ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「悪党」

2010年02月10日 | 書籍関連
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天使のナイフ」 総合評価:星4.5個

闇の底」 総合評価:星4.5個

虚夢」 総合評価:星4つ
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2005年、「天使のナイフ」で文壇にデビューした薬丸岳氏。彼はこれに4冊の小説を刊行しているが、その家の3冊に関する我が総合評価を上記した。総合評価は「星5つを最高」としているのだが、3作品共「星4つ以上」という事で、如何に自分が彼の作品を高く評価しているかは御判りになるだろう。

デビュー作「天使のナイフ」では「少年法」を、2作目の「闇の底」では「性犯罪」を、そして3作目の「虚夢」では「刑法第39条心神喪失及び心神耗弱)」をテーマにし、社会や人間の心の中に存在する様々な問題を提起して来た彼。新作を読む度に彼の持つ天才性を再認識させられて来た訳だが、今回は4作目の「悪党」に付いてレヴューする。

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自らが犯した不祥事で職を追われた元警官の佐伯修一は現在、埼玉の探偵事務所に籍を置いている。決して繁盛しているとは言えない事務所に、或る老夫婦から人捜しの依頼が舞い込んだ。自分達の息子を殺害し、少年院を出て社会復帰しているの男を捜し出し、更に、その男を赦すべきか、赦すべきでないのか、その判断材料を見付けて欲しいと言うのだ。この仕事に後ろ向きだった佐伯は、所長・小暮正人の命令で渋々調査を開始する。実は、佐伯自身も嘗て身内を殺された犯罪被害者遺族だったのだ・・・。
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この作品のテーマは「犯罪者の処罰と更生」。主人公の修一は15歳の誕生日の日に、最愛の姉・ゆかりを殺害される。犯人は強姦目的の男3人で、全員が未成年の為に新聞にもニュースにも彼等の名前や顔写真が出る事は無かった。主犯の男には懲役10年の刑が、そして残り2人は懲役3年から5年の不定期刑が言い渡され、それから彼等の消息は遺族達の前からシャットアウトされる事に。そして被害者たる遺族は世間の好奇目差し晒される等、精神的な苦痛を抱え乍ら生きて行く。

姉を惨殺した3人に対する恨みの思いを持ち続け、今に到っている修一。探偵稼業を行いつつ、3人の姿を追う日々を送っている。同様に身内を惨殺された遺族から「加害者の消息を探って欲しい。」と依頼を受け、見付け出した加害者の“今の姿”に憤り覚え、改めて姉を殺害した者達への怒りを増幅させて行く。

薬丸氏が少年法に関心を持つ切っ掛けは、彼が19歳の時に発覚した「女子高生コンクリート詰め殺人事件」だったと言う。鬼畜所業としか思えない加害者の行為に関しては、当時の自分も激しい憤りを覚えた。「もし自分の身内が同様の殺され方をしたならば、加害者を嬲り殺しにしてやりたい。」と思ったし、その気持ちは今でも変わらない。

この事件発覚以降、全く反省しているとは思えない加害者の少年達の言動が、マスメディアによって何度か報じられて来た。被害者及び遺族の事を思うと、堪らない気持ちになったもの。加害者の一人が2004年に監禁致傷事件を起こして再逮捕された際には、元々性悪説の立場を採る自分、「あれだけ鬼畜の所業を為した者が、悔い改めるなんて在り得ない。刑罰の甘さは、何とかならないものか・・・。」とも思った。

プロローグ、「第1章 悪党」、「第2章 復習」、そして「第3章 形見」と読み進むも、これ迄の薬丸作品の様な“切れ”を感じなかった。「彼にしては凡庸な内容だなあ。」とも思ったのだが、「第4章 盲目」の意外な展開からストーリーに深みが増し、それからは最後迄一気に“読まされ”てしまう事に。単なる銭ゲバとしか思えなかった所長・小暮の“正体”なんぞは、「実に上手い設定だ。」と感心。

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おまえは姉ちゃんを犯して殺した奴らのどんな姿を見たら赦せると思えるんだ?(中略)そいつらが刑務所から出て真面目に生活してれば過去の罪を赦せるのか?姉ちゃんの墓の前やおまえに向かって泣きながら赦しを請うたらおまえは赦せるのか?(中略)赦すことなどできないだろう。悪党はそのことを自覚しているんだ。だから、赦してもらおうなどという七面倒臭いことは考えないし求めないのさ。だけど、悪党は自分が奪った分だけ大切な何かを失ってしまうこともちゃんとわかっている。それでも悪いことをしてしまうのが悪党なんだよ。
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姉の命を奪った加害者の一人が吐いた言葉だ。彼もそうだがこの小説には、読んでいて胸がムカムカする程に無反省な加害者達が登場する。そして“悪党達”は確かに「自分が奪った分だけ、大切な何かを失ってしまった。」事が明示されてはいるのだけれど、個人的にはそれでも彼等に同情の思いは余り湧かなかった。「“全く”湧かなかった。」では無く、「“余り”湧かなかった。」という点が複雑だけれども・・・。

薬丸岳氏は、やはり凄い!総合評価は星4つ

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