ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「山あり愛あり」

2013年12月08日 | 書籍関連

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大手都市銀行不良債権処理に追われる日々を送って来た大鉢周三(おおはち しゅうぞう)は、20年勤務した後に、45歳で早期自主退職した。来春から故郷の長野県に在る私立大学専任講師務める事になっていたが、彼としては大学には深入りせず、長らく封印して来た登山を再開する積りで在った。

 

しかし、伯父・大鉢壮一郎の知人で在り、弁護士の榊原行雄(さかきばら ゆきお)から「母子家庭支援のNPOバンク設立に関わって欲しい。」と依頼される。周三も父親の顔を知らずに育った身だが、評論家の「柚木かず子(ゆぎ かずこ)」として活動する母・加寿子(かずこ)とは、憎しみの果てに義絶していた。そして其の母親が、今、死に瀕していると言う・・・。

 

元銀行マンが選んだ、新たな道。山に向かって姿勢を正す。愛する山に恥じぬ様、一度きりの人生を歩んで行く。

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2000年に文壇デビューして以降、自身の小説が、此れに5度「芥川賞」の候補となった作家・佐川光晴氏。自分と同じく、バブル期に社会人となった世代だ。「小説が、芥川賞の候補に何度かなった作家。」という記憶は在ったけれど、彼の作品を読むのは、今回の「山あり愛あり」が初めて。特に中身に期待した訳でも無く、「どんな内容なんだろう?」程度の興味で手に取った。

 

社会人になる前、近しい人間を次々と“失って”来た周三。複雑な家庭環境に育ち、実母を憎んでいるというのは何と無く判ったが、全体の半分辺り迄読み進めても、憎む理由等が明確で無かった。だから隔靴掻痒の思いが在ったのだけれど、半分を過ぎた頃から話が急スピードで展開して行く。「そうだったのか・・・。」という納得と共に、ストーリーの中にどんどん引き込まれて行った。

 

我が国の男性の平均寿命は約80歳だから、45歳の周三は「人生の折り返し地点」を少し過ぎた辺りに居る訳だ。看護師として働く妻、高校2年の息子、そして中学3年の娘を持つ彼が、20年勤務した大手都市銀行を辞め、新たな道を歩もうとする中、“自身の来し方”を振り返る。従事して来た仕事、大事な人達の死、そして憎み続けて来た実母・・・。「自分らしく働いて来たのだろうか?自分らしく生きて来たのだろうか?」、自問自答して行く過程で、“自らが進む道”を見出す周三。

 

最後の方で周三は、或る人物と“再会”する。其れは意外な形の再会で在り、「こういう展開なのか・・・。」という“苦さ”を感じもした。「若し彼の時、~だったら(~じゃなかったら)。」、人の運命なんて、一寸した事で変わってしまうのだ。

 

読み終えた際、静謐な思いになっていた。総合評価は、星4つとする。


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