小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

監禁物語(小説)(上)

2021-05-20 03:57:55 | 小説
監禁物語

ある街のファッションモールの中に、眼科クリニックがある。
山野哲也は、そのクリニックの院長である。
クリニックの看板には、眼科クリニック、と書かれているが、白内障、や、緑内障、その他、加齢黄斑変性、網膜剥離、レーシックなど、つまり、あらゆる眼科疾患を診断、治療する、いわゆる眼科クリニックではない。
そもそも、それら、白内障や緑内障の疾患を手術する、器具もない。
いわゆる眼科医とは、5年間の眼科診療の経験と、日本眼科学会の行う、眼科専門医の試験に通った、医師を言う。
山野哲也は、5年間の眼科診療の経験もなければ、眼科専門医の資格も無い。
ここのクリニックは、コンタクトレンズの処方、および、コンタクトレンズを装着することによって起こる、角膜の傷、や、アレルギー性結膜炎、などの、処置程度しか行っていない。
そもそも、クリニックには、スリットランプ、くらいしか、器具がない。
一番、多いのは、コンタクトレンズの処方で、これが、9割近くである。
スリットランプで、患者の角膜と結膜、を見て、問題がないのを、確かめるくらいのことしか、やっていない。
他の眼科疾患の患者は受け付けていない。
テナント料は、月60万円、もするのに、一日に来る患者は、30人程度である。
なので、当然、赤字経営である。
なのに、なぜ、経営しているかと言えば。
ファッションモールの中の、眼科クリニックの、すぐ近くに、コンタクトレンズの小売りを、全国展開している、(株)中央コンタクト、のコンタクトレンズショップがあるからである。
法的には、医師は、保険診療で、コンタクトレンズの処方をすることが出来る。
なので、眼科クリニックで、哲也が、コンタクトレンズの処方をする。
それで、コンタクトレンズを装着した時の、度数、と、ベースカーブ、乱視の有無などを、調べて、患者に説明し、患者の希望する、コンタクトレンズを処方する。
コンタクトレンズの処方をされた患者は、隣接する、(株)中央コンタクト、のコンタクトレンズショップで、コンタクトレンズ、や、コンタクトのケア用品を買うのである。
つまり、コンタクトレンズを売ることによって、利益を出しているのである。
眼科クリニックの、診療は、赤字だが、コンタクトレンズの売り上げは黒字、で、トータルで、見ると、黒字なのである。
山野哲也の収入は、眼科クリニックの診療による診療報酬ではない。
山野哲也は、医者の仕事が嫌いで、医者の仕事の中でも楽な仕事に就こうと思って、コンタクト眼科のアルバイトをやり始めた。
給料は、定額で、(株)中央コンタクト、が支払ってくれる。
これは、とても楽な仕事だった。
それで、(株)中央コンタクト、の会社の人に、眼科クリニックの院長になってくれないか、と頼まれた。
山野哲也は、それを引き受けた。
眼科クリニックでの診療報酬は赤字だが、(株)中央コンタクト、が、定額の、業務支援金を払ってくれる。
なので、法的には、クリニックの院長なのだが、感覚的、実質的には、定額の給料が支払われるので、病院の勤務医、サラリーマン、のような感覚なのである。
眼科クリニックでは、患者、に、裸眼視力、コンタクトを装着した、矯正視力、乱視の有無、を調べたり、患者の受け付け、と、会計を、やるスタッフがいる。
スタッフは、コンタクトショップで客の対応をしていて、給料も、(株)中央コンタクト、から支払われている。
なので、彼女らは、(株)中央コンタクト、の社員である。
クリニックの院長である、山野哲也が採用して、哲也が、給料を支払っている、という関係ではない。
コンタクトショップの社員は、ほとんど、皆、近視で、コンタクトレンズをしている。
一方、山野哲也は、近視ではなく、コンタクトレンズはしていない。
なので、コンタクトレンズの、検査、や、知識は、彼女らの方が上なのである。
コンタクトショップでは、正社員、で、4人くらい、が働いていた。
そのうち、二人が、眼科クリニックで、検査、や、会計事務、をしていた。
千田祥子、という、可愛い、というか、美しい女性と、戸川順子、という、二人の女だった。
戸川順子は、おとなしく、礼儀正しい、スタッフだった。
しかし、哲也は、千田祥子を好きになってしまった。
しかし、千田祥子は、美しいが、山野哲也に対して、冷たかった。
朝、クリニックに行くと、二人が、受け付けのデスクに座っている。
哲也が、二人に、「おはよう」と笑顔で挨拶する。
順子は、「おはようございます。先生」、と、笑顔で挨拶を返す。
だが、千田祥子は、哲也が、「おはよう」、と挨拶しても、プイ、と顔をそむけて返事をしないのである。
一日の診療が終わって、帰る時も、哲也は、「さようなら」と挨拶する。
戸川順子は、笑顔で、「先生。さようなら」、と言うが、千田祥子は、黙ったまま、何も言わない。
眼科の検査でわからないことがあると、哲也は、中央コンタクト、のスタッフに聞く。
戸川順子は、丁寧に説明してくれるのだが、千田祥子は、とても質問できるような雰囲気ではなかった。
ある時、千田祥子に、ある検査のことを、聞いたことがあるのだが、彼女は、「そんなこと、常識ですよ」、と、冷たく対応され、彼女は、教えてくれなかった。
それ以来、哲也は、千田祥子に質問する気にはなれなくなってしまった。
バレンタインデーの時も、戸川順子は、「はい。先生」、と言って、チョコレートをくれた。
しかし、千田祥子は、戸川順子の隣に座っているのに、雑誌を読んだまま、顔を上げようともしなかった。
哲也は、一カ月後のホワイトデーで、二人に、チョコレートの詰め合わせセット、をあげた。
「どうぞ、二人で食べて下さい」、と哲也は、チョコレートを、渡した。
戸川順子が、「わあ。先生。有難う」、と言って、喜んだが、千田祥子は、隣に座っているのに、雑誌を読んだまま、顔を上げようともしなかった。
それならば、彼女なんか、相手にしなければ、いい、と、思う人もいるだろう。
当然のことである。
しかし。
困ったことに、哲也は、千田祥子、を、一目、見た時から、好きになってしまったのである。
彼女の、ちょっと、意地悪な性格までも。
坊主好きなりゃ、袈裟まで好き、になってしまうのかもしれない。
男が女を恋してしまうのに、理屈などない。
かえって、彼女が、簡単には、哲也の片思いを、受け入れてくれないから、余計、彼女を恋してしまうのかも、しれない。
人間は、男女の恋愛に限らず、簡単に手に入れられる物なら、それを、得ても、それほど、嬉しくはない。
容易には、手に入れられないからこそ、余計、彼女に憧れてしまっているのかもしれない。
・・・・・・・
ある日の夜のことである。
哲也は、仕事が終わって、彼女は、クリニックを出た。
もちろん、哲也には、挨拶なんてしないで。
哲也は、彼女に気づかれないよう、彼女を尾行した。
ある人気のない所に来た。
そこには、哲也は、自分の車をあらかじめ、止めていた。
哲也は、よしっ、と思って、背後から、彼女に襲いかかった。
千田祥子がサッと振り向いた。
「あっ。何をするんですか。先生?」
千田祥子は、襲いかかってきた男が、哲也であることを、知ると、あわてて叫んだ。
哲也は、彼女の両手を、背後に捩じ上げて、手錠をかけた。
手錠は、SМグッズ店で、買った物である。
「や、やめて下さい。先生」
千田祥子は、抵抗した。
哲也は、急いで、彼女の口、にガムテープを貼って、彼女が喋れないようにした。
哲也は、車の傍まで、彼女の体を、つかんで、連れて行った。
彼女は、口をモグモグさせて、何か、喋ろうとしたが、ガムテープが貼られているので、喋れない。
彼女は、座り込もうとしたが、哲也は、彼女を無理矢理、立たせた。
哲也は、身長172cm、体重62kg、であり、彼女は、身長160cm、体重45kgである。
華奢で、力もない、彼女を、車の所まで、連れて行くのは、造作もないことだった。
哲也は、車の後部座席のドアを開け、彼女を、後部座席に、無理矢理、入れた。
そして、哲也は、運転席に乗り、エンジンを駆けた。
バルルルルッ。
哲也は、アクセルペダルを踏んだ。
緊張と慎重さ、で、哲也は、車を飛ばした。
田舎の街なので、夜は静まり返っている。
パトカーに呼び止められて、職務質問されること、だけが、唯一、こわかったが、夜中でも、物流のトラック、や、ちらほら、多少は、車が走っていて、その中に、紛れることが、出来た。
1時間ほど、車を飛ばして、叔父がくれた粗末なプレハブ小屋に着いた。
そこは、小さな、プレハブだった。
哲也の、叔父はノンフィクション作家だった。
大くの、ノンフィクション小説を、書いていたため、家ではもう、資料を置く場所がなくなって、小さな、プレハブに、有り余る資料を置いていた。
しかし、そのプレハブは、物置だけの用途ではなかった。
哲也は叔父と親しかった。
叔父はSМ小説も書き、哲也もSМ小説を書いていて、そういう共通の趣味があって、仲が良かったのである。
叔父は、脳梗塞を起こして、病院に入院した。
叔父は、自分の死が遠からず来ることを知ってか、哲也に、自分の死後、プレハブを、引き取って欲しい、と伝えていた。
「あのプレハブには、地下室がある。そこで、多くの女を監禁したのだ。オレの死後、あのプレハブは、お前にやる。お前なら、あのプレハブを何かに利用することもあるだろう」
と叔父は、言った。
哲也は、叔父に教えてもらった、住所で、そのプレハブ小屋に行ってみた。
部屋いっぱいの、膨大な資料を、どけてみると、床の一カ所に小さな、扉があった。
その扉を開けると、地下室への階段があって、階段を降りると、ポッカリと地下室の空間があった。
そして、地下室の中には、大きな檻があったのである。
叔父は、多くの女を監禁したと言ったが、それは、女の同意を得た、SМプレイ、だったのか、本当の犯罪なのか、それは、わからない。
プレハブは、電気、水道、ガス、もひいてなく、手入れがなされていないので、廃屋のような状態だった。
これが、何の役に立つのか、哲也には、わからなかったが、哲也の所有物として、そのままにしていたのである。
哲也は、SМ小説を書いているが、実際に、SМプレイをしたい、とは、全く思っていなかった。
哲也の価値観は、小説を書くことだけだったからだ。
だから、檻のある地下室など、使うこともなく、不用だった。
それが、本当に、使う時が来るとは。
なんて、哲也は、ラッキーなんだと、死んだ叔父に感謝した。
哲也は、車をプレハブの前に止めた。
そして、千田祥子、を、車から、降ろした。
そして、彼女をプレハブ小屋に入れ、地下室の蓋を開け地下室に、連れて行った。
そして、千田祥子を、檻の扉を開けて、檻の中に入れた。
哲也も、一緒に檻の中に入った。
そして、ポケットから、キーを取り出して、ピッ、と、キーを押した。
カチッ、と、檻の扉が鳴った。
それは、檻の扉を開閉する、リモコンの電子キーだった。
哲也は、檻の扉を閉めたのである。
千田祥子は、哲也を、恨めしそうな目で見ている。
「ふふふ。千田祥子さん。これでもう、あなたは僕の物です」
哲也は勝ち誇ったように言った。
そして哲也は、彼女の口に貼った、ガムテープをとった。
彼女は、両手を、背中で、手錠で、拘束されているので、逃げられない。
しかし、ガムテープを、とったことで、彼女は、口は聞けるようになった。
彼女は、溜まりに溜まっていた、怒りを、一気に爆発するように哲也に投げつけた。
「先生。気が狂ったんですか。こんなことは、完全な犯罪です。はやく、私の手錠を解いて私を自由にして下さい。そうしないと、警察に訴えますよ。先生はもう、犯罪者として、医者の資格も、社会的地位も失いますよ。さあ。早く、私の手錠を解いて私を自由にして下さい」
彼女は、溜まりに溜まっていた、怒りを、一気に爆発するように哲也に投げつけた。
「ふふふ。確かに犯罪だね。だから、どうだっていうの?」
哲也は、空とぼけて、からかうように、千田祥子に言った。
「そんなことも、わからないんですか。これは完全な犯罪です。私が警察に訴えれば、先生は、社会から、抹殺され、刑務所に入れられるんですよ。そんなこともわからないんですか?」
千田祥子は悪態をつくように言った。
「わかってるよ。そんなこと」
哲也は、落ち着いた口調で、千田祥子に言った
「わかっているんなら、早く手錠を解いて、私を自由にして、家に帰して下さい。そうすれば、警察に訴えるのは、勘弁してあげます」
千田祥子が言った。
「千田祥子さん。あなたは、なにか、一つ、当たり前のことを、忘れていませんか?」
哲也は、紳士気取りの口調で言った。
「当たり前のこと、って、何ですか?」
千田祥子が聞いた。
「確かに、君に警察に訴えられたら、僕は、社会的地位も、何もかも、失い、刑務所に入れられるだろうね」
「わかっているじゃないですか。なら、早く手錠を解いて、私を自由にして、家に帰して下さい」
しかしだね、と言って、哲也は、一呼吸した。
「しかしだね、それは、君が、ここから出られる、ということが、絶対、必要じゃないか。君が、一生、ここから出られなかったら、警察に訴えることも、出来ないじゃないか。君は、その当たり前のことを忘れている」
哲也は、ポケットから、タバコを取り出して、一服した。
うぐっ、と、千田祥子が、喉を詰まらせた。
千田祥子の顔が青ざめた。
「先生。気が狂ったんですか。それとも、ふざけているんですか。私を一生、ここから、出さない、ということは、私をここで、殺す、ということですよ。先生に人を殺す度胸なんて、あるんですか?」
その声は、少し、おびえ、を含んで、震えていた。
「君は、僕が医者で、おとなしい性格だから、犯罪や人殺し、など、出来ない、という先入観を持ってしまっている。しかし、今まで、僕が、どんなに、君に、愛を告白しても、君は、僕を無視しつづけた。僕は、君に、愛情と憎しみ、の両方の感情を持っている。僕は君を殺せるかもしれないよ。今まで、さんざん、コケにされ続けて、君に対する、憎しみ、は、僕の心の中で、炎のように、メラメラと燃え盛っているからね」
そう言って哲也は、タバコを、ふー、と、吹き出した。
「うぐっ」
千田祥子の顔に、今まで、さんざん、哲也を、コケにしてきた、ことに対する、後悔の念があらわれていた。
「それじゃあ、もう、夜も遅くなってきたし、僕は、アパートに帰るよ」
哲也は、敷き布団、と、掛け布団、を持ってきて、檻の中に敷いた。
「さあ。布団を敷いたから君も眠りなさい。もう、夜中の2時だ」
そう言って、哲也は、立ち上がって、檻を出て、檻にカギをかけ、地下室の階段を上がろうした。
「ま、待って。先生」
千田祥子が呼び止めた。
「なんだね?」
哲也は、階段の途中で登りかけた、足を止めた。
「い、いつ、私を解放してくれるんですか?」
千田祥子の口調は真剣だった。
「さあ。それは、わからないね」
彼女は、本当におびえている様だった。
哲也は、笑って、千田祥子の質問を、すりかわした。
「じゃあ、僕は、アパートに帰って、眠るから、君も、ここで、お休み」
そう言って、哲也は、階段を登り、地下室の蓋を開けて、地下室から出た。
そして一階に、出て、地下室の蓋を閉めた。
・・・・・・・・・・・・
哲也は、心地よい快感に浸って、車に乗った。
そして、エンジンを駆けた。
バルルルルッ。
エンジンが、勢いよく始動した。
哲也は、欲しがっていた物を手に入れた子供のような、無邪気な快感で、ウキウキしながら、アパートに車を飛ばした。
そして、アパートの自分の部屋に入ると、フカフカの布団にもぐり込んだ。
(やった。オレは、とうとう、千田祥子をオレの物にした)
その快感に浸りながら、哲也は、いつの間にか、深い眠りについた。
・・・・・・・・・・
翌日。
哲也は、7時に目覚めた。
哲也は、車に乗って、デニーズに行った。
そして窓際の席に座った。
ウェイトレスが、注文を聞きに来た。
「何になさいますか?」
ウェイトレスが、笑顔で聞いた。
「モーニングセットの、焼き鮭朝食セットをください。ドリンクつきで」
哲也は微笑んで答えた。
「かしこまりました」
そう言って、ウェイトレスは、厨房に戻って行った。
哲也は窓の外を見た。
清々しい朝の陽光が窓から店の中に入り込んでいて、店の前の国道467号線を行き来する、車は、あたかも、さあ今日も一日仕事を頑張るぞ、とでも言っているかのような活力に漲っているように見えた。
ほどなく、ウェイトレスが、モーニングセットを持ってきた。
「はい。焼き鮭朝食セットです」
ウェイトレスは、笑顔で、朝食セットを、テーブルの上に置いた。
「ああ。どうもありがとうございます」
哲也も笑顔で、ペコリと頭を下げた。
それまでは、お礼の返事など、しなかったのだが、哲也は、お礼を言いたい心境になっていたのである。
(ああ。人の和はいいものだな)
と、哲也はしみじみと感じた。
焼き鮭朝食セット、は、ほかほかのご飯と、みそ汁、と、冷ややっこ、と、焼き鮭、と、海苔、である。
みそ汁からは、湯気が出ている。
哲也は、焼き鮭、を、少し食べては、ご飯を食べ、みそ汁を飲んだ。
(あー。美味い)
美味しい、モーニングセットが、五臓六腑にしみわたった。
(ふふふ。オレは、今、こうして、美味い朝ごはんを食べているというのに、千田祥子は、暗い檻の中だ。彼女は今、何をしているだろう)
そう思うと、哲也は、千田祥子め、オレを散々、コケにした罰だ、ざまあみろ、と、カラカラと心の中で高笑いした。
「復讐こそ最大の快楽である」という、アレクサンドル・デュマ、の言葉を、哲也は、つくづく感じていた。
食事を全部、食べてしまうと、セットで頼んだ、アイスティー、を飲んだ。
咽喉を通る時、冷たい、アイスティー、が、最高に美味かった。
哲也は、レジを持って、席を立ち、勘定を払って、デニーズを出た。
そして、哲也は車を飛ばして、クリニックに向かった。
駐車場に車を止め、哲也は、ファッションモールに入った。
そして、エレベーターで、二階に上り、クリニックの扉を開いた。
「おはようございます。先生」
中央コンタクトの、社員の、順子という女の子が、ニコッと笑顔で、挨拶した。
「おはよう。順子さん」
哲也も挨拶した。
この、順子、という社員は、千田祥子と違って、礼儀正しく、朝、会うと、「おはようございます。先生」、と、笑顔で挨拶するのである。
千田祥子は、哲也が、「おはよう」、と挨拶しても、プイ、と顔をそむけて何も返事しないのだが。
この子は、千田祥子と、親しく、客(というか、来院者)がいない時は、受け付けで、二人で、仲良さそうに、ペチャクチャ、いつも、お喋りしているのである。
この子は、性格はいいのだが、容貌は、それほど魅力的ではない。
哲也は、この子には、ほとんど、異性としての、感情を持っていなかった。
哲也は、性格は悪いが、容貌のいい、千田祥子、に、恋焦がれていたのである。
つまり、哲也の片思い、ワンサイドラブである。
しかし、千田祥子に冷たくされると、余計、千田祥子、に憧れるのである。
手に入れられないと、余計、手に入れたくなる、という心理が起こるからである。
しかし、哲也の考え方は、昨日から、少し変わっていた。
(やはり、女の子は、容貌より性格のいい子もいいな)
と思えるようになったのである。
哲也は、順子、を、見て、「ああ。何て、明るくて、素直な子なんだろう」、と心地いい気分になっていた。
哲也は、院長室に入った。
哲也は、机に足を乗せて、ポケットからタバコを取り出して、一服した。
そして、おもむろに、ふー、と、吐き出した。
(ふふふ。オレは、こうやって自由に行動できる。仕事もやりがいもある。なのに千田祥子は、今も、暗い狭い檻の中だ)
千田祥子が、今、暗い狭い檻の中で、ブルブル、恐怖と寒さに、震えていると思うと、哲也は、復讐の快楽に、あっははは、と、声を出して笑いたくなるのだった。
やがて、午前中の診療が始まった。
スリットランプで、患者の目を見るだけ、で、仕事は楽である。
午前中は、20人くらい、患者が来た。
12時になって、午前の診療が終わった。
哲也は、気分が、ハイになっていた。
哲也は、診察室から出て、受け付けにいる、順子の所に行った。
「先生。千田祥子さんが、来ませんが、どうしてだが、知っていますか?」
順子が聞いた。
「ああ。彼女は、もう、コンタクトの仕事は、やりたくない、と言って、会社を辞めたよ。昨日、帰りがけに、僕に、そう言ったんだ。彼女は、好きな彼氏が出来たらしく、その彼氏に、ぞっこん惚れ込んでしまって、これからは、その彼氏と同棲するらしい」
「そうだったんですか。そんなこととは知りませんでした」
彼女は、親しい友達を失って、ガッカリした様子だった。
「ねえ。君。これから昼ご飯、だろ。一緒に、食べないかい?お金は僕が払うから」
哲也が、順子に食事を誘うことなど、これが初めてだった。
「えっ。先生。いいんですか?」
意外な誘いに、順子は驚いていた。
「ああ。いいとも。ところで、君は何を食べたい?」
哲也が聞いた。
「何でもいいです」
順子が答えた。
「じゃあ、大通りにある、和食さと、に行かないかい?君は、しゃぶしゃぶ、は、嫌いかね?」
「私、しゃぶしゃぶ、好きです。でも、高くて、食べられません。和食さと、は、高いですよ」
「じゃあ、決まり。和食さと、に行こう」
こうして、哲也は、順子と一緒に、クリニックを出た。
順子を助手席に乗せ、哲也も車に乗った。
そして、エンジンを駆け、車を発進した。
ファッションモール、から、大通りの、和食さと、まで、10分程度だった。
「さあ。着いた」
哲也は、駐車場に車を止めた。
そして、順子と一緒に、和食さと、に入った。
「いらっしゃいませ。お二人さまですか?」
ウェイトレスが、やって来て聞いた。
「ええ」
哲也は答えた。
「では、ご案内いたします」
哲也と順子は、窓際のテーブル席に、誘導された。
哲也と順子は向き合って座った。
ウェイトレスが、注文を聞きに来た。
「何になさいますか?」
ウェイトレスが聞いた。
「国産牛スペシャル食べ放題コース、を、二人分、お願い致します」
哲也が言った。
「かしこまりました」
ウェイトレスは、厨房にもどって行った。
順子は、テーブルの上にある、メニュー、を開いて見た。
「せ、先生。国産牛スペシャル食べ放題コース、は、一人、4169円ですよ。二人だと、8338円ですよ。いいんですか?」
申し訳なさそうに、順子が聞いた。
「だって、君は、しゃぶしゃぶ、が好きなんだろう。何か問題があるのかね?」
哲也が聞いた。
「私の給料では、一食に、とても、こんな、値段、かけられません」
「・・・・そうだろうね。医者は給料がいいからね。医者なんて、別に、何にも偉くないのに、先生、なんて呼ばれて、給料もいいからね。世の中、おかしいね。だから、そのおわび、という意味もあるんだ」
「ありがとうございます。先生」
順子は、ペコリと頭を下げた。
ほどなく、ウェイトレス、が、たくさんの肉、と、白菜、しいたけ、ねぎ、ニンジン、春菊、などを、乗せた大皿を持ってきた。
そして、卓上に、湯の入った鍋を置いた。
すぐに、鍋の中の湯は、グツグツ煮えだした。
「さあ。食べよう」
そう言って、哲也は、しゃぶしゃぶ、の肉を、湯に浸けて、ポン酢、をつけて、食べ出した。
順子は、遠慮している様子だった。
しかし、順子の腹が、グー、と鳴った。
「・・・・で、では、頂きます」
そう言って、順子は、肉を、湯に浸けて、ポン酢、をつけて、食べ出した。
「ああ。美味しいわ。美味しいわ」
順子が、あまりにも、急いで食べるので、哲也は、「ははは」、と笑い、
「そんなに、あわてて食べなくても、大丈夫だよ」
と言った。
しかし、順子は聞かなかった。
「だって、先生。和食さと、の、しゃぶしゃぶ、なんて、食べられるのは、私にとっては、高校に入学した時、以来なんです。そして、まず、今後、5年間は、食べられないと思います。だから、今、うんと食べておくんです」
そう言って、順子は、立て続けに、しゃぶしゃぶ、を、貪るように食べ続けた。
哲也は、順子が、しゃぶしゃぶ、を食べるのを、スマートフォン、で写真に撮った。
順子は、大人、5人分くらいの、牛肉を食べた。
「はー。食べた。食べた。美味しかった」
そう言って、順子は、ふくれた腹を、ポンポンと叩いた。
時計を見ると、12時50分だった。
「それじゃあ、もうすぐ、午後の診療だから、店を出よう」
「はい」
哲也は、レジを持って、立ち上がった。
順子も。
哲也は、レジで、金を払った。
「先生。ありがとうございました」
順子が深々と頭を下げた。
「いやー。別に、お礼なんていいよ。また、しゃぶしゃぶ、が食べたくなったら、いつでも言って下さい。おごりますから、また一緒に食べましょう」
哲也は、笑顔で言った。
そして、車に乗って、クリニックにもどった。
ファッションモールの中のクリニックには、ちょうど、午後の診療が始まる、午後1時に着いた。
彼女は、受け付けのデスクに着き、私は、診察室に入った。
10分後に午後の最初の患者が来た。
そもそも、コンタクト眼科は、来院者が、少ない。
多くても、1日、30人、くらいなのである。
午後は、15人、来て、その日の診療が終わった。
ここの、クリニックは、朝9時から、午後6時までである。
午後6時に、クリニックの前に、「本日の診療は終了しました」、という、フリップ、看板、ボード、を、かけるのである。
哲也は、いつも、千田祥子と順子に、「さようなら」、と言って帰る。
順子は、「おつかれさまでした」、と笑顔で挨拶するのだが、千田祥子は、プイ、と顔をそむけて、哲也を無視するのである。
残酷なアイデアを、思いついて、哲也は、ニヤリと笑った。
哲也は、トコトコと、受け付け、に行った。
順子が、帰り支度をしていた。
「ねえ。順子さん」
「はい。何でしょうか?先生」
「これから、何か用がありますか?」
「いえ。別に、用なんて、ありません。家に帰って、夕ご飯、食べて、テレビドラマ、見て、寝るだけです」
「そうですか。よかったら、大通りに、ボウリング場があるでしょ。あそこで、ボウリング、しませんか?」
「は、はい。します。します。家に帰っても、一人きり、で、つまらないだけですもの」
「じゃあ、行きましょう」
こうして、哲也は、順子を連れて、クリニックを出た。
駐車場に止めてあった、車の助手席に、順子を乗せ、哲也は、運転席に乗った。
そして、エンジンを駆け、車を出した。
ちょうど、日が暮れて、街が暗くなるのと、入れ替わるように、街灯が灯り始めていた。
哲也は、ボウリング場に向かって、車を走らせた。
10分ほどで、ボウリング場に着いた。
それほど混んでいなかった。
受け付けで、シューズを借りて、ボウリング、を始めた。
順子は、かなり上手かった。
結構、ストライク、をとることも、あって、一投目で、半分以上は、ボウリングのピンを倒して、二投目で、残ったピンを、かなり倒した。
それに比べて、哲也の方が、明らかに、順子より下手だった。
ストライクは、まず、とれなかった。
し、一投目で、ピンを何本か倒しても、二等目で、残りのピン、を、倒すことは、なかなか、出来なかった。
ガーターすることも、時々あった。
哲也は、時々、ボウリングを投げる順子をスマートフォンで撮影した。
「いやー。順子さん。ボウリング、上手いですね」
「いえ。それほどでも・・・」
順子は謙遜したが、照れ隠しの笑顔から、多少、得意げであることは、見て取れた。
「結構、ボウリング、やったでしょう?」
哲也が聞いた。
「え、ええ。千田祥子さんと、たまに、ここへ来て、やることがありました」
順子が言った。
「なるほど」
「千田祥子さんは、ボウリングが好きで、私より、もっと上手いですよ」
「そうですか」
「ええ。千田祥子さんの腕前は、プロ級で、いつも、パーフェクトゲームに近かったんです」
「そうですか。ところで、順子さんは、何か、スポーツをやっていますか?」
「高校の時、テニス部でした。県大会で優勝したこともあります」
「ああ。そうですか。僕も、高校の時、テニス部でした。卒業後も、テニススクールに入って、やったこともあります」
「そうなんですか」
「ええ。本当ですよ。順子さん。今度、いつか、テニススクールのコートを借りて、ラリーをしませんか?」
「ええ。やりたいです。私、テニスには、自信があるんです。ふふふ。先生に勝っちゃったりして」
順子は、ふざけて、ニコッと笑って、舌を出した。
そんなことで、二人の会話は弾んだ。
その後も数試合した。
哲也は、順子の投げる姿を、スマートフォンで撮った。
そうこうしているうちに、午後9時になった。
三試合とも、哲也が負けた。
「ふふふ。先生。全部、私が、勝っちゃいましたね」
順子は、笑って言った。
「ああ。負けたよ。でも、負け惜しみ、じゃないけど、僕は、ボウリングは、ほとんど、やらないかね。やり慣れてる人に負けるのは、当然さ」
それは、本当だった。
哲也は、大学一年の時、以来、ボウリング、をするのは、久しぶりだった。
「順子さん。よかったら、まだ、和食さと、は、開いてますから、しゃぶしゃぶ、を食べに行きますか?」
「いえ。いいです。昼間、うんと、食べましたから」
「そうですか。ところで、順子さんの家は、どこですか?車で送って行っても、いいですけど・・・・」
「いえ。いいです。私は、ファッションモールにスクーターを止めてありますので、スクーターを家まで、乗って持って帰るためにも、ファッションモール、に行かなくてはなりません」
「そうですか。では、ファッションモールまで送ります」
こうして、ボウリング場を、出た。
そして、順子を車に乗せて、ファッションモールに行った。
「先生。有難うございました。しゃぶしゃぶ、を奢ってくれたり、ボウリング、に連れて行ってくれたり、と。楽しかったです。さようなら」
「いや。いいんだよ。また、会いましょう。さようなら」
こうして、順子は車を降り、ファッションモールの駐車場に向かって行った。
哲也は、そのまま、車を運転して、アパートに向かった。
途中、コンビニで、夕食用の、弁当、と、ポカリスエット、を買った。
そして、アパートに着いた。
哲也は、自分の部屋に入って、コンビニで買った、幕の内弁当を食べた。
ふと、哲也に、千田祥子のことが、思い浮かんだ。
(千田祥子は、昨日の7時頃、さらって、監禁したのだから、もう1日、24時間以上、経っているな。あいつは、今、どうしているだろう。様子を見に行ってみようか)
と、哲也は、思ったが、
(まあ。24時間、食べなくたって、死ぬことはないだろう)
と、思って、それは、やめにした。
それより、哲也の頭に、パッ、と、インスピレーションが閃いた。
そうだ。
これは、小説になる。
よし。
事実をそのまま、小説風に書いてみよう。
そう思って、哲也は、パソコンを開いて、ワードの新規作成を開いた。
そして、「千田祥子」、という、タイトルをつけて、小説を書き始めた。
筆は、ぐんぐん、進んだ。
哲也は、筆の進みにまかせて、時間の経つのも忘れて、どんどん書いていった。
原稿用紙換算で、50枚、くらい、書いた頃、眠気が襲いだしてきた。
時計を見ると、午前2時になっていた。
眠い時に小説を書いても、いい小説は書けない。
また、明日、続きを書こう。
そう考えて、哲也は、布団に入った。
すぐに、睡魔がおそってきて、哲也は、深い眠りについた。
・・・・・・・・・・・・
翌日、哲也が、目を覚ましたのは、午前11時頃である。
「あーあ。よく寝た」
と、哲也は、伸びをした。
今日は、休日である。
哲也は、車で、「すき家」に行って、牛丼の大盛り、を食べた。
そして、食べ終わると、すぐに、車を走らせて、家にもどった。
そして、机に座って、パソコンを開け、小説の続きを書き始めた。
筆が走って、小説は、どんどん書けた。
今朝、起きた時までを書いた。
なので、これから、どうなるかは、わからないので、筆が止まってしまった。
一休み、で、哲也は、タバコに火をつけて、おもむろに、ふー、と吐いた。
哲也には、他にも、書きかけの小説が、いくつも、あって、それを書こうかとも、思った。
しかし、千田祥子を監禁して、1日半である。
千田祥子は、どうしているだろう?
千田祥子を見てみたい、という、思いが、つのってきて、哲也は、車に乗って、彼女を監禁しているプレハブに向かった。
車の窓を開けると、爽快な空気が入ってきた。
ほどなく、プレハブに着いた。
シーンとしている。
哲也は、地下室の扉を開けた。
そして、階段を降りていった。
千田祥子が、檻の中で、ふとんに包まって、ブルブル震えていた。
「せ、先生」
千田祥子は、哲也を、見ると、バッ、と起き上がった。
背中で手錠をされているため、ヨロヨロとした、おぼつかない歩き方で、哲也の方にやって来た。
目から、ボロボロ涙を流していた。
千田祥子は、背中で手錠をかけられているので、動きが、全て、おぼつかなかった。
「せ、先生。ここから出して下さい。一体、今は、何月何日なんですか?」
千田祥子は、泣きながら、訴えた。
「今日は、×月×日の、午後×時さ。だから、まだ、君を監禁して、1日半しか経っていないよ」
そう言って、哲也は、鍵を開け、檻の中に入った。
千田祥子は、背中で手錠をかけられているので、逃げることも、暴れることも出来ない。
なので、哲也にとっては、安全なのである。
「先生。私、もう、気が狂いそうです。お願いです。ここから出して下さい」
千田祥子は、泣きながら、訴えた。
「ふふふ。君。1日半も、何も食べなくて、お腹すいてないかい?」
哲也は、千田祥子の哀願には答えず、そんなことを聞いた。
「お腹ペコペコです。何でもいいですから、何か食べさせて下さい」
千田祥子は、泣きながら、訴えた。
ぐー。
千田祥子の腹が鳴った。
「ふふふ。安心しな。君が、お腹を空かせていると思って、コンビニで、弁当を買ってきてやったよ」
そう言って、哲也は、檻の中の床に、コンビニで、買った、江戸前寿司、のパックを置いた。
ゴクン、と、千田祥子の喉が鳴った。
「せ、先生」
「何だね?」
「手錠を外して下さい。手が使えないのでは、食べられません」
「ダメだね。それは。手錠を外したら、君は、暴れたり、逃げようとする可能性があるじゃないか」
「じゃあ、どうやって、食べればいいんですか?」
「床に這いつくばって、犬、というか、芋虫のようになれば、食べれるじゃないか」
「ひ、ひどいわ。先生」
そう言いつつも、空腹には、勝てなかったのだろう。
千田祥子は、床に座り込んだ。
そして、上半身を倒して、床に、ぺったり、体をつけたうつ伏せになった。
千田祥子の顔の前には、マグロ、鯛、サーモン、タコ、海老、卵焼き、イカ、イクラ、ウニ、アナゴ、が並んだ、江戸前寿司が並んでいる。
彼女は、顔を近づけて、犬のように、寿司を、口に咥えて、貪るように食べていった。
よほど腹がへっていたのだろう。
一気に全部、食べてしまった。
「まだ、食べたりないだろう」
ほら、と言って、哲也は、もう一パックの、江戸前寿司、を千田祥子の顔の前に置いた。
彼女は、顔を近づけて、犬のように、寿司を、口に咥えて、貪るように、一気に食べた。
「咽喉も渇いて、水分も欲しいだろう」
「ほ、欲しいです」
千田祥子が素直に答えた。
餓死の恐怖に比べたら、なりふり構う余裕などない。
「じゃあ、起き上がって、正座しな」
哲也に言われて、千田祥子は、たどたどしく身をくねらせて、上半身を起こして、正座した。
哲也は、500mlの、ポカリスエット、を出して、キャップを外した。
「さあ。口をアーン、と開けな。ポカリスエット、を飲ませてあげるから」
哲也に言われて、千田祥子は、アーンと大きく口を開いた。
哲也は、千田祥子の口に、ポカリスエット、をくっつけ、逆さにした。
ポカリスエット、が、千田祥子の口の中に、流れ込んだ。
千田祥子は、ゴクゴクと、ポカリスエット、を飲み込んだ。
500ml、全部、飲んだ。
哲也は、それを見るのが、この上なく楽しかった。
哲也は、ピグマリオンコンプレックス、という、性癖があり、それは、女性を人形のように扱う性癖である。
哲也は、ポケットから、スマートフォンを取り出した。
そして、昨日、順子と、しゃぶしゃぶ、を食べた写真、や、ボウリングをした写真、を、千田祥子に見せつけた。
「ふふふ。千田祥子さん。昨日、僕は、順子さんを、和食さと、に連れて行って、しゃぶしゃぶ、を、おごってあげたんですよ。彼女は、嬉しそうに、腹一杯、しゃぶしゃぶを食べましたよ。そして、仕事が終わった後、ボウリング場に行って、ボウリングをしたんです。彼女は、とても、喜んでいましたよ。千田祥子さん。あなたは、ボウリングが、すごく上手いらしいですね」
こうやって、自由に、活き活きと、楽しく、生きている、順子を見せつけることが、狭い檻の中で、何も出来ずに、監禁されている、千田祥子に対する、哲也の復讐だった。
「ひ、ひどーい。先生。ことさら、そんな写真を見せつけなくたっていいじゃないですか」
千田祥子は、ボロボロ涙を流して泣きながら、訴えた。
「お願いです。先生。ここから出して下さい。私を自由にして下さい」
千田祥子は、ボロボロ泣きながら、訴えた。
「だめだね。僕は君を愛している。なのに君は、僕に冷たい。だから、僕は、こういう強硬手段をとったんだ。せっかく、つかまえた獲物を逃がす、ことなんて、しないよ」
哲也は、冷淡な口調で言った。
「君、1965年制作の、(コレクター)、というアメリカ映画、を知っているかね?」
哲也が聞いた。
「・・・・タイトルだけは、知っています。でも、気持ちの悪そうな、暗い、映画、みたいだったので、観ていません」
千田祥子が答えた。
「じゃあ、あらすじ、を教えてあげよう。知りたいかい?」
「は、はい。知りたいです」
「フレディ、というネクラな男がね、ミランダ、という美しい女に惚れてしまうんだ。それで、フレディ、は、ミランダ、を誘拐し、地下室に監禁する、って話なんだ」
「そ、それで、ミランダは、どうなるんですか?」
「何度も、逃げようとするさ。しかし、フレディ、に、捕まえられて、ミランダ、は、逃げることが出来ないんだ」
「それで。その映画のラストは、どうなるんですか?」
「ミランダ、は、肺炎になって死んでしまうんだ。どうだ。暗いだろう」
千田祥子は、顔をこわばらせて黙っていた。
「どうして、ミランダが死んでしまったか、わかるかね?」
「わ、わかりません」
「それは。フレディ、が、ミランダ、に優しくしているのに、ミランダ、は、フレディ、を嫌うだけで、愛そうとしなかったからさ。ミランダ、が、フレディ、を愛していたら、きっと、フレディ、は、ミランダ、を自由にしてあげた、だろうね」
と哲也が言った。
千田祥子は、顔をこわばらせて黙っていた。
「先生。手錠だけでも、はずして下さい。お願いです」
千田祥子が泣きながら言った。
「ああ。いいよ」
哲也は、千田祥子の、手錠を外した。
「うわー。ありがとう。先生」
1日半、後ろ手に、手錠をかけられていて、寝る時も、手錠をしたままである。
千田祥子の手首には、赤々と、痛ましい手錠の跡がついていた。
彼女は、自分の手を、痛ましそうに見たが、大きく、手を上げて、伸びをした。
彼女は、手が自由になった、喜びを、つくづく、実感している様だった。
二人とも、檻の中だが、哲也は、身長172cm、体重62kg、であり、彼女は、身長160cm、体重45kgである。
これだけ、体重差、力の差、があれば、いくら、千田祥子が暴れても、哲也は、取り押さえることが出来る。
しかも、千田祥子は、昨日から、1日半、監禁されていて、体力も気力も落ちていて、抵抗する気力も無いだろう。
檻はナンバーロック鍵で閉じられている。
これが、体重100kgのプロレスラー、だったら話が違う。
哲也は、プロレスラーに取り押さえられて、首を絞められ、ナンバーロック鍵の番号を、喋らされた、だろう。
しかし、腕力で勝ち目のない、千田祥子が、ここから、出るには、哲也の気持ち、にすがるしか、他に方法はないのである。
「ちょっと、待ってて」
そう言って、哲也は、檻から出た。
「どこへ行くんですか。先生?」
千田祥子が不安げな表情で聞いた。
無理もない。
千田祥子は、また、哲也に、このまま、去っていかれるのではないか、と、心配したのであろう。
「大丈夫。すぐ、もどってくるから」
そう言って、哲也は、1階に出る、階段を登った。
そして、また、すぐ、地下室に戻ってきた。
何か、大きなダンボールを持っている。
哲也は、ナンバーロック鍵、を外して、檻の中に、大きなダンボールを入れた。
そして、自分も、檻の中に入った。
「先生。何なんですか。それ?」
大きなダンボールを見て、千田祥子が聞いた。
千田祥子に聞かれて、哲也は、ダンボールを開いて、中の物を取り出した。
それは、たくさんの、イージーオープン缶、の缶詰、と、ペットボトルのジュース、や、真空パックされた食べ物、だった。
「これで、1週間は生きられるよ」
「ありがとう。先生」
千田祥子は、泣きながら言った。
人間の幸福には、二つの、タイプがある。
一つは、何もない、退屈な毎日を送っている時に、何か、嬉しいこと、が起こった時である。
もう一つは、健康な人が病気になってしまったが、治療によって、病気が治った時の、幸福である。
後者の、嬉しさ、は、当たり前の、有難さ、に気づいた時の幸福である。
人間は、空気の有難さ、など、いつも、感じていない。
しかし、窒息状態で、死にそうになったけれども、それから、免れることが出来た時、人間は、空気の、有難さ、を実感するのである。
千田祥子の感動は、後者の感動である。
千田祥子は、保存食、を見て、
「ああ。食べ物だ。生きていける」
と、ボソッと、つぶやいた。
感動してはいたが、彼女の顔は、素直に喜んではいなかった。
「先生。1週間分の食料、ということは、私をここに、閉じ込めて、1週間、来ない、ということなんですね?」
千田祥子は、恨めしそうに哲也に聞いた。
「いや。そんなことはないよ。保存食では、美味しくないだろうから、いつか、また、コンビニ弁当を持ってくるかもしれないよ。それに、君が生きていることを確かめるためにも・・・」
哲也が言った。
「お願いです。来て下さい。私、本当に、こわいんです」
千田祥子が、泣きそうな顔で言った。
「千田祥子さん。立って頂けないでしょうか?」
「・・・・は、はい」
千田祥子は、何をされるのだろうか、といった、不安げな顔つきで、立ち上がった。
「ああ。きれいだ。何て、きれいな人なんだ」
哲也は、感動的に言った。
「千田祥子さん」
哲也は、あらたまって言った。
「あ、あの。太腿に触れていいでしょうか?」
哲也が聞いた。
「え、ええ。構いません」
千田祥子の、了解が得られたので、哲也は、千田祥子の太腿に、そっと触れた。
柔らかく、温かい、女の体のぬくもり、が伝わってきた。
千田祥子は嫌がる様子をしないので、哲也は、千田祥子の太腿、を抱きしめ、顔をつけて、頬ずりした。
「ああ。温かい。柔らかい。好きです。千田祥子さん」
そう言って、哲也は、千田祥子の太腿の温もりを、思うさま楽しんだ。
哲也が千田祥子の体に触れたのは、これが、初めてだった。
哲也は、立ち上がった。
「千田祥子さん。僕と、ダンスを踊ってくれませんか?」
突然の申し出、に千田祥子は、驚いている様子だった。
「えっ。私、ダンス、なんて、躍れません」
「ブルース、は簡単です。僕は、ブルースのステップは、知っていますので、あなたは、僕についてきてくれれば、いいだけです。あなたは、映画をよく観るから、社交ダンスは、映画の中で観て知っているでしょう」
哲也は、千田祥子に向き合った。
哲也は、千田祥子の体にピッタリ、自分の体をくっつけた。
そして、哲也は、自分の左手で、千田祥子の右手を握り、右手は、千田祥子の腰に回して、そっと、腰に手を当てた。
千田祥子の胸の膨らみの、心地いい感触が、触れあっている哲也の胸に、つたわってきた。
哲也は、ロバート・ジョンソン、や、チャーリー・パットン、などの、曲を鼻歌で歌いながら、檻の中で、千田祥子と、ブルースを踊った。
世間の男だったら、女を監禁したら、いきなり襲いかかって、女を犯すだろうが、哲也は、紳士的なので、そんなことはしないのである。
「いやー。千田祥子さん。上手いですね」
「・・・・・・」
哲也に褒められても、千田祥子は、黙っている。
哲也は、自分のスマートフォンのYou-Tube、の、社交ダンス、の動画を出した。
そして、ワルツ、ルンバ、サルサ、フォックストロット、スウィング、などの、動画を、千田祥子に見せた。
「こうやるんですよ。ステップは、別に正確じゃなくても、いいんです。僕が、リードしますから、それに合わせて、ついてきて下さい」
哲也は、スマートフォンで、ワルツの曲を、流しながら、ワルツを踊った。
それが終わると、哲也は、同様に、ルンバ、サルサ、フォックストロット、スウィング、などの、動画を、千田祥子に見せた。
そして、千田祥子と、ルンバ、サルサ、フォックストロット、スウィング、などを踊った。
千田祥子は、始めてやる、ダンスが、かなり上手かった。
「いやー。千田祥子さん。ダンス、上手いですね」
「・・・・・・・・」
千田祥子は、褒められて、照れくさそうな顔をした。
「面白くありませんでしたか?」
哲也が聞いた。
「・・・・ちょっと、面白かったです」
千田祥子は、顔を赤くして言った。
「先生」
千田祥子が哲也に声をかけた。
「はい。何ですか?」
「あ、あの。45秒で何ができる、を、躍ってもいいですか?」
「ええ。いいですよ。ぜひ、見せて下さい」
「では、やります」
そう言って、千田祥子は、「45秒で何ができる」、を歌いながら、躍った。
軽快で、歌も、踊り、も上手かった。
「上手い。上手い」
と、哲也は、拍手した。
「じゃあ、もうちょっと、躍ってもいいですか?」
千田祥子が聞いた。
「いいですとも。どうか、千田祥子さんの、歌と踊りを見せて下さい」
言われて、千田祥子は、広末涼子の、「マジで恋する5秒前」、や、NiziU、の、「Make you happy」、などを歌いながら踊った。
「上手い。上手い」
と、哲也は、拍手した。
「先生。私は、カラオケ喫茶、に、順子と、一緒によく行って、色んな、歌手の、歌と、その、振り付け、で、歌いながら躍っていました。私、歌と踊りには、自信があるので、本当は、男の人、に見せたかったんです。でも、それは、恥ずかしいので、順子、や、女の友達だけに限られました。こうして、男の先生に、見せることが、出来て、ちょっと、嬉しいです」
と、千田祥子は、言った。
「じゃあ、このくらいで、僕は、去るとしようかな」
哲也がボソッ、と、つぶやいた。
「先生。また来て下さいね。待っています」
千田祥子が言った。
千田祥子は、来た時とは、かなり、態度が違っていた。
素直になっていた。
おそらく、千田祥子は、また、いつか、哲也が、ここに来てくれて、いつかは、この地下室の檻の中から、自分を出してくれるのだろうと、確信したのだろう。
「じゃあ、さようなら。また、いつか来るよ」
そう言って、哲也は、檻を出て、ナンバーロック鍵を閉めた。
そして、1階へ向かう階段を登っていった。
そして、哲也は、プレハブを出て、車で、自分のアパートに向かった。
家に着くと、哲也は、今日、あった事を、小説の、つづき、として、書いた。
その日の夜は、コンビニ弁当を食べた。
(今、千田祥子は何をしているだろう?保存食を食べているだろうか?)
と哲也は思った。
哲也は、「千田祥子」以外にも、書きかけの、小説があったので、その続きを書いた。
そして寝た。
・・・・・・・・・・・
翌日、哲也は、ファッションモール内の、自分の、コンタクト眼科の、クリニックに行った。
「おはようございます」
と、順子が、笑顔で挨拶した。
「おはよう」
と、哲也も、笑顔で挨拶した。
その日の午前中の診療が終わり、午後の診療も、終わった。
順子が、哲也の所にやって来た。
「先生。私。また、和食さと、の、しゃぶしゃぶ、が食べたくなってしまいました。おごってもらえないでしょうか?」
と、話しかけてきた。
「ダメダメ。世の中には、失業者、や、独裁国家で、貧しい、つらい生活をしている人がたくさん、いるんだよ。そういう人たちのこと、も、考えなきゃ。日本人は、飽食に慣れてしまって、それで、食べ放題になってしまったから、高血圧、高脂血症、糖尿病、痛風、変形性膝関節症、などで、治療しながら、生きている人が多すぎる。食べる、という行為は、人間が生きていくために、必要なこと、ということを、みんな、忘れてしまっている。グルメ、食べ過ぎ、暴飲暴食が成人病を起こすんだ。生きていけるだけで、感謝しなくちゃいけないよ。香港や中国や北朝鮮では、政治犯は、何年も監禁されて、監獄から出られない、不自由な生活をしているんだよ。その点、日本は、言論や行動の自由が認められているんだ。それを感謝しなくちゃ」
そんな、説教めいた事を哲也は順子に言った。
「はあーい」
前回、急に親しくなったかと、思ったのに、急に、説教めいた事を言われて、順子は、戸惑っている様子だった。
哲也には、千田祥子に、自分を好きにさせる絶対の自信があった。
もちろん、哲也は、気が小さい、ので、千田祥子を、一生、地下室の檻の中に閉じ込めておく気は無かった。
し、監禁した、最初から、いつかは、自由にしてやる、計画だった。
ただ、地下室の檻の中から、出しても、千田祥子が、警察に、訴えない心境に、しておく必要は、あった。
哲也の計画は、思った以上の効果を、早くもあげていた。
今、千田祥子を、解放しても、彼女は、警察に訴えることはないだろう、と、哲也は、確信していた。
哲也の計画通り、千田祥子の心境に変化が生じたのと、同時に、哲也の千田祥子に対する、心境も変化していた。
檻の中に、一人きりで、閉じ込められている、千田祥子が、可哀想に思えてきたのである。
哲也は、愛憎、二つの感情を千田祥子に持っていた。
千田祥子を監禁した、最初の頃は、復讐の快感に、喜ぶ感情だけだった。
しかし、今は、千田祥子、が、可哀想に思えてきたのである。
(ああ。彼女は、暗い、檻の中で、僕が来るのを待っている)
行ってやろうか、と哲也は思ったが、哲也には、ある計算があったので、非情に徹することにした。
その日、哲也は、家に帰って、コンビニで、買った、コンビニ弁当を食べた。
そして、「千田祥子」とは、別の、小説を、夜、おそくまで書いた。
そして、寝た。
翌日、哲也は、午前7時に起きた。
そして、ファッションモールの中の、眼科クリニック、に、行った。
そして、その日も、一日、コンタクト眼科の診療をした。
午後6時に、その日の診療が終わった。
哲也は、車を飛ばして、プレハブに行った。
そして、地下室に降りていった。
「あっ。先生」
千田祥子は、哲也を、見ると、檻の中で、哲也の方へ、駆け寄って来た。
2日ぶりの再会だった。
「やあ。千田祥子さん。お久しぶり」
哲也は、事務的な口調で挨拶した。
そして、檻の中に入って、鍵をかけ、千田祥子と二人きりになった。
保存食料として、置いていった、缶詰、や、ペットボトルのジュース、の、いくつかが、空になっていた。
哲也は、持ってきた箱を開けた。
その中には、ピザーラで、買った、モッツァイタリアーナ、のラージザイズ、が、入っていた。
哲也は、それを、千田祥子の前に置いた。
「2日間も、保存食だけで、ごめん。お腹が減っているだろう。ピザを買ってきたから、お食べ」
「ありがとう。先生。先生の言う通り、保存食は、厭きてきたわ」
そう言うや、千田祥子は、ピザを食べ出した。
千田祥子は、「美味しい。美味しい」、と言いながら、一気に、全部、食べた。
「先生。また、社交ダンスを踊る?それとも、私の歌を聞いてくれる?」
千田祥子が聞いた。
「ああ。あとで聞くよ。それより、君にして欲しいことが、あるんだが聞いてくれるかね?」
「何ですか?それ」
哲也は、カバンから、モソモソと、何かを、取り出した。
それは、ビキニの水着だった。
「千田祥子さん。これを着てくれませんか?」
哲也が言った。
「はい」
千田祥子は、素直に返事した。
ビキニの水着、を着るには、着ている服を全部、脱がなければならない。
それを、思って、千田祥子は、少し、ちゅうちょ、している様子だった。
「千田祥子さん。僕は後ろを向いていますから、その間に着替えてくれませんか?」
「はい」
千田祥子、が答えた。
哲也は、クルリと、体を後ろ向きにした。
ゴソゴソと音がした。
千田祥子が、服を脱いで、ビキニに着替えているのだろう。
すぐに。
「先生。着替えましたよ」
と、千田祥子の声が聞こえた。
哲也は、クルリと体を、反転し、千田祥子の方を見た。
千田祥子は、ビキニを着ていた。
千田祥子の体は、美しかった。
以前から、哲也は、千田祥子のビキニ姿、を見たいと思っていたのである。
ビキニは、極度に露出度の多い物ではなく、普通の物だった。
ブラジャー、も、三角ビキニで、肩紐もあって、下着のブラジャー、と、変わりない。
大きな、乳房、は、ブラジャー、の中に、しっかりと、納まっている。
腰を覆っているのは、フルバック、で、大きな尻が、スッポリと納まっている。
なぜ、こういう、シンプルな、ビキニにしたかと言うと。
哲也は、ビキニについて、自論を持っていた。
女は、体を露出する、ビキニを、恥じらって、少し恥ずかしがっているから、その姿、が、いじらしく、可愛いのである。
Tバック、とか、ハイレグ、とか、極度に露出度が高い、ビキニ、を、平然と着ている、女は、恥じらいを、捨ててしまっている。
セックスアピール、を、堂々とする女には、いじらしさ、や、恥ずかしさ、などない。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、で、女の、胸、や、恥部、尻、が、ビキニにしっかりと、納まっていているから、男の、想像力を掻き立てるのである。
哲也は、千田祥子のビキニ姿を、しげしげと鑑賞した。
千田祥子の、プロポーション、は、素晴らしく美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい尻の肉。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。
伸縮性のある、ナイロン製の、ビキニは、千田祥子の体に、ピッタリと貼りついて、彼女の、プロポーション、を、美しく、整えていた。
大きな尻の肉、と、恥部の肉、が、フルバックの中に納まっているが、▽部分は、モッコリと形よく盛り上がって、それが男を、悩ませる。
ビキニに納まっている大きな、二つの乳房は、あたかも、熟した桃を、袋に入れたかのようで、体を動かすと、悩ましげに、ユサユサと揺れた。
「う、美しい」
哲也は、ため息まじりに言った。
「千田祥子さん。ビキニ姿を見られて、恥ずかしくないですか?」
哲也が聞いた。
「・・・いいえ。恥ずかしくないです。むしろ、嬉しいです」
「どうしてですか?」
「私も、夏は、海水浴場に行って、ビキニ姿を男たちに見せたかったんです。私、プロポーションには、自信があるんで。でも、恥ずかしくて出来ませんでした。こうして、個室の中で先生だけになら、見られても恥ずかしくありません。むしろ、私の、セクシーな姿を見せていることに、私、快感を感じているんです」
千田祥子は、そう言って、髪を搔き上げたりして、セクシーなポーズをとった。
「千田祥子さん。あなたの、ビキニ姿を写真に撮ってもいいですか?僕一人で見て楽しむだけで、ネットに公開したりしませんから」
哲也が聞いた。
「ええ。いいですよ」
千田祥子の承諾が得られたので、哲也は、色々な角度から、ビキニ姿の、千田祥子を、パシャパシャ、と、スマートフォンのカメラに撮った。
「・・・・あ、あの。先生」
千田祥子が、顔を赤くした。
「はい。何ですか?」
「もし、よろしかったら、私の全裸も、写真に撮ってもらえないでしょうか?」
千田祥子が、顔を赤くして言った。
「ええー。どうしてですか?」
哲也が聞いた。
「だって、男が女を監禁したら、裸にして、縛るじゃないですか。アダルトビデオのSМ物では。私、悲劇のヒロイン、の、快感をもっと味わいたくなってしまったんです。先生は紳士的、過ぎます。先生は、きっと、いつか、私を解放してくれると確信しています。だから、ここでの事は、誰にも知られません。これは、遊びの、監禁ゴッコだと思います。私、悲劇のヒロイン、の、快感を、うんと味わいたくなってしまったんです」
千田祥子は、大胆になっていた。
「ええ。わかりました。千田祥子さんの裸が、見られるなんて、最高に幸せです」
「じゃあ、ビキニを脱ぎます」
千田祥子は、ビキニの、ブラジャーを取り去り、パンティー、も脱いで、全裸になった。
そして、片手で、恥部を隠し、片手で、恥部を隠した。
それは、ボッティチェッリ、のビーナスの誕生、の図だった。
「う、美しい」
哲也は、嘆息をついた。
そして、全裸の千田祥子を、パシャパシャ、と、スマートフォンのカメラに撮った。
「先生」
「はい。何でしょうか?」
「私を縛って下さい」
「ええー。どうしてですか?」
哲也は、びっくりして聞いた。
「だって、男が女を監禁したら、裸にして、縛るじゃないですか。アダルトビデオのSМ物では。私、悲劇のヒロイン、の、快感をもっと味わいたくなってしまったんです。先生は紳士的、過ぎます。先生は、きっと、いつか、私を解放してくれると確信しています。だから、ここでの事は、誰にも知られません。これは、遊びの、監禁ゴッコだと思います。私、悲劇のヒロイン、の、快感を、うんと味わいたくなってしまったんです」
千田祥子は、トロンと、虚ろな、陶酔したような目になっていた。
「わかりました」
そう、哲也は言った。
哲也は、千田祥子の、華奢な腕をつかんで、グイと背中に回した。
「ああっ」
華奢な手をいきなり、つかまれて、千田祥子は声を出した。
哲也は、千田祥子の手首を重ねて後ろ手に縛った。
そして、その縄の余りで、千田祥子の、乳房の上下を、二回、カッチリと巻いて縛った。
胸の縄の間から、乳房が、弾け出ているように見えた。
SМの胸縄である。
「は、恥ずかしいわ」
千田祥子が言った。
「ああ。こうして、監禁されて、丸裸にされて、縛られるなんて、何て、スリリングな快感かしら」
千田祥子は、酩酊した声で言った。
哲也は、ニコッと、笑った。
「千田祥子さん。股縄もしますか?」
哲也が聞いた。
「・・・・は、はい」
千田祥子の顔が、真っ赤になった。
千田祥子は、小さな声で言った。
「わかりました」
哲也は、正座している、千田祥子の背後に座った。
そして、くびれた腰にベルトのように、縄を巻いた。
「千田祥子さん。立って下さい」
「はい」
哲也に言われて、千田祥子は、立ち上がった。
哲也は、腰の縄の余りを、千田祥子の股間に食い込ませた。
そして、その縄を前に出し、腰の縄に結びつけた。
「さあ。千田祥子さん。座って下さい」
「・・・・は、はい」
千田祥子は、ヨロヨロと座り込んだ。
意地悪な、股縄が、千田祥子の、尻の割れ目、や、恥部、に食い込んだ。
「ああっ。恥ずかしいわ。でも、感じちゃう」
「股縄をされるのは、初めてでしょ?」
哲也が聞いた。
「え、ええ」
「ふふふ。千田祥子さん。股縄をされると、どんな格好をしても、尻の穴、や、女の恥ずかしい所は、縄で隠されて見えませんよ」
「・・・・そ、そうですか」
「ええ。千田祥子さん。うつ伏せになって、尻を上げてご覧なさい」
「は、はい」
千田祥子は、ゆっくりと、体を傾けて、顔を床につけた。
そして、尻を高々と上げて、膝を開いた。
グラビアアイドル、が、四つん這いになる、セクシーポーズ、と似ているが、千田祥子は、背中で、後ろ手に縛られているので、みじめ極まりない、姿だった。
「ああっ。恥ずかしいわ」
恥ずかしさに耐えようと、親指を、他の四つの指で、ギュッ、と握りしめている。
女の股間が、パックリ開いている。
何もなかったら、尻の穴、も、まんこ、も、丸見えだが、二本の麻縄が、女を虐めているのと、同時に、女の恥部を隠す役割も果たしていた。
男の性器は、体の外に、突出しているので、縄では、隠せない。
しかし、女の性器は、大陰唇の内側が、見られなければ、性器は、見られていない、のである。
千田祥子の、股間は、二本の麻縄が、深く、食い込んでいて、大陰唇の中は、ギリギリ見えない。
「ふふふ。千田祥子さん。ほとんど、丸見えですが、アソコは、縄が食い込んでいて、見えませんよ」
哲也は、そんな揶揄の言葉を言った。
「は、恥ずかしいわ。で、でも、何だか、とても気持ちいいわ。みじめな私をうんと見て」
千田祥子は、マゾヒズムの快感に浸っていた。
「じゃあ、今度は、こうしてみましょう」
哲也は、思わせぶりな口調で、ニヤリと笑った。
哲也は、ブルブル震わせている、千田祥子の体を、そっと、横にして、床につけた。
そして、哲也は、千田祥子の、片足の足首、を、縄で縛った。
彼女の足首は、形が良く引き締まっていて、縛りやすかった。
「・・・な、何をするんですか?」
その声には、何をされるか、わからない恐怖感、と、さらに、一層の、スリルを求めたがっている、恍惚感、が、含まれていた。
「こうするんですよ」
そう言って、哲也は、縄を、天井の梁に、引っ掛け、縄を、グイグイと、引っ張っていった。
それにともなって、千田祥子の、足も、どんどん、天井に向かって、引っ張られていき、そして、ついに、片足が、ピンと、伸ばされた。
「ああー」
千田祥子は、叫んだ。
哲也は、縄尻を、檻の中の、鉄柵に、カッチリと結びつけた。
千田祥子の股間が、開いて、股間の恥ずかしい所が、丸見えになった。
しかし、股縄によって、アソコの中は、隠されていた。
「千田祥子さん。自分の姿を見てごらんなさい」
そう言って、哲也は、千田祥子の前に、等身大の鏡を、横に置いた。
千田祥子は、おそるおそる、鏡の中の自分を見た。
「ああー」
千田祥子は、叫んだ。
「ふふふ。どうです?丸裸の自分の姿を見る気分は。しかも、後ろ手に縛られて、股間もパックリ開いて、丸見えで。でも、まんこ、の割れ目の中は、二本の麻縄で、隠されて見えないでしょう」
哲也が、からかうように言った。
「ああー。恥ずかしいわ。こんな、地下室に閉じ込められて、裸にされて、縛られるなんて。でも、その恥ずかしさ、みじめさ、が、すごく気持ちいいわ」
「ふふふ。千田祥子さんも、マゾの喜びに目覚めたようですね」
「そうです。先生。私は、マゾの喜びに目覚めてしまいました。もっと、うんと、みじめにして下さい」
千田祥子は、あられもない、本心を告白した。
「ふふふ。千田祥子さん。あなたの、このみじめな姿を写真に撮ってもいいですか?」
「は、はい。どうぞ、写真にとって下さい。私のみじめな姿を」
「・・・では撮らせて頂きます」
そう言って、哲也は、色々な角度から、丸裸で縛られた千田祥子を、バシャバシャ、とスマートフォンで撮った。
「何をすればいいでしょうか?」
「何でも好きなようにして下さい。SМプレイ、って、蝋燭を垂らすんでしょう?蝋燭を垂らして下さい」
「わかりました」
そう言って、哲也は、千田祥子の体に、蝋燭を垂らし始めた。
哲也は、蝋燭を取り出して、芯にライターで火をつけた。
ポッ、と蝋燭が、暗い地下室の中に灯った。
哲也は、千田祥子の体の上で、蝋燭を傾けた。
ポタリ、ポタリ、と蝋涙が、千田祥子の体に垂れた。
「ああっ。熱い。熱い」
千田祥子は、蝋燭から、何とか、逃れようと、体をくねらせた。
しかし、後ろ手に縛られて、床に寝かされて、片足を吊り上げられていて、動けないので、どうすることも出来なかった。
「千田祥子さん。つらくなったら、言って下さい。止めますから」
「ああ。先生。そんな、優しくしないで下さい。私を、みじめの、どん底に落として下さい」
千田祥子が、興奮しているのは、アソコ、から、白濁した愛液が、ダラダラ出ているので、明らかだった。
哲也は、千田祥子の体に蝋燭を垂らし続けた。
千田祥子の全身は、蝋涙の斑点だらけになった。
「ああ。いいわっ。もっと、いじめて」
千田祥子は、被虐の酩酊に浸っていた。
「千田祥子さん」
「はい。何でしょうか?」
「靴で、体を踏んでもいいでしょうか?」
「は、はい。どうぞ踏んで下さい」
では、と言って、哲也は、裸の千田祥子の体を靴で踏んだ。
そして、ユサユサと揺すった。
「ああー」
千田祥子は、被虐の喘ぎ声を上げ続けた。
しばしして。
「千田祥子さん。顔も踏んでいいですか?」
哲也が聞いた。
「はい。どうぞ、踏んで下さい」
哲也は、千田祥子の顔を踏んだ。
「ああー。みじめだわ」
「ふふふ。こうなったのも、千田祥子さん。あなたが、私をバカにしたからですよ」
「お許し下さい。先生。私が、生意気でした」
哲也は、ふふふ、と、笑いながら、千田祥子の、乳房を、靴で、踏んだ。
「ああー」
見る見るうちに、千田祥子の乳首が勃起してきた。
「ふふふ。千田祥子さん。感じているんですね」
「は、はい。そんなことされたら、感じちゃいます」
・・・・・・・・・・・
「ふふふ。千田祥子さん。何をしてもいいんですね?」
哲也は、ことさら確かめた。
「は、はい」
「では、股縄を外します」
「え、ええー。それだけは、許して下さい」
「今、何をしてもいい、と言ったばかりじゃありませんか」
「・・・・先生。それだけは許して下さい」
無理もない。
股縄は、女をはずかしめる縄だが、同時に、女の、恥ずかしい所を隠す効果も持っている。
しかも、千田祥子は、片足を吊られているので、股間は、パックリ開いている。
股縄を外されては、女の恥ずかしい所が丸見えになってしまう。
哲也は、千田祥子の哀願を無視して、股縄を外し出した。
股間に食い込んでいる、股縄を外し、それを、留めていた腰縄も解いた。
千田祥子の股間は丸見えになった。
「ふふふ。千田祥子さん。とうとう、覆う物何一つない、丸裸になりましたね。しかも、股を、大きく広げて。でも、白濁した愛液が、ダラダラ出でいるので、アソコは見えませんよ」
「いやっ。そんなこと、言わないで。恥ずかしいわ」
哲也は、千田祥子の顔を革靴で踏んで、グリグリさせた。
丸裸にされて、縛られて、顔を靴で踏まれる。
こんな屈辱があるであろうか。
「ああー」
千田祥子が叫んだ。
哲也は、千田祥子の頬、から、口、目、までを、革靴で、グリグリ揺すった。
それによって、千田祥子の美しい顔が歪んだ。
「ああー」
千田祥子は踏みつけられて歪んだ顔から、声を出した。
それは、ふみつけられた痛みのためではない。
哲也が靴にかけた体重は、わずかで、単に靴を顔に乗せている程度である。
千田祥子が、叫んだのは、顔を靴で踏まれる、という屈辱からである。
「ふふふ。千田祥子さん。みじめですね」
哲也が勝ち誇ったように言った。
「み、みじめです。みじめの極致です」
「こんなことになったのも、あなたが、僕をバカにしたからですよ」
「は、はい。先生。その通りです。私が先生をバカにしたから、こんな目にあっているんです。自業自得です。私が傲慢でした」
「ふふふ。千田祥子さん。僕は、あなたを、このままの格好にしたまま、この地下室を去るかもしれませんよ。その後、もう、来ないかもしれませんよ」
千田祥子の顔が真っ青になった。
そんなことを、されたら、保存食も食べられないし、裸で片足を吊られたままでは、十分な睡眠をとることも出来ない。
「死」の恐怖が、千田祥子の頭を、瞬時によぎった。
「ああっ。先生。それだけは、許して下さい。そんなことをされたら、私は死んでしまいます。何をしても構いません。うんと、私を虐めて楽しんで下さい」
千田祥子が言った。
「死」の恐怖に比べたら、人間は、どんな屈辱にも耐えられる。
「ふふふ。千田祥子さん。やはり、僕は帰ります。あなたを、虐めるのは、可哀想なので」
そう言って、哲也は、千田祥子の顔に乗せていた、靴をどけた。
そして、檻を出た。
そして、1階に出る、階段を登り出した。
「待って。待って。先生。行かないで」
丸裸で、縄で片足を吊られて、身動きのとれない体を、くねらせて、千田祥子が、訴えた。
しかし哲也は、千田祥子の、訴えなど、どこ吹く風、と、聞く耳を持たなかった。
「千田祥子さん。では、お達者で・・・」
そう言って、哲也は、階段を登って、地下室の蓋を閉めてしまった。
バルルルルッ、という、車のエンジンの音が聞こえた。
哲也は本当に、去ってしまった、と思うと、千田祥子に、激しい恐怖感がおそってきた。
このままでは、保存食も食べられないし、裸で片足を吊られたままでは、十分な睡眠をとることも出来ない。
「私はこのまま死ぬかもしれない」
「死」の恐怖が、千田祥子の頭を、瞬時によぎった。
・・・・・・・・・

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