映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『サン・ドッグス -生きる意味を探して-』 若者の小さな青春冒険譚でもあり、 大きな社会問題の提起もある 

2022-04-22 | 映画感想
サン・ドッグス -生きる意味を探して-(2017年製作の映画)
Sun Dogs 製作国:アメリカ上映時間:94分
ジャンル:ドラマコメディ
監督 ジェニファー・モリソン
脚本 アンソニー・タンバキス
出演者 メリッサ・ブノワ ジェニファー・モリソン アリソン・ジャネイ


「主役の若い男性ネッドの純真さが彼に間違った行動に突っ走らせてしまって…」という物語。
ジェニファー・モリソン監督も下のインタビューで、ネッドを「so innocent」と書いています。

Jennifer Morrison Steps Behind The Camera To Make Her Directorial Debut With Netflix's 'Sun Dogs' [Interview]

ネッドのキャラ設定のひとつに「知的障害」があることも、映画の中で明言されています。
***

障害があるキャラクターにする必要があったのだろうか、とモヤモヤしていまいました。
「純真」と「障害者」を近くに置いて表現することに自覚的であろうとしている昨今において、
この障害のある主人公の純真さが映画の大きなポイントにされていることにとても「お、大丈夫か…」と気掛かりになります。。
とは言え、
「必要がないところで障害のある人物を映画に出しちゃいけないのか」
「いちいち必然が必要なのか」
という命題もあると思います。
海兵隊に入りたいけど入れないという理由づけのためだったのかな〜。
海兵隊の人たちがネッドに親切にする理由の一つなのかな〜(それもどうかと思うよね。。)。
ちょいとモヤモヤ。。

***

ジェニファー・モリソン監督
このポイントを除くと、とても面白くて良い映画でした。
ジェニファー・モリソン監督の今後の作品がとても楽しみです。
若者の小さな青春冒険譚でもあり、
大きな社会問題の提起もあるし。
アリソン・ジャネイとエド・オニールの中年カップル像も素敵でしたね。

***

「朝、私が目を覚ますといつもママが聞くの
「ここはどこだと思う?」
私は「サンフランシスコ!」
サンフランシスコが世界一素敵な街だと思ってたの。
でも実際毎朝目覚めるとアーカンソーだった。」

**

コメディでした。
ツッコミ不在のオフビートなボケの連発。
アメリカの大味コメディだと「どうぞここ笑うとこですよ〜」みたいなシーンが多くなるんだけど、笑う隙もなくサッと別のシーンに言っちゃう。
声出す隙もない。
心の中で笑うだけ。
そういうコメディ。

***

メリッサ・ブノワがいい。
ほんとはもっと薄っぺらく信用の置けない役。
でもメリッサブノワがやることでこの映画の芯になってる。

映画『バニシング:未解決事件』 監督が「ウイ」と答えるまで死ねない。

2022-04-22 | 映画感想
バニシング:未解決事件(2022年製作の映画)
배니싱: 미제사건/Vanishing上映日:2022年05月13日製作国:韓国フランス上映時間:88分
監督 ドゥニ・デルクール
出演者 オルガ・キュリレンコ ユ・ヨンソク イェ・ジウォン チェ・ムソン イ・スンジュン ソン・ジル パク・ソイ

映像がかっこいいですし、不要に煽る劇伴もなくて
ソリッドでおしゃれだったと思います。

『譜めくりの女』のフランスの映画監督ドゥニ・デルクールが
ほぼ韓国人キャスト韓国ロケで撮影した今作。
韓国の街並みも韓国映画で映されるものとは違いましたし
韓国映画でもなくフランス映画でもない魅力がありました。
**
88分という潔さもいいですね。
もっとダラダラと、
恋愛(?)パートをもっと長くやりそうですけど
そういうのもなく、サササっとまとめてあるのは好感が持てました。
このスッキリさはなかなかできることではないと思います。
だからこそ僕はラストについてある可能性を感じて消さずにはいられない。。

**

通訳役のイェ・ジウォンがすごく良かったですね。
韓国でも演技派俳優として認知されているようですね。
美しいですし、この人は世界的な活躍をする女優さんになるかもしれない。
あの夫婦の視点から語られても面白かったかと思いました。

**

ラストについては公開されたら書きます。
監督に会いにいって「このラスト絶対○○ですよね!?」と聞きたい。
監督が「ウイ」と答えるまで死ねない。
だってタイトルが。。。


『教育お伽漫画 兎と亀』なんなのコイツ 1924年制作 日本アニメーション

2022-04-04 | 映画感想
教育お伽漫画 兎と亀(1924年製作の映画)The Hare and the Tortoise
製作国:日本上映時間:6分
ジャンル:アニメショートフィルム・短編


昭和館映像音響室にて鑑賞。


映像・音響室(5F)|昭和館昭和館5階の映像・音響室では、戦中・戦後の人々の「暮らし」を主とした記録写真や映像、SPレコードの音声など、様々な資料を視www.showakan.go.jp

〝日本アートアニメの創始者の1人、北山清太郎が製作した、完全な形で現存する最も古いアニメ。
童謡ウサギとカメの映像化。
背景の自然描写に独特のタッチがある。〟
とのこと。
絵が素敵。
鳥獣戯画っぽさやムーミンっぽさがある。
可愛いけどちょっと怖い。
怖がらせるつもりはないんだろうけど。。

**

もしもし亀よ亀さんよ〜
世界のうちでお前ほど歩みの鈍いものはない
どうしてそんなに鈍いのか〜
唐突にウサギがカメに向かって朗々と歌う。
こんな腹立つこと言われたらウィル・ス○スじゃないけどビンタしたくなるよね。
なんなのこのウサギ。

で、亀もなぜか「そんならお前と駆けくらべ〜」とその喧嘩を買う。
亀が遅いのは事実なのになんで亀は競争しようと自分から言い始めたのか。
ウサギはどうせ途中で寝ると予測していたのか
コツコツと進む自分の姿を誰かに見せつけたかったのか。
たしかに亀が必死でコツコツ歩く姿はかなり感動的。
そして、寝ているウサギをスルーして山の頂上に先にゴールする亀。
どういうわけだか亀は二本足で立ち上がり、落ち込むウサギを前にしてかなり長い時間陽気に踊る。
なんなのコイツ。

千代紙映画『西遊記 孫悟空物語』 The Story of the Monkey King 1926年の日本アニメーション 

2022-04-04 | 映画感想
西遊記 孫悟空物語(1926年製作の映画) The Story of the Monkey King
製作国:日本上映時間:8分
ジャンル:アニメ

昭和館 映像音響室にて鑑賞しました。

千代紙(色紙)の切り絵を少しずつ動かして写真を撮って、というストップアニメーションの技法。



千代紙映画と呼ぶんですね。



大正15年のものですが、キャラクターが今見ても全然可愛いですね。
怖くも気持ち悪くもない。これはなかなか珍しい。
(あ、やっぱちょっとこわく見える時も。。)
カッパの化け物と猪八戒とのバトルが、ポカポカと素手で殴り合うのが可愛い。
しかし素手で戦ってるとこに孫悟空が如意棒で参戦。
カッパの化け物は如意棒で殴られて一瞬で敗退(かわいそう)。
カッパの化け物は沙悟浄として仲間になり、
三蔵法師と共に〝雄宝殿〟に到着し、
ありがたい経典をゲットし、あまねく人々にその教えを広めるのでありました。

**

人形劇とか影絵劇みたいな印象。




千代紙映画『西遊記 孫悟空物語』 The Story of the Monkey King 1926年の日本アニメーション 

2022-04-04 | 映画感想
西遊記 孫悟空物語(1926年製作の映画) The Story of the Monkey King
製作国:日本上映時間:8分
ジャンル:アニメ

昭和館 映像音響室にて鑑賞しました。

千代紙(色紙)の切り絵を少しずつ動かして写真を撮って、というストップアニメーションの技法。



千代紙映画と呼ぶんですね。



大正15年のものですが、キャラクターが今見ても全然可愛いですね。
怖くも気持ち悪くもない。これはなかなか珍しい。
(あ、やっぱちょっとこわく見える時も。。)
カッパの化け物と猪八戒とのバトルが、ポカポカと素手で殴り合うのが可愛い。
しかし素手で戦ってるとこに孫悟空が如意棒で参戦。
カッパの化け物は如意棒で殴られて一瞬で敗退(かわいそう)。
カッパの化け物は沙悟浄として仲間になり、
三蔵法師と共に〝雄宝殿〟に到着し、
ありがたい経典をゲットし、あまねく人々にその教えを広めるのでありました。

**

人形劇とか影絵劇みたいな印象。




映画『ブラック アンド ブルー』ネタバレ 黒人市民から「白人の犬」と罵られる黒人女性警察官 

2022-04-04 | ネタバレあり
ブラック アンド ブルー(2019年製作の映画)
Black and Blue
監督 デオン・テイラー
脚本 ピーター・A・ダウリング
出演者 ナオミ・ハリス フランク・グリロ リード・スコット マイク・コルター タイリース・ギブソン ボー・ナップ ナフェッサ・ウィリアムズ マイケル・パパジョン



ブラックは黒人のこと。ブルーは警察。(制服の色から)



ブラックとブルーは対立関係にあるけど
では黒人の警察官(ブラック&ブルー)は?
非番の時には白人警官からぞんざいに扱われ、
警官として勤務時には黒人市民から「白人の犬」と罵られる。
どちらにも居場所がない黒人警官という立場。
でもだからこそできることがあるのでは、
という話。

**

黒人女優単独主演のアクション映画としては2000万ドル超えはなかなかのヒットなのでは。
『ムーンライト』でアカデミー助演女優賞候補になったナオミ・ハリスはさすが全シーンで複雑な感情を表現してくれます。
他にも
雑貨屋の店主役の タイリース・ギブソン、
先輩警官役のジェームズ・モーゼス・ブラックなど
黒人俳優たちの素晴らしく存在感のある繊細な演技を楽しむことができます。

**
ところどころ
そんな隠れ方じゃ見つかっちゃうでしょ!とか
そんな雑なカーアクションしたら下手したら市民に死人が出ちゃうよ、などの
大雑把なところがあってサスペンス度が下がっちゃうのですが、、
全体的には面白かったですよ。





ネタバレは以下に。





もともと貧困の黒人住民が多い地区がハリケーンで打撃を受けてしまった。
貧困の黒人居住地区なんて政治家にとってはなんにも旨味がないので、
その地区の復興は遅れ、荒れ果て危険な地区となってしまった。
ここで生きていては未来がないと軍隊に入って抜け出したのがナオミ・ハリス演じるアリシア。
アリシアは軍隊を経て警官に。
エリートコースを歩んでいる。
アリシアの幼馴染の女友達は、その地区を見捨てずにずっと暮らし続けてる。
逃げ出したアリシアを憎んでる。
アリシアが警官になって再び故郷に帰ってきてもまだ荒れ果てたままだった。
「それでも住民は警察に守って欲しがる。警察にとってリスクしかない。だから報酬が必要だった。」
てことで警察は押収した麻薬を横流しすることで利益を得ていた。
結局汚職警官たちは住民たちの協力もあって一掃できた。
アリシアは女友達と仲直り。
パトカーで街を走ると「白人の犬が!」と黒人たちから罵られていだが
ラストでは少女がアリシアに向かって手を振る。
アリシアもサムズアップで応える。
終わり


映画『黒部の太陽』ネタバレあり 日本スゴイ!映画じゃなくてよかった 

2022-04-04 | ネタバレあり
黒部の太陽 1968年2月17日公開196分 
  • 滝沢修
  • 志村喬
  • 佐野周二
  • 三船敏郎
  • 石原裕次郎
  • 辰巳柳太郎
  • 玉川伊佐男



はじめて石原裕次郎の映画見たかも。

写真ではかっこよさがわかんなかったけど、カッコイイ。。。

丸顔だけど整ってて、とにかく足が長いっ!

野生性もあるけど現代っぽさもあって。

(このときはまだ30代だし)

**

無謀なダム工事が戦争と重ねられてるんですね。

戦争の記憶がまだまだギンギンに残る1950年代。

経済成長に伴う電力需要のために黒部にダムを建設することに。

人が行くこと自体が困難で命がけだったその秘境の地でのダム建設計画は、人命の軽視などの批判もあった。

工期中の作業員はのべ1,000万人。

事故死者数は171人、

宿舎の雪崩などでの死者は87人。

「もし地獄というのがあるのなら、ここの工事が地獄でした」

「黒部ではケガはない。ミスしたら死ぬしかない。」

「犠牲者が出ることがわかって工事するんですか。日本のためですか。電力のためですか?」

**

「わしはな、黒部の土手っ腹の中でダイナマイトでぶっ飛ばされて死ぬ男になりてぇんだ」

「親父は、他人の血、他人の命なんてトンネルが通ればどうでもいいって男だ。

腹の中じゃ虫ケラ一匹死んだくらいにしか思ってない。」

「時代が欲求してるんだ。日本の電力需要のため…」

「戦争で懲りてないのか。ズルズルズルズル引き込まれて気がついたら仲間がたくさん死んでいた。」

**

崖から落ちて死ぬシーンが何回かありますが、当然全部人形。

「あ〜人形が落ちているなぁ」と思っちゃうんだけど

これが映画的な意味としても悪くない。

人の命がまるで人形のように軽い、というのが残酷に伝わってくる。

**

映画の中盤あたりでトンネルの落盤事故から大洪水が起きるんですが、、

大スペクタル過ぎて心配。。

それこそ命が人形のように軽く見える大岩と洪水。。

しかもこのシーンは人形じゃないですからね。。

三船敏郎とか石原裕次郎とかが岩と木材と共に洪水に流される恐怖シーン。。

**

中盤ではトンネル掘削で起きた数々の事故を、ナレーションだけではなくいちいち大スペクタルのディザスター映像で見せてくれる。

そしてついに死者が出る事故では、

劇伴もなくなくセリフもなく(実際は喋っているようだけど声が消されてる)ただ水が岩にぶつかる轟音だけ。

**

「人間に金と知恵と金さえあればなんでもできるだと?

人間のすることに不可能ってことはまだ山ほどあるんだ。」

**

熊谷組の崩壊がとくに面白い。

社長とその息子(石原裕次郎)の対立が映画のポイントだけど、

社長と息子が対立してるなんて社員にとってこれほど迷惑なことはない。

石原裕次郎を単なるヒーローとして描いてないとこもいい。

**




ラストネタバレは以下に




ラスト。
破砕帯を通過し掘り続け、 反対側から掘っていた穴とめでたく繋がりトンネル開通! トンネル内では祭りが開催され、200人くらいの男たちが大騒ぎ。 押し潰されてる人いそうで怖い。

日本酒の樽が何個も運ばれて、最初は杓子を回して飲んでたけどめんどくせーってことで ヘルメットで酒を酌んで飲み回す。

今まで散々死人を出した無謀な計画のことなんて忘れて 成功したら全部忘れてイエ〜イッ!おめでとう!良かったよね! ってなんとも日本らしいラスト。。。嫌だ嫌だ。。

と思っていたら 三船敏郎のもとに娘の死を知らせる電報が届く。

石原裕次郎の父は、老いてちょっとボケてしまったようで 自分のせいで長男を殺してしまった事故のシーンを脳内リプレイする。 そのまま死亡。ずっとトンネルに取り憑かれた狂気の父だったが、長男を死なせてしまったことにずっと苦しんでいたんですね。

命を賭した作業員たちを称えつつも、やはり無謀な計画とエネルギー問題を映像のコラージュで表現。 劇伴も陰鬱。

(流石にエンディング曲はめでたい感じのオーケストレーションでしたけど、まぁこれは3時間映画を観てきた観客席たちへの感謝の気持ち、かな。)

人の命の重さをきちんと描くことに注力した良い映画でございました。