「皆さんこんばんはゆずでーーーーす!」
いよいよゆずの2人が登場。北川さんの叫び声が会場全体に響き渡る。
「先日は体調不良でご心配をおかけしてすみませんでした。最初は坊主になってYoutubeに上げようと思ったのですが」
時事ネタも織り交ぜる北川さんのMCに会場は更に沸いていた。
その後も『シシカバブー』『みぞれ雪』『しんしん』『from』と名曲が続き、6曲目は10年前にドラえもんの主題歌で話題になったこの曲。
「青い空 白い雲 勇気をもって踏み出そう」
メジャー中のメジャー曲だけあって、『またあえる日まで』はゆずの2人のみならず観客全体での大合唱になっていた。
ハンディカメラを持ったスタッフが客席を歩き回り、その映像がメインの大画面にリアルタイムで映し出される楽しい演出の中、僕も観客に混じり口ずさむ。しかし、それは30秒と続かなかった。
歌い出しを少し歌えただけで、Bメロの歌詞は全く頭に入っていなかった。すぐ近くで僕より小さい子供も歌っている。そして少女も。なのに僕は……。
「またあえる日まで 夢を叶えよう 信じる事が 心を繋ぐ」
せめてサビだけは必死に歌った。少女に幻滅されたくない、ただそれだけの想いで。
『ワンダフルワールド』『虹』『HAMO』『Hey和』『地下街』――懸命に歌い、ギターを弾き続ける北川さんと岩沢さん。それを後押しするかのように観客は手拍子やPPPH、両手を上に伸ばし左右に振るなど、様々な合いの手を入れる。ロマンスやMIXを連発する秋葉原のオタクに比べれば難易度は低いこともあって、ライブ自体が初めての僕でも周囲に合わせるだけで合いの手をこなす事ができた。物理的にも精神的にも会場が一体となりゆずを応援するこの空気がとても気持ち良かった。
少女は合いの手に加えジャンプまでしていた。その姿は無我夢中そのものだった。ライブ前にニットを脱ぎ靴を履き替えたのは動き易くする為だったのだ。
そして。
「予定時刻は6時 あとわずかで僕らは別々の道」
台所で母親が良く口ずさんでいた『サヨナラバス』。これなら歌える。会場の大合唱に負けない声で僕は歌った。
「サヨナラバスは君を乗せて静かに走り出す」
羞恥心を捨て、とにかく歌い続けた。しかし、すぐ左に居る少女をチラリと見るも、僕のほうをまるで見ようとしない。
その後も『陽はまた昇る』『桜会』『REASON』『また明日』『いちご』『少年』『栄光の架橋』と、一部を除き、何度も事前に聴いている曲が続いた。曲の既知の有無は感情の高ぶりを大きく左右しており、事前に聞き込んだのは無駄ではなかった。僕はこのライブの空気に触れているだけで満足だった。
「一人じゃない 心の中 どんな時も with you」
最後の曲『with you』を歌い終えた北川さん、岩沢さん、そしてバックバンドの面々はステージを去る。一般的なアンコールのかけ方は少し速めの手拍子を繰り返す。僕は何らかの映像媒体でその知識を得ていた。手拍子をしようとした矢先、事件は起きた。
「君の心へこの唄が届きますように」
アンコールの手拍子が起こらない。代わりに聞こえてきたのは観客の誰か一人の歌声だった。
(つづく)
いよいよゆずの2人が登場。北川さんの叫び声が会場全体に響き渡る。
「先日は体調不良でご心配をおかけしてすみませんでした。最初は坊主になってYoutubeに上げようと思ったのですが」
時事ネタも織り交ぜる北川さんのMCに会場は更に沸いていた。
その後も『シシカバブー』『みぞれ雪』『しんしん』『from』と名曲が続き、6曲目は10年前にドラえもんの主題歌で話題になったこの曲。
「青い空 白い雲 勇気をもって踏み出そう」
メジャー中のメジャー曲だけあって、『またあえる日まで』はゆずの2人のみならず観客全体での大合唱になっていた。
ハンディカメラを持ったスタッフが客席を歩き回り、その映像がメインの大画面にリアルタイムで映し出される楽しい演出の中、僕も観客に混じり口ずさむ。しかし、それは30秒と続かなかった。
歌い出しを少し歌えただけで、Bメロの歌詞は全く頭に入っていなかった。すぐ近くで僕より小さい子供も歌っている。そして少女も。なのに僕は……。
「またあえる日まで 夢を叶えよう 信じる事が 心を繋ぐ」
せめてサビだけは必死に歌った。少女に幻滅されたくない、ただそれだけの想いで。
『ワンダフルワールド』『虹』『HAMO』『Hey和』『地下街』――懸命に歌い、ギターを弾き続ける北川さんと岩沢さん。それを後押しするかのように観客は手拍子やPPPH、両手を上に伸ばし左右に振るなど、様々な合いの手を入れる。ロマンスやMIXを連発する秋葉原のオタクに比べれば難易度は低いこともあって、ライブ自体が初めての僕でも周囲に合わせるだけで合いの手をこなす事ができた。物理的にも精神的にも会場が一体となりゆずを応援するこの空気がとても気持ち良かった。
少女は合いの手に加えジャンプまでしていた。その姿は無我夢中そのものだった。ライブ前にニットを脱ぎ靴を履き替えたのは動き易くする為だったのだ。
そして。
「予定時刻は6時 あとわずかで僕らは別々の道」
台所で母親が良く口ずさんでいた『サヨナラバス』。これなら歌える。会場の大合唱に負けない声で僕は歌った。
「サヨナラバスは君を乗せて静かに走り出す」
羞恥心を捨て、とにかく歌い続けた。しかし、すぐ左に居る少女をチラリと見るも、僕のほうをまるで見ようとしない。
その後も『陽はまた昇る』『桜会』『REASON』『また明日』『いちご』『少年』『栄光の架橋』と、一部を除き、何度も事前に聴いている曲が続いた。曲の既知の有無は感情の高ぶりを大きく左右しており、事前に聞き込んだのは無駄ではなかった。僕はこのライブの空気に触れているだけで満足だった。
「一人じゃない 心の中 どんな時も with you」
最後の曲『with you』を歌い終えた北川さん、岩沢さん、そしてバックバンドの面々はステージを去る。一般的なアンコールのかけ方は少し速めの手拍子を繰り返す。僕は何らかの映像媒体でその知識を得ていた。手拍子をしようとした矢先、事件は起きた。
「君の心へこの唄が届きますように」
アンコールの手拍子が起こらない。代わりに聞こえてきたのは観客の誰か一人の歌声だった。
(つづく)
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