演劇教育の大先輩の湯山厚さんと武藤啓司さんの話が聞けるということで、早稲田大学に足を運びました。まずは早稲田大学教師教育研究所のホームページでその講演会の概要を見て下さい。
●2016年度 教師教育研究所 戦後教育実践セミナー
2016年度の戦後教育実践セミナーでは2人の方をお迎えして戦後教育実践についてお話を伺います。
今、教育が大きな曲がり角を迎える中で、戦後教育をふりかえり、その実践者から直接話を聞くことによって、現職の教員やこれから教職を目指す学生の、教育者としての資質の向上に資するばかりでなく、自分の進路を模索している学生や一般の皆さんにも、教育や教職への関心を高めていただくきっかけになるものと思います。
多くの皆様の御参加をお待ち申し上げます。
日 時:2016年7月30日(土) 13時~17時30分
会 場:早稲田大学国際会議場 第三会議室
(JR山手線高田馬場駅下車20分、地下鉄東西線早稲田駅下車10分)
参加費:無料(先着50名)
懇親会:3000円(18:00~)
テーマ:ことば・授業・いのち -子どもとの出会いのなかで-
講 師・演 題:
13:00~14:30:「ことばと演劇教育」(仮)
湯山 厚氏 1924年~
国語教育から全員参加の学校劇の先駆的な実践者、教員を25年間、その後、75歳まで横浜国大等で教鞭をとる。さとの民話や伝説の収集・研究家でもある。
著書「学級づくりの仕事」「国語の授業」他
14:45~16:15:「同和教育に出会い楠の木学園へ」(仮)
武藤啓司氏 1935年~
横浜国大卒。都内小学校教員、同和教育に出会う。1995年フリースクール楠の木学園講師、園長、理事長。
著書「いのちが深く出会うとき」「巣立ちへの伴走」他。
16:30~17:30:鼎談
●主 催:早稲田大学教師教育研究所
●共 催:早稲田大学総合研究機構
●問い合わせ先:安達昇(教師教育研究所)
n.adachi@kurenai.waseda.jp
行きなれていない早稲田大学の広い構内をうろうろしているうちに、定刻より10分過ぎの到着になりました。すでに湯山さんの講演「構成劇『コロの物語』誕生まで」は始まっていました。
自己紹介として、出生、職歴、「演劇教育に関わるまで」などを語られた後、学芸会の話に進んでいきました。
「当時、小学校では、学校行事の一環として、遠足、運動会、学芸会が定例行事として行われていたが、一般教師は、学芸会は負担だった。」
そこで学芸会をどうしたら良いのか考えた結果、構成劇の誕生に繋がったというのです。
〔レジメより〕
・子どもたちは全員出演を希望(従来は有力者の子女が主役)
・子どもたちは一言でも台詞を言いたかった。
・拾ってきた捨て犬のことを劇化しようとしたが、子どもたちには書けなかった。
・子どもたちの作文や学級日記を参考に、湯山が脚本を書く羽目になった。
・従来ない形式なので、「構成劇」と名付けた。
『コロの物語』のあらましについては省略することにして、上演後どうなったかについて、やはりレジメから拾ってみましょう。
・それまでお客さんだった子が発言するようになり、教室が活性化する。
・『コロの物語』を「演劇と教育」(日本演劇教育連盟の機関誌)に送る。
・国語教科書(東京書籍)に採用される。
・劇中の音楽はすべて湯山が作詞・作曲し、山室かほるさんが手直ししてくれた。
出席者は30名ほどだったでしょうか。演劇教育の仲間も二人ほど参加していました。会場から様々な質問や意見が飛び交いましたが、私の感想を箇条書き的に書き留めておきましょう。
・湯山さんの主著に『構成劇の作り方』(晩成書房、1985年)があり、『コロの物語』を筆頭に9本の脚本が掲載されている。巻頭論文「構成劇のすすめ」(冨田博之)が秀逸。
・『コロの物語』の実践は学級劇というところが素晴らしい。子どもの一人ひとりの表現を大切に考えると学級劇に行き着くだろう。
・子どもたちの日常生活の中から作られた子ども主体の劇づくりである。鶴見俊輔のいう限界芸術としての構成劇といっても良い。
・学級づくりの発表の場としての劇づくりともいえる。
・台詞中心ではない、身体表現を重視するミュージカル的なものであった。
・ここでの劇づくりが朗読を重視した授業や行事の改革にも繋がっていったのは必然である。
それにしても、92歳で講演をこなす湯山さんに脱帽でした。
もう1人の講演者は武藤啓司さんでした。私が教職をスタートさせた新卒の頃から彼は気になる存在でした。切っ掛けは私の師匠の村田栄一さんです。『飛びだせチビッコ』(エール出版社)や『戦後教育論』(社会評論社)ですっかり村田ファンになった私は彼の眼鏡で教育を見るスタイルを身につけていきました。そこに登場したのが村田さんの友人の武藤啓司さんでした。彼の名前を初めて発見した最初の本は『学校を告発する』(武藤啓司編、エール出版社、1970年)でした。さらに『教育闘争への模索』(社会評論社、1974年)で不動の地位を確立しました。
武藤さんと初めて会ったのはフレネ教育者国際会議(リーデフ98)の実行委員会の席でした。國學院大學の里見実さんの研究室に2,30人で話し合ったのを記憶しています。村田さん、里見さんとともに武藤さんも参加されていました。
今回の講演のレジメのもくじだけ紹介しましょう。
「同和教育との出会い~フリースクール楠の木学園へ」
Ⅰ 同和教育との出会い
1.1958年就職 教員勤務評定反対闘争、60年安保闘争に敗北
2.同和教育との出会い 1975年~
3.全国同和教育研究協議会(全同教)、第30回東京・埼玉大会(1978年)
4.林竹二氏との出会い
5.自分の職場(大田区下町の小学校)での実践
『やさしさを学ぶということ』(御茶の水書房、1988年)
『子どもの心と響きあう』武藤啓司、榎本留美、社会評論社、、1990年
Ⅱ フリースクール楠の木学園で
1.『巣立ちへの伴走』2001年、『フリースクールの授業』2004年、いずれも社会評論社
2.「発達障がい」をめぐって
一時間にわたって、実に丁寧に語ってくれました。武藤さんの基本的な構えとしては、様々な出会いからそれを避けて通ることなく、それの一番の高みを愚直に引き受け、しっかり己を総括して進む姿勢です。
興味深かったのは最近のフリースクールの授業実践でした。実践集『異なる個性の出会いで創り出すもの』(NPO法人楠の木学園、武藤啓司編集、2016年)のもくじだけ紹介しておきましょう。
・聞くこと-それは世界に自分を開き委ねること 牛山了子
・「和太鼓の先生」 黒瀬雅左枝
・演劇教育の実践から 座馬智子
・ものが仕上がっていく楽しさを大事に 種岡三希子
加藤彰彦(野本三吉)さんも見えていて、なかなか密度の濃い会になりました。
●2016年度 教師教育研究所 戦後教育実践セミナー
2016年度の戦後教育実践セミナーでは2人の方をお迎えして戦後教育実践についてお話を伺います。
今、教育が大きな曲がり角を迎える中で、戦後教育をふりかえり、その実践者から直接話を聞くことによって、現職の教員やこれから教職を目指す学生の、教育者としての資質の向上に資するばかりでなく、自分の進路を模索している学生や一般の皆さんにも、教育や教職への関心を高めていただくきっかけになるものと思います。
多くの皆様の御参加をお待ち申し上げます。
日 時:2016年7月30日(土) 13時~17時30分
会 場:早稲田大学国際会議場 第三会議室
(JR山手線高田馬場駅下車20分、地下鉄東西線早稲田駅下車10分)
参加費:無料(先着50名)
懇親会:3000円(18:00~)
テーマ:ことば・授業・いのち -子どもとの出会いのなかで-
講 師・演 題:
13:00~14:30:「ことばと演劇教育」(仮)
湯山 厚氏 1924年~
国語教育から全員参加の学校劇の先駆的な実践者、教員を25年間、その後、75歳まで横浜国大等で教鞭をとる。さとの民話や伝説の収集・研究家でもある。
著書「学級づくりの仕事」「国語の授業」他
14:45~16:15:「同和教育に出会い楠の木学園へ」(仮)
武藤啓司氏 1935年~
横浜国大卒。都内小学校教員、同和教育に出会う。1995年フリースクール楠の木学園講師、園長、理事長。
著書「いのちが深く出会うとき」「巣立ちへの伴走」他。
16:30~17:30:鼎談
●主 催:早稲田大学教師教育研究所
●共 催:早稲田大学総合研究機構
●問い合わせ先:安達昇(教師教育研究所)
n.adachi@kurenai.waseda.jp
行きなれていない早稲田大学の広い構内をうろうろしているうちに、定刻より10分過ぎの到着になりました。すでに湯山さんの講演「構成劇『コロの物語』誕生まで」は始まっていました。
自己紹介として、出生、職歴、「演劇教育に関わるまで」などを語られた後、学芸会の話に進んでいきました。
「当時、小学校では、学校行事の一環として、遠足、運動会、学芸会が定例行事として行われていたが、一般教師は、学芸会は負担だった。」
そこで学芸会をどうしたら良いのか考えた結果、構成劇の誕生に繋がったというのです。
〔レジメより〕
・子どもたちは全員出演を希望(従来は有力者の子女が主役)
・子どもたちは一言でも台詞を言いたかった。
・拾ってきた捨て犬のことを劇化しようとしたが、子どもたちには書けなかった。
・子どもたちの作文や学級日記を参考に、湯山が脚本を書く羽目になった。
・従来ない形式なので、「構成劇」と名付けた。
『コロの物語』のあらましについては省略することにして、上演後どうなったかについて、やはりレジメから拾ってみましょう。
・それまでお客さんだった子が発言するようになり、教室が活性化する。
・『コロの物語』を「演劇と教育」(日本演劇教育連盟の機関誌)に送る。
・国語教科書(東京書籍)に採用される。
・劇中の音楽はすべて湯山が作詞・作曲し、山室かほるさんが手直ししてくれた。
出席者は30名ほどだったでしょうか。演劇教育の仲間も二人ほど参加していました。会場から様々な質問や意見が飛び交いましたが、私の感想を箇条書き的に書き留めておきましょう。
・湯山さんの主著に『構成劇の作り方』(晩成書房、1985年)があり、『コロの物語』を筆頭に9本の脚本が掲載されている。巻頭論文「構成劇のすすめ」(冨田博之)が秀逸。
・『コロの物語』の実践は学級劇というところが素晴らしい。子どもの一人ひとりの表現を大切に考えると学級劇に行き着くだろう。
・子どもたちの日常生活の中から作られた子ども主体の劇づくりである。鶴見俊輔のいう限界芸術としての構成劇といっても良い。
・学級づくりの発表の場としての劇づくりともいえる。
・台詞中心ではない、身体表現を重視するミュージカル的なものであった。
・ここでの劇づくりが朗読を重視した授業や行事の改革にも繋がっていったのは必然である。
それにしても、92歳で講演をこなす湯山さんに脱帽でした。
もう1人の講演者は武藤啓司さんでした。私が教職をスタートさせた新卒の頃から彼は気になる存在でした。切っ掛けは私の師匠の村田栄一さんです。『飛びだせチビッコ』(エール出版社)や『戦後教育論』(社会評論社)ですっかり村田ファンになった私は彼の眼鏡で教育を見るスタイルを身につけていきました。そこに登場したのが村田さんの友人の武藤啓司さんでした。彼の名前を初めて発見した最初の本は『学校を告発する』(武藤啓司編、エール出版社、1970年)でした。さらに『教育闘争への模索』(社会評論社、1974年)で不動の地位を確立しました。
武藤さんと初めて会ったのはフレネ教育者国際会議(リーデフ98)の実行委員会の席でした。國學院大學の里見実さんの研究室に2,30人で話し合ったのを記憶しています。村田さん、里見さんとともに武藤さんも参加されていました。
今回の講演のレジメのもくじだけ紹介しましょう。
「同和教育との出会い~フリースクール楠の木学園へ」
Ⅰ 同和教育との出会い
1.1958年就職 教員勤務評定反対闘争、60年安保闘争に敗北
2.同和教育との出会い 1975年~
3.全国同和教育研究協議会(全同教)、第30回東京・埼玉大会(1978年)
4.林竹二氏との出会い
5.自分の職場(大田区下町の小学校)での実践
『やさしさを学ぶということ』(御茶の水書房、1988年)
『子どもの心と響きあう』武藤啓司、榎本留美、社会評論社、、1990年
Ⅱ フリースクール楠の木学園で
1.『巣立ちへの伴走』2001年、『フリースクールの授業』2004年、いずれも社会評論社
2.「発達障がい」をめぐって
一時間にわたって、実に丁寧に語ってくれました。武藤さんの基本的な構えとしては、様々な出会いからそれを避けて通ることなく、それの一番の高みを愚直に引き受け、しっかり己を総括して進む姿勢です。
興味深かったのは最近のフリースクールの授業実践でした。実践集『異なる個性の出会いで創り出すもの』(NPO法人楠の木学園、武藤啓司編集、2016年)のもくじだけ紹介しておきましょう。
・聞くこと-それは世界に自分を開き委ねること 牛山了子
・「和太鼓の先生」 黒瀬雅左枝
・演劇教育の実践から 座馬智子
・ものが仕上がっていく楽しさを大事に 種岡三希子
加藤彰彦(野本三吉)さんも見えていて、なかなか密度の濃い会になりました。