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公正取引委員会の審査官・白熊楓(しろくま かえで)は、聴取対象者が自殺した責任を問われ、部署異動に。東大を首席で卒業し、ハーバード大留学帰りのエリート審査官・小勝負勉(こしょうぶ つとむ)と同じチームで働く事になった。2人は反発し合い乍らも、ウェディング業界の価格カルテル調査に乗り出す。数々の妨害を越えて、市場を支配する巨悪を打ち倒せるか?
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小説「元彼の遺言状」で第19回(2020年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞を受賞した新川帆立さん。小説家以外にも、弁護士で元プロ雀士という顔を持つ異能の人だ。処女作「元彼の遺言状」に、自分は総合評価「星2.5個」を付けた。「全体的に、魅力を感じなかったから。」だが、此の原作を元にしたTVドラマが、少し前迄“フジテレビ系列の月9枠”で放送されていた。
「元彼の遺言状」の第2弾「倒産続きの彼女」には総合評価「星3つ」を、そして第3弾「剣持麗子のワンナイト推理」にも「星3つ」と、上梓された新川作品3つには、高い評価を与えられたなかった自分。今回読んだ「競争の番人」は4作目の新川作品で、昨夜から“フジテレビ系列の月9枠”でTVドラマとして放送開始となった。詰まり、「倒産続きの彼女」以外の3作品全て、原作がTVドラマ化された訳だ。
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公正取引委員会:日本の行政機関の1つ。公正で自由な競争原理を促進し、民主的な国民経済の発達を図る事を目的として設置された内閣府の外局(行政委員会)。
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前3作の主人公は弁護士だったが、今回の作品は公正取引委員会の審査官が主人公。「公正取引委員会」という組織の存在、そしてどんな“感じの事”をしているかは知っていても、具体的な業務は余り知られていない様に思う。少なくとも自分はそうだった。
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「いいや、うちは弱小官庁だ。それは間違いない。財務省に虐められ、経産省に馬鹿にされ、検察からは疎まれている。国民はどうだ。俺たちのこと、全然知らないだろ。こんなに頑張っているのに。なあそうだろ。利権もねえ。人材もねえ。予算もそれほどもらってねえ。一体どうしろっていうんだ。なあ。」。
(中略)
風見(かざみ)の言うとおり、公取委は他官庁に比べて人気も権力もない。競争が関係する全業界を担当するから、特定の業界団体や政治家との利権がないのも特徴の一つだ。気楽な反面、後ろ盾がないから他官庁との小競り合いでは常に煮え湯を飲まされる。
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非常に大事な役割を果たしているのだけれど、警察の様な“強い強制力”は有していない。又、上記した様に、他官庁からは軽んじられる存在の様だ。そういう公正取引委員会の現状や審査官の日常が詳しく記されており、非常に興味深い。
「自分は、“筋肉馬鹿”なのではないか?」という意識を持ち、優秀な人物に対して劣等感を持っている白熊楓。優し過ぎて、御人好しな為、常に貧乏籤を引いている様な29歳。そんな彼女がペアを組む事になったのが、2歳年下の小勝負勉(「似た様な名前が存在すると、其の人が虐められたりするといけないので。」という理由から、小説家は登場人物に風変わりな名前を付ける事が多い。「白熊」もそうだが、「小勝負」という名前を付けたのも、そんな理由だろうが、何回読んでも「小峠英二氏」の名前と顔が思い浮かんでしまった。)。頭脳明晰でイケメンと、非の打ち所が無い男だ。自身が優秀でイケメンなのを自覚しているが故に、相手の気持ちを無視した様な言動をし、其の度に楓は腹を立てる。でも、彼と行動を共にする中で、“本当の彼”を知る様になって行く。“良く在るキャラクター設定”では在るが、「元彼の遺言状」等で登場した人物達よりは感情移入が出来るし、2人の今後が気になる。
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一人ひとりの挑戦と試行錯誤が積み重なって、経済が回り、社会がつくられる。そのプロセスこそが競争であり、私たち公取委は競争を守る番人なのだ。
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個人的に言えば、新川帆立さんの前3作よりは読み応えが在った。読後感も悪く無い。総合評価は、星3.5個とする。