2023年度版 馬場あき子の旅の歌26(2010年3月実施)
【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)164頁~
参加者:N・I、Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、
渡部慧子、鹿取未放
レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放
196 靡くもの女は愛すうたかたの思ひのはてにひれ振りしより
(レポート)
「飛天」は天空を飛んで、仏陀を礼賛・讃美する天人。しばしば散華や奏楽器の姿で表現される。天空を降りてくるのであるから、衣も乗っている雲もたなびいている。「~いもがそでふる」を引用されているのかも知れない。「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」(万葉集20など)(T・H)
(当日意見)
★「袖を振る」と「領巾を振る」は、違う。(藤本)
★佐用姫伝説の主人公が、せっかく恋仲になった大伴狭手彦と瞬く間に
別れがやってきて、領巾(ひれ)を振って泣くことになるんだけど、
「うたかたの思ひ」ってそのことじゃないですか。(鹿取)
(まとめ)
195番歌(蜃気楼の国のやうなる西域の飛天図を見れば夜ふけしづまる)で衣がなびく飛天図に見入っていての連想であろうか。万葉集に載る「ひれ振る」歌を幾首かあげてみる。
a 松浦県佐用姫(まつらけんさよひめ)の子が領巾(ひれ)振りし
山の名のみや聞きつつ居らむ(巻五・八六八) 山上憶良
b 遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負ひし山の名
(巻五・八七一) 作者不詳、一説に山上憶良とも
c 海原の沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫
(巻五・八七四) 大伴旅人
これらの歌はいずれも佐賀県唐津市に伝わる佐用姫伝説をもとにして後世の歌人達が詠ったもので、伝説はこうである。
537年、百済救援の為、兵を率いて唐津にやってきた大伴狭手彦(さでひこ)は、軍船建立まで滞在した長者の家で、長者の娘佐用姫と恋仲になった。やがて狭手彦は出航し、姫は鏡山に登って領巾を振り続けた。その後、七日七晩泣き続けてとうとう石になってしまった。そこで領巾を振った鏡山を領巾振山(ひれふりやま)と呼ぶようになった。現代も唐津市に鏡山(領巾振山)は残っている。ところで憶良や旅人は7世紀後半から8世紀前半にかけて活躍した歌人だから、領巾振山の伝説からは既に150~200年の時が経過していたことになる。
ともあれ、馬場のこの歌は万葉集のこれらの歌を背景におきながら、悲恋の姫に想いをよせ、そこから靡くものを愛するようになったと女のはかなげな習性を思っているようだ。(鹿取)
【飛天の道】『飛天の道』(2000年刊)164頁~
参加者:N・I、Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、
渡部慧子、鹿取未放
レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放
196 靡くもの女は愛すうたかたの思ひのはてにひれ振りしより
(レポート)
「飛天」は天空を飛んで、仏陀を礼賛・讃美する天人。しばしば散華や奏楽器の姿で表現される。天空を降りてくるのであるから、衣も乗っている雲もたなびいている。「~いもがそでふる」を引用されているのかも知れない。「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」(万葉集20など)(T・H)
(当日意見)
★「袖を振る」と「領巾を振る」は、違う。(藤本)
★佐用姫伝説の主人公が、せっかく恋仲になった大伴狭手彦と瞬く間に
別れがやってきて、領巾(ひれ)を振って泣くことになるんだけど、
「うたかたの思ひ」ってそのことじゃないですか。(鹿取)
(まとめ)
195番歌(蜃気楼の国のやうなる西域の飛天図を見れば夜ふけしづまる)で衣がなびく飛天図に見入っていての連想であろうか。万葉集に載る「ひれ振る」歌を幾首かあげてみる。
a 松浦県佐用姫(まつらけんさよひめ)の子が領巾(ひれ)振りし
山の名のみや聞きつつ居らむ(巻五・八六八) 山上憶良
b 遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負ひし山の名
(巻五・八七一) 作者不詳、一説に山上憶良とも
c 海原の沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫
(巻五・八七四) 大伴旅人
これらの歌はいずれも佐賀県唐津市に伝わる佐用姫伝説をもとにして後世の歌人達が詠ったもので、伝説はこうである。
537年、百済救援の為、兵を率いて唐津にやってきた大伴狭手彦(さでひこ)は、軍船建立まで滞在した長者の家で、長者の娘佐用姫と恋仲になった。やがて狭手彦は出航し、姫は鏡山に登って領巾を振り続けた。その後、七日七晩泣き続けてとうとう石になってしまった。そこで領巾を振った鏡山を領巾振山(ひれふりやま)と呼ぶようになった。現代も唐津市に鏡山(領巾振山)は残っている。ところで憶良や旅人は7世紀後半から8世紀前半にかけて活躍した歌人だから、領巾振山の伝説からは既に150~200年の時が経過していたことになる。
ともあれ、馬場のこの歌は万葉集のこれらの歌を背景におきながら、悲恋の姫に想いをよせ、そこから靡くものを愛するようになったと女のはかなげな習性を思っているようだ。(鹿取)
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