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「悲しみしか無いと、思っていた。でも、死は悲しむべき物じゃ無い。」。南の島の、其の人は言った。
心を取り戻す為に、約束を果たす為に、逃げ出す為に。忘れられない彼の日の為に。別れを受け止める為に。
「死」に打ちのめされ、自分を見失い掛けていた。そんな彼女達が、秘密を抱えた儘、辿り着いた場所は、太平洋に浮かぶ島。其処で生まれた、其れ其れの「希望」の形とは?
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湊かなえさんの小説「絶唱」は、 阪神・淡路大震災によって大きく人生を狂わされ、そして後にトンガを訪れる事となった人々が描かれている。大震災に関する描写(特に避難生活時のトラブルに付いて。)やトンガの様子が、実にリアルに描かれているのだが、現在淡路島に住んでおられる彼女が、実際に被災されたのかは不明なれど、社会人になって以降、青年海外協力隊の隊員として2年間トンガに滞在していた事を知り、リアルな描写も「成る程。」と感じた。
湊作品と言えば、大ベスト・セラーとなった「告白」は未だしも、他はぴんと来ない物許り。34年前に流行った曲「センチメンタル・ジャーニー」【動画】の出出し「読み捨てられる 雑誌の様に♪」ではないけれど、何れも“読み捨てられる雑誌感覚”で読めてしまい、読後に心に残る物が無く、読み返す事も無い作品群という感じだった。
「絶唱」も「そんな感じの作品。」と思い乍ら読み進めていたのだが、最終章の「絶唱」、其れも最後の方に到って、グッと来る物が在った。湊さんの自叙伝的作品(「自叙伝」なのかどうかは判らないので、「自叙伝的」と記す事にした。)という事で、作家としての彼女の来し方が投影されている様に感じたからだ。
「小説の題材として阪神・淡路大震災を取り上げる事。」に、自己嫌悪感を抱えていたと思われる彼女が、今回の作品を書く事になった背景に、「絶唱」の中で記されている様な“近しい人の死”が在ったのかどうかは判らない。でも、未曾有の大震災に対する、彼女の深い思いは伝わって来る内容だった。
総合評価は、星3.5個。