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「ヴェテラン女子行員はコストだよ。」。そう、嘯く石頭の幹部をメッタ斬るのは、若手ホープの“狂咲(くるいざき)”事、花咲舞(はなさき まい)。トラブルを抱えた支店を回って業務改善を指導する花咲は、事務と人間観察の名手。歯に衣着せぬ言動で、歪んだモラルと因習に支配されたメガバンクを蹴り上げる!
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嘗ては切れ者の融資係として名を馳せるも、上司と対立した事で冷や飯を食わされ続けた相馬健(そうま けん)。同期入行の連中に次々と追い抜かれ、出世競争から落ち零れた彼だが、念願叶って本部調査役の椅子に座る事に。其の主な業務は「臨店指導」、即ち「営業課の事務処理に問題を抱える視点を個別に指導し、解決に導く事。」だ。遣る気満々の彼だったが、唯一の部下として配属されたのは、嘗ての部下・花咲舞。「酷い跳ねっ返りで、上司を上司とも思わない花咲。」と、「そんな彼女の単刀直入さに引っ張りまわされ、上からは睨まれつつも、“正義”を貫く相馬。」という“迷”コンビの活躍を描いた小説「不祥事」(著者:池井戸潤氏)。
「“狂咲”というネーミング」や「相馬と花咲という珍妙なコンビ」等から、「海堂尊氏が生み出したキャラクター『白鳥圭輔(しらとり けいすけ)』と『姫宮香織(ひめみや かおり)』のコンビの影響を受けているのかな?」とも思ったのだが、「不祥事」が上梓されたのは2004年8月で、海堂氏がデビューする前の事。なので、池井戸氏が海堂氏の(キャラクターの)影響を受けたという事は無い。
元銀行員の池井戸氏は、自身の作品の中でしばしば「銀行員の最大の興味は人事。」と記している。他の組織でも「人事」というのが関心事で在るのは間違い無いが、銀行内部の其れは可成りの様だ。今回の作品の中でも、人事を巡る陰湿な遣り取りが描かれている。
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たまに、紙袋に現金が入ったまま気づかずに捨ててしまうことがある。あるいは、現金そのものをゴミ箱に放り込むとか。とにかく、人間というのは忙しくなってくると普段では信じられないようなことをしでかすものだ。
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銀行内で100万円が紛失したというストーリーの「過払い」の中で、上記の記述が在り、「本当かよ!?」と驚いてしまった。現場で働いていた池井戸氏だけに、実際にそういう感覚は在ったのだろう。多忙さだけでは無く、常に多額の金銭に囲まれている事で、そして「所詮は他人の金銭」という潜在的な意識も在って、「紙幣が、単なる紙の様に感じてしまう事も在るのかなあ。」と思ったりもした。
「不祥事」は、8つの短編小説から構成されている。勧善懲悪に徹した此れ等の作品は、何れも読後に爽快感が在って良い。唯、面白いのは間違い無いのだが、池井戸氏程の筆力が在る作家の場合は、じっくりと読み込める長編小説じゃないと、何か勿体無い感じもする。
総合評価は、星3.5個。
「経理の担当者以外は全員会計知識が乏しくて、誰も気付かない内に、会社の財産が減っていた。」というのは、結構見聞する話ですね。以前、銀行での使い込みに関して読んだ話で「へーっ。」と思ったのは、「1回に使い込む金額は10数万円とかでは無く、100万円とか1千万円とかと、“限の良い高額”にするとバレ難い。」のだとか。チェックする側からすると、こういった限の良い高額の場合、桁を間違えて判断し、「正しい。」と見逃してしまうという事で、こういうのは人間の盲点なんでしょうね。
経営者としては駄目駄目だったと思うのですが、自主廃業が決まった際の会見で「皆、私等(経営陣)が悪いんで在って、社員は悪く在りませんから、どうか社員に応援をして遣って下さい。優秀な社員が沢山居ます、宜しく御願い申し上げます、私達が悪いんです。社員は悪く御座いません。」と頭を下げ、そして号泣していた野澤正平社長の姿には、個人的に心が打たれました。其処には“計算”が在ったのかもしれないけれど、御座成りに頭を下げているだけの連中と比べたら、余程人間味を感じたので。