緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

集いの場で

2011年10月23日 | 医療

写真は、アメリカ芙蓉です。



岡山済生会病院緩和ケア病棟の廊下に飾られた詩です。
旧知の石原先生にご了解を頂き、ここに掲載させていただきました。


「友よ」

友よ 癌にかかった事を嘆くのはよそう
私たちだけではない 誰もがいつかは死ぬのだ
心臓病で死ぬか 脳卒中で死ぬか
... 交通事故で死ぬか 人は必ず死ぬ
癌だけが死ぬ原因ではない
癌は突然死ではないのだ
友よ 癌にかかってありがたいではないか
命あるうちに懐かしい友に会おう
思い出の故郷を訪ねてみよう
喧嘩した友に謝ろう
やり残した仕事をかたずけておこうよ
貴重な時間が残されていてうれしいね
やがて癌が進行して肉体の苦痛が加わっても
友よ 嘆くのはよそう
お世話になっている人たちに微笑みかけるのだ
お礼を言うのだ
動けなくなっても愚痴は言うまい
わたし達の笑顔できっとまわりの人たちも喜んでくれる
感謝の言葉と苦しみに耐えた前向きの生き方を残して逝こう
友よ


癌で亡くなられた河野基樹先生が、療養中に書かれたもので、緩和ケア病棟の廊下に大きく飾られています。先生は精神科の医師で、「岡山済生会・生と死を考える会」の中心として活躍され、当院に緩和ケア病棟が開設される礎を築かれた方です。
癌になり、それが原因で命を終える事は、誰にとっても大きなショックであり、先生にとってもショックであったと思います。しかし、それを乗り越えられ、このような詩を私たちに残していかれました。
先日の日本ホスピス緩和ケア協会創立20周年記念大会でも紹介していただきました。

(石原辰彦先生のフェースブックより)






昨日、恩師の還暦のお祝いがありました。
日本ホスピス緩和ケア協会創立20周年記念大会のビデオも流され、
この詩の朗読を聞きながら、
15年前に出会ってからの懐かしい顔々との再会に
詩の意味を心はたどっていました。
溢れそうになる涙を堪えつつ・・


会の終わりに、俳句のプレゼントが。
恩師の俳句は緩和の世界では有名ですが、
出席予定名簿を見て、一人一人の顔を思い出しながら
一句一句読んでくださったことを思うと、
胸が熱くなってきました。



初夏に咲く あめりか芙蓉に 君は似て   志真泰夫




集う場を作ってくださった皆様に心から感謝です・・
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8 コメント

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温かな集い。 (元PANDAの妻)
2011-10-24 10:00:48
読ませていただきながら、温かい雰囲気の会合に、泣きそうになりました。

癌は、末期では当人はもちろん、家族や身内も辛い、悲しい、いやがおうでも「死」と向き合わねばならない病気ですね。

実は、柳田邦男先生の「僕は9歳のときから死と向き合ってきた」を昨日から読み始めたところでした。
柳田先生も、御自身の経験、「まっとうな」ジャーナリストとしての、現実・事実との直面について等を記しながら、御自身の心理状態についてを冷静に見つめていらっしゃる姿勢に感銘・感服しながら読んでいます。

「死」と向き合うことは、「自分」と向き合うことでもあるのだということが、今さらですが、一つ、わかりました。
返信する
お礼 (志真 泰夫)
2011-10-24 11:29:38
早速に「友よ」とわたしの句を掲載していただき、ありがとうございます。「友よ」の詩は、わたしもビデオを製作する過程で最近知りました。そして、この詩をよむといつもなぜか胸が熱くなります。たぶんこの一節・・・
命あるうちに懐かしい友に会おう
思い出の故郷を訪ねてみよう
喧嘩した友に謝ろう
やり残した仕事をかたずけておこうよ

ここに人間関係のある普遍性があるようにおもいます。長く語り継いでゆきたい詩のひとつです。
返信する
 (ALL)
2011-10-24 18:23:19
こんにちは。

志真先生は還暦を迎えられたのですね。
随分お若い還暦で信じられません。

有賀先生は、いつも綺麗なお花で詠まれて、とても素敵だなと思いました。

私も闘病中一句頂きましたが、お花は出て来ませんでした。
考えましたが…たんぽぽ 希望です(^w^)

根強く葉を地に広げ、暖かさをいち早く察知し、黄色い花を咲かせ、沢山の小さな種をあてもなく飛ばします。

踏まれてもまたいつか花を咲かせ、種を飛ばす…
…確かに、その時間が保たれている辛さと、幸せをかみしめています。

がんで逝きたいとおっしゃった医師は、がんセンターの総長先生にもいらっしゃったように記憶しております。
確か書籍になっていて、ご紹介頂いた詩と同様の一節を目にして心に残っています。

震災で亡くなられた方々とご家族を見て、その無念を想像すると、自分が生きている立ち位置が不思議に感じます。

比較のようなことは不謹慎ですが、与えられた時の重さを感じ直します。
返信する
コメントありがとうございます。 (aruga)
2011-10-25 20:37:29
元PANDAの妻さん
いつもお立ちよりくださり、ありがとうございます。

>「死」と向き合うことは、「自分」と向き合うことでもあるのだということが、今さらですが、一つ、わかりました。

これを実感することは、中々難しいことだと思います。共にこの詩を感じてくださり、温かなメッセージの数々、心が熱くなりました。
返信する
驚きました! (aruga)
2011-10-25 20:45:43
志真先生

基本的に”さん”で呼ばせて頂いているのですが、実名でお書きくださったこともあり、ここは、先生と書かせていただきました。

そうなのです。
ご指摘くださった一節、特に、”友”と”故郷”に立ち止ります。心の奥底にある懐かしさに触れられたような感情です。

俳句と詩、再会する喜び・・素敵な贈り物に、また成長していけそうです。
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ALLさん (aruga)
2011-10-25 20:59:50
同じ日に、志真先生と共にコメントを頂き、ちょっとした出会いのような嬉しさがありました。

きっと、読んでくださっていると思います。「で・・ALLって誰だっけ・・」「ハンドルネームで、移植を受けた・・」「ああ、わかった・・」何て会話がどこかで、きっと。がん治でまたお目にかかるので、尋ねてみましょう。

タンポポ・・改めて考えてみると、確かに、愛おしい花です。
病気を乗り越えてきたALLさんは、その花の美しさ、時間があることの幸せを知っていらっしゃり、それは、私には到底及ばないことだろうと思っています。

辛さを知ると、その対極の幸せは、辛さを知らない人の何倍も濃縮された幸せに気づくことができる・・何とも人生は均衡がとれたものだと思います。
返信する
こんにちは。 (しまほ)
2011-10-26 17:14:33
以前緩和ケアの勉強会に参加させていただいた循環器病棟の看護師です。
この詩を読みまして、癌になることは死や自分がたどってきた道筋に向き合うきっかけになること、身体や精神の自由が利けば自分の最期を納得して迎えられるよう努力できることは本当に幸せなことだなと改めて考えさせられました。 拙い表現で申し訳ありません…


実は、私看護師をしながら医師を目指しております。明日医学科への学士編入試験の一次の合格発表です。知識も学力もまだまだ足りませんが、合格したら驕らず自分の力を尽くして患者様を助けられる医師になりたいと思います。

長文のコメント失礼しました。
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しまほさん (aruga)
2011-10-27 18:36:35
勉強会、ご参加くださりありがとうございます。中々再開する元気がでないままなのですが、こうした機会にちょっと書いていてくださると、待っていてくださっている方かも・・と思うと腰を持ち上げようとする自分に気が付きます。

シシリーソンダースは、看護師さんでしたが、ホスピスを現実のものにするために医学部へ入ったと言われています。今頃は、一次の発表が終わったころなのでしょうか。チャレンジするその姿勢に心打たれました。素晴らしいなあ。見習わなくっちゃです。
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