緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

オピオイドコンビネーションによる呼吸困難と神経障害性疼痛のコントロール

2009年05月22日 | 医療

私のオピオイド投与は、基本的には一剤で、
必要な時のローテーションに備えます。

久しぶりに、オピオイドコンビネーションの指示を出しました。
コンビネーションですから、2剤、3剤のオピオイドを併用する方法です。




神経障害性疼痛をオキシコドンでコントロールしていましたが、
その神経障害性疼痛の悪化と同時に
肺転移による呼吸困難感の増悪を認めた患者さんでした。

しかも、全身状態不良で、経口投与も早晩困難になるかもしれない状況でした。




オキシコドン 80mg

これで、安定していたのですが、幻視痛を認め、
ほぼ同時期に呼吸困難出現。
オキシコドン増量かモルヒネローテーションか
判断を求められました。

出した指示は・・・・・

ベタメタゾン 2mg 開始、
オキシコドン 80mgのまま
フェンタニル貼付剤 4.2mg貼付(オキシコドン40mg相当の増量)
レスキュー モルヒネ10mg




数日後、予想通り眠気がでたので、オキシコドンを60mgに減量。




労作時にレスキューのモルヒネを使うことで
ほぼ、幻視痛も呼吸困難感も改善しました。

呼吸困難には、何といってもモルヒネがよく効きます。
ですから、オキシコドンの増量のみという選択肢はありませんでした。
では、モルヒネ単剤にするかというと、
神経障害性疼痛にはモルヒネは弱いので、
幻視痛があることから、モルヒネ単剤も難しいと判断しました。

では、なぜ、オキシとモルヒネのコンビにしなかったのか?

オキシが長くなったことで、ローテーションをかけたかったことと
両方経口の錠数では、ちょっと厳しい全身状態だったことと
この幻視痛に対して、フェンタがカバーしてくれそうと感じた私の直感でもありました。

(直感って、エビデンスないに等しいのですが、
 外科医が手術の上手い下手があるように
 緩和医療では、これだ!と感じることが
 経験の厚みだと思うことも多いのです)

では、なぜ、フェンタとモルヒネの2剤にしなかったか・・・
全身状態不良の時に、オキシ→フェンタ+モルヒネ と
一度に切り替えることは、どう反応するか見通せませんでした。

以上のことから、ひとまず、トリプルコンビネーションとしました。




おおよそ1週間後・・・
落ち着いたままでしたが、
オピオイド3剤併用はきれいではないこと
多分、そのまま(モルヒネがレスキューのみ)にすると
数週間後には呼吸困難感が増悪すると思われたので
オキシをモルヒネに置き換え、
フェンタ+モルヒネとすることにしました。





血糖値が不安定だったので
ベタメタゾン 1mgに減量し
症状悪化などの問題がないことを確認した後・・・

ベタメタゾン 1mg
オキシコドンをモルヒネにローテーション
フェンタニル貼付剤はそのまま
とすることにしました。




オキシコドン 60mg は、モルヒネ換算すると 90mg。

オピオイドローテーションの難しさは、
こうした一律の換算比通りにならないことにあります。
除痛が図れている呼吸困難コントロール目的の場合は、
疼痛の半分量で足りることが多いのです。

で、初回に半分ではちょっと少なすぎると判断して、
60%相当でモルヒネ60mgに2日間のクロスオーバーで
変更することにしました。

実は、換算比計算の50%と少ない量でローテーションかけて
退薬症状を経験したことがあるのです。
先行オピオイドに対する退薬か
後方オピオイドが少なすぎての退薬かはなんともいえず
ローテーション時に
後方の切り替え量が少なすぎるのも問題を生じるという教訓から
60%設定としたのでした。

その60%で切り替えたところ、若干の眠気。
すかさずモルヒネ40mgへ。



ほぼ、想定していた通り、
呼吸困難にはモルヒネへの変換は
換算比で計算した量の50%ドーズで
落ち着きました。



ちょっと、痛みは出てきそうな気配があります。

神経障害性疼痛に、モルヒネは弱いので、
鎮痛補助薬を併用した方がよいと思っています。





複数の症状を対象としたオピオイドによる
症状緩和。
換算比計算は、さらに難しくなります。

今、とても落ち着いています。




今後・・これで、経口困難になったら・・・・・

モルヒネ静注または皮下注で単剤にしていく予定です。




そういう意味では、長く、ゆっくりとしたローテーションですが、
呼吸困難があるときは、
本当に慎重にやっていかなければいけません。




でも、助けられたのは、患者さんの自己コントロール感です。
こうやって、色々細かに変更していくと
患者さんは、とても不安になられるのですが、
緩和ケアチームの若者が
患者さんに丁寧に説明してくれたので
上手く乗り越えることができました。

さらに、主治医の先生は、とても症状緩和の力量が高い医師だったので、
この複雑な方法にも了解してくださり、
処方協力をしてくださったことも大きなことでした。

本当に、チーム一丸という感じです。



なんと・・
患者さんは、これで落ち着き
また、化学療法に戻ることができました・・・

モルヒネは、最期につかうオピオイドではないのです!!



(煩雑な、今日の記事・・ 
 何の事????と大半の方は思われるでしょう。

 きっと、星薬のN先生とか Photo Pさんとかは
 おおっ とか言いながら読んでくださるのではないかと
 期待しつつ・・)


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9 コメント

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お~凄い! (Photo P)
2009-05-23 09:56:59
オピオイドローテーションの微妙なさじ加減、お見事というか目から鱗の症例です。オピオイド等価換算の50%~60%の判断が必要なんですね。勉強会で是非取り上げたいと思います。ローテーションの時の嘔気・嘔吐や便秘対策も微妙なんでしょうか。
何とも凄い臨床現場を拝見いたしました。
返信する
勉強になります。 (hiro)
2009-05-23 19:14:05
先生の記事、本当に勉強になります。
これからも貴重な生の臨床の情報を教えて下さい
返信する
有り難いです。 (若紫)
2009-05-23 22:13:51
本当に勉強になります。
力不足のまま緩和ケアチームの長になって、毎日苦労していますので、このような具体的なお話はとても有り難いです。
主治医と良好な関係を築くことも大切ですよね。

これからもいろいろ教えて下さい。
頑張って勉強して、少しでも患者さんたちのお役に立てるようになりたいです。
返信する
おもわず、メモとりました (miya)
2009-05-24 14:52:19
私は病院勤務の薬剤師で、先生の記事を、いつも楽しみに拝見させていただいております。今まで、オピオイドの多剤併用に何度かお目にかかりましたが、おそらく先生のようなさじ加減の結果の多剤ではなかったように思います。
今回、この記事をよませていただきすぐにメモをとり、院内のスタッフの勉強会用の資料を作りました。
この症例はオピオイド処方される他の先生方にも是非読んでいただきたいですね。
あらためて、先生の凄さに感心させられています。
返信する
こんにちは (ゆきんこ)
2009-05-24 18:32:16
本当に先生はすごいですね。ポケット版の先生の本、第二弾是非出版してほしいです!症例をたくさん載せた本、症例がまとまっている本ないですよね。
返信する
コメントありがとうございます (aruga)
2009-05-25 21:57:25
Photo Pさん
主治医が排便コントロールがとても上手く、私たちの消化器症状コントロールの出番はありませんでした。単に、ORすることが大切というより、病棟や主治医の力に合わせた内容にすることも重要だと感じています。他の病棟ではこうは行きませんので主治医あってのORです。
お褒めいただき、とても、嬉しいです。

hiroさん
勉強になるとお書き下さり本当にありがとうございます。励みになります。

若紫さん
患者さんのために頑張られている様子が、私にも元気を与えてくださいます。書いた甲斐を感じました。感謝です。

miyaさん
意識した多剤併用と、切ると変化するのが見通せず思わず重ねてしまうことは、ご指摘の通り、異なります。ここで、書いて終わるのではなく、miyaさんの病院にもつながることができたなんて伺うと、格別の喜びです。

ゆきんこさん
症例本の校正に手が伸びず、とても、時間がかかっているのですが、頂いたメッセージで少し、前に進んでいけそうです。本当にありがとうございます。
返信する
はじめまして (ゆーきゃん)
2009-05-26 02:03:28
緩和ケア病棟に勤務する看護師です
患者さんの症状について検索していて、こちらに偶然たどりつきました。
とても具体的な内容(処方など)で、すぐに実践に役立てそうでありがたいです。
先生にご質問したいのですが、
オキシコンチン内服中の方が、イレウスで内服困難になり経路変更する場合、
塩モヒ注orフェンタニル注どちらを選択されますか?
同じ塩モヒでも、内服と注射では、副作用の程度が違ったりするんでしょうか?
ちなみに今は
塩モヒ+サンドスタチン+ステロイド+セレネース混注の持続皮下注です。
お忙しいところ、恐縮ですがご教授いただければ嬉しいです。


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3剤ですか (よっしぃ)
2009-05-26 16:50:01
お久しぶりです。
3剤併用はしたことがありませんでした。
2剤併用もほとんど経験がありません。

また、このブログで勉強したいのでこれからも症例呈示お願いします。

正直、驚きの処方でした。
返信する
コメントありがとうございます (aruga)
2009-05-26 22:34:17
ゆーきゃんさん
はじめまして。お褒めくださり本当にありがとうございます。嬉しいです。
腹腔内の問題で疼痛を生じているときは、腎障害がなければ、基本的にはモルヒネを私は選択します。フェンタよりよく効きます。フェンタニルは、腸蠕動の抑制がモルヒネより軽微で、イレウスが完成していない患者さんの場合は、フェンタを選択することがありますが、緩下剤を使ってでも動かしながらモルヒネの方がコントロールは良好なことが多いです。
経口と非経口投与では、非経口投与の方が便秘率は低いです。
投与中のメニューはPCU的だなあと思います。私もかつてPCUにおりましたので。

よっしぃさん
こんにちは!
今回、あまりに反響が大きいので、困ったなあと思っていました。こんなコンビネーションはめったに行わないので、これが標準的と思われないかしらと・・心配になっておりました。
3剤も、2剤もほとんど経験がないというよっしぃさんは、あるべき疼痛治療をなさっているのだと思います。例外的なこんな処方もありえるという程度に読んで頂けますと嬉しいです。
お立ち寄りくださり、コメントを残して下さり、とっても、暖かな気持ちになりました。
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