動物界霊異誌 河童 その1 1、九段の弁慶堀の河童
1、九段の弁慶堀の河童 (仮題) 動物界霊異誌 河童
文政初年のことである。
江戸の神田小川町の旗本、室賀山城守の中間(ちゅうげん)の某(なにがし)が、ある夜、九段の弁慶堀の端を通った時に、雨が降って暗かった。
何ものかが、堀の水面から、某(なにがし)の名を呼びかけた。
見ると、闇夜であるにも拘らず、一人の子供が上半身を浮かしていて、手招きをするのが見えた。
某はそれを見て、近所の子供が誤って堀に落ちてしまったのだろうと思った。
そして、水際に下り、手を差し出してやったら、子供が、その手に取りついた。
それで、引上げようとしたが、その重いこと、大岩のようで、少しも動かなかった。
それのみならず、かえって水中に引き込まれそうになった。
彼は大いに驚き、妖怪であることを気づき、死力を尽くして引き合い、漸(ようや)くのことに、その手を引きぬいた。
息絶えだえになつて、山城守邸に帰り着き、茫然自失の様子であった。
それで、人々が騒いで集って見ると、某(なにがし)の全身は水に濡れており、しかも非常に生ぐさい臭いがした。
それで、体を洗わせたが、生ぐさい匂いは容易に消えなかった。
そして彼はその夜は、疲労困憊し、精紳も朦朧としていた。
翌日に漸く正気づき、くわしく前夜の怪異を語ることが出来たと言う。
この水怪は河童であることは、間違いのないことである。云々(うんぬん)。
(甲子夜話)動物界霊異誌 より
1、九段の弁慶堀の河童 (仮題) 動物界霊異誌 河童
文政初年のことである。
江戸の神田小川町の旗本、室賀山城守の中間(ちゅうげん)の某(なにがし)が、ある夜、九段の弁慶堀の端を通った時に、雨が降って暗かった。
何ものかが、堀の水面から、某(なにがし)の名を呼びかけた。
見ると、闇夜であるにも拘らず、一人の子供が上半身を浮かしていて、手招きをするのが見えた。
某はそれを見て、近所の子供が誤って堀に落ちてしまったのだろうと思った。
そして、水際に下り、手を差し出してやったら、子供が、その手に取りついた。
それで、引上げようとしたが、その重いこと、大岩のようで、少しも動かなかった。
それのみならず、かえって水中に引き込まれそうになった。
彼は大いに驚き、妖怪であることを気づき、死力を尽くして引き合い、漸(ようや)くのことに、その手を引きぬいた。
息絶えだえになつて、山城守邸に帰り着き、茫然自失の様子であった。
それで、人々が騒いで集って見ると、某(なにがし)の全身は水に濡れており、しかも非常に生ぐさい臭いがした。
それで、体を洗わせたが、生ぐさい匂いは容易に消えなかった。
そして彼はその夜は、疲労困憊し、精紳も朦朧としていた。
翌日に漸く正気づき、くわしく前夜の怪異を語ることが出来たと言う。
この水怪は河童であることは、間違いのないことである。云々(うんぬん)。
(甲子夜話)動物界霊異誌 より
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