스윙키즈/Swing Kids
上映日:2020年02月21日 / 製作国:韓国 / 上映時間:133分
今も北朝鮮と韓国は「休戦状態」。
何の戦争かというと1950年に勃発した朝鮮戦争(1953年に休戦)。
この映画の舞台は、1951年のコジェ捕虜収容所。
最大17万千人を収容した大規模な収容所でした。
***
四コマ映画『スウィング・キッズ』→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2469
***
対外的に収容所のイメージアップをするために
アメリカ軍の所長が「タップダンスチームを作ってクリスマス会でお披露目しよう!」と企画。
元ブロードウェイダンサーだったアメリカの下士官ジャクソンがリーダーとなってまずはメンバー募集!
国籍も身分も言語も違うメンバーが集まり、一体どうなるっ!?
まさか全員タップ素人!?
クリスマス会は成功するのかっ!?
っていう、
ドタバタコメディからのスカッと爽快お涙頂戴映画、ではなかったのだった。。。。
****
何故ですか。
何故ならば韓国映画だからです。
怒涛の展開。。。ついて行くの必死ですよ。。。
コメディからアクションからサスペンスからアレからアレまで怒涛。。
で、
もちろんタップダンスのシーン(15回ある!)も圧巻圧巻圧巻なので
「おーすげえすげえなんかすげえな」って思ってると、
もうね、、ほんととんでもないことになっていきますよ。。
****
主演は韓国のアイドルグループEXO(エクソ)のD.O.(ディオ)さん。
気合が違う。完全になりきってますね。切れ味がハンパない。怖いくらいの目ヂカラで、このモンスター映画をひっぱり続けます。
タップもさすがに素晴らしい。
リーダー役のジャレットさんはブロードウェイのダンサーでもある俳優さん。
他の俳優さんも一生懸命練習されたのはわかりますが、申し訳ないけど、ジャレットさんのタップはレベルが違う。重力どこよっていう足の動き。。
****
言葉も通じない、イデオロギーも違うメンバーが集まって、ダンスという芸術で結びついて、壁を越えてチームになったメンバーたち。
ラスト。
クリスマス会でのタップの発表会。
さて、、どうなると、、思います、、か。。。
ネタバレは以下に。。。。
***
四コマ映画『スウィング・キッズ』→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2469
クリスマス会は満席。客席にはアメリカ軍の偉いさんたちがたくさん観にきている。
スウィングキッズ と名付けたタップダンスチームのショーが始まる。
「このチームは、
戦争がなかったら振付師として活躍していた男、
戦争がなかったらカーネギーホールで踊っていたはずの少年、
…(中略。すみません全部はメモれませんでした。。)…で構成されています」
「ショーのタイトルは【クソ、イデオロギー】」
タップダンススタート!
大成功。
大拍手。
一旦終わったと見せかけて、ロギンだけが1人で踊り続ける。
客席にいたロギンの兄がアメリカ軍人を撃ちまくる。
客たちは叫びながら逃げる。
兄はアメリカ軍人に撃たれる。
「黄色いアカどもを全員射殺しろ!」と所長。
女性だろうが何だろうが分け隔てなく射殺されて行く。
ロギンも銃を向けられる。
さっきまでダンスを踊っていた足を撃たれ絶叫。
床に倒れて見えた先では
スウィングキッズ の他のメンバーが射殺される。
****
ジャクソンは本国へ帰される。
トラックの荷台に乗せられたジャクソンが収容所を見ている。
遺体を覆うムシロからロギンが履いていたタップシューズが見えている。
タップシューズの靴底の銀盤が光っている。
(ロギンも死亡)
****
何十年か後。
コジェ収容所ツアー。観光バスツアー。
杖をついた足の悪い男性。
年老いたジャクソン。
収容所は巨済島虜収容所遺跡公園として残されている。
スウィングキッズ のメンバーたちと汗を流したダンスフロアを訪れるジャクソン。
ジャクソンとロギンのタップ対決のシーンが回想される。
終わり。
のを、映画っつーことでシーンを追加して1時間49分に。
***
全体の構成はきれいなんです。
さすがテレビマンと思うのです。
テンポよく起伏もあり、メッセージも伝わりやすい。
でも、この映画は混乱してます。
***
監督も「ドキュメンタリーがなんなのかわかんなくなった」「完成版が正解か分からない」と言っている通り。
ラストにメタ視点が加わることで
「結局はテレビでした」という無間地獄を見せつけて終わるわけです。
衝撃のラストではあるし
意義も気合も強く感じます。
東海テレビさすが、と思います。
***
ラストにメタ視点を持ってきちゃうテレビマンの病理自体を自己批判しているわけです。
視聴率主義でキレイキレイにまとめちゃったり大本営発表をそのまま流しちゃってる自分たちを
反省してる自分たちを
見せている自分たちを
見せてるんですね。
やりたいことはわかるし
戦ったのもわかる。
わかるよ。
わかったよ。
わかりましたよ。
って思いました。。。
37 Seconds
上映日:2020年02月07日 / 製作国:アメリカ日本 / 上映時間:115分
痛快!
すぐに観に行って下さい!
「生まれた時に37秒呼吸が止まったことで脳性麻痺になった女性」が主人公なわけですけど
お涙頂戴映画じゃないところがものすごくいいです。
***
イントロがものすごくいいですね。
あのシャワーシーンで
自身も脳性麻痺を持った新人女優佳山明さんの「覚悟」があの姿で観客にバンッと見せつけられるし、
お母さん役の神野三鈴の「天使と悪魔」の両面性もチラッと見せている。
こっからどんな展開にでも行けるワクワクがイントロで提示されるので
「今から2時間絶対楽しい♪」と信頼できるたし
実際そうだった。
****
セリフ以外で語られることが多くて、映画として素晴らしいし。
物語の積み上げも緻密。
それでいて、後半からフワ〜〜〜ッと自由度が増して
ちょっとファンタジックな展開になるんですけど、それが良い。
爽快。痛快。
****
どういうわけだか、役者がみんな良い演技。
初監督のはずなんですけどね、HIKARIさん。
どういう能力のスタンドをお持ちなのでしょうか。。
****
●ユマ - 佳山明
初演技とのこと。
ある程度は順獲りだったと思います。映画が進むにつれて堂々としてくる。
あのか細い声が最初は不安でしたが、
途中から映画の中心人物として、人生の主役としての吸引力がすごかったです。
あと、車椅子の演技!あれはやっぱ普段から自分の体として車椅子を使ってる人の技術ですよね。
感情によって速度や動きが変わる。あんなことできないですよ。
●お母さんー神野三鈴
役ぴったりですね。
「私の犠牲によって幸せが保持されていることをみんな知らないけどそれで良いのそれで良いと思ってるの」っての24時間滲ませてくる母親。。
後半からホラーアイコンみたいになってきて面白かったです。あれは笑っていいと思いますよ。
舞台出身の方なので、演技もちょっと大きいですしね。。
●ヘルパーー大東俊介
この役難しいですよね。ほとんど透明人間。
でも大東俊介の「聞く演技」「居る演技」が素晴らしかった。。。マジで。そうそうできることじゃないですよ。
『望郷』でも良かったけど、今回も素晴らしい。
●風俗嬢ー渡辺真起子
みんな大好き渡辺真起子!死ぬほどかっこいい。
でもこの役も本当に本当に本当に難しい。。
下手したらものすごく無責任な人間になってしまう。
それも含めた「神様感」がすごい。。
もうね、わかんないんですよ。なんでこんな演技が成立するのか。。
●ユマの友達ー萩原みのり
この人は作品ごとにまるで顔が違う。演技プランが違う。
今回も全然違うし、薄っぺらい役のはずなのに薄っぺらくない。。
ちょっとしたセリフにあの人物の「常に崖っぷち感」が滲んでいる。。
●海沿いで宿を営む男ー尾美としのり
驚愕。。登場シーンの表情のあまりの的確さ。。。
観客は「この男がアイツか!」と思って観るわけですが
その割にはちょっと表情が違うな、、と思うわけです。
そしたらば、実はということで彼が語り始めると
あ〜なるほどだからあの表情なわけね、と。
びっくり。あんなミリ単位レベルの演技ができるのですか!
●編集長ー板谷由夏
いつもの板谷由夏。多分撮影は1日ですね。でもこの映画の始まりと終わりと司る超重要な役。
会話の間が異常に早いのが可笑しい。
せっかちなんだけど雑じゃない。
ぶっきらぼうなんだけど愛がある。
「この人に褒めてもらえたら本物」って思える人物像。
●看護師ー石橋静河
「どんな役でもいいから出させてくれ」と直談判してワンシーンだけ出演。
声が良いし、「どんな役でもいいから出させてくれ」って言って出演を勝ち取った割に、圧がないんですよ。
「見せてやれ!」っていう感じがない。
もう、ほんとになんなのこの映画。。。
****
この映画、ものすごく取材をされたんだと思います。
脳性麻痺についてもそうだし
セックスワーカーについても。
そうすると深みが違うし
観ていて不安がないから物語に誘われるし、
観客が知らない「その人たち」の持つパワーをすんなりと受け入れられる。
****
自分と違う性質を持った人の物語を観るのが映画の楽しみのひとつ。
体の特徴なり、国や地域なり、性別なり、性的指向なり。
自分と違う人がいるってことは知ってるけど
普段やっぱちゃんと考えてないし
断片的に情報が流されてきても素直に受け取るのも難しい。
でもこうして
覚悟を持って誠実に取材されて誠実に表現された物に触れると
自分と違う人だった人が「自分と同じ人間」として受け入れられる。
****
存在するだけで多くの人の生きる気力を奪う映画もあって
観てもないのにエネルギー吸い取られてたけど
この映画ははもうもうもう最高。
痛快。
これが映画のパワーだよ。
あ〜観てよかった!
素晴らしい。
エネルギー湧くわ!
****
真夏の撮影だったので
体温調整が難しい佳山明はすぐに疲れてしまって、愚痴を言っちゃったそう。
それを神野三鈴が
「あなたは主役なんだから、逆にみんなを励まそう!」とガンガン怒ったとのこと。
それにより新人女優としての覚悟を理解していったと。
佳山明のこの演技によって、障害を持った人にも俳優としての道が拓かれることでしょう。
あ、
渡辺真起子の常連客を演じた能條慶彦のエロオヤジ感も素晴らしかったですね(笑)。
****
ネタバレは以下に。
板谷由夏が冒頭で語る
「セックスしたことないのにセックスシーン描いてもリアリティないよ」というセリフ。
ちょっと古いなぁ、、と思いました。
(童貞が極エロ漫画描くこともありそうだしなぁ。でも女性視線だと違うのかなぁ。)
だから、この価値観はひっくり返って欲しいなと思ってましたが
ラスト
結局ユマはセックスを経験することなく
板谷由夏を納得させる漫画を描き上げましたね。
セックスシーンのない漫画ということですが
彼女が背伸びしない、等身大の彼女なりのリアリティのある漫画を描いたのでしょう。
****
ユマの双子の妹由香のセリフ。
「きっとお母さんは何よりもユマちゃんのことが大事だったんだよ」
これは泣ける。。。
由香としてはお母さんに捨てられたと思って生きてきたわけよね。
自分は障害はないけど、障害がある姉にお母さんが奪われた。
障害があるからってズルい!私はずっとお父さんと2人だった。
しかも5年前にお父さん死んじゃったしね。
めちゃ孤独な女性ですよ。
でも健やかな美しさがありましたね。
で、最後、お別れの挨拶にして深々としたお辞儀だなあと思って
「謝罪かよ!」と心の中で突っ込んでいましたら
「ごめんなさい!」と。
「私、ユマちゃんのこと知ってた。障害があるって聞いてて怖かった」と。
的確なんですよね。演技演出が。。
からのユマの
「私のこと、もう怖くないですか?」ですよ。
これは観客にも突きつけてきますね。
電動車椅子に乗ってる私達のこと怖がらすに見てくれますか、と。。
「どんな社会にでも必要なのは慈悲の心であり、
公平の精神と正義だ」
「悪い機械は自分が悪いことに気づかない」
40年以上前のトルコの話だけど
この言葉2020年のどっかの国の首相にも聞かせたい。
***
ラスト近くに死闘があるんですが、、
底辺同士で戦うわけです。
嘘をついた相手の舌を食いちぎって吐き出す。
本当に戦うべき相手はもっと上のヤツら。
でも手が届かないから底辺同士で争ってしまう。
これこそが、上のヤツらの思うツボ。
戦うのは上のヤツら。
***
ミッドナイトエクスプレスは脱獄を意味する隠語。
1970年代に起きた実話。
トルコから麻薬を密輸しようとしたアメリカの若い男性が空港で逮捕される。
軽く逃亡した後、すぐ捕まって刑務所に。
まともな弁護士もまともな判事もまともな法もなく、
検事からは終身刑を求刑され
結局4年の刑が執行される。
しかもその後、30年に延長される。。
で、さらに特別収容所へ。。
***
地獄のように環境の悪い刑務所で
刑務官からはガンガン暴力を受け続ける。
足の裏を殴るんですね。。
足の裏をやられると歩くのが大変になる。。
***
1978年の映画ですけど、古い感じがしないですね。
緊張と緩和のリズムもいいし
希望と絶望のジェットコースター感も凄い。
サッサと進むし
笑いやセクシーシーンも挟まれてテンポが良い。
何年も刑務所にいて
陽の入らない特別収容所にも入れられて
ちょっと頭もおかしくなっちゃって
面会に来た元カノが真面目に話してるんだけど
視線は胸の谷間から離れなくて
おっぱい見せてくれって頼んで
元カノが泣きながらおっぱい見せてくれるシーンは
泣けるし笑える。。
***
冒頭で心臓の鼓動の音がBGMとして鳴っていたけど
ラストで再び鼓動音鳴り始める。
ラストについては下に。
ちなみに主人公は確かに犯罪を犯した(麻薬を持ち帰って売ろうとした)けど、
適正な量刑を受けるために正しい裁判を受ける権利はある。
それが人権ってヤツ。
あの有名なヤツ。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
元カノが差し入れとして家族のアルバム写真をビリーにくれた。
最後のページには現金が隠されていて、それを元手に脱出する意思を固める。
友人はマックスはだいぶ頭がおかしくなっちゃったけど、
「おれはここを出る。必ずお前を助けに来る」とおでこにキスして別れの挨拶。
所長に
「100ドルあげるから病院に移してくれ」と頼むと
所長は快諾、、
したと見せかけて
ビリーを遠い部屋に連れて行って
ビリーを犯そうとする。
ズボンを下ろした所長にビリーが体当たりすると
所長は壁掛けハンガーみたいな突起物が頸椎に刺さり即死。
銃と制服を奪ったビリーは
運良く鍵もゲットして刑務所の外へ。
1975年10月4日の夜、
ビリーはギリシャに入る。
3週間後、ケネディ空港に着いた。
ご本人の写真家と思ったらなぜか俳優たちの白黒写真が展開される。
空港で家族と抱き合うビリー。
ビリーのどアップで終了。
こちらもあまり。。。
「家族のことを顧みず仕事に打ち込んできたことを反省してる俺」感がうっとおしい。
退役軍人の哀しみ、と言われてしまうと何も言えなくなるけど。。
****
全体的にものすごく用意周到に批判を交わす作りにしている。
男性性を反省しているようにも、
全部許容されているようにも見える。
そういうのも全部ひっくるめて男性性を批評しているようにも見えるし、
何にも考えてないようにも見える…
上述の通り、「反省してるんだから許してくれ」って感じもするし
「俺、退役軍人なんだよ。。」って独り言言われたら、怒れなくなっちゃうのも知ってて言ってる気もするし。
ラストの裁判では
頑張ってくれてた女性弁護士を裏切っていきなり裁判中に
「俺が全部やりました。全部罰を受けます」って突然喋り始める。
裁判中に被告喋っちゃいけないし。。。
「罰を全部引き受ける俺」感を押し付けてくる。
頑張ってくれてた弁護士の面目を潰すことなんて、
自分のナルチシズムの前ではどうでもいいらしい。
自分で自分の罪を背負う(あっったり前のことだけどな!)わけだから、
やっぱりなんか怒れない。
用意周到に批判されないように進めている。
うま〜くやってる。
****
『グラン・トリノ』も何十年も生きてきたのに、解決方法はそれしかないの????
と、すごく残念な気持ちになりました。
何十年しか生きられない人間が何十年生きたんだから
その経験を使ってもっと賢い解決方法を編み出して欲しかった。。
結局
「俺にはこんなことしかできねぇんだよ感」!満載の顔で
カッコイイって言われるのを期待してるくせに
実際カッコイイって言われたら
「こんなジジイに何言ってやがんでぇ」って言いそう感。
****
しかも「実話」を元にしてるから
「こんな都合のいい話作って!」という批判も起きない。
病みBLというジャンルかな。
格差問題もありますね。
自主映画っぽい風合い。
意味ありげな構図も不安定で
スマホで撮ったかのようなデジタル感とボカシ感。
比較的長回しのシーンもちょいちょ挟まれる。
とにかく常に誰かがイライラしてる。
それが物語の起伏を作っていることになっているらしい。
***
佳境の挿入シーンもなかなかの絵空事。
イクの早すぎるし。。
***
もうちょい視野の広さが欲しい。
映画そのものにもそうだし、
ここで描かれてる愛の在り方にも。
でもきっと好きな人は多い映画だと思います。
ラストについては以下に。
サヒルとジャイはハイキングでキスしてたし
ホテルでサッとアナルもした。
予定どおり旅行は終了して
サヒルとジャイは距離的にお別れ。
サヒルはジャイとのキスを思い出す。
その姿を見てサヒルの彼氏アレックスは「恋した?」と聞く。
「遠慮がないな」とサヒル。
言い合いをする2人を見て、友人ジュニアが「あんたらゲイっぽいなぁ」と笑う。
サヒルとアレックスはこのまま付き合っていくっぽい。
空港で飛行機を待っているジャイの思い悩む表情で終わり。
「彼らは生きていた」 監督:ピーター・ジャクソン。→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2560
Amazonプライムでも観れます(2020年2月現在)
戦争映画いっぱい観てきたし、戦場のシーンもたくさん観た。
『沖縄決戦』も『野火』も『ハクソー・リッジ』も『プライベートライアン』も観ましたよ。
どれも地獄でしたよ。
しかし、この映画に映っているものは全部本当。
本当の戦争(しかも地獄の西部戦線…)
再現ではなくリアル。
本物の、兵士であり、ほとんどの人は殺され、ほとんどの人は敵を殺し、人によっては味方を仕方なく殺した。
本物の塹壕、銃剣、砲弾孔、何キロにも及ぶ鉄条網。その鉄条網に引っかかる死体。
死体に群がり丸々と太るネズミ。。
特殊メイクではない銃創。
作り物ではない死体。
***
原題は「They Shall Not Grow Old」
日本語だと「彼らは年を取らない」とか「彼らは大人にならない」ですかね。
少年兵が多かったので、このタイトルなのでしょう。
この映画は200人の退役軍人からの600時間のインタビューと100時間のドキュメンタリー映像を、
時系列に並べて構成しています。
1914年の開戦から、軍人募集、軍隊の訓練、フランスへの派兵、西部戦線、そして終戦まで。
ほとんど隙間なくインタビュー音声が続きます。
俳優でも声優でもない彼らの話し言葉は、淡々と朴訥としていて、それがすごく生々しいです。
その声で
「ドイツ兵を撃った。18歳くらいの少年で、かわいそうだったので水筒の酒を飲ませた。彼はありがとう、うまいと言って死んだ」
とか言うので、ひとつひとつの言葉が重い。。。。。。
***
で、、、、、、これ、、、すごく書きにくいんですが、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、この映画、、面白いんです。。。
映画としてカタルシスもあるし、笑いもあるし、ラストには切なさや悔しさや虚しさでいっぱいになるし、問題意識も生まれ、反戦の気持ちも強まるし。
129分。
観ている間もずっとドキドキしているし、観終わってからも受け取ったものの重みをズッシリと感じていられる。
***
映画のスタートは結構ほのぼのしています。
1914年、イギリスとドイツが開戦したところからスタートです。
イギリスは半年くらいで勝てると思ってた。
若い男性は入隊するのが当たり前だし、名誉なこと。
入隊しない男は臆病者扱いされた。
戦争が何かも知らない、何のためなのかもよく分からずに十代の少年たちも入隊した。
「入隊しよう!」「国のために戦おう!」「君が必要だ!」みたいな広告チラシが貼られ
映画館に行けば、入隊募集CMが流れた。
国のムードがそっちに行っちゃっていて、
ほとんどの人はそっちに流されざるを得なかった。
***
だんだんじわじわと怖くなっていきます。
これが「戦争」であることが分かってくるわけです。
昨日まで事務員だったり販売員だった普通の人たちも
自分が兵士へと変容していきながら
「あ、これ本当に戦争なんだ」と実感していきます。
映画の観客もそうです。
地獄の列車に一度乗ると降りられない。逃げられない。
西部戦線のシーンにもありますが
正面からドイツ軍が銃撃してくるけど下がれない。
下がると後ろにいる味方に撃たれるから。
****
六週間の訓練が終わり、フランスへ派兵されるところからカラーになります。
退役軍人たち200人がインタビューで語った言葉のひとつひとつがあまりにも生々しく、重く、歴史的な価値があるものだと思ったので、メモりながら観ました。
以下、羅列します。
( )以外は全て退役軍人の言葉です。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
(1914年。ドイツと開戦したイギリス。)
半年くらいで制圧できると思っていたし、
男が入隊するのは当然かつ名誉なことだった。
***
命令されるのはイヤじゃなかった。考える必要がないからだ
ほとんどの者は元事務員か販売員
入隊しないと臆病者扱いされる
入隊せずに町で暮らしていると、女性から「なぜ入隊しないの?」と聞かれる。
そして、臆病者を表す白い羽を振られる。
19歳にならないと入隊できないのだが15歳でも入れた。
面接で15歳だと名乗ると19歳だと言いなおせと言われ、言い直すと入隊できた。
***
訓練開始。
ただの一般市民を軍人に変える訓練。
最初の数日は楽しかったが、その後は地獄だった。これは戦争だ。
50キロの装備を背負い、60キロ歩く。
支給される軍服は自分のサイズに合っていたらラッキー。
靴のサイズは合ってないのではなくお前の足があってないと言われた。
***
六週間の訓練を終えると、「明日から海外派兵だ」と突然言われた。
行き先は知らない。
出陣のような高揚感があった。
(着いた場所はフランス。フランスからベルギーへ歩いて移動。)
(地獄の西部戦線。)
***
銃撃と爆撃を受けて荒廃した町。どこなのかもわからない。
<ここからカラーになる>
戦いを終えて帰ってくる兵士たちにどうだったと聞くと
皆「地獄だ」と答えた。
****
ノーマンズランド。西部戦線の塹壕戦。
鉄条網に引っかかっている死体の数々。
ある時、話していた仲間の頭が吹き飛んだ
最前線で死体が増えていく。
あの匂いは忘れられない
ネズミの腐ったのより何百倍も臭い
食べ物まで匂いが染み込んだ
散らばっている死体にも慣れ、どうせ次は自分だと思っていた
ネズミは丸々と太っていた。理由は明らかだ
*****
ドイツ軍から毒ガスが風に乗って流れてくる。黄色いガス。失明したりする。
ガスマスクがない時は、布に小便をかけて口を覆った。
ドイツ兵を撃った。18歳くらいの少年で、かわいそうだったので水筒の酒を飲ませた。彼はありがとう、うまいと言って死んだ
「塹壕を出て突撃」との命令が下る。
後ろに下がったらお前らを撃つと軍曹が言った。
逆らえるものはいない。
接近戦では銃剣で戦う。
それから数時間、周囲は爆音に包まれた。
****
ドイツ軍は火力を温存していた。
我々は一掃されたが、「進み続けろ」と言われた。
****
倒れた仲間に目もくれず進んだ。
手に痛みを感じて手を見たら穴が開いていた。
(後のシーンで、銃弾が腕を突き抜けている映像アリ。嘘みたいに穴が開いていた)
足を撃たれたが、何かを考えているヒマはなかった。
第一陣は全滅。
死体を避けて進むことが難しい。
踏まずに進もうとしたが軍曹が「気にせず進め」と。
仲間を踏まざるを得ないほどの死体の山だった。
(進んだ先には、ドイツ軍によって鉄条網が何キロにも渡って、何十メートルもの奥行きで鉄条網が組まれていた)
地獄。ウサギでも通れないだろう。
鉄条網の向こうには機銃隊。
後ろからは味方の砲撃。
(進むことができず、ただ銃撃や爆撃を受ける)
理性を失う。地獄。
文明人の皮は剥げ落ちた。
****
戦場に抱いていた憧れは消え去った。
左腕と左足を吹き飛ばされた仲間が左目が飛び出た状態で祖母の名を叫んでいた。
楽にしてやろうと彼を撃った。
辛かった。
***
運よく砲撃孔(爆撃によってできた土の凹み)に隠れた者は、仲間の死を目撃した。
隠れなかったものは死んだ。
戦車も破壊され、
ついにドイツ兵も塹壕から出てきた。
彼らは勇敢だった。
嵐の1分間。
(仲間の)死体を集めてバリケードを作れ。
(白兵戦。銃剣。生々しい戦い)
(ドイツ軍、火炎放射器を使う)
投降してきた者も殺した。
***
約600人で突撃し、生き残ったのは約100人。
勝ち負けはどうでもよかった。
***
医者に大丈夫かと聞かれたから
はいと答えると
後頭部を撃たれていると言われた。
(前線から戻ってきた負傷兵を軍医たちが治療する)
大丈夫だ、弾は貫通している。
(室内には入りきらず、青空の下に死体のように並べられる負傷兵たち。負傷兵に鳥が止まる。「あっちいけ!」)
埋葬された戦死者のほとんどは17〜18歳だった。
***
捕虜となったドイツ兵たちは怯えていた。
彼らもただの若者だ。
ドイツの捕虜たちはイギリスの負傷兵の搬送を率先して手伝った。
ジュネーブ条約の定めでもないのに。
ほとんどのドイツ兵には復讐心はなかった。
大抵は好人物のドイツ人だった。
彼らは礼儀正しい家庭人で子供思いだった。
ドイツ人と意気投合した。
ドイツ人は戦争にうんざりしていた。
誰もがやめたがっていた。
勝敗はどうでもよかった。
****
(1918年11月11日休戦。その後、終戦。)
終戦が発表された。発表時、喝采などなかった。
もう撃たれる心配はない。
安堵はあっても祝う気にはなれなかった。
すっかり気が抜けて動けなくなった。
クビになった気分だ。
見捨てられた気分だ。
疲れ切っていた。
***
戦後、自然に興味のあった私は、戦場に戻った。
砲撃孔に植物が芽吹いていた。感動した。
****
帰国すると、スーツやブーツが用意されていた。
気に入ったものを選ぶことができた。
帰郷するのが怖かった。
就職できるのか、と。
帰還兵への風あたりは強い。
「帰還兵は応募不可」という求人もあった。
****
友人が戦死した。
彼の母を訪ねると、敵意むき出しだった。
私だけ生き残ったからだ。
家に帰って、入隊後初めてベッドで眠った。
朝、私を起こしにきた母が見たのは床で眠る私だった。
****
皆、戦争に無関心だった。
両親は何も言わなかった。
感謝の言葉もなかった。
たまに父と戦争の話をすると反論してきた。現実を知らないのに。
***
理解の範疇を超えていたのだろう。
昔のサッカー仲間が横で殺される気持ちを理解できるわけがない。
一緒に入隊し、戦死した友人の遺体は、変色するまで放置されていた。
誰も戦争の悲惨さを理解していなかったのだろう。
誰も英雄じゃない。
殺されるのは嫌だ。
戦争は二度と嫌だと仲間たちと言い合った。
戦争を避ける努力をすべき。
正当化できる理由はない。
戦争は恐ろしい。
意味のないものだと歴史が裁定するだろう。
***
仕事に復帰して唯一頭にきたことがある。
こう聞かれた「ずっと、どこに行ってたんだ?」。
映画終わり。
祖父に捧げる。そして彼らを忘れない。
この映画の監督ピーター・ジャクソンの祖父も従軍していた。
エンドロール。
曲は、戦争中に特に人気があった歌「マドモアゼル・フロム・アルメンティエール」。
(https://www.youtube.com/watch?v=EtiynnETOlM)
「彼らは生きていた」 監督:ピーター・ジャクソン。→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2560