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・大正7年の秋、与謝野晶子は、大阪で宙に浮かんでいた。夫で在る鉄幹と共に、通天閣の足元に広がる遊園地「ルナパーク」を訪れたものの、夫の言葉に血が上り、彼を置き去りにして、1人でロープウェーに乗ったのだ。電飾眩しい遊園地を見下ろし、夫婦という物の不確かさを嘆く晶子。其の時、突然ロープウェーが止まり、空中で動かなくなって・・・。(「夫婦たちの新世界」)
・遠野には河童や山男等、不思議な物が沢山潜んでいると言う。隣村を目指して、朝靄の中を歩いていた花子(はなこ)は、「くらすとでるま・・・。」という不思議な声を聞く。辺りを見回すと、其処には、真っ赤な顔の老人が居た。嘗て聞いた昔話に出て来る天狗そっくりの老人から逃げ出そうとする花子だったが、今度は黒い頭巾に黒い蓑を纏った怪しい男から「面白い話を聞かせてくれないか。」と尋ねられ・・・。(「遠野はまだ朝もやの中」)
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青柳碧人氏の「名探偵の生まれる夜 大正謎百景」は、8つの短編小説で構成されている。江戸川乱歩氏や野口英世氏、芥川龍之介氏、島村抱月氏、松井須磨子さん等々、全作品に“歴史上の著名人”が登場していおり、彼等を交えたミステリーとなっている。
「意外性で、読者を驚かせる。」というのが、ミステリーの醍醐味の1つ。「名作の生まれる夜」という作品では“或る物が発揮する効果”、そして「夫婦たちの新世界」や「渋谷駅の共犯者」、「遠野はまだ朝もやの中」という作品では“或る人物の正体”が、「意外性で、読者を驚かせる。」為のギミックの1つ(他にも、幾つか在るが)となっている。だが、此れ等に関しては其れ、又は其の人物が登場した段階で、「先が、完璧に読めてしまい、全く驚きが無かった。」ので、ミステリーとして大きな減点ポイント。ストーリー展開も、全体的にかったるい。
総合評価は、星2.5個とする。