緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

フェンタニル貼付剤の警告

2010年08月01日 | 医療

フェンタニル貼付剤(デュロテップMTパッチ)が、
非がんの強い慢性疼痛に適応拡大となって
ポロリ、ポロリと問題なことが聞こえてきていました。


最近、受付に慢性疼痛に貼付剤を処方しろと
強く主張している患者さんが来院されたという話を聞いていました。

さらに、最近、それが近隣の病院でも
同じことが起こっていると聞きました。

同じ患者さんかどうかはわかりません。

受付で・・というのが、よくわかりません。

通常は、疼痛の原因になっている診療科にかかって、
診察してもらって、薬剤の相談をするものです。

診察を受ける前に、
処方してくれるのか、くれないのかと事務に聞かれても、
診察の上としか答えられないものです。

適応拡大になる前に、
リタリンの二の舞になるのではないかと
医療者仲間では危惧していました。

フェンタニルの貼付剤は、とても、よい薬剤です。
必要な患者さんは沢山いらっしゃいます。
一部の不適正使用でそれが使えなくなることがないように
処方医は、診察と説明を十分しなければいけないと思っています。





こうした一方で、重大な副作用報告が回ってきました。

80歳代、OA、RAの患者さん
オピオイドナイーブ、NSAIDsのみ投与条件で、
8.4㎎のパッチを貼付し、
2時間クリニックで経過観察し、
問題なかったので、帰宅させた。
呼吸抑制認め、貼付から約12時間後、挿管となり、
ナロキソン投与でリバースし
回復された症例。

処方医は、処方条件であるe-ラーニングを受講しておらず、投与。

・・・・・受講だけの問題でしょうか・・




以前、渡米先で激しいがん性疼痛の悪化を認め、
オピオイドナイーブにも関わらず、
リザーバータイプの20mg(MTパッチで33.6㎎)を
貼付されたという症例を耳にしたことがあります。

呼吸の悪化は認めたものの、抑制には至っていません。

オピオイドに対する副作用の出方は、疼痛の程度によります。
激しい疼痛にある程度の期間さらされていると
比較的多い量でも、痛みに見合った量の投与であれば、
副作用は重篤にはならないものです。

痛みを多角的に、複数の医療者の目で診察し、
十分に適応を検討しなければ、いけません。
前投与のオピオイド下で十分な期間観察し、
本当にパッチを貼付することが適正であるか、
慎重な判断を求められます。





さらに、難しいかもしれないと感じるのが、
この、何らかのオピオイドを先行させて投与した上で、
オピオイドの認容性を確認する作業を行うという点です。

非がんの慢性疼痛に使用できるのは、
速放性のモルヒネ末、錠
レペタン
リン酸コデイン(それも、270mgまで投与した上で)
の3製剤のみであることです。

かつて、徐放剤がほとんどなかった時代、
がん疼痛にもこれらの薬剤は用いていましたが、
その使用方法を伝えることは
本当に大変でした。

例えば、
塩酸モルヒネ末(5mg) 6P 5X (1-1-1-1-2)
4時間毎、最後は、倍量飲んで、8時間空ける。
6時ー10時ー14時ー18時ー22時(2P)
こんな処方でした。
でも、これで30mgですから、
添付文章でいうパッチ2.1㎎への切り替えの45mgにしようと思うと、
8mg/回としなければいけませんので、
薬剤部泣かせです。

その他、リン酸コデインを用いるとすると
半減期から、やはり、モルヒネ末と同様に原則4時間毎、眠前倍量としますから
リン酸コデイン錠(20㎎)12錠 5X (2-2-2-2-4錠)
でも、これで240mgですから、
パッチ2.1mgへの切り替え270mgへは、もう一歩届きません。

レペタン坐薬(0.2㎎) 3個 3X 8時間毎
は、比較的シンプルです。
が・・ 0.2X3個=0.6㎎ 
モルヒネ:レペタンは同一投与経路で30:1
よって、モルヒネ坐薬18mg相当。
坐薬:経口=2/3:1 ですから
モルヒネ経口約30㎎ 相当にあたります。
2.1㎎への切り替えを経口45mg(坐薬30mg)としているようですから、
レペタン坐薬 (0.4mg) 2~3個 2x~3Xとなれば切り替えられるわけです。

でも、添付文章には、このレペタンは記載されていません。

切り替え方法、量
http://hosp.gifu-u.ac.jp/pharmacy/information/pchange/pc2484811001.pdf








これで、十分に観察したうえで、切り替える作業をするのですが、
これまた、間違えそうなのが、半日は、前投与オピオイドを併用するということ。

添付文章から抜粋
2.初回貼付時
他のオピオイド鎮痛剤から本剤に初めて切り替えた
場合、初回貼付24 時間後までフェンタニルの血中
濃度が徐々に上昇するため、鎮痛効果が得られるま
で時間を要する。そのため、下記の使用方法例を参
考に、切り替え前に使用していたオピオイド鎮痛剤
の投与を行うことが望ましい。
(ここまで抜粋)

この文章だけを読むと、どこまで、併用すればよいかわかりません。
前投与オピオイドをやめるタイミングを明記していないので
ずっと、併用し続けてしまう症例があるのではないでしょうか。

でも、12時間を目安に前投与オピオイドは中止しなくてはなりません。





まあ、多彩なことを書きましたが、
単に、e-ラーニングを受講すればよいわけではなく、

本当に、どの程度の疼痛か、
オピオイド反応性の疼痛か
痛みの評価が十分にできていること。

先行するオピオイドを正しく処方し、
正しく患者さんが使用できていることが確認できること。

わかりやすい添付文章であること

こんなことも重要ではないでしょうか。


その他、因果関係が否定できない2症例の副作用報告もされています。
http://www.janssen.co.jp/info/20100722_DrtMT.pdf

その他の2症例は、前投与オピオイドの投与が曖昧(定時投与ではない)
貼付後、前投与オピオイドが中止されていない
など、上記の指摘に繋がるような状況でもあります。




一般向け、薬剤情報(PMDA)
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/800155_8219700S5026_1_04G.pdf




私は、あえてe-ラーニングを受けていません。
当面、非がん慢性疼痛への本薬剤投与の取り組みは
状況を観察した上で考えたいと思っています。

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8 コメント

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コメントありがとうございます (aruga)
2010-08-28 21:50:38
shiraisiさん
痛みの御苦労、お察ししても、届ききらないように思います。
モルヒネ特有の吐き気は、オピオイド開始の長くても1~2週間くらいで消えていくことが多く、その後の吐き気は便秘が隠れていることが多いものです。

慢性疼痛患者さん
痛みと付き合いながらの生活、少しでも和らぎますように。長く安定しますように。
単純な等力価換算で計算しますと
リン酸コデイン1%の16gは 力価にして160mg
これとモルヒネの換算比6:1から、経口モルヒネに一旦換算すると 約27mg
デュロテップ2.1mgは、経口モルヒネ30mgですから、ボルタレンを併用しないで、リンコデ16g単剤とほぼ同じになります。
ただし、肝臓で変換する酵素の量に個人差があったり、経口と貼付という違いがありますから、すべてが等しいことにはなりませんが・・
返信する
Unknown (慢性疼痛患者)
2010-08-23 21:10:49
デュロテップMT 実際に処方してほしい 患者の 一人です。

完全な慢性腰痛で 整形とペインにかかっています。 ルートブロックは もう十数回耐えていますし 整形においては 足に痛みがあっても 筋力低下や感覚麻痺がないと 手術対象にもならないし、切っても 治るかどうかは判らないとの事。 もう 3年も耐えています・・

現在は 24時間続く腰痛に リンコデ1%16g分4 と ボルタレンSR で 毎日 仕事にいっていますが 正直 ゆうがたぐらいには すわりこみたくなるくらいの腰痛に苦しんでいますが、 立てる 歩けるなら 必要ない。との事・・・

リンコデ を 16gと ボルタレン を服用し続けるのと デュロテップMT2.1 と どちらのほうが 副作用が少ないのでしょう?

正直 ハードルが高すぎます・・ 毎日 痛みなく 働きたいだけなんですが・・ 
返信する
Unknown (shiraisi)
2010-08-23 00:11:44
大学病院で、モルヒネ30mgにレスキュー1日1回でしたが、それでは痛みが取れず、フェンタニルパッチになりました。
大学病院に行く時、電車の揺れで痛みが酷くなり、背中とか汗だくになりつつ、母親に背中をさすってもらいました。
モルヒネより随分痛みが引いたと思ったのですが、また酷い痛みが出てきました。
パッチに変わってから、レスキューに制限は無くなりましたが、モルヒネの副作用である吐き気が酷くなり、痛くてもレスキューはためらいます。
(吐き気が酷いと地元の病院で吐き気止めの点滴を打ってもらいます。)

慢性疼痛でオピオイドには随分助けられていますが、副作用の面では嫌な思いもしなければなりませんね。
モルヒネの眠気や吐き気はキツイです。。
返信する
そうですね。 (aruga)
2010-08-17 22:24:48
非がん疼痛へのオピオイドの適応拡大は、もろ刃の剣とも言われています・・
返信する
Unknown (Missy)
2010-08-15 14:27:16
あらら、、、と思いました。
特に挿管れた患者さんの例。2時間クリニックで経過観察って、効果が現れる時間は12~24時間なのだから、2時間経過観察したって何の指標にもならないのに、、、(完全に効果的な濃度に上がるのに24~48時間。パッチを剥がしてから17時間後に半減する。などなどローテンションする時パッチから他の薬物もしくは他の薬物からパッチのタイミングもよく知っておかなければ中毒症状、退薬症状が出る、ということに注目してもらいたいものです)。

オピオイドナイーブの患者さんには慎重に、というのは疾患が変わっても原則です。カナダではがん性疼痛以外の症状にもパッチを使います。でも段階を経てオピオイドをタイとレーションしていくやり方は同じです。

余談ですが、フェンタニルのパッチがゲルタイプのものからステッカーのタイプのものへ完全な切り替えが近年行われました。理由がユニーク。乱用防止です。
ドラッグユーザーが多いお国柄。ドラッグにおぼれている人たちは何でもしますから、盗んだパッチをはさみで開けて中のゲルを飲み込んでハイになることを夢見る人が、、、、ステッカーだとそれはできませんからね。

あと死亡例で葬儀屋さんがパッチが遺体についているのを見つけて、古くてきっと少ししか効果がないだろうと、ちょっぴり気分を良くしたくて、自分に貼り付けて死亡した例です。使用後のパッチでも24-84%の効果がまだ残っているということを患者さんにしっかり説明しないと、使用後のパッチをテーブルの上に置きっぱなし。子供が貼り付けて、、、、なんてことにもなりかねません(葬儀屋に遺体が行く前にパッチを取り除くことは医療者の役目です)。

ピクミンさんの経験談。ごもっともです。経験からさじ加減ができるというのはすばらしいことです。しかし一言、、、パッチの吸収(効果)は千差万別。皮下Tissuの量やじょくそうがあるかどうか、発熱や発汗でも変わってくるからこそ薬品会社は転換表に余裕を持たせているわけであって。ナイーブな人や低量のオピオイドからの切り替えは保守的に行い安全を図るべきだと思います。特に先生以外の経験のあまりない医師は、、、、。


オピオイドのタイトレーションは一日でできるものではありません。レスキューを使いながら調整していくものだと思っています(患者さんの協力はもちろん必要なわけで)。たまにレスキューを使わせてしまうことを、うまくコントロールができていない(自分の不手際)とおもう医師がいますが、足りないものを足すことは簡単でも、あげ過ぎた時、取り除くことは簡単ではありませんから(もちろん拮抗薬はあるわけで、でも患者の不信感、もしくは生死をかけてでもすることではないと思います)。パッチのように半減期の長いオピオイドは特にです。パッチを開始してもレスキューを使用して調整していくことが大切と患者教育を行い一緒に調整を数日かけて行っていく、こういうことから信頼関係は生まれると思います。

すみません長々と書いてしまいました。よい薬が無くなってしまわないように、、、、ついつい力が入ってしまいました。
返信する
コメントありがとうございます (aruga)
2010-08-08 00:45:39
えびさん
ピグミンさん

コメントありがとうございます。
非がん疼痛の患者さんは、それぞれの方に、疼痛の原因は異なり、様々です。
ですから、えびさんがご指摘くださったように、本当に、個別的な疼痛評価や配慮を求めれると思っています。

こうした患者さんのバラつきもさることながら、疼痛の治療をする医療者の経験にも大変大きなばらつきがあります。
ピグミンさんのように、自信をもって取り組まれている方から、そうではない方、様々だと思います。
こうしたばらつきが大きいことをヘテロという言葉を使うことがありますが、ヘテロな条件とヘテロな条件を掛け合わせると、本当に大きな格差を生じることになります。

たとえば、経口モルヒネからパッチ2.1mgへの切り替えも、添付文章では、45mgと慎重な量を設定しているのだと解しています。

よい薬剤が使い続けることができるように、リタリンの二の舞にならないように、お力添えを必要としていると思っています。
返信する
慢性疼痛も診ています (ピクミン)
2010-08-06 23:02:49
いつも楽しく拝読しています。
地方都市で緩和ケア医をしているものです。

当院の緩和ケア外来には慢性疼痛の方も多く通院されています。もともとは癌の方を念頭にした外来でしたが、痛みの緩和が必要な方に、癌であるかないかは関係ないということで、必要な場合は適応外使用も含めて対応しています。透析の方の場合、どうしてもオキノームが必要になります。

パッチ⇔モルヒネの換算比ですが、当院では特に内服→パッチの場合は経口モルヒネ30mg=パッチ2.1mgとしています。皮膚だと吸収が悪い可能性も踏まえてのものです(もともとパッチの換算式はアバウトですものね)。この換算にて、慢性疼痛への適応が通る前からのものも含めておそらく50例以上に導入していますが、重篤な副作用を経験したことはありませんし、モルヒネより眠気や便秘の副作用が軽減するケースも多いです。当然、モルヒネ30mg程度での認容性を確認できなければローテーションは絶対にしません。もちろん、痛みの原因が軽減した場合、パッチから離脱される方もいらっしゃいます。

同じ痛みなのですから、癌と同じような基準でローテーションするのなら、過度に慎重にならなくてもよいのでは、というのが自分の少ない経験から得た感想です。

不適切使用の報告を聞くと非常に残念に思いますし、先生が慎重になる気持ちも何となく理解できます。

ちなみに、某製薬会社の肩を持っているわけではありません。慢性疼痛にも、オキシコドンの適応がとおるのが最も便利だと思っています。

長文失礼致しました。
これからも楽しみに読ませて頂きます。
返信する
まさにさじ加減 (えび)
2010-08-05 21:56:21
使える薬剤が多い=選択肢が多い
これは喜ばしいことですが
反面、効果vs副作用、相乗効果など
考えなくてはいけないことも
その分多いということですよね

古くから使われている薬剤であれば
処方しているドクターの経験で
加減できるものもあるかと思いますが、
いはやは、本当に微妙なさじ加減が
求められるものですね

そういう意味で、自分が患者であったら
効果の有無やちょっとした違和感などを
率直に伝えていけると いいのかな…
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