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昭和63年、広島。所轄署の捜査2課に配属された新人の日岡秀一(ひおか しゅういち)は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上章吾(おおがみ しょうご)の下で、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当する事になった。飢えた狼の如く、強引に違法行為を繰り返す大上の遣り方に戸惑い乍らも、日岡は仁義無き極道の男達に挑んで行く。軈て失踪事件を切っ掛けに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止める為、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが・・・。
正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は、本当の試練に立ち向かって行く。
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小説「孤狼の血」は、「このミステリーがすごい!2016年版【国内編】」で3位に選ばれた作品。暴力団同士の抗争を軸に、ヤクザとの癒着が噂されるヴェテラン刑事と、其の下に就く事になった新米刑事の姿を描いている。
範疇で言えば、「孤狼の血」はハードボイルド作品と言える。読み進めていて驚かされるのは、此の作品を著したのが女性という点。著者は今年で48歳になった柚月裕子さんなのだが、登場人物達の野卑な言葉遣いや硬質な内容からは、“良い意味で”女性が著した作品とは思えない。
「昔、良く見ていた映画『仁義なき戦いシリーズ』【動画】に、何と無くテーストが似ているなあ。」と感じていたが、(此方を良く覗いて下さっている)Kei様の情報によると、柚月さんは「仁義なき戦いシリーズ」の大ファンなのだとか。
登場人物達が、実に良くキャラ立ちしている。特に大上のキャラクターが良い。本物のヤクザ以上の凄みを見せたかと思えば、愛嬌の在る言動をしたりと、何とも憎めない。(幼子を亡くした大上は日岡を自分の息子に、そして実父に反発した過去が在る日岡は大上を自分の父に重ね合わせていた様に感じる。)
正義感が非常に強い日岡は、ヤクザと癒着している様な大上に反発し乍らも、彼と共に動いている中で、“自身が信じて疑わなかった正義”と“表面上では判らなかった正義”に直面させられる。日岡という人物を軸にした場合、「孤狼の血」は1人の若者の成長記と言えるだろう。
各「章」の初めには日岡が記した「日誌」が記されているのだが、何故か所々に文章の削除がされている。其の意味合いが判らなかったのだけれど、最後の最後になってどういう意味合いだったのか判明する。削除した事に大きな意味合いが在り、又、各キャラクター達の“過去”の設定も含め、筆力の高さを感じさせられた。
柚月さんは「臨床真理」という作品で、文壇デビューしている。同作品は第7回(2008年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で大賞を受賞しているが、自分の総合評価は「星3.5個」と、“まあまあ”といった評価だった。其れから7年後(昨年)に刊行された「孤狼の血」を読む限り、「作家として、凄く成長したなあ。」と思う。
総合評価は、星4.5個。