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殺された鈴木(すずき)の祖父で、名家の当主・義麿(よしまろ)が綴ったノートを託された浅見光彦(あさみ みつひこ)は、事件の核心に迫る記述に引き込まれて行く。戦時中の阿武山古墳盗掘疑惑、考古学者同士の対立、新たな殺人。更なる悲劇を招いたのは、「藤原鎌足の秘宝」なのか?
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内田康夫氏の推理小説「浅見光彦シリーズ」は、1985年に上梓された「後鳥羽伝説殺人事件」が第1弾。以降、同シリーズは高い人気を得て、上梓数は110冊を超える。
毎日新聞の夕刊に浅見光彦シリーズを連載していたが、2015年夏に内田氏は脳梗塞に倒れ、以降闘病生活を送っていたが、左半身に麻痺が残った事で、自身によって続きを書く事を断念。書き終えた部分は未完の状態で上梓する一方、続編を公募して完結させるプロジェクトが開始となったのは2年前の事。内田氏自身が書き終えた部分は「孤道」というタイトルで2017年5月に上梓されたが、残念な事に内田氏は、昨年3月13日に鬼籍に入られてしまった。
内田氏の遺志を継ぎ、続編「孤道 完結編 金色の眠り」が上梓された。著者・和久井清水さんは此の作品で文壇デビューを果たす事となったが、第61回(2015年)江戸川乱歩賞の候補、宮畑ミステリー大賞特別賞(2015年)受賞等、既に実績を重ねて来た人物。
多くのファンを持ち、30年以上も書き続けられて来た「浅見光彦シリーズ」なので、其の世界観は完全に確立されている。なので、続編を代わりに書くというのは、非常に大変な事だろう。
内田氏は「事前に詳細なプロットを用意する事無く、書いて行く中で諸々の辻褄を合わせて行く。」という執筆スタイルで知られているだけに、続き&結末が完全に和久井さんに委ねられていたとは言え、確立された世界観を壊す事無く、そして既に上梓された「孤道」との整合性を取った上で、多くが満足出来る“結末”を提示しなければいけないからだ。
内田氏の浅見光彦シリーズと比べると、ユーモアの点では少々物足りなさを感じるものの、確立された世界観に上手く“寄り添った内容”だと思う。「孤道」との整合性は取れているし、結末も悪くは無い。何も知らないで読んだならば、内田作品と思ってしまう事だろう。
非常に残念なのは、「浅見光彦シリーズの“最後の作品”なのだから、“永遠の独身貴族”で在る光彦が結婚する所で終えて欲しかった。」という点。個人的に言えば、御手伝いの“須美ちゃん”と光彦との結婚を望んでいたのだけれど、永遠の独身貴族の儘で浅見光彦シリーズは完結する事に。
総合評価は、星3.5個。此のシリーズの新作がもう読めないのは、本当に残念だ。