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奇面館主人・影山逸史(かげやま いつし)に招かれた6人の男達。館に伝わる奇妙な仮面で全員が“顔”を隠す中、妖しく揺らめく“もう一人の自分”の影・・・。
季節外れの吹雪で館が孤立した時、“奇面の間”に転がった凄惨な死体は何を語る?前代未聞の異様な状況下、名探偵・鹿谷門実(ししや かどみ)が圧巻の推理を展開する。
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46年間の生涯で、奇妙な建造物許りを設計したとされる建築家・中村青司。隠し部屋やら隠し通路といったギミックが存在する彼が手掛けた館で発生した殺人事件の真相を、推理作家の鹿谷門実が解明する「館シリーズ」は、綾辻行人氏の人気シリーズだ。彼のデビュー作でも在る「十角館の殺人」から始まった館シリーズは、冒頭に梗概を記した小説「奇面館の殺人」で9作目となる。
富豪・影山逸史からの不思議な招待状によって、「奇面館」なる館に招かれた6人の男達。影山との或る共通点を持った彼等は、館で1泊2日を過ごすだけで、1人200万円ずつ貰えるという美味しい話が持ち掛けられていた。館で影山と顔を合わせる際には、ゲストのみならず使用人迄もが、鍵付きの仮面を付けなければならない。そんな中、殺人事件が発生するのだが、6人の男達の顔からは仮面が取り外せない状況に・・・。
実に異様な状況下で起こった殺人事件。館に存在するギミックといい、綾辻作品の面白さが凝縮されている。意外な展開にどんどん引き込まれて行くが、最後に明かされた「影山と6人の男達の或る共通点」には、一瞬「えっ?どういう事!?」と頭が混乱してしまった。実社会では在り得ない様な共通点だが、“遣られた感”は堪能出来るだろう。
此の小説は、1993年の雪で閉ざされた館が舞台となっている。山奥の辺鄙な場所に在り、館内の固定電話は全て破壊されてしまっている。中高年の読者ならば「此れとじゃあ、外部と一切連絡が取れないな。」と違和感無く理解出来るけれど、若い読者ならば「携帯電話やインターネットを使って、外部と連絡取れば良いじゃない。」と思ってしまうのかもしれない。幼少時より携帯電話やインターネットが普通に存在していたならば、そう考えても不思議では無いから。
しかし、時代は1993年。携帯電話やインターネットが、普及していない時代の話だ。DNA鑑定も、信頼性が高くは無かった。だから「現在の常識」しか知らない人達に、「当時の常識」を作者は然りげ無く説明している。時代が変わる事で、使えなくなってしまうトリックも在ったりと、「ミステリー作家も大変だなあ。」と改めて感じた。
総合評価は星4つ。