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唐沢龍二(からさわ りゅうじ)は、恋人の吉村久美子(よしむら くみこ)に誘われて、大学の奇妙な会に入る。会の名は「グループ・アノニマス」。一見“映画論”を語っている様でいて、唐沢の理系の知識を利用して爆弾テロを目論む活動組織の様だった。怪しげなアノニマスから距離を取る唐沢は、軈て久美子と破局し、疎遠となる。
1年後の1998年。東京都西神田のビルで、自爆テロが発生した。死亡者でも在る実行犯は、久美子だと言う。「アノニマスのリーダー・ハンクスこそが真の実行犯で、久美子は利用されただけだ。」と唐沢は気付くが、一大学生に地下に潜ったハンクスを捕まえる事は容易では無かった。軈て、警視庁公安部の捜査官から唐沢に声が掛かる。地下に潜った組織壊滅の為の切り札として、公安捜査官にならないかと言うのだ。公安捜査官となった唐沢だったが、アノニマスのスパイという風評や、危うい捜査は幾つもの敵を作ってしまい・・・。
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笹本稜平氏の小説「公安狼」は、警視庁公安部を題材にした作品。「公共の安全と秩序の維持を目的とする。」のが“公安警察”だが、其の業務を担っているのが警視庁公安部だ。具体的な業務に付いては此方に記されているが、悪名高き特別高等警察の流れを汲んでいるとされる。
公安の存在は広く知られているけれど、其の実態を知る人は数少ないだろう。組織の性格を考えれば秘密性が高いのは当然だけれど、警察内部の人間ですら実態を良く把握していない(と思われる)のが警視庁公安部で在る。秘密性が高いからこそ、記されている内容は興味深い。
「唐沢に矢鱈と食って掛かる同僚・井川和正(いがわ かずまさ)が、どう事件に関わっているのか?」等、読み始めると止まらない面白さが在る。けれど、其の割には大どんでん返しも無く、在り来たりな終わり方。期待値が高まって行く展開だっただけに、物足り無さがどうしても残る。
総合評価は、星3.5個とする。