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平成3年に発生した誘拐事件から30年。当時警察担当だった新聞記者の門田次郎(もんでん じろう)は、旧知の刑事・中澤洋一(なかざわ よういち)の死を切っ掛けに、被害男児の「今」を知る。異様な展開を辿った事件の真実を求め、再取材を重ねた結果、或る写実画家の存在が浮かび上がる。
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塩田武士氏の小説「存在のすべてを」を読了。此の作品は、「2023週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」で7位に選ばれている。
塩田作品と言えば8年前、幾つかの賞を受賞した「罪の声」(総合評価:星5つ)が印象深い。1984年から1985年に掛けて発生し、世の中を震撼させた「グリコ・森永事件」をモチーフとした此の作品は、「記述にリアリティーが在り、書かれている内容が全て“現実の出来事”で在るかの様な錯覚さえしてしまう。」様な大作で、実に読み応えが在った。
「存在のすべてを」は、平成3年に発生した「二児同時誘拐事件」に端を発している。誘拐された1人の男児は間も無く無事解放されたが、もう1人の男児は行方不明の儘だったが、3年後に“自宅”に帰還。「どんな目的で、誰に誘拐され、そして3年の間どうしていたのか?」等が全く判らない状態で、“序章”は終わる。
そして、次の“第1章”は其れから27年が過ぎ去り、「二児同時誘拐事件」の捜査に当たっていた元刑事・中澤の葬儀会場から始まる。謎多き未解決事件を“個人的に”ずっと追い続けていた中澤の遺志を継ぎ、真相究明に当たる事となった新聞記者の門田。定年間近となった彼は、「誘拐され、3年後に帰還した男児。」の“今”を知り、調査にのめり込んで行く・・・というストーリー。
「大事件発生から長い月日が経ち、意外な事実が明らかとなって行く。」という展開等、何と無く「罪の声」を思わせる作品だ。でも、「罪の声」程に登場人物が“キャラ立ち”しておらず、言葉は悪いが“二番煎じ”の感は否めない。
其れでも“読ませる内容”では在り、ホッとさせる結末も悪く無い。「罪の声」程の期待感を持ってしまうとがっかり度は高いだろうが、7位という順位はまあまあ妥当な気が。
総合評価は、星3つとする。