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・「本能寺の変」前後に、利休が取った知られざる行動。
・宗易から「利休」への改名は、何故行われたか?
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丹念に資料を精査し、独自の解釈で日本史の謎に迫る作家・加藤廣氏。今回読了した小説「利休の闇」は、「侘茶」の完成者として知られ、“茶聖”とも称せられる茶人・千利休を取り上げている。彼に関する謎は少なく無いが、此の小説では様々な資料を紹介した上で、謎に対する加藤氏の“答え”が記されている。「成る程。」と思わされるのだけれど、多くの資料、其れも一般的には余り知らないで在ろう「茶道」に関する物という事から、「読むのがしんどい。」と感じる人も結構居そう。実際、自分も当該部分は流し読みしたし。
“本能寺三部作”を上梓する等、本能寺の変に付いて並々ならぬ関心を持っておられる加藤氏。様々な資料を基に、「本能寺の変の黒幕は豊臣秀吉。」という大胆な推理をされているが、黒幕はどうかは別にしても、今回の「利休の闇」を読んで、「何等かの形で秀吉が、大きく関わっていたのは間違い無いだろうな。」という思いを強くした。
秀吉と言えば、彼が命じてるらせた「黄金の茶室」は余りにも有名。運搬可能な組み立て式の3畳の茶室で、茶室だけでも約100kg、又、茶器には約50kgの金が使われていたと言う。「侘・寂の世界に、きらびやかな金がふんだんと持ち込まれる。」というのは余りにもミスマッチだし、秀吉の“成金趣味”的な部分をどうしても感じてしまうのだが、加藤氏は別の見方をしている。
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金張屏風のすばらしさは、ふつうの和紙屏風と違って、光の強弱で多様に変化することである。特に自然光に対しては、微妙に光を映じ込み、反射し、あるときは吸い取るような陰翳を生じる。そのため、屏風に描かれた動植物までが、絵の中で呼吸している様に生き生きと映じるのである。黄金の茶席は、ただの金満家の成金趣味ではなかった。これを悪趣味として(だけ)とらえるのは、十九世紀以降、電気の光の恩恵に馴らされ、暗黒の感覚を失った我々の側の間違いである。歴史は、我々が過去に立ち戻って、その時の視点で物を判断しなくてはいけないという好例であった。
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総合評価は星3つ。