しとりんをエレベーターホールで見送ったあと、
助産師さんの指示でベッド周りの荷物を整理しました。
帝王切開が終わったあと、しとりんのベッドが移動するからでした。
そして、面会時間がすでに過ぎていましたので、
MFICUを出てデイルームの椅子に座って待ちました。
意識をオペ室のほうに向けると、4人の白い存在の方々がおりました。
しとりん専属の4人の天使さんたちのようでもあり、
白色同胞団(ホワイト・ブラザーフッド)の方々のようにも感じました。
大きな白い翼を持った方が中心に立っていました。
そして、しとりんのお腹に天から一筋の光が、スポットライトのように降りていました。
「しとりんのご主人さん、こちらに!今、赤ちゃんが来ますよ!」
助産師さんから呼ばれるとMFICUの中で待ちました。
9時前にしとりんより早く、保育器に入ったひーちゃんと会いました。
「おめでとうございます。赤ちゃんは元気ですよ。女の子で、1,651gです」
と男性の小児科の医師が祝福の言葉をかけてくださいました。
ひーちゃんは突然お腹から出されて、
ちょっと戸惑っているような感じでした。
周囲を見渡すように目を少し開き、頭を動かしていました。
それはお母さんを探しているような動きにも見えました。
(ひーちゃん、突然でびっくりしたね。でももう安全だからね。
生まれてきてくれて、ありがとう。頑張ったね)
「しとりんはどうでしょうか?」と尋ねると、
「私たちは赤ちゃんの担当ですから、ちょっと分かりません」
そう言うと、ひーちゃんはNICUの中に入って行きました。
NICUのドアが閉まるまでひーちゃんを見つめ続けました。
(しとりんは大丈夫なのだろうか?)
ひーちゃんが無事に産まれた安堵感と同時に、
しとりんの状況が心配でした。
「もうじき、しとりんさんが戻って来ますから、エレベーターのところでお待ちください」
と助産師さんが教えてくださいました。
いつの間にか白衣のユニホームから緑色のユニホームに変わっていました。
ベテラン助産師さんも手術室に入っていたのでした。
しかし、なかなかしとりんは現れませんでした。
私は再びデイルームの椅子に座りしとりんを待ち続けました。
9時半頃、さきほどの助産師さんから、
「先生から説明がありますので、2階の手術室まで来てください、とのことです」
急いで2階に降りて手術室わきの小さな部屋に案内されました。
すぐに執刀医(宿直医)の先生ら3人が入って来られ、説明が始まりました。
「じつは出血が止まらないのです。
もちろん輸血をしていますが、このままですと母体が大変危険です。
閉じたお腹(子宮)を再び開腹して止血の処置をします。
しかし、それでも出血が止まらない場合は、母体保護を最優先するため
子宮を全摘出させていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」
私はその場で即答せねばなりませんでした。
(大丈夫!)
私の中で誰かの声が聴こえました。
「そのときはやむを得ません。よろしくお願いします」
と頭を下げました。
私の言葉に「分かりました。全力を尽くします」と言うと、
すぐに医師たちは部屋を出て行かれました。
再び、3階のデイルームに戻った私は、
胸ポケットから「生命の贈り物」を出して読み始めました。
MFICU(母体・胎児集中治療室) NICU(新生児集中治療室)