俳優たちの能動的な映画作り
四コマを描くに当たってインタビュー記事や映像を見まくるのですが、
いかにこの映画が作り始める前から志が高い作品だったのかがわかります。
しかも、俳優たちの能動的な映画作りによってさらに映画が豊かになっていった点。
脚本通りに撮ればいいっしょ、じゃなくて
オリジナルの人間としての俳優一人一人の個性と意思によって更なる高みに辿り着いた作品。
もうほんとただただすごい。。。
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上品で自信ありげな予告編だなあとは思っていたんですが
方々から絶賛の声を聞くようになりまして。
実際観てみたら、確かに傑作!!!
『第三夫人と髪飾り』を観ているようでした。。
今作の方がずっと爽やかで明るい映画ですが。
ファンタジーでもなく、時代劇でもなく、現代日本を映してこんなにも絵的にも物語的にもテーマ的にも面白い映画を作ってもらえたなんて、本当に嬉しい。
日本からこんな映画が生まれるなんて。。。
以下、思いつくまま。
門脇麦をこんなに可愛いと思ったのは初めて!かわいい。。。。。。
「王子様現れた♡」って時の顔よ。
普段は背筋ピーンだけど
自宅の台所ではだら〜っと座ってジャム?を指でひたすら舐めとってる姿よ。
可愛かった。。
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ほんと124分あっという間だった。。
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スタートからもう面白い。
やってることとしてはそこまで面白いことでもなかったはずだし
あれは椿山荘ですよね、和室にテーブルと椅子での会食、
しばらくずっと会話だけなんだけど、もうバトル。。。
THE長女の石橋けい、
自由で破天荒な篠原ゆき子、
そして、年長者の顔色を伺いながら生きてきた歳の離れた三女の門脇麦。
鉄壁のような母、銀粉蝶。
スリリングこの上なし。
会食からの、いきなりの見合い写真。なんとも言えない門脇麦の表情。。。
そして、タイトル!『あのこは貴族』。
はい、名作だと決定した瞬間です!
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服がどれも素敵だった。
パッと現れた瞬間にファッとその場が素敵になる服たち。
正月は家でも着物着るんですね。
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「奥さんになってくれる?」とか頭ポンポンとかも
ちゃんとわかってやっていたんですね。。さすが。。
こんなの昔なら伏線にもなっていなかったはずだけど、ちゃんと伏線として機能させてる。
奥って何??
頭ポンポンって……、子どもにするものでは???
ってことですよね。。
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貴族パートが面白過ぎて、ここだけで十分じゃないかと。
別に対立する庶民世界を出して来なくても、貴族パートだけ描いていても十分地獄っぽくて最高じゃないかと思ってました。
ごめんなさい。。。わたしが愚かで浅はかでした。。
まず庶民パートも面白い。
水原希子はもちろんのこと、山下リオもいいねえ。
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あれは富山ってことですよね。
原作者の出身も富山だし、ホタルイカだし、雪国だし。
家の感じもなかなかでしたね。。
「田舎の人ってほんとみんなあったかいのよ〜」とか
「家族が一番よ」とか
「団欒って幸せよね」とか
「何もないのが一番なのよ」みたいなのを一蹴するような団欒描写。。。
寸前に1人消えるし。。。
同窓会のナンパ男、最低でしたね。めちゃくちゃ高圧的。
怖いでしょうね。。あんな男。。
あんなことされたら断るのも怖いし、逃げるのも怖いし、
かと言って受けるわけにもいかないし。。
断ったら「お高く止まってんじゃねえよ、クソブス!」とか言ってきそうなクソ男だし
そんな言葉、いくらクソ男に言われた言葉だとしても
ダメージは受けちゃうし
なんでそんなダメージ受けなきゃいけないんだって感じだし
ダメージ受けないために、うま〜〜〜くお断りしなきゃいけない。。
なんでただただ同窓会に出席しただけなのに、言い寄ってくるクソ男を「うま〜〜〜くお断りする」なんていうことが必須になってしまうのか。
あんなにも恐怖を与えてくるんだから
「うるせークソがっ!」ってヒールでチンコ蹴ってもいいはずなんだけど、そんなことしたら悪者にされちゃう。
男なら結婚式でお尻出しても「お笑い」になるのに。
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そして、けして対立構造ではなかったですね。。
失礼しました。。
石橋静河に怒られてしまいました。。
「女ってすぐ対立させられちゃうじゃないですか。女だからってすぐ仲悪いとか、足の引っ張り合いをさせられちゃう」的なセリフ。
普段から心に留めているつもりだったのですが、、、申し訳ありませんでした!
なので、
石橋静河がここで映画のテーマを長々とセリフで話すことに賛否はあると思うんですけど、
少なくとも僕にはものすごく機能しました。。
「わかってるよ!」って言う人にとってはくどいシーンかも知れませんね。
でもどちらにせよ石橋静河は素敵。
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つまんない映画だったら、
貴族の女性が庶民の女性にきったない居酒屋に連れてこられて
「こんな店初めてでしょ」
「わたし…、こういう雰囲気…、きらいじゃないです…」
みたいなシーンありそうだけど、ない!
この映画の冒頭にも汚い居酒屋あったけど、キッパリと門脇麦はタクシーで逃げ帰りましたしね。。
門脇麦が水原希子の部屋に来て
「ここ落ち着きます」って言うんだけど、
それは「庶民の暮らしって気を抜いてもいいから楽ですよね」ってことじゃなくて
「ここにあるものは全部美紀さんのものだから」。
確かに。一人暮らしの特権かも。
貴族クラスではないにしても、家の中には自分以外の物が多いし、必要なものや好きなものだけじゃなくて、誰かに見せるためものや、誰かを招き入れる時のためのものだったり。
自分のじゃない物があまりにも多いし、おそらく一つ一つが重い。
中高生とのときに憧れた「一人暮らし」。全部自分で決められる幸せ。
確かに一人暮らしの人の家って落ち着くんですよね〜。
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橋の上のシーン。最高。泣きました。
門脇麦がタクシーではなく歩いて橋を渡っている。
すると反対側にちょっとヤンキーっぽい若い女の子2人が自転車にふたり乗りしてる。
酔ってるのか、ナチュラルハイなのかわかんないけど
門脇麦に気づいて
「誰かこっち見てるぅ」と手を振る。
門脇麦も今までだったら絶対やってないんだけど、手を振り返す。
(でも手の振り方が皇族の作法。。。)
で、それを見た女の子たちが2人で大きく腕を振る。
「がんばってるよな!わたしたち」なのか「やってやろうぜ!わたしたち」なのかわからないけど、エールの交換。
セリフらしきセリフはないし、
ナレーションもないんだけど、
十分伝わる。
今まで描かれてきたことが最高だから。
このシーンを成功させるのはほんとに最高難易度だと思うんですけどね。。。すごいわ。。。。
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「華子に夢なんてあるの?」っていう高良健吾のセリフ。
予告編でもこのシーンあって
「俺は男だから夢とかあるけど、奥さんである君が夢とかあるの?」って言う意味かなと思ってました。
このセリフは自分自身に言ってたんですね。
「俺たち貴族に個人の夢なんてないのに、華子は夢があるの?夢を持ちたいっていう発想があるの?」という素の驚きのように聞こえました。
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この映画、悪人が出て来ないのも良かったですね。
(クソナンパ男はクソですけど)
銀粉蝶や高橋ひとみがキレッキレだからなんか悪役に見えるけど
彼女らも貴族社会の仕組みにやられているだけ。
仕組みの中で「うま〜く」やることでしか生きていけないと思い込まされている人。
銀粉蝶に関してはラストでさらに展開がありますね。
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ラストネタバレは以下に。
地方の名産品のブランディングする会社を立ち上げた里英は、美紀を誘う。
「やる。誘ってくれるのを待っていた気がするから」と美紀。
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華子「初めて会った日、話した映画見た?」
幸一郎「え…」
華子「そうだと思った…」
初デート(お見合い)の時映画の話して幸一郎は「家帰ったら見返そ」って言ったけど、見てなかったし多分忘れてた。
そして、次のシーンで幸一郎の母にビンタされる華子。
離婚。
華子の父と母も同席して頭を下げている。
華子が離婚を決意してからこのシーンまで半年も経っていないはず。
華子が自分の両親に離婚の相談をしたとき、絶対めちゃ反対されたはずだけど、、結局はそこまで強くは反対せずに華子の意思を汲んで離婚することを許してくれたんよね。
映画冒頭では鉄壁のような母だったけど、ちゃんと娘の幸せを考えてくれる人でした。
貴族社会の仕組みに敷かれることよりも個人の幸せを尊重してくれる人でした。
華子も映画を観てなかったことだけで離婚を決めたわけではなくて
「華子に夢なんてあるの?」発言で
「夢のない人と生きるのどうなんだろ」って思ったかもしれないし
出馬することを妻であるわたしに相談しなかったのに
家庭菜園でトマト育てようとしたらなんとなく夫に「許可」を取らなきゃいけない感じどうなのって思ったかも知んないし、
積もり積もってのことでしょうね。。
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華子は、バイオリニストの逸子のマネージャーに。
ある地方の子供音楽会にいつこのカルテットが出演。
それに華子ももちろん同行。
そこに幸一郎。出馬。周りには黒服の大人たち。
華子「わたし今逸子のマネージャーみたいなのやってるの」
幸一郎「華子がマネージャー!」
華子「どうしてここに」
幸一郎「ここ俺の選挙区だから」
華子「そうだ」
幸一郎「もし良かったら後で少し話そ」
華子「うん」
嬉しそうな華子。
演奏会開始。
客席の反対側に華子と幸一郎。見つめ合う。幸一郎、笑顔。華子、笑顔。
終わり
これを機によりを戻して再婚!したかったらしても全然いいんですけど、映画としてはここで終わって正解ですね。
幸一郎に会えて素直に嬉しかった気持ちもあっただろうけど
今の自分を幸一郎に見てもらえたのが嬉しかったんだろうな。
「ねえ、わたし、夢あるよ。あなたもあるんじゃない?」