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「此れは、自分の声だ。」。京都でテーラーを営む曽根俊也(そね としや)は、或る日、父・光雄(みつお)の遺品の中からカセット・テープと黒革のノートを見付ける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼い頃の声が聞こえて来る。其れは、31年前に発生して未解決の儘の「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声と全く同じ物だった。
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「このミステリーがすごい!2017年版【国内編】」の7位、「2016週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」では1位を獲得した「罪の声」(著者:塩田武士氏)は、1984年~1985年に掛けて世間を震撼させた「グリコ・森永事件」【動画】をモデルにした小説。
「帝銀事件」や「三億円事件」、「青酸コーラ無差別殺人事件」、「ロス疑惑」、「八王子スーパー強盗殺人事件」、「世田谷一家殺人事件」、「板橋資産家夫婦放火殺人事件」等々、我が国には少なからずの未解決事件が存在しているが、其れ等の中でも「グリコ・森永事件」は、劇場型犯罪として大々的に報じられた事件の1つ。
著者自身も述べている様に、此の作品は飽く迄もフィクションだが、「グリコ・森永事件」の発生日時や場所、犯人グループの脅迫&挑戦状の内容、其の後の事件報道等に付いて、極力史実通りに再現されている。塩田氏自身が神戸新聞社で記者活動をされていた事も在ってか、記述にリアリティーが在り、書かれている内容が全て“現実の出来事”で在るかの様な錯覚さえしてしまった。
「自分の幼い頃の声が、31年前に発生して未解決の儘の『ギン萬事件』で恐喝に使われた録音テープの音声と全く同じ事を知った曽根俊也。」と「新聞社の特集記事として、『ギン萬事件』を追う事になった記者・阿久津英士(あくつ えいじ)。」いう2人の男性が、事件の関係者を捜し歩くという形で、ストーリーは展開して行く。
「グリコ・森永事件」と言えば、恐喝に使われた録音テープの声が子供だった事【音声】が強烈な印象として残っているけれど、「其の声が幼い頃の自分だった。」と判ったら、又、そういう人間を追わなければならなくなったらと考えると、非常に複雑な思いになる。
「時代が犯人に味方した事件」という記述が在ったけれど、確かに其の通りだと思う。「グリコ・森永事件」では、捜査陣は何度か犯人と思われる人物を捕まえられる機会が在ったのに、結果的に捕まえられなかった。今ならば監視カメラや通信記録により、犯人は捕まえられただろうから。時代のエア・ポケットに陥ってしまった事件だ。
元々、人名を覚えるのが苦手な自分。登場人物が多く、「此れって、どういう人物だったかな?」と何度か前に戻って確認する手間は在った。でも、内容は非常に面白く、どっぷりとストーリーの中に引き込まれてしまった。
すっかり忘れていたのは、「グリコ・森永事件」で犯人から終息宣言が送り付けられたのが、1985年8月12日だったという事。此の日は「日本航空123便墜落事故」が発生した日でも在るのだ。「あんなにも大きく報道され続けていた『グリコ・森永事件』が、唐突に報じられなくなった。」という印象が在ったのだけれど、未曾有の大事故が発生した事で、人々の耳目が「グリコ・森永事件」から奪われてしまったという面が在ったのだろう。
間違い無く傑作!総合評価は、星5つとする。
早速、図書館予約しました。427人待ちですけど・・・^^;
「此れ以上に、もっと凄い作品が出て来るかもしれない。」という思いから、基本的に「星5つ」は永久欠番の如く、出さない様に考えてはいるのですが、此の作品は「星4.5個」なんていうのも中途半端に思える位、とても読み応えの在る作品でした。彼の時代をリアル・タイムに過ごした人ならば、一層思い入れは深くなる事でしょう。
概して高評価な事も在り、我が地区の図書館では予約が四桁台で、とても待ち切れない為、自腹を切っての購入。いやいや、本当に面白かったです。