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「ならん、1人の馘首もならん!」。
異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造(くにおか・てつぞう)は、戦争で何も彼もを失い、残ったのは借金のみ。其の上、大手石油会社から排斥され、売る油も無い。しかし、国岡商店は社員1人たりとも解雇せず、旧海軍の残油浚い等で糊口を凌ぎ乍ら、逞しく再生して行く。
20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。其の石油を武器に変え、世界と闘い、そして“海賊”と呼ばれた男とは?
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「戦前から戦後に掛け、波乱万丈な人生を送り、ど根性で立身出世した実在の“商人”をモデルにした小説。」と言えば、自分の中では「どてらい男」(著者:花登筺氏)と「不毛地帯」(著者:山崎豊子さん)がずっと双璧の存在だったが、此の程読了した「海賊とよばれた男」(著者:百田尚樹氏)は、其れ等に負けず劣らずの内容だった。
「海賊とよばれた男」は、先月、「第10回(2013年度)本屋大賞」に選ばれた。出光興産の創業者・出光佐三氏をモデルにした小説で、「読み応えが在る。」等、高い評価許りが目に付き、捻くれ者の自分としては「本当に、そんなに良い作品なのかなあ?」と、懐疑的な思いから読み始める事に。
「社員=家族」と考える国岡鐵造の「国岡商店」は、「出勤簿無し。」、「労働組合無し。」、「社員の馘首無し。」、「定年無し。」、「天下りの受け容れ無し。」と、普通の会社では考えられない「無い無い尽くし」。鐵造の人間性に魅了された国岡商店の社員達は、どんな苦境に立たされてもめげる事無く、“道”を切り開いて行く。
「国岡商店の常識外の環境を馬鹿にする大手他社。」、「国岡商店の獅子奮迅の“闘い”を疎ましく思う官僚や政治家、海外の国。」等が、あらゆる形で国岡商店潰しに掛かるのだが、結果として国岡商店は拡大し続ける。社員達の頑張りも当然在るのだが、大きいのは鐵造の「目先の利益を追うのでは無く、『日本や日本国民にとって、何をする事がベターなのか?』を優先させる思考。」だ。
実在のモデルが居るという事で、実際以上に良く描いているというのは在るかもしれないし、「こういう人物は素晴らしい!」とか「国家を最優先して考えないのは売国奴だ!」等と政治利用される可能性も懸念しないでは無いが、「理不尽な出来事に対して徹底的に闘う一徹さ」には、純粋に心を揺り動かされた。
総合評価は、星4つ。
「下町ロケット」は、本当に良い作品でしたね。小説を二度読みする事は殆ど無い自分ですが、「下町ロケット」は異例の二度読みをしましたし。
「永遠のゼロ」も評価が高い作品ですよね。近い内に読んでみたいと思っています。
又、マヌケ様の書き込みを拝見して直ぐに、「密室の人」に付いて調べました。仰る様に単行本版の「動機」に収録されている事が判りましたので、早速図書館に予約を入れた所です。