2019/4/18
手術直後に私がまどろんでいた頃、妻へは「この肺炎は恐らくステロイドが効くタイプだと思われます。」と説明があったということでした。
詳しくは採取された組織を病理検査に回して、また2週間くらいはかかることになります。
まあ、何はともあれ無事にナースステーション横の個室に戻ってくることができました。
目が覚めてくるにつれ、術中に見た夢のことや事前説明で言われた5%に入らなくて良かったなあ、などと妻と笑いながら話していたのであります。
ところが意識がだんだんとはっきりしてくるにつれ確実に麻酔が切れてくるのが判ります。
2時間も経った頃には大きなシリコン管が突き刺さっている右胸の奥深くがズキズキと痛み始めました。
看護師さんに言うとすぐ痛み止めをもってきてくれましたが、それを飲んでもさらに酷くなるばかり。
痛みには結構強い方だと思っていましたが、ついには顔をしかめたまま、会話どころか息をするのも辛くなってきました。
呼ばれた医師がすぐに来てくれて、「強い鎮痛剤を注射した方が良いかもね、だけどなあ・・」と口ごもります。
効くには効くらしいけれども副作用も強くて、強い吐き気が出るのだとか・・。
それでも今のこの状況から早く逃れたい私は片目をつぶり痛みを堪えながら小さな声で「お願いします・・」と訴えたのであります。
なるほど、なるほど・・・
しばらくすると本当にあの強い痛みが和らいでくるではありませんか。
「助かったあ・・」と一息ついたのも束の間、今度は急に胃のあたりがグルグル音を出し始めて、内容物がボコボコと噴射しそうになってくる感触が解りました。
付き添っている妻に口を押さえながら「早く、はやく・・そこの・・早く!」なんて言葉にならない声で、傍にあった膿盆を指さして涙目で叫び、それを受け取り両手で顔の前に構えた瞬間に激しく嘔吐してしまいました。
それが10分置き位に何回か続くと吐き気はだんだん落ち着いてきて、痛みの方も何とか我慢できるまで収まっていきました。
そういう訳で今夜は眠るのは諦めたとして、もうひとつ大きな問題があります。
まだ尿が出ていないのです。
トイレに行けば何とか出せると思うのですがベッドの上に大の字に寝たまま股間に置かれた尿器に「どうぞ」と言われてもなかなか出るものではありません。
夜中に当直の若い看護師さんが何回も入ってきて「まだ出ませんか?朝までにせめて300㏄くらいは出ないと腎臓に良くないんです。そろそろ先生に連絡してきてもらいましょうかねえ・・」と。
それは申し訳ないと「もう1回挑戦してみます」と答えて、今度は横で寝ていた妻にも外に出てもらい、一人部屋の中で心を整え集中し、排尿のことだけを考えた・・のですが残念ながら出ません・
「出さねば!」と思えば思うほど出ないってどんだけプレッシャーに弱い男なんだという話です。
ここに至って、看護師さんは「いざ!」と腕まくりをすると何やら準備をしてして最後の実力行使に出たのであります。
そう、真夜中の導尿です。
これが嫌だからOP中の導尿も拒んだのに、結果的に密室でこんな格好のまま若い看護師さんの手を煩わせることになるなんて・・
でも緊張しているのはこちら側だけで、向こうは若いとは言え看護のプロです。
手際よく〇〇の先っぽにシリコンチューブを差し込むとスルスルと挿入していく。
すぐに出口を解放されたオシッコたちが歓声を上げて尿器に飛び出してきました。
看護師さんは全量を採りおわると「良かった、良かった。きれいなオシッコが500くらいは出ましたよ、フフ」と爽やかな笑顔を見せながら部屋を出て行ったのであります。
暗い天井を見つめながら、「こんなことなら変な意地を張らずに術前に尿管を入れてもらった方が皆に迷惑かけずに済んだのになあ・・」と反省するおじさんなのでした。