最高血圧が「年齢+90」以下なら正常とされていた60年代…実は科学的根拠の信頼度が低い現代の基準値「140/90」にこだわる危険性
集英社オンライン
一部抜粋
「140を超えたらどんな人でも高血圧!?
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」では、上が130〜139㎜Hg(以下単位省略)かつ(または)下が85〜89の場合、「正常高値血圧」とみなされます。つまり、高血圧予備軍ということですね。
それを超えると、数値ごとに「Ⅰ度高血圧」「Ⅱ度高血圧」「Ⅲ度高血圧」「(孤立性)収縮期高血圧」と分類が変わっていきます。が、要は上が140、下が90を超えると、太っていようが痩せていようが背が高かろうが低かろうが、一括りに高血圧とみなされ、「下げないと危ないですよ」と薬を処方される。それが今の高血圧事情です。
では140または90を超えた人は、本当に不調が起きているのでしょうか?
おそらく、高血圧と診断されたほとんどの方が「わからない」と答えるのではないかと思います。かくいう私ですら、上が148、下が94という平均値ですが、いたって健康です。もちろん薬も飲んでいません。それもそのはずで、現代の高血圧の設定値が低すぎるからなのです。
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昔は最高血圧が「年齢+90」以下なら正常だった
ではなぜこのように高血圧の設定値が低く定められているのでしょう?
実を言うと、かつての高血圧の設定値は今ほど低くはありませんでした。1960年代後半に日本の医学部で最も広く使われていた『内科診断学』という教科書には、「日本人の年齢別平均血圧」の算出法として、「最高血圧=年齢+90」という算式が載せられていたのです。つまり今60歳の人なら「60+90」という計算になり、最高血圧が150以下なら正常血圧とみなされていたということ。70歳なら160以下、80歳なら170以下で正常です。
ところが1999年にWHO(世界保健機関)とISH(国際高血圧学会)が「140/90以上は高血圧」と定義しました。すると日本高血圧学会もこれにならい、2000年に「140/90以上」を高血圧とし、目標数値を「130/85未満」にまで引き下げたのです。
しかしこの時点ではまだ、70歳代の最高血圧の目標値は150〜160、80歳代では160〜170と、年齢によって幅をもたせていました。ところが2003年になると、日本高血圧学会はこの年齢別の数値も撤廃。何歳だろうが一律に、140/90以上で降圧剤を処方する、としたのです。
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実は科学的根拠の信頼度が低い
140/90という基準値
その一方で日本人間ドック学会は、2014年に「新たな健診の基本検査の基準範囲」で、健康な男女グループの血圧上限値を、最高血圧で147、最低血圧で94としました。このため「高血圧の基準がゆるくなった」と報道されたりもしたものですが、これに対して日本高血圧学会は「科学的根拠の信頼度が低い」と強く反論したのです。
しかし、やみくもに血圧を下げることが必ずしも健康をもたらすわけではない、という科学的根拠が出てきていることもあってか、同じく2014年に日本高血圧学会は、若年・中年層の降圧目標を130/85未満から140/90に引き上げています。また後期高齢者に関しても、降圧目標を150/90と引き上げました。
それでもまだまだ厳しすぎる目標値です。さらに困ったことに、このように目標値が引き上げられた後も、多くの医者は相変わらずそれまでの数値を採用していて、140を超えたら「はい、高血圧です」と降圧剤を処方しているのです。
ですからもし血圧が高くなってきたとしても、「医者が高血圧と言ったから」と素直に従って薬を飲むのではなく、運動を取り入れたり生活習慣の改善を図ったりして、まずは自分で血圧を下げる努力をしてほしいと思うのです。薬を飲むのは、それでも下がらなかったときで遅くはありませんから。
下の血圧が高いと動脈硬化になりやすい?
「上の血圧は120台で正常なんだけど、下が90を超えていて高いんだよね」などといった話を耳にしたことはありませんか?医療業界とはあの手この手で私たちを脅してくるもので、最高血圧が正常なら、今度は「最低血圧が高いから危ないですよ」と薬を飲ませようとします。ですがお伝えしておきたいのは、最低血圧だけを下げる薬はないということ。降圧剤を飲めば当然、正常である最高血圧も下げてしまうことになるので、非常に危険なのです。
よく、最低血圧が高いのは末梢の血管の流れが悪くなっているからだと言われます。でも私はそれよりも、血圧計の使い方が間違っている場合がほとんどだと感じています。血圧計には正しい使い方の説明書はついていますが、字が小さくてわかりにくく、多くの人はきちんと読まないもの。
そのため腕をきつく締めすぎたり、腕の高さが心臓と同じ高さになかったりして、測るたびに違う数値が出るのです。「下の血圧が高いから」と病院に行く前に、一度説明書を読み直して、正確な測定をしてみてください。
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最高血圧と最低血圧の差って
気にしたほうがいい?
また、最高血圧と最低血圧の差の大小を気にされる方もけっこういらっしゃいます。たとえば120/90などと差が狭めだったり、反対に150/80と極端に差が広かったりすると、「何か不調が起こっているのでは?」と不安になりますよね。
もちろん最高血圧と最低血圧の差も、人によって違います。若いときは心臓のポンプ力が強いので差が狭い傾向がありますし、反対に60歳を過ぎるくらいから最高血圧が上がってくるため、差が広がってくる傾向があります。
ですからあまり神経質になる必要はないのですが、一応の目安としてお伝えしますと、血圧の差がだいたい40〜60の範囲に収まっているなら、とくに心配する必要はありません。差が狭い場合も、最高血圧が正常範囲内なら、あまり気にしなくていいでしょう。
ですが、あまりに差が狭い、または広い状態が続く場合は、一度病院に行ってきちんと測ってもらってください。とくに差が80以上ある場合は、心臓がうまく作動していない可能性がありますので、心臓の検査を受けられたほうがよいかもしれません。ただ、こちらも多くは血圧計の使い方が間違っている場合が多い。やはり、病院に行く前に一度説明書をきちんと読んで、測り直してほしいと思います。
体格が違えば、適正血圧の値が違うのが当然!
むやみに高血圧を恐れる必要がない理由は、他にもいろいろあります。その一つに、〝血圧の個性〟があります。人間には、大きい人小さい人、太い人や細い人がいて、みなそれぞれ違いますから、当然、適正な血圧も人によって違います。
上が140ぐらいでちょうどいいという人もいれば、反対にいつも上が90ぐらいしかないという人もいる。つまり、血圧にも個性があるのです。それを「はい、140以上は高血圧ですよ」とバチッと切ってしまうのはどうなのでしょう?
以前に、私の著書『薬に頼らず血圧を下げる方法』を読んだ方が、感想としてこんなことを書いていました。「薬を飲むといったん血圧は下がるのだけど、またすぐに上がってくる。もしかしたら薬を飲む前の血圧が自分にとっての正常値で、体が元に戻そうとしているんじゃないかな」と。これを読んだとき私は思わず「その通り!!」と口にしていました。そう、薬が効かないのではなくて、むしろ元に戻す機能が働いている健康体なのです。
シドニーオリンピック・女子マラソンの金メダリストとして有名な高橋尚子さんは、心拍数が30回台だったと聞きます。普通の人が、だいたい60〜75回ですから、心臓のポンプ力が相当強いということ。当然、血圧もかなり低いことでしょう。それが高橋さんの血圧の個性。もともと心臓が強く、血管も柔らかく血液が流れやすいからこそ、42・195キロもの長距離をあれだけの速さで走れたのだと思います。
ですから私たちも、降圧体操を行ってNO(エヌオー:血管内で発生し、血管を柔らかくする物質)の分泌を増やせば、しなやかな血管を手に入れることができるのです!
加藤雅俊(かとう まさとし)
薬剤師/薬学研究者/ミッツ・エンタープライズ(株)代表取締役社長/JHT日本ホリスティックセラピー協会会長/JHT日本ホリスティックセラピストアカデミー校長
薬に頼らずに、食事や運動、東洋医学など、多方面から症状にアプローチする、「ホリスティック」という考え方を日本で初めて提唱。現在もその第一人者である。大学卒業後、ロシュ・ダイアグノスティックス(株)研究所にて血液関連の研究開発に携わった後、起業。著書に『こう食べれば身体が変わるアミノ酸食事術』『1日3分!血圧と血糖値を下げたいなら血管を鍛えなさい』(ともに講談社)など多数。著書累計は250万部を超える。
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一部抜粋
「140を超えたらどんな人でも高血圧!?
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」では、上が130〜139㎜Hg(以下単位省略)かつ(または)下が85〜89の場合、「正常高値血圧」とみなされます。つまり、高血圧予備軍ということですね。
それを超えると、数値ごとに「Ⅰ度高血圧」「Ⅱ度高血圧」「Ⅲ度高血圧」「(孤立性)収縮期高血圧」と分類が変わっていきます。が、要は上が140、下が90を超えると、太っていようが痩せていようが背が高かろうが低かろうが、一括りに高血圧とみなされ、「下げないと危ないですよ」と薬を処方される。それが今の高血圧事情です。
では140または90を超えた人は、本当に不調が起きているのでしょうか?
おそらく、高血圧と診断されたほとんどの方が「わからない」と答えるのではないかと思います。かくいう私ですら、上が148、下が94という平均値ですが、いたって健康です。もちろん薬も飲んでいません。それもそのはずで、現代の高血圧の設定値が低すぎるからなのです。
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昔は最高血圧が「年齢+90」以下なら正常だった
ではなぜこのように高血圧の設定値が低く定められているのでしょう?
実を言うと、かつての高血圧の設定値は今ほど低くはありませんでした。1960年代後半に日本の医学部で最も広く使われていた『内科診断学』という教科書には、「日本人の年齢別平均血圧」の算出法として、「最高血圧=年齢+90」という算式が載せられていたのです。つまり今60歳の人なら「60+90」という計算になり、最高血圧が150以下なら正常血圧とみなされていたということ。70歳なら160以下、80歳なら170以下で正常です。
ところが1999年にWHO(世界保健機関)とISH(国際高血圧学会)が「140/90以上は高血圧」と定義しました。すると日本高血圧学会もこれにならい、2000年に「140/90以上」を高血圧とし、目標数値を「130/85未満」にまで引き下げたのです。
しかしこの時点ではまだ、70歳代の最高血圧の目標値は150〜160、80歳代では160〜170と、年齢によって幅をもたせていました。ところが2003年になると、日本高血圧学会はこの年齢別の数値も撤廃。何歳だろうが一律に、140/90以上で降圧剤を処方する、としたのです。
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実は科学的根拠の信頼度が低い
140/90という基準値
その一方で日本人間ドック学会は、2014年に「新たな健診の基本検査の基準範囲」で、健康な男女グループの血圧上限値を、最高血圧で147、最低血圧で94としました。このため「高血圧の基準がゆるくなった」と報道されたりもしたものですが、これに対して日本高血圧学会は「科学的根拠の信頼度が低い」と強く反論したのです。
しかし、やみくもに血圧を下げることが必ずしも健康をもたらすわけではない、という科学的根拠が出てきていることもあってか、同じく2014年に日本高血圧学会は、若年・中年層の降圧目標を130/85未満から140/90に引き上げています。また後期高齢者に関しても、降圧目標を150/90と引き上げました。
それでもまだまだ厳しすぎる目標値です。さらに困ったことに、このように目標値が引き上げられた後も、多くの医者は相変わらずそれまでの数値を採用していて、140を超えたら「はい、高血圧です」と降圧剤を処方しているのです。
ですからもし血圧が高くなってきたとしても、「医者が高血圧と言ったから」と素直に従って薬を飲むのではなく、運動を取り入れたり生活習慣の改善を図ったりして、まずは自分で血圧を下げる努力をしてほしいと思うのです。薬を飲むのは、それでも下がらなかったときで遅くはありませんから。
下の血圧が高いと動脈硬化になりやすい?
「上の血圧は120台で正常なんだけど、下が90を超えていて高いんだよね」などといった話を耳にしたことはありませんか?医療業界とはあの手この手で私たちを脅してくるもので、最高血圧が正常なら、今度は「最低血圧が高いから危ないですよ」と薬を飲ませようとします。ですがお伝えしておきたいのは、最低血圧だけを下げる薬はないということ。降圧剤を飲めば当然、正常である最高血圧も下げてしまうことになるので、非常に危険なのです。
よく、最低血圧が高いのは末梢の血管の流れが悪くなっているからだと言われます。でも私はそれよりも、血圧計の使い方が間違っている場合がほとんどだと感じています。血圧計には正しい使い方の説明書はついていますが、字が小さくてわかりにくく、多くの人はきちんと読まないもの。
そのため腕をきつく締めすぎたり、腕の高さが心臓と同じ高さになかったりして、測るたびに違う数値が出るのです。「下の血圧が高いから」と病院に行く前に、一度説明書を読み直して、正確な測定をしてみてください。
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最高血圧と最低血圧の差って
気にしたほうがいい?
また、最高血圧と最低血圧の差の大小を気にされる方もけっこういらっしゃいます。たとえば120/90などと差が狭めだったり、反対に150/80と極端に差が広かったりすると、「何か不調が起こっているのでは?」と不安になりますよね。
もちろん最高血圧と最低血圧の差も、人によって違います。若いときは心臓のポンプ力が強いので差が狭い傾向がありますし、反対に60歳を過ぎるくらいから最高血圧が上がってくるため、差が広がってくる傾向があります。
ですからあまり神経質になる必要はないのですが、一応の目安としてお伝えしますと、血圧の差がだいたい40〜60の範囲に収まっているなら、とくに心配する必要はありません。差が狭い場合も、最高血圧が正常範囲内なら、あまり気にしなくていいでしょう。
ですが、あまりに差が狭い、または広い状態が続く場合は、一度病院に行ってきちんと測ってもらってください。とくに差が80以上ある場合は、心臓がうまく作動していない可能性がありますので、心臓の検査を受けられたほうがよいかもしれません。ただ、こちらも多くは血圧計の使い方が間違っている場合が多い。やはり、病院に行く前に一度説明書をきちんと読んで、測り直してほしいと思います。
体格が違えば、適正血圧の値が違うのが当然!
むやみに高血圧を恐れる必要がない理由は、他にもいろいろあります。その一つに、〝血圧の個性〟があります。人間には、大きい人小さい人、太い人や細い人がいて、みなそれぞれ違いますから、当然、適正な血圧も人によって違います。
上が140ぐらいでちょうどいいという人もいれば、反対にいつも上が90ぐらいしかないという人もいる。つまり、血圧にも個性があるのです。それを「はい、140以上は高血圧ですよ」とバチッと切ってしまうのはどうなのでしょう?
以前に、私の著書『薬に頼らず血圧を下げる方法』を読んだ方が、感想としてこんなことを書いていました。「薬を飲むといったん血圧は下がるのだけど、またすぐに上がってくる。もしかしたら薬を飲む前の血圧が自分にとっての正常値で、体が元に戻そうとしているんじゃないかな」と。これを読んだとき私は思わず「その通り!!」と口にしていました。そう、薬が効かないのではなくて、むしろ元に戻す機能が働いている健康体なのです。
シドニーオリンピック・女子マラソンの金メダリストとして有名な高橋尚子さんは、心拍数が30回台だったと聞きます。普通の人が、だいたい60〜75回ですから、心臓のポンプ力が相当強いということ。当然、血圧もかなり低いことでしょう。それが高橋さんの血圧の個性。もともと心臓が強く、血管も柔らかく血液が流れやすいからこそ、42・195キロもの長距離をあれだけの速さで走れたのだと思います。
ですから私たちも、降圧体操を行ってNO(エヌオー:血管内で発生し、血管を柔らかくする物質)の分泌を増やせば、しなやかな血管を手に入れることができるのです!
加藤雅俊(かとう まさとし)
薬剤師/薬学研究者/ミッツ・エンタープライズ(株)代表取締役社長/JHT日本ホリスティックセラピー協会会長/JHT日本ホリスティックセラピストアカデミー校長
薬に頼らずに、食事や運動、東洋医学など、多方面から症状にアプローチする、「ホリスティック」という考え方を日本で初めて提唱。現在もその第一人者である。大学卒業後、ロシュ・ダイアグノスティックス(株)研究所にて血液関連の研究開発に携わった後、起業。著書に『こう食べれば身体が変わるアミノ酸食事術』『1日3分!血圧と血糖値を下げたいなら血管を鍛えなさい』(ともに講談社)など多数。著書累計は250万部を超える。