西部勇さんは私の新卒時の同僚で、数歳年上の「畏友」といってもいい存在です。1972年、北区の滝野川第六小学校の教師として赴任したとき、彼も同じ年に転勤してきた事務職員でした。博識・博学の彼とは妙に気が合い、事務室でコーヒーをごちそうになりながら、社会情勢を始め、哲学・文学・教育などの話を交わすことになるのです。
私が4年で転任してからも、時々思い出したように電話をいただいたりして、かれこれ40年以上交流が続きました。11月の末に久しぶりに数時間に及ぶ「喫茶店対談」が実現しました。お互い数冊の図書を抱えての話しあいでした。その時に西部さんが持ってきた1冊が、『サンタクロースの秘密』(クロード・レヴィ=ストロース、中沢新一訳、解説、せりか書房、1995年)でした。この本は今年、『火あぶりにされたサンタクロース』(角川書店)として改訂版が出版されています。
レヴィ・ストロースの本は恥ずかしながら1冊も読んだことがありませんでした。でも名前だけはかすかに記憶していたのです。西部さんからいただいた本の1冊がストロースの著作だったのです。そして、帰ってからさっそくこの本を読んだのです。
・『構造・神話・労働』クロード・レヴィ・ストロース日本講演集、大橋保夫編、みすず書房、1979年
ちなみに、彼からは他にも何冊かいただいた本があるのです。その本は特に「教育」を考えるときに大いに役立ったものでした。
・『限界芸術』鶴見俊輔、講談社文庫、1976年
・『法廷にたつ言語』田中克彦、恒文社、1983年
・『資本制と家事労働』上野千鶴子、海鳴社、1985年
こんな偶然があるのでしょうか。12月のNHK「100分de名著」は、ストロースの『野生の思考』でした。これは中沢新一さん解説で、とても充実した興味深い番組でした。内容とその趣旨についてはNHKHPから引いてみましょう。
□NHK「100分de名著」2016.12 「野生の思考」(HPより)
第1回 12月5日放送 「構造主義」の誕生
第2回 12月12日放送 野生の知財と「ブリコラージュ」
第3回 12月19日放送 神話の論理へ
第4回 12月26日放送 「野生の思考」は日本に生きている
●プロデューサーAのおもわく(NHK・HPより)
「悲しき熱帯」「神話論理」等の著作で知られ、「二十世紀最大の人類学者」と呼ばれるフランスの文化人類学者レヴィ=ストロース(1908~2009)。構造主義という全く新しい方法を使って、未開社会にも文明社会に匹敵するような精緻で合理的な思考が存在することを論証した代表作が「野生の思考」です。しかし、これは単に文化人類学の研究書ではありません。現代人たちが陥っていた西欧文明を絶対視する自文化中心主義を厳しく批判し、「人間の根源的な思考」を明らかにしようとした野心的な著作でもあるのです。「100分de名著」では、この「野生の思考」から現代に通じるメッセージを引き出していきます。
レヴィ=ストロースは、社会学教授として赴任したブラジルで人生を一変させるような出会いをしました。調査で出会ったアマゾン川流域の先住民族たち。そこには、想像もしなかった豊かな世界がありました。友人のヤコブソンに言語学を学ぶ中で、あらゆる現象を言語学的構造から解明する「構造主義」という方法を手にした彼は、先住民たちの習俗や儀礼、神話の数々が決して野蛮で未熟なものではなく、極めて精緻で論理的な思考に基づいていることを発見します。彼はそれを「野生の思考」と呼びました。
それだけではありません。未開民族の思考を「前論理的」だとする見方は西洋近代の「科学」にのみ至上権を置く立場からの偏見でしかないといいます。幅広いフィールドワークと民俗誌の渉猟の果てに、「野生の思考」こそ科学的な思考よりも根源にある人類に普遍的な思考であり、近代科学のほうがむしろ特殊なものだと結論づけ、「精密自然科学より一万年も前に確立したその成果は、依然としてわれわれの文明の基層をなしている」と喝破したのです。
人類学者の中沢新一さんは、この「野生の思考」が現代にあって、科学的思考と共存しながら、日常世界の中で作動し続けているといいます。あるいは芸術創造の中に、あるいはサブカルチャーの中に、あるいは最先端のIT技術の中に、生き生きと「野生の思考」は脈動しているのです。その思考の基本構造を目にみえる形で取り出した「野生の思考」は、私たちが自らの文化の可能性を切り開く上で示唆に富むといいます。
西欧近代の科学や合理性に呪縛され、自然と文化の間を厳しく分離する思考法に慣らされてしまった私たち現代人。レヴィ=ストロースの著作を深く読み解くことで、自然と文化のインターフェイス上に働いているとされる「野性の思考」を復権し、私たちの社会のあり方や文明のあり方を見つめなおす方法を学んでいきます。
さて、ストロースについて、手っ取り早く調べてみることにしました。
●クロード・レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss、1908年11月28日 - 2009年10月30日)は、フランスの社会人類学者、民族学者。出身はベルギーの首都ブリュッセル。コレージュ・ド・フランスの社会人類学講座を1984年まで担当し、アメリカ先住民の神話研究を中心に研究を行った。アカデミー・フランセーズ会員。
専門分野である人類学、神話学における評価もさることながら、一般的な意味における構造主義の祖とされ、彼の影響を受けた人類学以外の一連の研究者たち、ジャック・ラカン、ミシェル・フーコー、ロラン・バルト、ルイ・アルチュセールらとともに、1960年代から1980年代にかけて、現代思想としての構造主義を担った中心人物のひとり。
●著作
・ Les structures elementaires de la parente, (Paris, Presses Universitaires de France, 1949)
『親族の基本構造』 青弓社、2000年
・ Tristes tropiques (Paris, Plon(Terre humaine), 1955)
『悲しき熱帯』 中央公論新社、のち中公クラシックス、各・全2巻
『悲しき南回帰線』 講談社学術文庫、全2巻
・Anthropologie structurale (Paris, Plon, 1958)
『構造人類学』 みすず書房
・La pensee sauvage (Paris, Plon, 1962)
『野生の思考』 みすず書房、1976年→NHK「100分de名著」
・Les mythologiques (Paris, Plon, 1964 - 71)
『神話論理』 みすず書房 全4巻、4巻目は2分冊につき全5冊、2006年-2010年
・Le regard eloigne (Paris, Plon, 1983)
『はるかなる視線』 みすず書房 全2巻
・ Paroles donnees (Paris, Plon, 1984)
『パロール・ドネ』 講談社選書メチエ
・ La potiere jalouse (Paris, Plon, 1985)
『やきもち焼きの土器作り』 みすず書房
・De pres et de loin (Paris, Odile Jacob, 1988)
『遠近の回想』(ディディエ・エリボンとの共著) みすず書房
・Saudades do Brasil (Paris, Plon, 1994)
『ブラジルへの郷愁』 みすず書房/普及版・中央公論新社。写真が主
・Saudades de Sao Paulo (Sao Paulo, Companhia das letras, 1996)
『サンパウロへのサウダージ』 みすず書房、2008年。写真が主
・ L'autre face de la lune. Ecrits sur le Japon (Paris, Seuil, 2011)
『月の裏側 日本文化への視角』 中央公論新社、2014年
・Nous sommes tous des cannibales (Paris, Seuil, 2013)
『大山猫の物語』みすず書房、2016年 (以上、ウイキィペディア)
ところで、『野生の思考』は、ストロースの著作の中でも最も難解であるという評判の本ですが、5000円以上の大枚をはたいて購入してしまいました。確かに難しい本でした。でも、中沢さんのNHKテキストがとてもわかりやすいので助かりました。
■『野生の思考』クロード・レヴィ=ストロース 訳者:大橋保夫、みすず書房
●端書き(みすず書房HP)
野生の思考La Pensee sauvageは、1960年代に始まったいわゆる構造主義ブームの発火点となり、フランスにおける戦後思想史最大の転換をひきおこした著作である。
Sauvage(野蛮人)は、西欧文化の偏見の凝集ともいえる用語である。しかし植物に使えば「野生の」という意味になり、悪条件に屈せぬたくましさを暗示する。著者は、人類学のデータの広い渉猟とその科学的検討をつうじて未開人観にコペルニクス的転換を与えsauvageの両義性を利用してそれを表現する。
野生の思考とは未開野蛮の思考ではない。野生状態の思考は古今遠近を問わずすべての人間の精神のうちに花咲いている。文字のない社会、機械を用いぬ社会のうちにとくに、その実例を豊かに見出すことができる。しかしそれはいわゆる文明社会にも見出され、とりわけ日常思考の分野に重要な役割を果たす。
野生の思考には無秩序も混乱もないのである。しばしば人を驚嘆させるほどの微細さ・精密さをもった観察に始まって、それが分析・区別・分類・連結・対比……とつづく。自然のつくり出した動植鉱物の無数の形態と同じように、人間のつくった神話・儀礼・親族組織などの文化現象は、野生の思考のはたらきとして特徴的なのである。
この新しい人類学Anthropologieへの寄与が同時に、人間学Anthropologieの革命である点に本書の独創的意味があり、また著者の神話論序説をなすものである。
著者は1959年以来、コレージュ・ド・フランス社会人類学の教授である。
第一章 具体の科学
第二章 トーテム的分類の論理
第三章 変換の体系
第四章 トーテムとカースト
第五章 範疇、元素、種、数
第六章 普遍化と特殊化
第七章 種としての個体
第八章 再び見出された時
第九章 歴史と弁証法
昨日再び西部さんに時間を作ってもらいました。どうしても話がしたくなったのです。彼への質問をまとめてみました。
*なぜストロースに注目したのか。(『構造・神話・労働』)
*マルクスとサルトルの関係(マルクス主義と実存主義、大杉榮の「生の拡充」、村田栄一の当事者性)
*実存主義とプラグマティズム
*サルトルのストロース批判、ストロースの反批判
*なぜ、いま『火あぶりにされたサンタクロース』なのか。
*野生の思考とラスコー展(国立科学博物館)
*ブリコラージュ(器用仕事、アンリ・ルソー、レシピ料理と冷蔵庫料理…)
*構造主義の現在(親族、トーテミズム、儀礼と神話、労働…)
この日の「喫茶店対談」も3時間半に及びました。
次回の日程も決めました。今度は私のリクエストとして下掲のように、再び西部さんにいっぱい語ってもらうつもりです。
●マルクス・ホイジンガ・カイヨワ・吉本隆明・ストロース・鶴見俊輔・上野千鶴子・柄谷行人・田中克彦・廣松渉…すべては「生き方」に繋がっている!
最後に、いまストロースの著作で一番気になっているのは次の本です。でも高価だからなあ。
*『みる きく よむ』クロード・レヴィ=ストロース (著), 竹内 信夫 (翻訳)、みすず書房、 2005・12
私が4年で転任してからも、時々思い出したように電話をいただいたりして、かれこれ40年以上交流が続きました。11月の末に久しぶりに数時間に及ぶ「喫茶店対談」が実現しました。お互い数冊の図書を抱えての話しあいでした。その時に西部さんが持ってきた1冊が、『サンタクロースの秘密』(クロード・レヴィ=ストロース、中沢新一訳、解説、せりか書房、1995年)でした。この本は今年、『火あぶりにされたサンタクロース』(角川書店)として改訂版が出版されています。
レヴィ・ストロースの本は恥ずかしながら1冊も読んだことがありませんでした。でも名前だけはかすかに記憶していたのです。西部さんからいただいた本の1冊がストロースの著作だったのです。そして、帰ってからさっそくこの本を読んだのです。
・『構造・神話・労働』クロード・レヴィ・ストロース日本講演集、大橋保夫編、みすず書房、1979年
ちなみに、彼からは他にも何冊かいただいた本があるのです。その本は特に「教育」を考えるときに大いに役立ったものでした。
・『限界芸術』鶴見俊輔、講談社文庫、1976年
・『法廷にたつ言語』田中克彦、恒文社、1983年
・『資本制と家事労働』上野千鶴子、海鳴社、1985年
こんな偶然があるのでしょうか。12月のNHK「100分de名著」は、ストロースの『野生の思考』でした。これは中沢新一さん解説で、とても充実した興味深い番組でした。内容とその趣旨についてはNHKHPから引いてみましょう。
□NHK「100分de名著」2016.12 「野生の思考」(HPより)
第1回 12月5日放送 「構造主義」の誕生
第2回 12月12日放送 野生の知財と「ブリコラージュ」
第3回 12月19日放送 神話の論理へ
第4回 12月26日放送 「野生の思考」は日本に生きている
●プロデューサーAのおもわく(NHK・HPより)
「悲しき熱帯」「神話論理」等の著作で知られ、「二十世紀最大の人類学者」と呼ばれるフランスの文化人類学者レヴィ=ストロース(1908~2009)。構造主義という全く新しい方法を使って、未開社会にも文明社会に匹敵するような精緻で合理的な思考が存在することを論証した代表作が「野生の思考」です。しかし、これは単に文化人類学の研究書ではありません。現代人たちが陥っていた西欧文明を絶対視する自文化中心主義を厳しく批判し、「人間の根源的な思考」を明らかにしようとした野心的な著作でもあるのです。「100分de名著」では、この「野生の思考」から現代に通じるメッセージを引き出していきます。
レヴィ=ストロースは、社会学教授として赴任したブラジルで人生を一変させるような出会いをしました。調査で出会ったアマゾン川流域の先住民族たち。そこには、想像もしなかった豊かな世界がありました。友人のヤコブソンに言語学を学ぶ中で、あらゆる現象を言語学的構造から解明する「構造主義」という方法を手にした彼は、先住民たちの習俗や儀礼、神話の数々が決して野蛮で未熟なものではなく、極めて精緻で論理的な思考に基づいていることを発見します。彼はそれを「野生の思考」と呼びました。
それだけではありません。未開民族の思考を「前論理的」だとする見方は西洋近代の「科学」にのみ至上権を置く立場からの偏見でしかないといいます。幅広いフィールドワークと民俗誌の渉猟の果てに、「野生の思考」こそ科学的な思考よりも根源にある人類に普遍的な思考であり、近代科学のほうがむしろ特殊なものだと結論づけ、「精密自然科学より一万年も前に確立したその成果は、依然としてわれわれの文明の基層をなしている」と喝破したのです。
人類学者の中沢新一さんは、この「野生の思考」が現代にあって、科学的思考と共存しながら、日常世界の中で作動し続けているといいます。あるいは芸術創造の中に、あるいはサブカルチャーの中に、あるいは最先端のIT技術の中に、生き生きと「野生の思考」は脈動しているのです。その思考の基本構造を目にみえる形で取り出した「野生の思考」は、私たちが自らの文化の可能性を切り開く上で示唆に富むといいます。
西欧近代の科学や合理性に呪縛され、自然と文化の間を厳しく分離する思考法に慣らされてしまった私たち現代人。レヴィ=ストロースの著作を深く読み解くことで、自然と文化のインターフェイス上に働いているとされる「野性の思考」を復権し、私たちの社会のあり方や文明のあり方を見つめなおす方法を学んでいきます。
さて、ストロースについて、手っ取り早く調べてみることにしました。
●クロード・レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss、1908年11月28日 - 2009年10月30日)は、フランスの社会人類学者、民族学者。出身はベルギーの首都ブリュッセル。コレージュ・ド・フランスの社会人類学講座を1984年まで担当し、アメリカ先住民の神話研究を中心に研究を行った。アカデミー・フランセーズ会員。
専門分野である人類学、神話学における評価もさることながら、一般的な意味における構造主義の祖とされ、彼の影響を受けた人類学以外の一連の研究者たち、ジャック・ラカン、ミシェル・フーコー、ロラン・バルト、ルイ・アルチュセールらとともに、1960年代から1980年代にかけて、現代思想としての構造主義を担った中心人物のひとり。
●著作
・ Les structures elementaires de la parente, (Paris, Presses Universitaires de France, 1949)
『親族の基本構造』 青弓社、2000年
・ Tristes tropiques (Paris, Plon(Terre humaine), 1955)
『悲しき熱帯』 中央公論新社、のち中公クラシックス、各・全2巻
『悲しき南回帰線』 講談社学術文庫、全2巻
・Anthropologie structurale (Paris, Plon, 1958)
『構造人類学』 みすず書房
・La pensee sauvage (Paris, Plon, 1962)
『野生の思考』 みすず書房、1976年→NHK「100分de名著」
・Les mythologiques (Paris, Plon, 1964 - 71)
『神話論理』 みすず書房 全4巻、4巻目は2分冊につき全5冊、2006年-2010年
・Le regard eloigne (Paris, Plon, 1983)
『はるかなる視線』 みすず書房 全2巻
・ Paroles donnees (Paris, Plon, 1984)
『パロール・ドネ』 講談社選書メチエ
・ La potiere jalouse (Paris, Plon, 1985)
『やきもち焼きの土器作り』 みすず書房
・De pres et de loin (Paris, Odile Jacob, 1988)
『遠近の回想』(ディディエ・エリボンとの共著) みすず書房
・Saudades do Brasil (Paris, Plon, 1994)
『ブラジルへの郷愁』 みすず書房/普及版・中央公論新社。写真が主
・Saudades de Sao Paulo (Sao Paulo, Companhia das letras, 1996)
『サンパウロへのサウダージ』 みすず書房、2008年。写真が主
・ L'autre face de la lune. Ecrits sur le Japon (Paris, Seuil, 2011)
『月の裏側 日本文化への視角』 中央公論新社、2014年
・Nous sommes tous des cannibales (Paris, Seuil, 2013)
『大山猫の物語』みすず書房、2016年 (以上、ウイキィペディア)
ところで、『野生の思考』は、ストロースの著作の中でも最も難解であるという評判の本ですが、5000円以上の大枚をはたいて購入してしまいました。確かに難しい本でした。でも、中沢さんのNHKテキストがとてもわかりやすいので助かりました。
■『野生の思考』クロード・レヴィ=ストロース 訳者:大橋保夫、みすず書房
●端書き(みすず書房HP)
野生の思考La Pensee sauvageは、1960年代に始まったいわゆる構造主義ブームの発火点となり、フランスにおける戦後思想史最大の転換をひきおこした著作である。
Sauvage(野蛮人)は、西欧文化の偏見の凝集ともいえる用語である。しかし植物に使えば「野生の」という意味になり、悪条件に屈せぬたくましさを暗示する。著者は、人類学のデータの広い渉猟とその科学的検討をつうじて未開人観にコペルニクス的転換を与えsauvageの両義性を利用してそれを表現する。
野生の思考とは未開野蛮の思考ではない。野生状態の思考は古今遠近を問わずすべての人間の精神のうちに花咲いている。文字のない社会、機械を用いぬ社会のうちにとくに、その実例を豊かに見出すことができる。しかしそれはいわゆる文明社会にも見出され、とりわけ日常思考の分野に重要な役割を果たす。
野生の思考には無秩序も混乱もないのである。しばしば人を驚嘆させるほどの微細さ・精密さをもった観察に始まって、それが分析・区別・分類・連結・対比……とつづく。自然のつくり出した動植鉱物の無数の形態と同じように、人間のつくった神話・儀礼・親族組織などの文化現象は、野生の思考のはたらきとして特徴的なのである。
この新しい人類学Anthropologieへの寄与が同時に、人間学Anthropologieの革命である点に本書の独創的意味があり、また著者の神話論序説をなすものである。
著者は1959年以来、コレージュ・ド・フランス社会人類学の教授である。
第一章 具体の科学
第二章 トーテム的分類の論理
第三章 変換の体系
第四章 トーテムとカースト
第五章 範疇、元素、種、数
第六章 普遍化と特殊化
第七章 種としての個体
第八章 再び見出された時
第九章 歴史と弁証法
昨日再び西部さんに時間を作ってもらいました。どうしても話がしたくなったのです。彼への質問をまとめてみました。
*なぜストロースに注目したのか。(『構造・神話・労働』)
*マルクスとサルトルの関係(マルクス主義と実存主義、大杉榮の「生の拡充」、村田栄一の当事者性)
*実存主義とプラグマティズム
*サルトルのストロース批判、ストロースの反批判
*なぜ、いま『火あぶりにされたサンタクロース』なのか。
*野生の思考とラスコー展(国立科学博物館)
*ブリコラージュ(器用仕事、アンリ・ルソー、レシピ料理と冷蔵庫料理…)
*構造主義の現在(親族、トーテミズム、儀礼と神話、労働…)
この日の「喫茶店対談」も3時間半に及びました。
次回の日程も決めました。今度は私のリクエストとして下掲のように、再び西部さんにいっぱい語ってもらうつもりです。
●マルクス・ホイジンガ・カイヨワ・吉本隆明・ストロース・鶴見俊輔・上野千鶴子・柄谷行人・田中克彦・廣松渉…すべては「生き方」に繋がっている!
最後に、いまストロースの著作で一番気になっているのは次の本です。でも高価だからなあ。
*『みる きく よむ』クロード・レヴィ=ストロース (著), 竹内 信夫 (翻訳)、みすず書房、 2005・12