※タイトル変更しました。第1話はこちら
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>俺みたいな27でコンビニ店員やってる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは。
>今日の街行くリア充カップルの会話。あの流行りの曲かっこいい、とか、あの服ほしい、とか、ま、それが普通ですわな。
>かたや俺はセルロースの集合体に絵を描いて、嘆くんすわ。
>It's a true world. 狂ってる? それ、褒め言葉ね。
2013年8月18日、壮大なプロジェクトが幕を開けた。
僕は27年間、絵を描くという経験を持ち合わせていなかった。それでも描かなければならない。
本屋、図書館、漫画喫茶。あらゆる場所に出向き、集められる限りの情報を収集した。だが、目や輪郭の描き方など、絵を基礎から学ぶ時間は無い。しかも、カピバラだけを描くわけにもいかない。最低でも高校生スタッフ4人の絵を描いてカムフラージュする必要がある。そこで、絵を練習する方法の一つとされている「トレース」を用いることにした。漫画絵をトレースし、それを本人に似せるべく修正して完成とする。そして身体まで描いている余裕も無い為、顔画のみ。
早速、漫画本やグーグル画像検索でトレースの素材を探した。カピバラの特徴である『ポニーテール』『眼鏡』そして『笑顔』で画像検索し、他にもあらゆる単語を手当たり次第に入れた。公式イラストから絵師のラフ画まで、素材として集められたキャラクターは実に50人を超えた。
次に決めるべきは絵の方向性。カピバラをどんな風に描くべきか。
「ちょっと変な質問しても良いですか?」
「え、何ですか?」
「もしOさんの似顔絵を描いてくれる人が居るとするじゃないですか。そっくりに描いて欲しいか、可愛くデフォルメされた絵を描いてほしいか、どっちですか?」
「……可愛く、ですかねえ」
ヘルプ先の女子高生スタッフにも勇気を出して質問した。たった一人の女性の意見、今はその言葉を信じるしかない。可愛くデフォルメされた絵に決定。
いよいよ集めた素材をもとにカピバラを描いてみる。カピバラに関する資料は皆無。写真などあるわけがない。だが何も必要ない。5クール以上も見てきたのだ。彼女の顔は脳内に鮮明に刻み込まれている。
まずは髪と輪郭が酷似している素材を用い、それらのみ鉛筆でトレースする。輪郭だけだがカピバラの顔を容易に連想できるほど似ている。もしかしてこの方法なら簡単に描けるのではないか。そう思ったのも束の間だった。
――目と口が描けない――
それらはトレースするだけでは上手く描けない。先の輪郭をコピーで量産し、目と口を描き入れる練習を繰り返した。だが時間も限られている。結局『ハヤテのごとく!』の単行本から簡単に描ける表情を探し、それをトレースするという妥協案に出ざるを得なかった。それでもカピバラのあの笑顔だけは再現できるように努めた。最大のポイントはそこにある。本当に可愛くデフォルメされた絵が描けるのか不安になる中、新たな問題が浮上する。
――眼鏡が描けない――
カピバラは黒ぶちの眼鏡をかけている。眼鏡は目との位置バランスが非常に難しい。それでも描くしかない。眼鏡の無いカピバラはもはやカピバラではないのだ。またしても『ハヤテ』の、貴嶋サキの眼鏡を参考に何度も繰り返し描いた。
そして9月1日、プロジェクト開始から15日目。川崎市内のファミレスにてついにカピバラの線画が完成した。大きさは5センチ四方にも満たないし、決して上手いわけではないが、最低限の特徴は掴んでおり可愛くもなっている。そして笑顔も……今の僕の画力では最高レベルに達しているだろう。
ファミレスを出ると、日曜の歩行者天国は今日も大量のカップルに占領されていた。
その女性に問う。お前の彼氏は絵を描けるか? 確かに顔は格好良いしトークも上手いかもしれない。性行為も丁寧で気遣ってくれているかもしれない。だが絵は上手いか? 絵心すらない大雑把な男と付き合っているのか。良い人生だねえ。
そんな優越感に浸っていられたのはほんの数十秒だった。すぐに重大な事態に気付き呆然となる。
――色が塗られていない――
本当の戦いはここからだった。
(つづく)
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>俺みたいな27でコンビニ店員やってる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは。
>今日の街行くリア充カップルの会話。あの流行りの曲かっこいい、とか、あの服ほしい、とか、ま、それが普通ですわな。
>かたや俺はセルロースの集合体に絵を描いて、嘆くんすわ。
>It's a true world. 狂ってる? それ、褒め言葉ね。
2013年8月18日、壮大なプロジェクトが幕を開けた。
僕は27年間、絵を描くという経験を持ち合わせていなかった。それでも描かなければならない。
本屋、図書館、漫画喫茶。あらゆる場所に出向き、集められる限りの情報を収集した。だが、目や輪郭の描き方など、絵を基礎から学ぶ時間は無い。しかも、カピバラだけを描くわけにもいかない。最低でも高校生スタッフ4人の絵を描いてカムフラージュする必要がある。そこで、絵を練習する方法の一つとされている「トレース」を用いることにした。漫画絵をトレースし、それを本人に似せるべく修正して完成とする。そして身体まで描いている余裕も無い為、顔画のみ。
早速、漫画本やグーグル画像検索でトレースの素材を探した。カピバラの特徴である『ポニーテール』『眼鏡』そして『笑顔』で画像検索し、他にもあらゆる単語を手当たり次第に入れた。公式イラストから絵師のラフ画まで、素材として集められたキャラクターは実に50人を超えた。
次に決めるべきは絵の方向性。カピバラをどんな風に描くべきか。
「ちょっと変な質問しても良いですか?」
「え、何ですか?」
「もしOさんの似顔絵を描いてくれる人が居るとするじゃないですか。そっくりに描いて欲しいか、可愛くデフォルメされた絵を描いてほしいか、どっちですか?」
「……可愛く、ですかねえ」
ヘルプ先の女子高生スタッフにも勇気を出して質問した。たった一人の女性の意見、今はその言葉を信じるしかない。可愛くデフォルメされた絵に決定。
いよいよ集めた素材をもとにカピバラを描いてみる。カピバラに関する資料は皆無。写真などあるわけがない。だが何も必要ない。5クール以上も見てきたのだ。彼女の顔は脳内に鮮明に刻み込まれている。
まずは髪と輪郭が酷似している素材を用い、それらのみ鉛筆でトレースする。輪郭だけだがカピバラの顔を容易に連想できるほど似ている。もしかしてこの方法なら簡単に描けるのではないか。そう思ったのも束の間だった。
――目と口が描けない――
それらはトレースするだけでは上手く描けない。先の輪郭をコピーで量産し、目と口を描き入れる練習を繰り返した。だが時間も限られている。結局『ハヤテのごとく!』の単行本から簡単に描ける表情を探し、それをトレースするという妥協案に出ざるを得なかった。それでもカピバラのあの笑顔だけは再現できるように努めた。最大のポイントはそこにある。本当に可愛くデフォルメされた絵が描けるのか不安になる中、新たな問題が浮上する。
――眼鏡が描けない――
カピバラは黒ぶちの眼鏡をかけている。眼鏡は目との位置バランスが非常に難しい。それでも描くしかない。眼鏡の無いカピバラはもはやカピバラではないのだ。またしても『ハヤテ』の、貴嶋サキの眼鏡を参考に何度も繰り返し描いた。
そして9月1日、プロジェクト開始から15日目。川崎市内のファミレスにてついにカピバラの線画が完成した。大きさは5センチ四方にも満たないし、決して上手いわけではないが、最低限の特徴は掴んでおり可愛くもなっている。そして笑顔も……今の僕の画力では最高レベルに達しているだろう。
ファミレスを出ると、日曜の歩行者天国は今日も大量のカップルに占領されていた。
その女性に問う。お前の彼氏は絵を描けるか? 確かに顔は格好良いしトークも上手いかもしれない。性行為も丁寧で気遣ってくれているかもしれない。だが絵は上手いか? 絵心すらない大雑把な男と付き合っているのか。良い人生だねえ。
そんな優越感に浸っていられたのはほんの数十秒だった。すぐに重大な事態に気付き呆然となる。
――色が塗られていない――
本当の戦いはここからだった。
(つづく)
>その女性に問う。お前の彼氏は絵を描けるか? 確かに顔は格好良いしトークも上手いかもし れない。性行為も丁寧で気遣ってくれているかもしれない。だが絵は上手いか? 絵心すらない 大雑把な男と付き合っているのか。良い人生だねえ。
キモいキモいキモい