後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔204〕映画「熊野から イントゥ・ザ・新宮」(田中千世子監督)、大逆事件は今日起こりうる話ですよ。

2018年12月29日 | 映画鑑賞
 大逆事件って知っていますか。幸徳秋水はじめ26人が「大逆罪」として逮捕され、そのうち12人が処刑されたという事件が1911年(明治44年)にありました。そんな昔のこと知らないよ、と簡単にすますことはできません。なぜなら当時と現在は社会状況がかなり類似していると指摘する学者は多いからです。何が秘密なのかも知らされない特定秘密保護法、話し合っただけで罪になる可能性を秘める「共謀罪」はすでに自公政権によって強行採決されたのですから。現代版大逆事件はいつ起こってもおかしくないし、だからこそ起こしてはいけないと思うのです。
 こんな状況に抗うように警鐘を鳴らし、かつての大逆事件を掘り起こす映画ができあがりました。しかも三部作です。私は最後の作品だけですが先月見ることができました。例の練馬区・江古田のギャラリー古藤でのことでした。

 古藤店主のブログを覗いてみましょう。

■古藤店主(ブログ)
○田中千世子監督映画作品「熊野から三部作一挙上映」
「熊野から」「熊野から ロマネスク」「熊野から イントゥ・ザ・新宮」
明治の闇「大逆事件」を乗り越えてー
*期間 2018年11月23日(金)~11月25日(日)の三日間
*会場 ギャラリー古藤 

  『熊野から』シリーズ三部作は、世界遺産の地・和歌山県熊野地方を舞台に手がけるそれぞれが独立した3本の映画である。
 最初の『熊野から』(14年)は、熊野三山を旅する主人公・海部剛史(かいべつよし)を軸に熊野の自然や祭りや人々を紹介するセミ・ドキュメンタリーだが、続く『熊野から ロマネスク』(16年)は、物語性のある劇映画となった。舞台は熊野から吉野へ、三輪へ、難波へ、二上山へと自在に飛び移る。
 そして、今、新作『熊野から イントゥ・ザ・新宮』が新宮へと再び戻っていく。
 2018年1月、和歌山県新宮市は、「大逆事件」の犠牲となった医師で文筆家の大石誠之助を名誉市民に決定した。           

①「熊野から」2014年  90分
 2013年、早春の東京を発ち、俳優の海部剛史(かいべつよし)は熊野に向かう。海部の行程は新宮市の神倉(かみくら)神社に始まり、そこから熊野川沿いに本宮大社を経由して十津川村へ。翌朝玉置(たまき)神社を訪れ、村に戻って資料館で郷土史家から話を聞く。そのあと、果無(はてなし)集落の入り口まで登る。繰り返し出てくるのが、新宮駅前の「志を継ぐ」と刻まれた石碑であり、古代から近代へと急速に時間が巻き戻される瞬間だ。新宮出身の大石誠之助を含む大逆事件の被告たちである。
➁「熊野から ロマネスク」2016年 83分
 新宮を起点に、場所をさらに広げ、吉野↓熊野↓難波↓三輪↓二上山へとめぐる。海部が吉野で出会った、自称“コードネームはクローディーヌ”という若い女性の記事を旅行雑誌に寄稿すると、自分がクローディーヌであるとしたためた手紙が編集部に届く。俳優としても活動する彼は、間もなく狂言を取り入れた不条理劇の練習を始める。海部は慌ただしい日々を送りながらも、二人のクローディーヌのことが心に引っ掛かっていた。
③「熊野から イントゥ・ザ・新宮」2017年 83分
 明治時代に熊野に刺さった三つのトゲがある。トゲのひとつは「大逆事件」、国家の仕組んだ残酷な思想弾圧。その犠牲者がこの地から六人も出た。彼らの名誉回復は新宮市が決定し、今では白い碑が駅のそばに建つ。お燈祭りの神倉神社には神武上陸を記念した顕彰碑がある。古代と現代が交わる不思議な町、新宮。時空のはざまから佐藤春夫がひょっこり顔を出し、大石誠之助を歌った詩「愚者の死」を口ずさむ。ちなみに1911年に刑死した大石は2018年1月、名誉市民の決定が発表された。


 大逆事件に連座した26人のうち新宮からは6人が死刑判決を受けます。なぜ革新的で社会主義的な進歩思想が新宮から芽生えたのか、新宮の土地柄、地域性ということにも映画は肉薄していきます。
 事件後、6人の親戚縁者は一様に村八分になり、居住もままならず、就職など様々な差別を受けることになります。そしてようやく今年になって、大石誠之助を名誉市民として議会で認定され、高木顕明についても顕彰がなされているようです。 

 この映画について実に丁寧に書き記しているサイトが見つかりました。感謝して、採録させていただきます。

●「Muvie Warker」より
〔作品情報〕
 「熊野から」シリーズ三部作完結編。俳優兼旅行エッセイストの海部剛史と旅雑誌の女性編集者サキが熊野地方の中心的な都市、新宮市に取材旅行に出かけるという設定で、大逆事件の犠牲となった大石誠之助や高木顕明らの足跡を紹介するセミ・ドキュメンタリー。監督・脚本・製作は、「海と自転車と天橋立」の田中千世子。出演は、ドラマ『やんちゃくれ』の海部剛史、「浅草・筑波の喜久次郎 浅草六区を創った筑波人」の雨蘭咲木子、「まいっちんぐマチコ! ビギンズ」の鈴木弥生、「千年の愉楽」の佐野史郎。
〔映画のストーリー〕
 新宮の取材に行った俳優で旅のエッセイストの海部剛史と編集者サキ(雨蘭咲木子)は、雨の中でツール・ド・熊野2016初日のタイム・トライアルを観戦する。レース後、2人はくまの茶房を訪れる。江戸時代から経済力のあった新宮だが、明治になると、廃藩置県で熊野が和歌山県と三重県に分けられ生活文化が分断されたこと、神仏分離令と修験道禁止により熊野特有の神仏習合が打撃を受けたこと、大逆事件により6名の死刑判決が出たことに苦しんだ。翌日、2人は駅のそばの白い碑を訪れる。サキは、大逆事件の犠牲となった大石誠之助ら6人について、その進取の気性に富んだ精神を継ごうという言葉に感動する。2人は淨泉寺の住職だった高木顕明を偲ぶ遠松忌法要に出席する。速玉大社の境内に建つ佐藤春夫記念館を見学する2人。新宮と大石の物語を架空の森宮という町に置き換えて小説『許されざる者』を書いた辻原登は、子供の頃初めて新宮に来たときの感動を語る。2月6日のお燈祭り。『熊野の歴史をよむ会』講師の山本殖生さんは神倉神社に伝わる古文書を読み解き、神倉神社のごとびき岩のところに昔は懸けづくりの大きな建物があったことを確認する。数週間後、単独で新宮を訪れたサキは、海部に紹介されたアコーディオン弾きのアランと合流し、観光とは違う新宮のスポットを案内される。大石誠之助を名誉市民に推薦する動きもあり、高木顕明についても顕彰がなされている。“『大逆事件』の犠牲者を顕彰する会”の人々は、成石平四郎、勘三郎兄弟の墓参りに行く。海部は助手ケントの叔母の銀婚式のイヴェントの演出をすることになり、ダンスのリハーサルの相手を務める。新宮から帰った海部は、佐藤春夫が大石の処刑を『愚者の死』として発表した真意について考えている。西村伊作はなぜ、東京に連行された叔父の大石を見舞いに、新宮からモーターバイクで旅したのか。海部は鎌倉からロードバイクで新宮に向かう。


〔203〕映画「獄友」(金聖雄監督)を見てから、日本の死刑制度は存続すべきか否かを考えませんか。

2018年12月29日 | 映画鑑賞
●11月09日(金)
多摩地域巡回上映ツアー 東久留米市<成美教育会館>
2018年11月9日(金) 上映時間:14:00
会場:成美教育会館(西部池袋線東久留米駅北口4分)

 清瀬の市民運動仲間に勧められて映画「獄友」を見に行ったのは11月のことでした。
 この映画は金聖雄監督のドキュメンタリー作品です。金聖雄監督はこれまで「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」「袴田巖 夢の間の世の中」という冤罪事件映画も世に問うています。従って「獄友は」冤罪ドキュメント三部作の一つということになります。「袴田巖 夢の間の世の中」は以前このブログでも取り上げましたので興味ある方は探してみてください。
 さて、この映画に登場する冤罪被害者は5人です。「狭山事件」の石川一雄さん、「袴田巖 夢の間の世の中」に登場する「袴田事件」の袴田巌さん、「布川事件」の桜井昌司さんと杉山卓男さん、「足利事件」の菅家利和さんです。
 この5人は横のつながりはなかったということですが、「足利事件」の菅家さんの釈放をきっかけ集まるようになったということです。それぞれの事件の時代や状況も様々な中で、5人が見せる冤罪に対する考え方や思いを知ることにより、現在日本に現存する死刑制度などについて深く考えさせられるのです。
  なお、「獄友」の主題歌は谷川俊太郎作詞、小室等作曲です。歌は獄友イノセンス オールスターズということで、小室等、うじきつよし、伊藤多喜雄、李政美、坂田明、金聖雄、谷川賢作、中川五郎、及川恒平など27人が参加しています。サウンドトラックにはこのメンバーが協力参加していて、音に厚みを加えています。CD「獄友」は、これらのメンバーのオリジナルが収録されていてその個性が際立っています。

 金監督のこの映画に賭ける思いを読んでいただきましょう。

■映画「獄友」(HPより)
映画のこと
シリーズ3作目だからこそ、できることがあるはずだ!
金聖雄 監督

「なぜ再審が始らないのだろう」
「なぜ彼らはあんなにまっすぐに生きているんだろう」

 2本の映画をつくって、今考えることは、様々な「なぜ!?」だった。いつも言うが、私はジャーナリストでもなく冤罪専門の映画監督でもない。何か使命感に駆られて映画をつくっているわけではない。それでも映画づくりの中で嫌と言うほど権力の非道を思い知らされた。同時にそれらを引き受けて生きる人たちの魅力に引きつけられて映画をつくってきた。
 「また冤罪映画!?」と思う人もいるだろう。しかしどうしても描かなければならないものがある。
 彼らは人生のほとんどを獄中で過ごした。いわれの無い罪を着させられ、嘘の自白を強要され、獄中で親の死を知らされた。奪われた尊い時間は決して取り戻すことができない。しかし、絶望の縁にいたはずの彼らは声を揃えて言うのだ。「"不運"だったけど、"不幸"ではない、我が人生に悔いなし」と。
 冤罪など、許されるはずがない。
 しかし、彼らにとって"獄中"は生活の場であり、学びの場であり、仕事場であった。まさに青春を過ごした場所なのだ。「冤罪被害」という理不尽きわまりない仕打ちを受けながら、5人は無実が証明されることを信じ懸命に生きたのだ。時に涙し、怒り、絶望し、狂い、そして笑いながら...。
 冤罪被害者の横のつながりはほとんどなかったが、「足利事件」の菅家さんの釈放をきっかけに、彼らは同じ痛みを抱えるものとして、お互いを支え合うようになった。はじめて彼らの話を聞いた時、どんなに重い話をされるだろうかと緊張し身構えていたが、会った瞬間、笑いをこらえることができなかった。自分たちのことを「獄友(ごくとも)」と呼び、獄中での野球や毎日の食事や仕事のことを懐かしそうに語り、笑い飛ばす。そこには同じ「冤罪被害者」という立場だからこそわかり合える特別な時間があった。そしてなぜ自白したのか、獄中で何があったのか、娑婆に出てからのそれぞれの人生を自ら語ってくれた。
 奪われた時間の中で、彼らは何を失い、何を得たのかを描き出す。
そこからあぶり出されるものは、司法の闇であり、人間の尊厳であり、命の重さだ。
 今"ごくとも"たちは、"青春"のまっただ中にいる。
 ぜひ、一緒に作品づくりに参加していただけるならば、うれしい限りである。


  戦争と死刑制度に通底するのは、国家の名による殺人です。なによりも人の命を大切にすること、反戦非戦を推し進めることが、基本的人権の尊重と平和主義、国民主権を柱とする日本憲法を抱く日本国民が目指すことではないでしょうか。そして、世界的に見ても死刑制度は減少傾向にあるのです。
 最後に、先日出された死刑執行に関する札幌弁護士会会長声明を読んでいただきましょう。

■死刑執行に関する会長声明(札幌弁護士会)

 2018年(平成30年)12月27日、大阪拘置所において2名の死刑が執行されました。本年7月に計13名の死刑が執行されて以来の執行であり、本年の執行人数は合計15名となりました。また、第2次安倍内閣以降、死刑が執行されたのは15回目、合計36名に対して死刑が執行されたことになります。
 死刑は生命を奪う刑罰であり、誤判の場合、事後的な回復が不可能です。そして誤判・えん罪の危険が現実のものであって、誤った死刑が執行されるおそれが否定できないことは、これまでの複数の再審開始決定が明らかにしています。なお、本日死刑が執行された2名のうち1名は再審請求中でした。
 国際連合の自由権規約委員会は、日本の第6回定期報告に対する最終見解(2014年7月23日採択)において、死刑判決に対する必要的な上訴制度がないこと、再審請求に死刑の執行停止効がないことなど、日本の死刑制度には国際人権基準の観点から問題があると指摘しています。
 そもそも国際社会においては、死刑廃止に向かう潮流が主流です。2016年(平成28年)12月19日には、国連総会において「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、2014年(平成26年)12月に引き続き117か国の賛成により採択されています。
 また、2017年(平成29年)12月末日現在、死刑を廃止又は停止している国(10年以上死刑が執行されていない国を含む。)は142か国に及び、世界の3分の2以上の国において死刑の執行がなされていません。
 このような死刑制度が抱える重大な問題性や国際的な死刑廃止への潮流に鑑み、日本弁護士連合会は、2016年(平成28年)10月7日、第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、日本で国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに、死刑制度の廃止を目指すべきであることを宣言しました。
同宣言は、犯罪被害者や遺族への支援の拡充を求める一方、人権を尊重する民主主義社会における刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、社会復帰の達成に資するものでなければならないとの観点から、死刑制度を含む刑罰制度全体の抜本的見直しを求めるものです。
 今回の死刑執行は、このような死刑制度を巡る国内外の情勢の変化及び人権擁護大会における上記の宣言を無視するものであって、極めて遺憾です。
 当会は、政府に対し、直ちに死刑の執行を停止し、2020年までに死刑制度を廃止することを求め、今回の死刑執行に対し強く抗議します。

 2018年(平成30年)12月 札幌弁護士会 会長 八木宏樹