緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

物と噛むと涙が出てくると話してくれた患者さんのこと

2018年03月18日 | 医療

10年以上前になります。
今の病院ではにないところに
勤務していた時のこと。


顔の痛みで依頼を受けたことがありました。



あるがんの患者さんで、
頬が痛いと言われました。
詳しく伺うと、鼻の下までその痛みは続いていました。

咀嚼をすると、痛みは強くなり、
時に、同じ側の目に涙が出てきたり、
汗をかくことがあるとおっしゃいました。

痛みで涙がでるなら、
普通は両目に出てきますが、
この方は、痛みのある側に限局していました。

ああ・・これは、副交感神経の反射かも・・







画像を見ると、三叉神経第2枝の近位に
ぼわっとする箇所があり、
また、同側の唾液腺の近位には、
私の目にははっきりしない箇所がありました。



三叉神経の第2枝は、頬の後ろから鼻の下に向かい
正中は超えません。
第3枝は同じ個所から下唇の下に向かい正中は超えません。
痛みと一致しています。

また、頭蓋部副交感神経から
唾液腺、涙腺、血管拡張に
関わる神経が関与しているため、
唾液の分泌刺激になる咀嚼で、
涙腺や顔面の潮紅、発汗なども
あり得る現象です。
ただ、それが、転移によるものなのか、
痛みが自律神経を刺激しているのか、
そこまではわかりませんでした。



涙腺は、翼口蓋神経節から顔面神経
唾液腺は、顎下神経節から顔面神経
に入りますが、
顔面神経にはこの副交感神経が含まれています。

複雑に症状のループを作ることもあります。





患者さんに、
痛みや涙などのことは
起こり得る病態のように思うことを
説明したところ、

患者さんは満面の笑みになり、
「そうでしょう、そうだったんですね。
今まで、いろんな医者にこの症状を話して来たけれど
そんなことはないでしょうと
言われてきました。
嬉しい、やっぱり自分は間違っていなかったんですね。」
とおっしゃいました。





オピオイドを開始した方がよいことを
話したところ、
是非、飲みますよと言われ、
結果的に、最少量で痛みは緩和されました。

痛みが治まると、涙も少なくなりました。
が、根本的な治療について、
主治医にその考えられる病態について
説明し、さらに精査され、
放射線治療に繋がりました。





ちょうど、研修医の若い医師が
回ってきていた時でした。

新たな転移の可能性の話をしたにも関わらず、
その病態がわかることで、
あんなに喜んで頂けたことが
驚きだったと話してくれました。


悩んでいたことが紐解けたとき、
また、その対処がわかったとき、
患者さんは安堵されるものだということを
一緒に経験できたことは、
若い医師にとっても、
患者さんからの大きな贈り物でした。


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