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妊娠3ヶ月で癌が発覚した智子(ともこ)、プロカメラマンになる夢を諦め様とする拓真(たくま)、志望した会社に内定が決まったが自身の持てない綾子(あやこ)、娘のアメリカ行きを反対する木水(きみず)、仕事一筋に証券会社で働いて来たあかね・・・人生の岐路に立った時、彼等は北海道へ一人旅をする。
そんな旅の途中で手渡された紙の束、其れは「空の彼方」という結末の書かれていない小説だった。そして、本当の結末とは・・・。
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湊かなえさんの小説「物語のおわり」は、其れ其れに迷いを抱えた人々が、旅先の北海道で初めて出会った人から手渡された20枚程の紙束(其れは、結末が記されていない小説なのだが。)に目を通し、其の結末を各々で想像するというストーリー。
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山間の田舎町に在るパン屋の娘・絵美(えみ)は、学生時代から小説を書くのが好きで、周りからも実力を認められていた。或る時、客として来ていた青年・公一郎(こういちろう)と付き合い、そして婚約する事になるのだが、憧れていた作家・松木流星(まつき りゅうせい)の下で修業をしないかと誘いを受ける。婚約を破棄して東京へ行くか、其れとも作家の夢を諦めるのか。
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「空の彼方」は、上京すべく駅の切符売り場に向かった絵美の前に、婚約者の公一郎が待ち受けていた所で終わっている。結末が記されていない小説を、北海道に向かうフェリーの中で初めて会った少女から手渡された智子は、北海道の地で初めて会った拓真に手渡し、其の拓真は矢張り初めて会った綾子に手渡す・・・といった感じで、初めて出会った人から人へと、「空の彼方」が手渡されて行く。迷いを抱えた者達は、「空の彼方」の登場人物に自身を投影させ、自分形の結末を想像し、そして其の過程で迷いを吹っ切って行くというのは、中々面白い設定。
9月に読了した「山女日記」もそうだが、湊さんの作品には此れ迄、厳しい評価を下し続けて来た。彼女のデビュー作にして、売れに売れた「告白」ですら、自分の評価は「世間で絶賛される程の内容かなあ?」という感じだったし。でも、今回の「物語のおわり」は、此れ迄の中では一番良かった様に思う。「告白」からずっと引き摺って来た“マンネリ感”から“完全”脱却し、一皮剥けた様にも。
「物語のおわり」の結末、此れは「空の彼方」の結末でも在るのだが、良い感じだ。強いて不満点を挙げるならば、「“最後に紙束を渡した教え子の女性”が誰なのか?」が、自分には判らなかった点。前の章で手渡された人間が、次の章で別の人間に手渡す。」という形なのを考えると“あかね”という事になるのだが・・・。
総合評価は、星3.5個。「告白」と同じ評価だが、個人的には「告白」よりもストーリーに没頭出来た。
「拓真館」の描写が凄く詳細だったので、「実在しているの?」と思って調べた所、実在している事(http://harukanaruoka.com/gallery.html)を知り、自分も驚きました。恐らく、作者の湊さんが実際に訪問され、強く印象に残った場所だったのでしょうね。
今後とも、何卒宜しく御願い致します。
書評を読んでいて、自分と同じ箇所が琴線に触れていた事を知った時、「何か嬉しいな。」と思ったりします。なので今回、なお様が同じ点で共感を覚えられたという事を知り、嬉しく思った次第です。
今後とも、何卒宜しく御願い致します。