かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 150

2021-01-23 18:33:08 | 短歌の鑑賞
    ブログ版 渡辺松男研究 18 2014年8月
       【夢解き師】『寒気氾濫』(1997年)65頁~
       参加者:泉真帆、鈴木良明(紙上参加)、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:渡部 慧子 司会と記録:鹿取 未放
            
  ◆文章中、塚本邦雄の「邦」の正字が出せませんでした。申し訳ありません。


150 沈黙のおんなに凭りかかられてみるみる石化してゆく樹幹

         (レポート)
 そこにいる「おんな」は「沈黙」のまま樹に凭りかかっている。沈黙がかろやかなたたずまいを見せる人もあろうが、そうでない場合もあり、精神のいきいきしていない人に凭りかかられると樹といえどもたいへんな圧迫かも知れない。沈黙の圧迫による樹幹の困惑や疲労を「みるみる石化してゆく」として、うつろう時をかたちにし、読者に示す。(慧子)

   
      (紙上意見)(2014年月)
 斎場の樹木に凭れて、故人を偲んでいる沈黙の女。凭れかかられている樹幹は、その嘆きの重さにたちまち石化していく。塚本邦雄の歌をベースに面白く表現している。(鈴木)


       (当日発言)(2014年月)   
★塚本邦雄の『水葬物語』に「革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ」が
 あります。ただのパロディではなく、対比して作っている。沈黙の女には何か重いものがあって
 それに凭りかかられるので何か固まってしまう歌だと思う。ただ、肝心なところを味わえていな
 いのですが。樹幹というのは、木の中の役割をきちんと言いたかったのではないか、根に続く樹
 幹であるよということ。語らぬものの沈黙の訴えによって動けなくなってしまったものをいいた
 かったのではないか。(真帆)
★塚本邦雄の第一歌集『水葬物語』の巻頭歌だから誰でも知っていますよね。塚本にとっても処女
 歌集の巻頭歌だから非常に思い入れがあるはずですし、元の歌の辛辣な批評意識とか苦さとかは
 周知のことだと思います。その本歌取りをするのだから、渡辺さんにも相当な覚悟とか思い入れ
 があるはずなんですけれど、私はもう一つこの歌が分からないです。真帆さんが言った「語らぬ
 ものの沈黙の訴えによって動けなくなってしまったもの」というのはそうなんだろうと思うし、
 鈴木さんの「斎場の樹木に凭れて、故人を偲んでいる沈黙の女」という解釈も、唐突に女が出て
 きたように思ったけど、なるほど一連の流れの中では故人と深いかかわりのあった女か、とも思
 うんですけど、作者の意図とか本質的な部分が自分ではつかめないでいます。(鹿取)
★国のことだったりしますか?「沈黙のおんな」でどこかの国を例えたり。(真帆)
★それは違うような気がする。この一連にいきなり外国への風刺とかは出てこないんじゃないか
 なあ。(鹿取)


         (後日意見)
 塚本は「革歌作詞家」を風刺しているが、この「沈黙のおんな」は風刺の対象なのか、鈴木さんのように故人を偲んでいる労るべき存在なのか。私は風刺の対象と読んだが、溶けてゆくピアノは「すこしづつ」で、石化する樹幹は「みるみる」だからスピード感が違う。この歌は塚本のパロディであり、何か滑稽味を狙った者なのだろうか。ちなみに、『寒気氾濫』の出版記念会に主賓として列席された塚本氏は、この歌については何も発言されなかった。(鹿取)
     

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