ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「泣くな研修医」

2019年06月11日 | 書籍関連

森鴎外氏や北杜夫氏、渡辺淳一氏等、“医師で在り作家でも在るという”は過去にも存在した。典型的な文系其れ凡人の自分からすると「理系と文系の能力を兼ね備えているだけでも『凄いなあ。』と思ってしまうのに、作家としても素晴らしい作品を生み出して来たとなると、もう嫉妬するしか無い。」というのが本音。

海堂尊氏や夏川草介氏、知念実希人氏等、「現役の医師で在り乍ら、作家としてもヒット作を生み出している人。」が、近年続々と現れているが、そういう方々の仲間入りを果たしそうな“新人”が登場。

「1980年生まれの現役外科医で、37歳の年に病院長にもなった。」という経歴を持つ中山祐次郎氏が其の人で、過去に医学関連の本は上梓されている様だが、(恐らく)初めての小説として今年上梓したのが、今回読了した「泣くな研修医」だ。

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雨野隆治(あめの りゅうじ)は、地元・鹿児島大学医学部を卒業して、上京した許りの25歳。総合病院外科研修中の新米医師だ。

新米医師の毎日は、何も出来ず、何も判らず、先輩医師や上司から、怒られる許り。だが、患者さんは、待った無しで押し寄せる。生活保護認知症の老人、同い年で末期の青年、そして交通事故で瀕死重傷負った5歳の少年・・・。

「医師は、患者さんに1日でも長く生きて貰う事が仕事じゃないのか?」、「何で俺じゃ無く、彼が苦しまなきゃいけないんだ?」、新米医師の葛藤と成長の物語。
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「金銭的にも心身的にも、研修医は過酷な状況に置かれている。」のは広く知られている事だろうが、現役の医師による描写で在るからこそ、非常にリアルさを感じる

幼き頃の“或る体験”により、ずっと苦しみ続けている雨野隆治。「医師としての“理想”と“現実”の狭間懊悩し、時には怒る。」というのは、中山氏の過去の姿を投影しているのだろう。

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手を洗い終わり、三人は手術室に入った。岩井(いわい)と佐藤(さとう)は少年のお腹を茶色いイソジンで消毒し、鮮やかなグリーンの覆い布をばさっとかけた。布は中央に四角い穴が開いており、ちょうど少年の腹だけが露出した。その時少年は、顔も手足も使命も年齢性別もない、家族も友人もない、その人格もない、ただの「腹部」となる。

外科医にとって患者の人格は、治療行為になんら関係ない。どこで生まれどこでどう育ち、何を考え誰を愛したかもまったく関係ない。ただその存在の一部である皮膚筋肉臓器血管神経組織対峙するのだ。そのためにはこの「覆い布」の発明は素晴らしかった。
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「続編を読みたい!」、そう強く思わせる作品。総合評価は、星4つとする。


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