ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「有罪、とAIは告げた」

2024年06月07日 | 書籍関連

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東京地方裁判所の新人裁判官・高遠寺円(こうえんじ まどか)は、日々の業務忙殺されていた。公判証人尋問、証拠や鑑定書の読み込み、判例等の抽出判決文作成と徹夜が続く。

東京高裁総括判事の寺脇貞文(てらわき さだふみ)に呼び出された円は、或る任務を命じられる。中国から提供された“AI裁判官”を検証するという物だ。「2」と名付けられた其の筐体に、過去の裁判記録を入力する。果たして、法神2が一瞬で作成した判決文は、裁判官が苦労して書き上げた物と遜色無く、判決も又、全く同じ物だった。業務の目覚ましい効率化は、全の裁判官の福音と成った。然し、円は法神2の導入に懐疑的だった。周囲が絶賛すればする程、AI裁判官に対する警戒心が増す。

そんな或る日、円は18歳少年が父親を刺殺した事件を担当する事になる。年齢、犯行様態から、判断の難しい裁判が予想された。裁判長の檜葉(ひば)は、「公判前に、法神2にシミュレートさせる。」と言う。データを入力し、出力された判決は「死刑」。遂に、其の審理が始まる。

罪は、数値化出来るのか?裁判官の英知と経験は、データ化出来るのか?
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中山七里氏の小説有罪、とAIは告げた」を読了近年、世界中のあらゆる分野にAIが進出しているが、法曹界も其の例外では無い。日本の場合はさしたる動きは無い様だが、海外では“法曹界へのAI導入”を積極的に推し進めている国も在ると言う。そんな時代に、「中国が開発した“AI裁判官”を、日本でも導入するかどうかの検証が始まる。」というのが、「有罪、とAIは告げた」のストーリー。

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・『(前略金融医療など、私たちが予想していた以上に人工知能と機械学習は多くの分野で活用されるようになっているが、法律の世界も例外ではない。電子政府で知られる北ヨーロッパの国エストニアでは、農業補助金審査や求職者への仕事の紹介など、すでにAIの活用が多様公的分野で推進されているが、国における最新のプロジェクトはAI搭載の「ロボット裁判官」の設計だ。エストニアだけではない。中国のネット裁判所や、で話題となっているチャットボット弁護士など、法律分野でのAIの活躍に関する報道がこのところ相次いでいる。』。(中略)ロボット裁判官と言っても、AIが重大事件について機械的に審理を進めて一方的に判決を下すというものではない。対象となるのは7,000ユーロ以内の少額訴訟に限定され、判決に不服があれば人間の裁判官に上訴できるようになっている。まだプロジェクトは始まったばかりで、アルゴリズムの試験的な導入の後、専門家によるフィードバックを待っている段階なのだと言う。エストニアのように先進的でなくとも、書類作成や資料集めといった法律関係の定型業務はAIの補助が進んでいる。中でも積極的なのは中国で、北京杭州の大都市ではオンライン関連の係争を扱うネット裁判所まで設立されている。AIが訴訟関連書類の自動作成機能を提供しているのだ。また福建省の裁判所ではAIが速記官となり、正確な文書作成と過去の膨大な判例データの分析と提供を行っている。

ええ、そうなんです。AIがスキルを上げれば上げるほど、怠惰な人間は身体を動かすのを渋るようになり、遂には考えることさえ放棄するようになる。切実な問題が発生しない限り、その流れは延々と続く。そして悲しいことに、怠惰という点ではわたしも高遠寺さんも例外ではないのですよ。おそらくは他の裁判官たちも。

日本の法律では犯罪行為を質の面だけで捉えています。一、いや日本ではですか。たとえば日本では一円でも盗めば窃盗罪ですよね。金額が一万円でも一億円でも、やっぱり窃盗罪が適用される。つまり日本の法律は行為自体が犯罪の成立で問われ、その規模については基本的に量刑で問われます。しかし中国では事情が違います。行為そのものと、犯罪の規模についても重視されます。もっとはっきり言ってしまえば、大金でない限り盗んでも犯罪にはならないのです。
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今回登場する「法神2」の場合、「裁判記録のデータ化、即ち法廷に提出された物的証拠と証言の数値化を行う。」事から始まる。「物的証拠や証言を重要度と信頼度の面から十段階評価し、検察側と弁護士側に遺漏や失点が在れば減点して行く。」という作業に加え、「当該
裁判に関わった裁判官の知見倫理観社会性志向等をアルゴリズムに変換する。」事で、「こういう事件の裁判の際、当該裁判官の場合は、こんな判決を作成する。」というのが的確に表されるというのだから、正直不気味な感じがする。

「AIが様々な分野に進出すると、AIが“暴走”し、人間を“管理”し始める。」というのは、自分が子供の頃に見聞したSFで良く扱われたテーマ。そういう恐怖心を持つ人は自分以外にも、恐らく少なく無い事だろう。でも、今回の小説で「確かになあ。」と思わされたのは、AIによって“自身のコピー”が作り出された時、其のコピーが出した“結論”に対し、知らず知らずの内に『疑う事無く、信頼し切ってしまう。』事で、自分の頭で考える事を放棄してしまう恐ろしさ。で在る。

謎解きの面では、そんなに驚かされる事は無かったが、“様々な分野へのAIの進出”という点では、改めて考えさせられる事が多かった。完璧と思われるAIでも、創造性の面で人間には未だ及ばない様だし、何よりも“判断の材料を与えるのは人間”という事を考えると、“悪意を持った人間が与える悪意の材料”がAIの判断の元になっている場合、其の判断が非常に危うい物になる。」という事は、留意しないといけないだろう。


総合評価は、星3.5個とする。


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