新進気鋭の作家・・・というよりも、デビュー作「チーム・バチスタの栄光」で既にベテラン作家の風格すら漂う筆致を見せた海堂尊氏。デビューから僅か1年8ヶ月にして既に6作品を刊行しているというのも然る事乍ら、何よりも彼が作家を本業にしていない現役の医師というのが凄い。そんな彼の第2作「ナイチンゲールの沈黙」を今更乍ら読破。
医療現場に身を置いている人物だからこその生々しい描写が”部外者”の自分にとっては新鮮だし、非常に興味深い。古くは「白い巨塔」や「ブラック・ジャック」、最近で言えば「ブラックジャックによろしく」で描かれた医療現場に於ける人間関係の複雑さ(人間関係が複雑なのは、まあ何処の世界でも在る事だが。)、もっと言えば医療現場に於けるヒエラルキーの存在が行間からひしひしと伝わって来る。
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東城大学医学部付属病院、小児科病棟に勤務する浜田小夜。彼女が受け持つのは、
眼球に発生する癌網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供達。眼球を摘出されてしまう彼等の運命に心を痛めた小夜は、子供達のメンタル・サポートを不定愁訴外来の田口公平に依頼する。
その最中、患者の児童の父親が殺害される。それも、体内から取り出された臓器が部屋の四隅に置かれるという異常な形で。警察庁から派遣された加納警視正は、院内捜査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で緊急入院した伝説の歌姫、其処に厚生労働省の変人・白鳥圭輔も加わり、事件は思い掛けない展開を見せて行くのだった。
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医療現場を描いた作品という事で、タイトル「ナイチンゲールの沈黙」の「ナイチンゲール」はあのフローレンス・ナイチンゲール女史を指しているものとばかり思い込んでいた。しかし、この作品での「ナイチンゲール」は「nightingale(鶯)」を指している。結核を病み、しばしば喀血する我が身を「血を吐く迄鳴き続けると言われた不如帰」と重ね合わせ、自らの俳号を自虐的に不如帰の異称「子規」とした俳人・正岡子規。そしてこの作品での「ナイチンゲール=鶯」も死ぬ迄歌い続ける事が性となってしまった、哀しい2人の女性を暗喩している。
脳味噌にズキンと突き刺さる様な表現の数々。中でも「ハイパーマン」なる幼児番組のヒーロー(勿論、この作品の中だけの架空の存在。)を挙げて、「考えてみればハイパーマンやウルトラマンの姿は、何処となく救急隊員に似た所が在る、と田口は思った。最初は感謝されるが、何時しか当然の義務だと思われてしまう所なんて、瓜二つだ。」という件は、医療現場に従事する者が少なからず持っている本音ではないだろうか。
大人びた子供達が、その”鎧”を脱いだ時にチラリと見せる弱さや哀しみが何とも切ない。又、探偵役を担っている白鳥圭輔の灰汁の強さ&エキセントリックさは相変わらずだが、今回はそれよりも強烈な存在・加納警視正の登場によって白鳥が遣り込められる一幕は痛快さを覚える。唯、残念なのは犯人が死体をバラバラにした理由がやや無理を感じる所と、処女作の内容が凄かっただけにそれに比べると内容面で見劣りしてしまう点。
総合評価は星3つだが、「第3作以降を早く読まなければ。」と思わせる作家で在るのは変わりない。
医療現場に身を置いている人物だからこその生々しい描写が”部外者”の自分にとっては新鮮だし、非常に興味深い。古くは「白い巨塔」や「ブラック・ジャック」、最近で言えば「ブラックジャックによろしく」で描かれた医療現場に於ける人間関係の複雑さ(人間関係が複雑なのは、まあ何処の世界でも在る事だが。)、もっと言えば医療現場に於けるヒエラルキーの存在が行間からひしひしと伝わって来る。
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東城大学医学部付属病院、小児科病棟に勤務する浜田小夜。彼女が受け持つのは、
眼球に発生する癌網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供達。眼球を摘出されてしまう彼等の運命に心を痛めた小夜は、子供達のメンタル・サポートを不定愁訴外来の田口公平に依頼する。
その最中、患者の児童の父親が殺害される。それも、体内から取り出された臓器が部屋の四隅に置かれるという異常な形で。警察庁から派遣された加納警視正は、院内捜査を開始する。小児科病棟や救急センターのスタッフ、大量吐血で緊急入院した伝説の歌姫、其処に厚生労働省の変人・白鳥圭輔も加わり、事件は思い掛けない展開を見せて行くのだった。
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医療現場を描いた作品という事で、タイトル「ナイチンゲールの沈黙」の「ナイチンゲール」はあのフローレンス・ナイチンゲール女史を指しているものとばかり思い込んでいた。しかし、この作品での「ナイチンゲール」は「nightingale(鶯)」を指している。結核を病み、しばしば喀血する我が身を「血を吐く迄鳴き続けると言われた不如帰」と重ね合わせ、自らの俳号を自虐的に不如帰の異称「子規」とした俳人・正岡子規。そしてこの作品での「ナイチンゲール=鶯」も死ぬ迄歌い続ける事が性となってしまった、哀しい2人の女性を暗喩している。
脳味噌にズキンと突き刺さる様な表現の数々。中でも「ハイパーマン」なる幼児番組のヒーロー(勿論、この作品の中だけの架空の存在。)を挙げて、「考えてみればハイパーマンやウルトラマンの姿は、何処となく救急隊員に似た所が在る、と田口は思った。最初は感謝されるが、何時しか当然の義務だと思われてしまう所なんて、瓜二つだ。」という件は、医療現場に従事する者が少なからず持っている本音ではないだろうか。
大人びた子供達が、その”鎧”を脱いだ時にチラリと見せる弱さや哀しみが何とも切ない。又、探偵役を担っている白鳥圭輔の灰汁の強さ&エキセントリックさは相変わらずだが、今回はそれよりも強烈な存在・加納警視正の登場によって白鳥が遣り込められる一幕は痛快さを覚える。唯、残念なのは犯人が死体をバラバラにした理由がやや無理を感じる所と、処女作の内容が凄かっただけにそれに比べると内容面で見劣りしてしまう点。
総合評価は星3つだが、「第3作以降を早く読まなければ。」と思わせる作家で在るのは変わりない。
歴史から、これは歴史小説も含みますが、現代人が学べる事は多く在ります。時代は変われども、人の思考は然程変わってはおらず、先人達の成功や失敗を自らの未来の羅針盤にする事も出来るからですが、唯仰る様に”当時の環境”と”現代の環境”の違いというのは在り、その辺を加味して事象を捉えて行くのは、新たな一面が見えて来るので面白いですよね。
時代が変わり、人が変わる面も在る。と同時に変わらない面も在り、先日マヌケ様が書かれていた「奥方が夜の営みで相手が影武者で在る事を知る。」なんていうのも変わらない面なのでしょう(笑)。