ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「闇に香る嘘」

2015年07月08日 | 書籍関連

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村上和久(むらかみ かずひさ)は、腎不全罹患した孫・夏帆(かほ)に自分の腎臓移植し様とするが、検査の結果、適さない事が判明。和久は兄・竜彦(たつひこ)に移植を依頼するが、検査さえも頑な拒絶する兄の態度に違和感覚える中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は、兄の顔を確認していない。

 

27年間、兄だと信じていた男は、偽者なのではないか?全盲の和久が、兄の正体に迫るべく、真相を追う。

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「2014週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の2位、そしてこのミステリーがすごい!2015年版【国内編】」では3位を獲得した小説闇に香る嘘」(著者下村敦史氏)は、中国残留孤児として永住帰国した兄に疑問を感じ、其の正体を探る村上和久が主人公。彼が“探偵役”のミステリーな訳だが、全盲という事で、健常者には普通に見える物が見えなかったりと、探偵としては様々な制約が在る。然し其の制約を逆に利用する事で、より謎を深めさせたり、和久に迫る危機を読み手に強く感じさせたりしていて、「上手いなあ。」と感じる。

 

疑問を感じてしまう設定が無い訳でも無いけれど、緊迫溢れる映像が、すっと頭に浮かんで来る書き出し。」、「中国残留孤児問題等、戦争によって引き起こされた悲しい現実。」、「予想を覆す意外な展開。」等、全体として実に見事な筆力だ。とても新人作家の作品とは思えない出来。徹底的に調べ上げた上で書いているのが感じられ、特に健常者だと知らないで在ろう事実には、「そうなんだ。」という驚きが在った。

 

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・私は台所に進むと、コップを手に取った。ウエストポーチから『液体プローブ』を取り出した。四角い電気プラグに似た器具をコップのに取りつけると、二センチほどの探針が中に伸びる。焼酎を少しづつ注いでいく。ピピピ、と音がした。コップの中に伸びた探針に液体が触れると、アラームが鳴るので飲み物をあふれさせずにすむ。

 

・私はソファに座ると、重ね合わせた定規に似た『紙幣弁別板』を取り出した。紙幣を差し入れ、段状になっている端に合わせれば、千円札五千円札一万円札の五ミリの長さの差を調べられる。外出先で使うときのため、一枚一枚確認しては二つ折りと四つ折りにして区別していく。

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此の作品は、第60回(2014年)江戸川乱歩賞を受賞している。賞の受賞作品で、『週刊文春ミステリーベスト10国内編】』及び『このミステリーがすごい!【国内編】』の両方でベスト3入りしたのは史上初。との事。新人でそんな快挙成し遂げたのは、本当に凄い。

 

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下村敦史氏:1981年京都府生まれ。1999年に高校2年生で自主退学し、同年、大学入学試験検定合格。2006年より江戸川乱歩賞に毎年応募し、第53回、第54回、第57回、第58回の最終候補に残る。2014年に9回目の応募となる「闇に香る嘘」で、第60回江戸川乱歩賞を受賞。

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選考委員の1人で在る石田衣良氏が、選評で「貴方略歴を見て、選考委員は皆感心していた。今回は何度乱歩賞の最終で弾かれても、決して諦めなかった貴方の勝利だ。」と述べている。2006年から毎年乱歩賞に応募し、9回目の応募で受賞を果たしたという根性が凄いし、苦労人が好きな自分としては、下村氏の様な作家は心から応援したくなる。

 

総合評価は、星4つとする。


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