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・認知症:認知障害の一種で在り、人の脳の後天的な器質的障害により、一旦正常に発達した知能・知性が不可逆的に低下する状態。認知症は「アルツハイマー型認知症」、「血管性認知症」、そして「レビー小体型認知症」の3つに大別される。
・アルツハイマー型認知症:アミロイドβと呼ばれる蛋白質の一種が、脳に沈着する事で発症する。認知症患者の約70%が当該。
・血管性認知症:脳梗塞や脳卒中の後遺症に起因する。アルツハイマー型認知症もそうだが、同じ話を何度も繰り返す記憶障害、時間や場所の感覚が曖昧になってしまう失見当識、或いは徘徊といった症状が現れる事が多い。認知症患者の約20%が当該。
・レビー小体型認知症:「DLB」とも呼ばれる。DLB患者の脳や脳幹には、小さな目玉焼きの様な深紅色の構造物「レビー小体」が見られる。此のレビー小体が、手足の震えや歩行障害といったパーキンソン症状、レム睡眠障害と呼ばれる大声での寝言、日中から眠って許りいる傾眠状態、距離感が捉えられない空間認知機能障害を引き起こす。DLBの最大の特徴で在り、他に類を見ない症状は、「はっきりとした幻覚を見る。」という「幻視」。認知症患者の約10%が当該。
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パーキンソン病と、一旦は診断された高齢の知人Aが居る。手足が震え、時には全く動けなくなってしまう等の症状が在り、長らく治療を受けていたが、症状が改善されるどころか、どんどん悪化して行った。其処で病院を変え、徹底的に調べて貰った所、レビー小体型認知症で在る事が判明。其れに沿った治療を開始した所、症状が改善されたとは言わないけれど、少なくとも悪化する事は無くなったと言う。
其処でふと思い出したのは、もう四半世紀近く前だったろうか、Aが複数人で旅行した際、「部屋で“幽霊”を見た。」と言い張っていた事を。同じ部屋には他にも人が居たのだけれど、彼等の前で「ほら、其処に幽霊が居るじゃない!」と訴えたが、Aが指差した所には白壁しか無かったので、皆困惑したらしい。「はっきりとした幻覚を見る。」という事で、其の頃からレビー小体型認知症を発症していたのだろう。
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嘗て小学校の校長だった切れ者の祖父は、71歳となった現在、幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受け乍ら暮らしていた。
然し、小学校教師で在る孫娘の楓(かえで)が、身の回りで生じた謎に付いて話して聞かせると、祖父の知性は生き生きと働きを取り戻すのだった。
そんな中、軈て楓の人生に関わる重大な事件が・・・。
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第21回(2022年)「『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞した小説「名探偵のままでいて」(著者:小西マサテル氏)は、「レビー小体型認知症を罹患し、要介護状態に在る高齢男性が、孫娘の楓から聞かされる話や提示された物“だけ”で、不可解な謎を解き明かすという、所謂“安楽椅子探偵物”。」で在る。彼は謎解きを“物語”と呼び、又、明確な論理性に基づく“絵(=幻視)”を見るのだ。
著者の小西マサテル氏はリンク先を見て御判りの様に、数多くの人気番組を手掛けて来た放送作家。だから、“読ませる文章”を書いている。又、レビー小体型認知症に関する記述が鏤められており、興味深く読み進められた。
6つの章から構成されているが、ミステリーへの深い造詣&愛情が感じられる蘊蓄が幾つも散見され、其の点でも面白い。唯、残念なのは「第3章 “プールの人間消失”」。ネタバレになるので詳しくは書かないが、「幾らレビー小体型認知症を罹患し、記憶が曖昧になっている時が在るとは言っても、其れを推理って呼んで良いのかなあ?」と疑問を感じるので。
最後の最後に明らかとなる“究極の犯人の正体”に関して、自分は著者が仕掛けた“ミスリード”にまんまと引っ掛かってしまい、別の人間を犯人と推理してしまった。完璧に{遣られた!」訳だが、「“昔の事件”と“今回の事件”の犯人が一緒だった。」というのは、時が余りにも空いてしまっていて、「偶然性に頼り過ぎな設定では?」という感じが。
・・・と、減点ポイントも在るのだけれど、全体としては読み易く、まあまあ面白い作品。総合評価は、星3つとする。