東京新聞の一面に連載されているコラム「筆洗」。6月8日付けの朝刊では、次の文章が載っていた。
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「筆洗」(6月8日)
真夜中のコンヴィニで、男性客が若い男の店員に文句を付けている。客は60歳前後。会社員の様だ。酔っている。何が在ったのかは知らぬ。客は「御前は駄目なんだよ」、「正社員じゃ無いんだろう。」と絡んでいる。
「俺は国立大学を出て、会社でも出世した。御前は何なんだ。」。一方的な説教を耳にして、此方の腹が立ってくる。不景気、就職の難しさ。此の世代には、此の世代の苦悩と事情が在る。
青年は黙って、レジを打つ。品物を袋に詰め終え、会社員に渡す。御客さん、と声を掛ける。「御客さんの言った事、俺、全然悔しく無いっすから。」。
悔しくないの裏側の悔しさは、如何許りいかばかりだったか。空しい一夜の忍耐。彼の青年に読ませたい記事が在った。米宅配大手UPSの最高経営責任者(CEO)にデビッド・アブニーさんが昇格する
面白いのは経歴。荷役アルバイトとして入社した。立身出世が全てでは無いが、40年間の努力が報われた。悔しい事も在っただろう。
「里山資本主義」のエコノミスト 藻谷浩介さんに聞いた事が在る。「客として来店した誰かが、貴方の仕事振りに感動し、内に来いと言うかもしれない。」。そんな事は、先ず無い。其れでも、可能性は在る。時代を嘆き、不貞腐れているよりは、可能性は大きい。アブニーさんが証明した。続ける。努力する。其処に道が出来る。
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矢張りコンヴィニだったが、似た様な光景を以前に目にした事が在る。20代後半と思しき男性アルバイトが、レジで打ち間違いをしてしまい、直ぐに気付いて50代半ばと思しき男性客に謝罪し、打ち直しをし様とした時の事。客のおっさんは大きな舌打ちをした上で、「御前さあ、こんな簡単な事も出来ないから、こんな所でのバイトしか無いんだよ。判ってる?」と嫌みたらしく言い放ったのだ。
男性アルバイトは“大人”で、「本当に済みませんでした。」と笑顔で返していたけれど、後ろで待っていた自分は、其のおっさんにムカッとしてしまった。ビジネスマンとしては“成功者”なのだろうが、人としては“失格者”としか思えない其のおっさん。残念だけれど、こんな輩は少なからず居たりする。
「筆洗」の記者が記している様に、「客として来店した誰かが、貴方の仕事振りに感動し、内に来いと言うかもしれない。」なんて事は、現実問題として先ず無い。でも、可能性が零かと言えば、そうでは無い。アブニー氏の他に、我が国でも「アルバイトから社長に上り詰めた、吉野家の安部修仁氏。」の例も在る。
出世や経済社会での勝ち負けにこだわると、視野が狭まりつまらない人生になると思うのですが、当人は気がつきにくいのでしょう。
確か、ブックオフの現社長もパートのおばちゃんからの出世でしたっけ。
件の高齢男性、泥酔していたという事ですが、人って泥酔している時には、本性が現れると言いますから、そういう人間なんでしょうね。自分だけの価値観を押し付け、上から目線で他者を蔑ろにする。本当に恥ずかしい行為ですが、こういう輩って結構居たりするし、極論を吐く政治家には目立ちますね。
ブックオフの現会長、タレントの清水國明氏の実姉で在る橋本真由美さんも、パートから要職に上り詰めたという経歴ですね。本当に凄い事だと思います。
話は逸れますが、以前勤務していた会社に、女癖が異常に悪い若手社員が居ました。正社員&派遣社員を問わず、女性に次々と“粉”を掛けてはポイ捨てしていたのですが、或る女性社員に其れをしてしまった所、彼女は役員の姪御で、彼は地方に飛ばされてしまいました。仕事が出来れば同情もされましょうが、全く使えない人間だったので、社員達からは「アホな奴だ。」の一言で切り捨てられてしまった。
就職氷河期を勝ち抜いて来た若手達は、自分が同じ年代だった頃と比べると、滅茶苦茶能力が高い子が多い。正社員として働けない子のレヴェルも、恐らくは可成り高い事でしょう。必死で頑張っているのに、正社員として働けないだけでは無く、理不尽な差別をされてしまうというのは、本当に遣る瀬無いです。
タレントのふかわりょう氏が休養明けのTVで、「司会の仕事を休むと毎日代役が立てられて、自分の代わりはこんなにいるんだ…と愕然とした。だから誰でもできる仕事こそ、自分が出来ることに感謝して、全力でやらなきゃいけない」と言っておられたそうです。彼の芸の面白さは正直わからないのですが、この言葉はもっともだと思いましたし、誰でもできる仕事だからといって従事者を馬鹿にしてはいけないと改めて思いました(私なんぞ人様を馬鹿にできるようなご大層な人間ではないですが)。
聖人君子では無い限り、誰しも「偏見」は持ってしまうと思います。斯く言う自分もそうで、概して「色眼鏡」で見てしまう事も屡々。ですから偉そうな事は言えないのですが、「偏見を持ったとしても、其れを口には出さない。」というのが、社会人としては最低限守らなければいけない事だと思うのです。酔っていたとはいえ、否、酔っていたからこそ、暴言を吐いた件の高齢者は、深く反省して欲しい。
ふかわりょう氏、自分も彼の笑いは好きじゃないのですが、コメンテーターとしての彼は、時に鋭い指摘をしますね。全く同意出来ないケースも在るけれど、其れは其れで彼形の「理屈」がきちんと在る。今回ぷりな様が書かれた彼の発言は、「現実という物を、冷徹に受け止めているんだなあ。」と感心しました。