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幕末日本。幼い頃から綺麗な石にしか興味の無い町娘・伊佐(いさ)の下へ、父・繁蔵(しげぞう)の訃報が伝えられた。更に、真面目一筋だった木挽き職人の父の遺骸には、横浜・港崎遊廓(通称:遊廓島)の遊女屋・岩亀楼と、其処の遊女と思しき「潮騒」という名の書かれた鑑札が添えられ、挙げ句、父には「攘夷派の強盗に与した上に、町娘を殺した容疑。」が掛けられていた。
伊佐は父の無実と死の真相を確かめるべく、嘗ての父の弟子・幸正(ゆきまさ)の斡旋で、外国人の妾と成って、遊廓島に乗り込む。其処で出会ったのは、「遊女殺し」の異名を持つ英国海軍の将校・メイソン。初めはメイソンを恐れていた伊佐だったが、彼の宝石の様に美しい目と、実直な人柄に惹かれて行く。
伊佐はメイソンの力を借り乍ら、次第に事件の真相に近付いて行くが・・・。
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第70回(2024年)江戸川乱歩賞を受賞した小説「遊郭島心中譚」(著者:霜月流氏)は、「幕末の横浜に実在した遊郭島が舞台の時代ミステリー」で在る。「日本に於て、専ら外国人を相手に取っていた遊女、或いは外国人の妾と成った女性。」の事を、幕末開国後の1860年辺りから「羅紗緬」と呼ぶ様に成ったが、此の作品の主人公は鏡(きょう)と伊佐という2人の羅紗緬。羅紗緬と成ったのは、2人共に"真実"を明らかにしたいが為。伊佐の方は父の冤罪を晴らす目的での真実究明だが、鏡の方は・・・。
タウンゼント・ハリスやヘンリー・ヒュースケン等、幕末の歴史で学んだ実在の人物が登場する。歴史好きなので、そういう点では興味深く読ませて貰ったが、物語としてはしっくり来ない部分が幾つか在った。しっくり来ない最たる部分は、鏡が羅紗緬と成った理由で、其れは「或る事に関する真実を明らかにしたい為。」なのだが、実に"抽象的&観念的な物に関する真実"なので、個人的にはピンと来なかったのだ。
ミステリーとしての要素は、充分満たしている。3人の遊女を殺した動機は意外性に溢れていたし、又、其れに付随して設けられた"非常に大掛かりな仕掛け"が、(今回の江戸川乱歩賞の選考委員の1人で在る)綾辻行人氏の代表作「館シリーズ」を彷彿とさせる所なんぞは、決して悪く無い。
唯、鏡が追い求めていた真実というのがどうしてもピンと来ず、全体としての評価を下げざるを得ない。なので、総合評価は星3つとする。