもうまく行かないと言っている。それで、このやり方で支援をするのはかなり難しいのではないかと思ったわけです。
そこから他の手段をいろいろ探す中で、たまたま今のメソッドに繋がる考え方を持ってる専門家の方と出会いました。その方の考え方を聞いた時に「従来のやり方とは全く逆だけれど、これこそが答えなんじゃないか」というのが自分の中で見えたんですね。それが、今のメソッドで不登校の子どもへの支援を始めるに至ったきっかけです。

▶ 不登校の子どもが陥る悪循環
――なぜ見守りが再登校につながりにくいのでしょうか。
まず、来談者中心療法の考え方は、今では日本以外の国ではあまり主流ではないのです。科学的根拠に乏しく、実績が出るケースが少ないからです。今は認知行動療法や応用行動分析といった手法の方が主流になりつつあるのが世界の現状だと思います。
不登校であれ他の精神疾患であれ、ただただ見守るだけでは解決しないと思うのですが、今の日本の心理学は世界について行けていないのではないかと思います。
そして、不登校のお子さんを見守った場合にどうなるかと言うと、悪化していくケースが多いです。何が悪化するかと言うと、生活習慣がどんどん乱れていったりとか、スマホやゲームへの依存が加速したりします。そうすると運動不足にもなるし、生活習慣が乱れれば体調不良にもなるしメンタル的にも不安定になる。悪循環がたくさん起きてしまうんです。
見守るということは、言葉通り何もしないことだとたいていの人が解釈すると思いますが、本当に何もしないで不登校問題が解決するなら、そもそも不登校がこんなに大きな問題になってないと思うんですね。不登校が年々、増え続けているというのは、解決できるケースが少ない証拠ではないでしょうか。
――ただ、スダチのメソッドに抵抗を感じる人も少なくないようです。
それはそうですね。世の中のほとんどの人が「見守りましょう」と言っている中で、われわれの主張はなかなか信じてもらえない。われわれの言うことよりも、医師やカウンセラーが言っていることのほうがよっぽど信頼できると思うのは普通だと思います。

▶ フリースクールは解決策になるのか
――今、不登校の生徒児童の数が増える中で、保健室登校やフリースクール、通信制高校など、不登校の子どもの選択肢は増えているように思います。スダチではどのように捉えていますか。
最終的に子どもたちが社会の中で自立できればそれでいい、というのが私たちの前提であり考えです。だから、そうした学校以外の選択肢が子どもたちを自立に導いているのなら、それはそれでいいと思います。
フリースクールも、ちゃんと早起きして朝から通った上で運動も勉強もして、社会性や生活習慣など人として生きる上で当たり前に必要なこともしっかりと身に付けられるのなら、僕はいいと思うんです。ただ一方で、それを学校以外の環境で身に付けるのは現実的に難しいケースが多いと思っています。
例えばフリースクールは、一般的には登校時間も決まっておらず、勉強も別にしなくていいという感じの場所が多いです。いつ来てもいいから子どもは朝起きられなかったりするし、来ても漫画を読んだり、遊んでいるのもOKという場所も多い。先生も教員免許を持っているとは限らない、つまりきちんと勉強を教えられる人が必ずしもいないという現実もある。運動場や体育館もないから、学校と同じような環境で運動をすることも難しい。学校のように同年代の子どもたちと何か一緒にやっていく環境をつくれないところも多く、社会性を育てるのが難しい部分もある。
こういう問題が全てクリアできるようなフリースクールならいいんですが、現実としてはたぶん、難しい場所が多いと思うんですね。僕自身、運営をしていたことがあるのでフリースクールの抱える課題はよく分かります。
通信制高校も同じです。ネットコースだと年に1回くらいしか学校に行かなくていいし、提出物も答えを写して提出したら終わりといった状況もあると聞きます。だから、学力が身につくかについては難しい面があると思います。

▶ 楽な環境に慣れると学校に戻りにくくなる
そういった問題意識があるから、私たちは学校に戻るのが第一の選択肢だと考えているのです。だから、普通にやれば元の学校に戻れる子を、わざわざ別の環境に行かせる必要はないかなと思っているんです。
もちろん、再登校を目指した上でだめだった場合には、フリースクールとか他の選択肢を選んでもいいと思うのですが、今って不登校になった子ども全員に対して「学校に行くのが無理ならそっちに行っていいよ」と簡単に言いすぎるところがあるように思います。出席日数が足らないと成績がつかなくて、例えば高校への進学で苦労するといった問題も現実としてありますし。
――「学校に戻るのが第一の選択肢」なのですね。
フリースクールの中には、子どもたちにとっては好きなことを好きなだけできる、という環境も多いです。その環境に1度慣れてしまってから、朝から放課後まで授業がある学校に戻れるかって言うとかなり難しい部分があります。
それに、元々学校に戻れる状態のお子さんが不登校の状態からフリースクールに行って、そこからさらに学校に戻るとなるとハードルを2回越えなければならない。また、フリースクールを挟むと結果として元の学校に戻るまでの期間が伸びるということもあります。

▶ 「学校なんていかなくていい」論の広がり
――最近では、不登校ユーチューバーやインフルエンサーの影響を受けて、子どもの中でも「そもそも学校なんて行かなくてもいい」という考えが広まっています。この点についてはどう考えられますか。
実際問題として掛け算もできなければ漢字も読めないとなったら、仕事をすることはできないですよね。インフルエンサーが学校に行かなくてもいいと言うのは、そういうところがしっかりできていることが前提での話でしょう。学校には行かない、でも学力は身につけなければならないけれど、1人でそれができるかと言えば難しいですよね。
それに、育ち盛りの子どもなのですから運動だって必要です。インフルエンサーだって「学校なんて行かなくてもいい」とは言っているけれど、「運動しなくていい」とは言ってない。
学校に行くことによって、1日の生活リズムや睡眠のリズムを整えるとか、人としてのあるべき当たり前のことができるようになると僕は思っているんです。それを不登校の状態で、自分の意思だけで生活習慣を保つのは、大人ならとにかく、子どもには現実的に難しいと思います。
家庭のルールを決めるのは親御さんなのだから「そうなんだ、○○さんはそう言っているんだね。でもうちの家庭ではこう考えているから、うちはこのルールで行くよ」と淡々と言えばいいと思います。
子どもは家に住ませてもらって、ご飯を食べさせていただいている立場です。そして親御さんにはお子さんを守る権利がある。だから「私は学校に行くことが○○にとって大事だと思っているから」って言えばいいのです。

▶ 学校に行かないデメリットを考えさせよう
それに、自由には責任が伴います。だから「学校なんて行かなくてもいい」と主張するのであれば、学校に行かない場合のメリットとデメリットをちゃんと理解した上でなければならないと話をしましょう。
仮に、中卒で働くとなった場合にどうするかといったことを現実問題として考えたら、結構きついですよね。だから、あなたは今小学生で、仮にずっと不登校で中卒となった場合どうなるか。今の世の中って、給料を中卒と大卒で比べたら中卒のほうがずっと低いし、選べる仕事も非常に限られてくるよ、といった話をしてみてはどうでしょうか。実際にこのような話をすると、驚いて学校への意識が変わるお子さんは多いです。そのような現実を伝えたうえで、どの選択肢を選ぶかを考えようと問いかけることが大事かなと思います。
通信制の学校にいったとしても、自宅で学校と同じように勉強をできるのかを考えさせる。たぶん子どもたちも「けっこう大変そうだな」みたいな反応になると思うんですね。そういう点を考えたうえで本当に学校なんて行かなくてもいいのかを親子で話し合うのが大事かなと思います。


・・・私が常日頃感じている学校健診での違和感、
「子どもが恥ずかしがるから内科診察は着衣で」
という考えは、
「病気を早期発見し早期治療に結びつける」
とどちらが「子どもの人権を守る」という視点で優先されるべきか?
に共通する問題であるような気がします。


大対先生のかんしゃく対策

2024年08月22日 07時40分46秒 | 子どもの心の問題
他の講師(大対香奈子先生:近畿大学総合社会学部)によるかんしゃくレクチャーのメモ書きです。
専門分野は応用行動分析学。
しかし一筋縄ではいかない質疑応答では、回答の切れが悪い印象がありました。
まあ、生きているこども相手だから仕方がないかな。

▢ 消去バースト(=かんしゃく)への対応
・かんしゃくには反応しない(目も合わせない)
・激しく泣いたり暴れたりしているときは、落ちつくまで待つ
・落ちついてきたら、代わりにすべき適切な行動を促す
・促した適切な行動が少しでもできたら大げさなくらい褒める(強化)

▢ かんしゃくへの保護者のスタンス
・大人だってイライラしちゃう
・そんな時こそ子どもにモデルを示すチャンスです!
・「落ちつくための時間」を持ちましょう
 → ママも気持ちを落ちつかせてから話すね。
 → 気持ちが落ちついたから話を聞くね、待ってくれてありがとう。

▢ かんしゃく中の言動には反応しない
・かんしゃく中は大人の心を逆なでするような言動が起こることがある
(例)お母さんなんて大嫌い! 死ね!
 → 一切そのような言動には取り合わない
・まったく別の角度から新しいボールを投げる
(例)直接関係のない話題に振る、など
・感情の高ぶりが収まってから、聞いてみる;
「さっきはどんな気持ちだった?どうしたかった?」
「お母さんはさっきの言葉に傷ついたわ」

▢ かんしゃくの際のルール作りは事前に
・何がダメか、そのルールを具体的・明確にして事前に(落ちついているときに)共有しておきましょう。
✓ ヒトを傷つけること
✓ 自分を傷つけること
✓ 社会のルールを守ること


“かんしゃく”の分析と対策

2024年08月19日 07時50分45秒 | 子どもの心の問題
自治体の乳幼児健診の際に、
「他に困ったことはありませんか?」
という質問に対する答えで多いのは、
“かんしゃく”と“偏食”です。

先日、かんしゃくに関するWEBセミナーをいくつか視聴しましたので、
ポイントと思ったことをメモしておきます。

応用行動分析を用いているのが注目されます。
行動の理由は次の4つに分けられるとのこと;

物・活動の要求
回避・逃避
注目要求
感覚(自己刺激)

かんしゃくが起きた時、
その理由が4つのどれに当てはまるのか、
その都度立ち止まって考えると、
具体的な対策が思い浮かぶかもしれません。
例示されていたそれぞれの対策は、

① 事前のお約束、良い行動が少しでもできてからものを渡す。
② 子どもが良い行動をしているときに声かけ。
③ やること(課題)の調整(量・レベルを下げる)、適切な発散方法を増やす。

という解説でした。

また、かんしゃくを起こしやすい子どもは
“興奮レベルの振れ幅が大きい”
という表現を興味深く聞きました。
小児科医である私はかんしゃくの相談を受けたときに漢方薬を処方しているのですが、
有効例のご家族から、
「感情の振れ幅が小さくなりました」
と報告されることが多いので、実感があります。

▢ “かんしゃく”とは?
興奮を伴う混乱状態により発生する過度な行動
(例)
 ✓ 声を荒げて泣く
 ✓ 激しく奇声を発する
 ✓ 手足をバタバタする
 ✓ 床に寝転がる
 ✓ モノを投げる
 ✓ 足を踏み鳴らす

▢ かんしゃくのキッカケ
生理的な不快感にもとづくかんしゃく
(例)眠い、お腹が空いた
学習性のかんしゃく
(例)幼稚園に行きたくない

▢ かんしゃくは氷山の一角
・周囲から見えるのは“かんしゃく”だけであるが、
 そのバックグラウンドには以下のことが隠れている;
 ✓ 友達とのコミュニケーションがうまくできない。
 ✓ 大人にかまって欲しい
 ✓ 運動面の不器用さがある
 ✓ こだわりが強い

▢ かんしゃくにおける“個”の問題
・その子の特性
 ✓ 性格
 ✓ くせ
 ✓ 好み
 ✓ 感覚
 ✓ 身体的特徴
 ✓ 情報の認知
 ✓ 情報処理の仕方 など
・獲得できるスキル
 ✓ 学習力
 ✓ コミュニケーション力
 ✓ スケジュール管理力
 ✓ セルフコントロール力
 ✓ 金銭管理力 など

▢ かんしゃくにおける“環境”の問題
・ヒト
 ✓ 家庭、教育機関
 ✓ 地域や周囲の理解
 ✓ サポート体制
 ✓ 福祉的サポートサービス など
・場所・モノ
 ✓ 広さへの配慮
 ✓ 音への配慮
 ✓ 視覚的・聴覚的補助
 ✓ 学習の補助アイテム活用
 ✓ 部屋の明るさへの配慮 など

▢ “個”と“環境”の間にある困難さ
・コミュニケーションが難しい
・かんしゃくが起きる
・落ち着きがない
・自分の気持ちを伝えにくい
・感情のコントロールが難しい
・読み書きなど、勉強が苦手
・切り替えることが難しい
・なかなか自信や意欲が持てない

▢ かんしゃくの理由〜応用行動分析学の世界〜
・かんしゃくが起きる理由は大きく分けて4つ〜どの理由からかんしゃくが起きているのか把握しよう
物・活動の要求:物や活動を獲得するための要求
(例)欲しい!見たい!やりたい!
回避・逃避:イヤなことが生じたときにイヤなことから逃れるための行動
(例)つまんない、飽きた!やりたくないよ〜、ムリ!
注目要求:他者からの注目がないときに注目を集める行動
(例)見て見て、すごいでしょ!困っているのに気づいて!
感覚(自己刺激):刺激がないときに自分の好きな刺激を入れる行動
(例)こうしていると落ちつく〜、だって楽しいんだもん!
〜これらが判明したら、それを解消する対策を取ろう

▢ かんしゃくと興奮のメカニズム
・ヒトの興奮レベルは常に変動している。
興奮レベルの振れ幅が大きい子どもは、
 興奮が繰り返し起きやすくなる。

▢ “したいことを伝える”方法いろいろ
・興奮して感情的になっていると、
 複雑なことができなくなってしまう、
 ふだんできていることもできなくなってしまう。

(複雑)         ふだん   興奮時
 ↑  交渉する     できない  できない
    理由を伝える   できない  できない
    文章で伝える   できない  できない
    短文で伝える   できる   できない
    単語で伝える   できる   できない
    指さす      できる   できる
 ↓  叩く・叫ぶ    できる   できる
(容易)

▢ 興奮につながる要因
・子どもの個性や現状スキル
 ✓ 体力、身体発達の未熟さ
 ✓ 過敏性
 ✓ 特性:こだわりの強さ、気持ちのコントロールが難しい、
     友人関係がうまくいっていない
     他者と自分の意図を合わせるのが苦手 など
・環境
 ✓ 頑張らなければいけない環境
 ✓ 友人関係がうまくいっていない
 ✓ 疲れている など

▢ かんしゃく発生時にしてはいけないNG対応
1.興奮を高める対応は避ける
・かんしゃく時の発言は「発散」としていっているだけかも・・・
 → まともに取り合わない方がよい
・子どもにつられて親も爆発!
 → 子どものかんしゃく状態と同じ?

▢ かんしゃく発生時の対応その1〜まずは安全確保(環境調整)が何よりも大事!
✓ 怪我をしないように物をどける、場所を移動する。
✓ 壁に頭を打ち付ける等の場合は、間にクッションを置くなどの工夫。
✓ 子どもだけでなく、保護者や兄弟などの安全も確保する、など。

▢ かんしゃく発生時の対応その2〜対応の基本はクールダウン興奮を低下させ、適度に落ちついた状態(中庸)に)する
興奮を引き起こす刺激をなくす/減らす
・多少のことはスルー(売り言葉に買い言葉はNG)、ただし無視だけで対応しようとしない。
・再燃させる刺激がなければ、時間経過により落ちついていく。
 クールダウンルームやスペースを利用する。
※ 話しかける関わりも興奮につながることがあるので、
 安全な場所で放っておくことも手立て。
・訴えてきても、イヤな気持ちに対する共感のみ(要求には反応しない
落ちつくことにつながる活動をしてもらう
・水を飲んだり、深呼吸したり、ぬいぐるみを抱いたりする。
・別の活動をして気をそらす。
・単調なことをする(プチプチを潰す、数字を数える、など)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその1
・感情は伝染するので、巻き込まれてしまうのはある意味自然。
・保護者自身もふだんできていることが興奮してできなくなっている。
(例)子どもへの伝え方
 (複雑)             (ふだん)  (興奮時)
  ↑  折り合うポイントを探す   できない   できない
     学んだ対応をする      できる    できない
     簡潔に伝える        できる    できない
     手を取ってやらせる     できる    できる
  ↓  叩く・怒鳴る        できる    できる 
 (容易)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその2
〜ふだんから意識をして落ちつく方法を決めておく。
 疲れをためないように自分の時間を作る。
① アンガーマネジメント
・関わる前にゆっくり10数える。
・一回深呼吸する。
・水を飲む、など。
② 余暇や自分の時間の確保
・自分なりのリラックス方法
・自分なりの発散方法

▢ かんしゃくを減らす取り組みの基本的な考え方
・かんしゃくを減らすのではなく、
 その他の望ましい行動を増やすことで、
 結果的にかんしゃくの出現頻度が下がっていく。
・かんしゃくはすぐにはなくならない、
 半年前、1年前に比べると「少しはましになったかな?」でOK。

▢ かんしゃくを減らす具体的な取り組み
① 子どもの“できる”を増やす。
② 楽しく過ごせる場所や活動を増やす。
・楽しめることの選択肢が少ない場合や疲れているときは、
 かんしゃくや興奮が起きやすい。
・余暇やリフレッシュの時間を作る、子どもが楽しめる習いごとをする、など。


子どもの夜尿症

2024年08月02日 19時23分53秒 | 育児
小児科開業医の当院には、
1年に数人ペースで夜尿症の相談があります。

夜尿症とは、膀胱に貯められる尿量(膀胱容量)を夜間つくられる尿量(夜間尿)が上回り、
あふれてしまう状態です。

乳幼児期は、
(膀胱容量)<(夜間尿)
ですが、小学校に上がる頃には
(膀胱容量)>(夜間尿)
となり、夜尿は消えていきます。

しかし中には、
1.膀胱容量が小さいまま
2.夜間尿が多い
ため、この逆転が起きずに夜尿が残ることがあります。

当院での治療は、
1 → アラーム療法を提案
2 → 薬物療法(ミニリンメルト®)
が基本です。

おっと、その前に大切な生活指導がありました。
それは「水分の摂り方」です。

飲んだ水分は約3時間後に尿となって排泄されます。
ですから、寝る時刻の前3時間は水分を制限していただきます。
もちろん、喉が渇いて眠れない、というのはやり過ぎ。
夕食の味を薄めにして、夕食後のがぶ飲みを予防しましょう。

小児夜尿症の解説記事を見つけました。
知識のアップデート目的で読んでみました。
ポイントを記しておきます。
…気づいたのですが、著者(インタビューを受けた今西Dr.)はアラーム療法を第一選択としている様子、薬物療法(ミニリンメルト®)は第二選択に位置づけられています。これも時代の流れかなあ。

<ポイント>
・子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない、これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまう。
・徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。
・気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。
・5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。「5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合」「1週間に4日以上のおねしょは“頻回”」。
・日本では夜尿症は7歳でも有病率は10%程度。
・治療では、主に生活指導。投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まる。
・生活指導の内容は、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限、夜寝る前に、必ずトイレに行く(2度行かせるという専門家の意見もあります)。
・アラーム療法はパンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すもの、これを繰り返して子ども自身がおねしょに気がつくようにすると、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れる。
・アラーム療法の効果が今ひとつの場合は薬物療法を考慮する、デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬する。この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になり、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しい。
・昼間のおもらしは“意識がある状態での排尿”であり、夜尿とは別の病態と考えるべきである。


■ 夜尿症」 5歳でも1ヵ月以上続く場合が受診目安 専門家ふらいと先生が解説
#1 受診が必要な「夜尿症」について
小児科医・新生児科医:今西 洋介
2024.03.25:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 幼稚園や保育園、学校への進学が気になる時期や、お泊り保育、林間学校などの泊まりがけのイベント前などに気になってくるのが「おねしょ」や「おもらし」。進学前になんとかしなくては、と焦る保護者の方も多いのではないでしょうか。・・・そこで今回は今西先生に、おねしょとおもらしについて解説してもらいました。
 1回目は「おねしょはどうして起きるのか」について。症状が起きる原因や、日中のおもらしと夜間のおねしょの違いなどについてお聞きしました。

<目次>
  • 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
  • 「おねしょ」と「おもらし」の違い
  • 「5歳」が受診の目安
▶ 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
──進学・入学の時期が近づくと、「おねしょ」や「おもらし」について気にしだす親御さんが多くなります。でも、「おねしょだし、そのうち成長すれば治るかな」と思う方も多いと思うのですが、そもそも、おねしょはどうして起きるのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):尿が膀胱に溜まって、膀胱が大きくなると神経が刺激されて尿意を感じるようになります。でも、子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない場合があります。これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまうのです。
 とはいえ2歳ごろまでは、排尿を上手にコントロールできないので、反射的にしてしまいます。だからおねしょは当たり前のことなんです。
 でも、4歳ごろには徐々にコントロールができるようになり、親が「トイレに行こうね」と促したりすれば、昼も夜も漏らすことは少なくなります。そうして徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。

▶ 「おねしょ」と「おもらし」の違い

──夜間の「おねしょ」と、昼間に漏らしてしまう「おもらし」では違いがあるのでしょうか?

今西先生:昼間の「おもらし」もおねしょと同様に、大きくなって排尿・膀胱の機能が発達していくことで改善する場合が多いですね。夜間の「おねしょ」と同じように、2~3歳ごろには少しずつおもらしもなくなっていきます。
 身体の発達と同じように、排尿・膀胱機能の発達にも個人差があるので、「3歳なのにおもらしをしている」「なかなかおむつがはずせない」と焦ることはないでしょう。
 ただ、気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。これは便を漏らしてしまうのも同様です。
 5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。この場合、おねしょの場合は「夜尿症」、おもらしの場合は「尿失禁症」の可能性があります。

▶ 「5歳」が受診の目安

──ではまず、親としては「5歳」というのが受診の目安と考えて良いのでしょうか?

今西先生:そうですね。夜尿症には明確なガイドラインがあって、『5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合』、そして『1週間に4日以上のおねしょは“頻回”』といわれています。
 日本では、調査によると夜尿症は7歳でも有病率は10%程度と報告されています。つまり、1クラスのうち約3人は夜尿症の子がいるという計算です。
 幼稚園の年長さんや、小学校に上がってもおねしょをしているというのは、なかなか保護者としても周りに相談しにくいでしょう。さらに子ども自身も、お泊まり保育でオムツを持っていかなくてはいけないというのは、子どもの自尊心が傷つくことになります。これが高学年になれば、なおのこと子どもの心は傷つくはずです。
 実際、小学校の2~3年生くらいで「おねしょが続いているから受診しよう」と考える方は比較的少なく、林間学校が行われる4~5年生ぐらいになって、そのとき初めて親も子どもも受診しようと考えるご家庭が多いです。
 受診後の治療では、主に生活指導になります。また症状によっては、投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より、治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まるといわれています。
 確かに昔は、おねしょは“ときがくれば治る”という考えもありました。しかし、放っておいても治らない「夜尿症」だと、治療が必要な場合もあるということ。そして、月に2~3回のおねしょだから」と放っておかずに、5歳を過ぎてもおねしょが続いているようなら、ぜひ受診を考えてみてくださいね。・・・

■ おねしょが続く「夜尿症」 3つの治療法「生活指導」「アラーム法」「投薬治法」
#2 「夜尿症」の治療について
小児科医:今西 洋介
2024.03.26:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・今回は「夜尿症」の治療法についてです。生活指導、アラーム法、投薬治法の3つの治療法を、今西先生に詳しくお話しいただきました。

<目次>
  • 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
  • アラーム療法と投薬での治療法
  • 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
▶ 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
──・・・実際に、病院ではどのような治療をするのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):最初は生活指導を行います。診察時に話を聞いていると、子どもによっては、寝る前にかなりの量のお水やお茶を飲んでいるという子が結構いるんですよね。これではもちろん、夜間におしっこが出てしまいます。
 ですので、生活指導では、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限をしてもらいます。また、夜寝る前に、必ずトイレに行くこと。そして毎日の排便の習慣や、早寝早起きといった生活リズムを整えることの重要性も伝えていきます。実はこれだけで改善をする子もいるんですよ。

▶ アラーム療法と投薬での治療法
今西先生:生活指導だけで改善が見られない場合は、「ピスコール」というアラーム療法を取り入れます。
 具体的には、パンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すものです。
 これを繰り返して、子ども自身がおねしょに気がつくようにします。このアラーム療法を行っていくと、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れるように。しかし、それでも難しい場合は投薬を考えます。

──投薬をすると、具体的にどのような作用が体に起きるのでしょうか?

今西先生:デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬します。
 例えば、水を飲んだら間髪入れずにおしっこが出てしまうようでは生活できませんよね。そうならないため、人間の体の中では抗利尿作用ホルモンが働いて、利尿を妨げる働きをしています。デスモプレシンはこの働きを薬にしたもので、持続的な尿量の調整が可能になります。
 ただ、この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になります。ですから、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しいです。

▶ 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
──夜尿症で悩む保護者にとっては、投薬で尿量が調節できて、親も子も安心して夜眠れるというのは大変うれしいと思います。でも一方で、投薬となると副作用のことも気になります。

今西先生:そうですよね。実はこの薬は副作用が強く、「水中毒」になる可能性があります。・・・寝る前に水分を規定以上飲んだ上に、薬を摂取することで、さらに体内に水分をとどめてしまう。そして、血液中のナトリウム濃度が低くなり、水中毒が起きるのです。そこで、水分摂取量の管理について保護者が気を配る必要が出てきます。

──たとえば夜尿症ではなく、昼間にも漏らしてしまうような場合でもこのお薬は効果があるのでしょうか?

今西先生:日中漏らしてしまうというのは、実は夜のお漏らしとはまた別と考えたほうがいいでしょう。
 というのも、前回の記事でもお話ししたように、日中は寝ているときとは違い、意識がはっきりしています。そういう状態でもおしっこを漏らしてしまうというのは、自分で排尿のコントロールができなくなっているということです。この場合はデスモプレシン(ミニリンメルト)ではなく別のお薬が必要になってきます。

──ということは、日中と夜間のおもらしは別のものと認識して、病院へ受診する際に伝えたほうがいいということですね。ちなみにほかに保護者が気をつけておくべき点はありますか?

今西先生:生活指導やアラーム療法、投薬で夜尿症が一度は治ったのに、半年後など間隔を空けてまた症状が出てしまうパターンがあります。この場合、夜尿症ではなく、例えば糖尿病や脳腫瘍、甲状腺の病気などの病気が隠れていることも考えられます。「おねしょがまた再開した」と気軽に考えず、再度受診をするようにしましょう。・・・

■ 「夜尿症」は育て方や子どもの性格が問題ではない 
#3 「夜尿症」を悪化させてしまう要因を取り除くには?
小児科医・新生児科医:今西 洋介
2024.03.27:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・最終回となる3回目は、「夜尿症」に悩む家庭が心掛けるべきことについてお聞きしました。

<目次>
  • 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
  • おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
  • トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
▶ 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
──どんな子どもでもおねしょをした経験はあるのに、自分の子どもが夜尿症になってしまうと、「わたしの育て方が悪かったのかな」と、つい考えてしまうものです。
 子どもと接する時間が長いからこそ、保護者が自分のせいだと責めてしまい、親子にとって夜尿症がよりつらいものになっているように思います。

今西洋介先生(以下、今西先生):「私がオムツを外すことにプレッシャーをかけたからかも……」など、保護者の方が受診時にお話しされることがあります。
 でも、夜尿症は親の育て方や、子どもの性格などが原因ではありません。1回目でもお伝えしたように、膀胱の収縮や尿道括約筋の緊張・弛緩を司る神経は未発達なこと、夜間の尿量が多い、睡眠から覚醒できないということが原因です。ですから必要以上にお母さん、お父さんが自分、そして子どもを責めることはありません。
 夜尿症は身体の発育に関係する部分も多く、治療にかかる期間もそれぞれ。決して焦る必要はないのです。ですから周囲と比較する必要もないですし、見守る気持ちで治療をしていきましょう。

▶ おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
──子育てと一緒ですね。それぞれの子どもに個性や特性があって、成長を見守るように、夜尿症も子ども自身のペースを見守って、一緒に伴走してあげることが大切なんですね。

今西先生:そうですね。そして見守ってあげることと同じくらい大切なのが「𠮟らないこと」です。頻繁におねしょをされると親の負担は本当に大変ですよね。
「なんでまたおねしょしたの!」とつい言ってしまう気持ちもわかります。でも、𠮟られることで子どもは排尿時に緊張するようになってしまい、夜尿症が悪化することも。
 できる限り𠮟らずに、おねしょをしなかったときはほめてあげて、子どもに自信をつけてあげるといいでしょう。

──お話をお伺いすると夜尿症では精神的な影響が大きいように思いました。

今西先生:𠮟らない、ということも大切ですが、同時に子どもが置かれている状況で受けるストレスというものも考える必要があります。
 実は受験のストレスや親の離婚などが引き金となって、夜尿症が起きることもあるのです。身体的な発育に加え、子どもの心にストレスがかかっていないかということを考えてみることも必要でしょう。

――受験のストレスで引き起こされる夜尿症というと、やはり大きくなってもなかなか治らない場合もあるのでしょうか?

今西先生:ほとんどのお子さんは、成人するまでに治ると言われていますが、15歳以上でも1~2%程度の子は夜尿症があるといわれていて、稀に成人しても続くケースはあります。小さいうちでもかなりおねしょの頻度が高いのであれば、早めに受診をすることをやはりおすすめしますね。

▶ トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
──ちなみに2~3歳ごろのお子さんを抱えているお母さん・お父さんは、オムツをはずすトイレトレーニングを始めるかと思うのですが、その際にあえておしっこでオムツが濡れる感覚を覚えさせたります。しかし、このことで夜尿症を引き起こすということはないのでしょうか?

今西先生:オムツを外すトイレトレーニングをする中で、お尻が濡れる感覚に慣れて遊び続けてしまう子どももいるかもしれませんね。でも、それが夜尿症を引き起こすということはないでしょう。
 逆に、夜尿症だからといってオムツを履かない年齢なのにオムツを履かせるのは、子どもも嫌がるのであれば、あまりおすすめはしません。おねしょシーツなどを敷いて、寝具などが濡れない対策をとりましょう。そして、お母さん、お父さんは「応援しているよ」という気持ちを子どもにきちんと伝えてあげてほしいと思います。
 特に、子どもの年齢が大きくなると「自分だけおねしょをして恥ずかしい」「親に迷惑をかけている」という不安や劣等感を抱くようになります。オムツを外すトレーニングのときに、「トイレでおしっこできたね、えらいね!」と褒めてあげたように、まずは子どもの不安を取り除いてあげましょう。
 そして、そういった親の心のケアがベースにあった上で、さらに親と子ども本人の「治したい」という気持ちが大切になってきます。治すには、生活習慣を見直したり、飲水の制限をしたりと、いろいろ地道な努力が必要ですが、焦らずに取り組んでいってください。・・・