心配を手放すということは容易なことではありませんでした。
ひーちゃんと会ったことで心配の半分は解消されました。
けれども、しとりんと会うまではそれがなかなか出来ませんでした。
薄暗いデイルームの中で私は待ち続けました。
そして、午後11時40分頃、ついに手術室から呼ばれました。
急いで2階に降りると、しとりんは手術室から隣りのICUにおりました。
執刀してくださった医師が待っていてくださいました。
「何とか出血は止まり、子宮の全摘出をしなくて済みました。
麻酔から覚める頃ですので、こちらへどうぞ」
ICUのベッドの中にしとりんはいました。
「もう意識が戻っていますから、どうぞ声をかけてあげてください」
そう言われて、
「俺だぞ、しとりん。よく頑張ったなあ。ひーちゃんはとても元気だよ。
大変だったけど、本当に産んでくれてありがとう」
「そう、良かった‥、良かった‥」
としとりんは目を閉じたまま何度もうなずいていました。
「経過はいいので、明日の午前中には3回のMFICUに戻れると思います。
しばらくそばにいてあげてください」
そう言うと、執刀医の先生はICUを出て行かれました。
看護師さんが椅子を持って来てくれたので、
ベッドサイドに座ってしとりんの左手をそっと握りました。
「ひーちゃん、良かった‥。ひーちゃん、良かった‥」
と何度もうなずきながら話していました。
「良かった。良かった。お前もひーちゃんも無事で‥」
「すーさん、心配かけてごめんね」
「いいんだよ。もう大丈夫だから。お前は一生懸命に頑張ったんだから。ありがとう」
24時を過ぎても、私は30分ほどICUにいました。
最後の最後まで波乱万丈の出産だったけど、
しとりんもひーちゃんも二人の命が守られて感謝しました。
夜の病院は眠ることなく、ずっと天使さんたちが働いておりました。
(東京女子医大病院 中央病棟)