かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 59

2023-06-16 12:02:47 | 短歌の鑑賞
  2023年版渡辺松男研究⑧(13年9月)
     【からーん】『寒気氾濫』(1997年)30頁~
     参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、高村典子、渡部慧子、鹿取未放 
     司会と記録:鹿取 未放


59 のこぎりもさかなの骨も風のなか捨てられにゆくものはひびけり

      (当日意見)
★のこぎりもさかなの骨も人の暮らしのことだと思いました。暮らしに役立つ物が捨て
 られて風の中で響いているというのは何という抒情だろう。いいなあと思いました。
     (慧子)
★鋸は目立屋さんが来て直す。大切に使われているものだ。(崎尾)
★のこぎりとさかなという取り合わせが、ちょっとダダイストの詩のようで面白いと思
 いました。ノコギリのギザギザと魚の骨格がアナロジーというほどではないけど、な
んとなく共通性がある。そしてノコギリはたぶん古びて錆びて、魚はおいしい身を食
 べられて骨だけになって捨てられる。どちらも薄いものですよね。それが捨てられに
 ゆく風のなかで響いている。名詞のひらがな表記は薄さとはかなさが、結句のひらが
 なの多用も余韻をもってひびきあっている感じがうまく出ている。よく計算された表
 記だと思います。
  この歌の下の句に関しては、葛原妙子の〈疾風はうたごゑを攫ふきれぎれに さん 
た、ま、りぁ、りぁ、りぁ〉(『朱霊』)を思い出しました。どちらの歌もひらか
な表記が音の響きのリアルさをうまく表現しています。また、この歌から寺山修司の
〈売り にゆく柱時計がふいに鳴る横抱きにして枯野ゆくとき〉(『田園に死す』)を
思 い出し ましたが、それぞれ質の全く違う歌ですが。(鹿取)




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