ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「月と蟹」

2010年11月11日 | 書籍関連
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小学生の慎一と春也は「ヤドカミ様」なる願い事遊びを考え出す。100円欲しい、虐めっ子を懲らしめる・・・他愛無い儀式は何時しかより切実な願いへと変わり、子供達の遣り場の無い「祈り」が周囲の大人に、そして彼等自身に暗いを向け・・・。
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道尾秀介氏の近作月と蟹」は、小学5年の男子2人と女子1人が主人公。此の年代と言えば、自我意識が目覚めて来る頃。「1年前に父を亡くし、母と祖父の3人で暮らす少年。」、「父親から虐待行為を受ける少年。」、そして「10年前に母を或る事故で亡くし、父と2人で生活する少女。」という心に傷を持つ3人は、自我意識の高まりが相俟って不安定な心理状態に在る。

自分自身の子供時代を振り返ってもそう感じるが、子供というのは非常に残酷な部分を有している。面白半分さというのも在るが、時には漠然とした不安から逃避するに昆虫の手足を捥ぐ等の残酷な行為を平然としてしまう事も。3人の子供達が為す残酷な行為を道尾氏はサラリと、しかし乍ら執拗に描写しており、其の事が彼等の心の不安定さを強く印象付ける結果となっている。

前作の「月の恋人 ~Moon Lovers~」は、従来の道尾作品と“悪い意味で”毛色が変わっていた。「『月9ドラマ在りきの原作』という面が強く影響したのだろうか?」と思っていたが、今回の作品を読むと「道尾氏は、意図的に作風を変えようとしている。」という思いを強くした。同じ様な作風では飽きられてしまうだろうし、色んな作風に挑戦するのは悪い事では無いけれど、今回の作風も自分にはしっくり来なかった。余りにも情緒的に過ぎて、面白味が無いといった感じ。直木賞受賞を強く意識した文体」という指摘がネット上にされていたけれど、当たらずと雖も遠からずという気がする。非常に才能の在る作家なので、賞を意識し過ぎているとしたら残念だ。

総合評価は星3つ

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